こんにちは,龍孫江です.「はじめての可換環」第3回の問題はこちらです.
整数 (3) 余りの等しい数の集合
正整数を固定する.整数に対し,とをで割った余り,およびとをで割った余りがそれぞれ等しいとする.このとき,とをで割った余り,とをで割った余りがそれぞれ等しいことを証明せよ.
第2回に除法の原理を紹介しました.再掲します.
除法の原理
正整数を固定する.任意の整数 に対して
かつ
を充たす整数, が一意的に存在する.このを,をで割った余り(剰余)という.
この事実のポイントは, で割った余りとなりうる値を未満の非負整数のみに制限したことで,これによって迷うことなく「をで割った余り」を考えられます.これはまた,単に表記揺れを気にせずに済むことのみならず,余りの集合に標準的なラベリングが自然に与えられることを示しています.つまり,次が成り立ちます:
正の整数を固定する.このとき,総ての整数は個の集合
で割った余りが である整数全体
(ここで)の1つ,かつただ1つのみに含まれる.
第1回で述べたように,この「はじめての可換環」のテーマのひとつは
ある性質をもつ「もの」を集めて集合をつくる操作
を道具として活用することです.この命題に現れた個の集合にも手頃な表示を与えておきましょう.
第1回では,の倍数全体の集合をと表しました.の倍数は で割った余りが である数 とも言い換えられるので,これに倣う形で記号が作りたいところです.
整数 を で割った余りの求め方を思い出しましょう.から始めて,
を繰り返して未満の非負整数に帰着し,この得られた値を余りと定めたのでした.逆に,で割った余りがである数はにを何回か足したり引いたりして得られるので,列挙すると
となります.さらに言えば, で割って になる整数とは にの倍数を足した数に他なりませんから,これを
と表すことにしましょう.
この表記は珍しい記号ではありませんが,その都度 と記すのはいささか面倒なので, などのより簡単な記号をその場その場で採用することがあります.
この集合を,が代表する剰余類と言います.「類」という語は英単語 class の訳語で,ものの集まりを意味します.で割った余りを共有する整数の集まりなので「剰余類」と呼ぶわけです.
この記号を踏まえて問題を捉え直します.整数をで割った余りをとすると,ある整数によってと表されます.仮定「とをで割った余りが等しい」が成り立つとき,をで割った余りもであり,ある整数によってと表せます.
さて,ここまでに誤りはないのですが, と を表すのに の他 , と3つも文字を増やすのには微かに抵抗を感じます.文字が増えるのを過度に恐れるのも困りものですが,増やし過ぎれば収拾がつきません(ぼくはこの状況を「記号の渦に飲み込まれる」と呼んでいます).御しきれる程度のスリムな言い換えが欲しいところです.そのために,剰余類の特徴づけを見返してみましょう.
剰余類 はで割った余りがである整数の全体として導入されました.ところで,その要素を観察するとは に の倍数を加えて得られる数の全体でもあったわけです.前者では「余り」という語が入っていますから,厳格に運用するならばとしては未満の非負整数しか取れません.しかし,後者の言い方ならに大きさの制約を課す必要性は減ります.すなわち,任意の整数に対して
と定め,濫用の気配がなくはないものの,これらも剰余類と呼ぶと定めましょう.このとき
なので,のことを「を含む剰余類」とか「が代表する剰余類」と呼びます.
をで割った余りをとするとき,余りの作り方を思い出せば ,すなわちとなる整数が存在します.ここで
,すなわち;
,特に (1) と同様 ;
が成り立ち,これは
をで割った余りがである
とまとめられます.同様に,をで割った余りもであったならば, を通して
と とを で割った余りが等しい
と言い換えられました.先ほどのほか, と2つも文字を使って表した関係が,見事に, とだけで記述できました.
この集合の等式 を と の関係に落としましょう.今 なので,ある整数 により と表せます.すなわち, は の倍数です.ここから次が成り立ちます.
正整数 を固定する.整数 , に対し,以下は同値である:
および を で割った余りが等しい;
,すなわち は の倍数である.
余計な文字を増やさずに済む言い換えが得られたところで,問題の証明に進みましょう.
条件に上の言い換えを適用して, および.ここから
なので,およびをで割った余りは等しい.同様に
なので,とを で割った余りも等しい.