ご挨拶
こんにちは、
Μίττον, ου, τό
です。今回は、
圏論 Advent Calendar 2022
第5日目の記事として、表題の内容を扱います。ぼぼ前提知識はないはずなので最後までおつきあいください。
定義と主張
この節では「Set圏におけるκ-limitとκ-filtered colimitの可換性」を正確な命題の形で述べます。まず、次の有名な定義から始めましょう:
, を小圏、を型極限と型余極限をもつ圏とし、函手を固定する。
このときカノニカルな射 とは次のように決まるの射である:
- は型余極限をもつので、函手圏は各点計算できる型余極限をもつ。
- 特にに対応する函手は型余極限をもつ。
- と函手の水平合成に対し、はにおける型の余錐である。
- から定まる普遍的な射をとする。
また、集合の圏での極限と余極限の公式を用いれば、次がわかります:
小圏, と函手を固定する。このとき、次の表示が得られる:
- 集合上の一項関係を、とする。
- 集合上の二項関係を、として定義する。
- 集合をで生成された同値関係で割った集合はである。
- 各に対し、集合上の二項関係を、
として定める。 - 集合をと定め、の射に対し、写像を、とする。
- 積集合上の一項関係を、と定義する。
- 部分集合 はである。
- 写像をとすると、これはである。
次に小圏のクラスを定義します:
κ-filtered category
正則基数をとる。小圏が-filteredであるとは、における任意のサイズ(射全体の集合の濃度)未満のquiverが余錐をもつことである。
以上の準備のもとで今回証明を観察したい主張は次のように書けます:
Set圏におけるκ-limitとκ-filtered colimitの可換性
任意の正則基数、サイズ未満の圏、-filtered category 、函手に対し、カノニカルな射は同型である。
定理2の証明
では実際に定理2を証明していきましょう。ゴールは補題1の写像が全単射であることです。
まずは有用な性質に注意しましょう:
ある正則基数に対しが-filteredなら、補題1の二項関係とは同値関係である。
の単射性の言い換え
ある正則基数に対しが-filteredなら、次の2つは同値:
R1. は単射である。
R2. 任意のとに対し、であれば、はを導く。
の全射性の言い換え
ある正則基数に対しが-filteredなら、次の2つは同値:
R1. は全射である。
R2. 任意のに対し、であれば、あるがあって、かつである。
これらはκ-filtered categoryの定義から直ちに従います。
定理2の単射性の方
任意の正則基数、サイズ未満の圏、-filtered category 、函手に対し、カノニカルな射は単射である。
とであってであるものを固定します。このときからを導けば主張が従います。
まず、の定義より、ごとにの平行射があってとなります。すると、のサイズは未満なので、らによるquiverは余錐を持ちます。特に、あるがあって、ごとにであって、となるものがあります。(量化子の交換!)
このはまさにの証拠です。
定理2の全射性の方
任意の正則基数、サイズ未満の圏、-filtered category 、函手に対し、カノニカルな射は全射である。
であってであるものを固定します。このとき、でかつであるものをとれば主張が従います。
まず、という仮定は、と同値です。更にのとき、の図式があって、となります。すると、再びのサイズは未満なので、らによるquiverは余錐を持ちます。特に、あるがあって、ごとにであって、各ごとにとなるものがあります。(再び量化子の交換!)
ここでとすれば、これは要件を満たします。
まとめ
このように、Set圏におけるκ-limitとκ-filtered colimitの可換性は量化子の交換によるものだと捉えることができます。この主張自体は非常に有名ですが、わざわざ量化子の交換を強調しながら示すことはそうそうないはずなので、この記事も一発ネタくらいには使えるかなと思います。ここまで読んでくださった方には、ぜひ明日の雑談のネタにでもしていただければ幸いです。