どうも,コロナに罹ったかそうです.
先日「圏論の地平線」の出版記念イベントに参加し,それについてMathlogでまとめようと思ったのですが,しばらく辛くて放置.そろそろ書きたいなと思っています.
ネット(有向点列)についてネット(Google)で調べていると,順序位相なるものに出会いました.よくよく見てみると位相空間の反例がいろいろ作れるなかなか良い奴であることもわかりました.
今回は順序位相について自分の理解の範囲内で書いてみます.
目標:順序位相とその使用例を見る
あやしい記述を見つけ,12/24に更新しました.
誤りを複数教えて頂いたK管さんに感謝します.ありがとうございます!コメントで教えて頂いたアライグマさんもありがとうございます!!
他にも誤りがあるかもしれません.もし何かあれば(わかりにくいなどでも)コメントで教えてください.
$(X,<)$:全順序集合(但し$X$は$2$元以上含むとする)
$\mathcal{B}_1:=\{(a,b);a,b\in X\}$
【$X$に最小元$a_0$があるなら】$\mathcal{B}_2:=\{[a_0,b);b\in X,a_0< b\}$
【$X$に最大元$b_0$があるなら】$\mathcal{B}_3:=\{(a,b_0];a\in X,a< b_0\}$
このとき$\mathcal{B}:=\mathcal{B}_1\cup\mathcal{B}_2\cup\mathcal{B}_3$を開基とする$X$上の位相$\mathcal{O}_{<}$を順序位相という.
「$\mathcal{B}$を開基とする$X$上の位相」の意味は,
$U\in\mathcal{O}_{<}$をとると
$\forall x\in U,\;\exists \text{区間}\in \mathcal{B}\;\text{s.t.}\;x\in\text{区間}\subset U\text{・・・☆}$
を満たす,ということです.
感覚的には,「同じ区間に入る=近いとする」という感じです.
まず,上記の$(X,\mathcal{O}_{<})$が位相空間になっているか確かめます.
$(\emptyset\in\mathcal{O}_{<})$
(空集合には元がなく$\forall x\in U$の部分があかんくても☆の命題が真となるので)定義よりOK.
以下,
の3パターンについて位相空間の定義条件が満たされるかを確かめれば十分で,2と3はほぼ同じやり方で証明できるので以下1と2の場合について確かめる.
$(S_1,S_2\in\mathcal{O}_{<}\Longrightarrow S_1\cap S_2\in\mathcal{O}_{<})$
$x\in S_1\cap S_2$をとる.
まず,$X$に最小元も最大元もないときを考える.☆より
($x\in S_1$から)$\exists a_1,b_1\in X\;\text{s.t.}\;x\in(a_1,b_1)\subset S_1$かつ
($x\in S_2$から)$\exists a_2,b_2\in X\;\text{s.t.}\;x\in(a_2,b_2)\subset S_2$だが,$(a,b):=(a_1,b_1)\cap(a_2,b_2)$とすると$a,b\in X$で$x\in(a,b)\subset S_1\cap S_2$成立.
次に$X$に最小元$a_0$があるときは
($x\in S_1$から)$\exists b_1\in X\;\text{s.t.}\;x\in[a_0,b_1)\subset S_1$かつ
($x\in S_2$から)$\exists b_2\in X\;\text{s.t.}\;x\in[a_0,b_2)\subset S_2$だが,$[a_0,b):=[a_0,b_1)\cap[a_0,b_2)$とすると$b\in X$で$x\in [a_0,b)\subset S_1\cap S_2$成立.
$\therefore S_1\cap S_2\in\mathcal{O}_{<}$
$(\{S_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}\subset\mathcal{O}_{<}\Longrightarrow\bigcup_{\lambda\in\Lambda}S_\lambda\in\mathcal{O}_{<})$
$\forall \lambda\in\Lambda,\;S_\lambda\neq\emptyset$の場合だけ考えれば十分.
まず,$X$に最小元も最大元もないときを考える.
$x\in\bigcup_{\lambda\in\Lambda}S_\lambda$をとると,ある$\lambda'\in\Lambda$で$x\in S_{\lambda'}$で,これより
$\exists a_{\lambda'},b_{\lambda'}\in X\;\text{s.t.}\;x\in(a_{\lambda'},b_{\lambda'})\subset S_{\lambda'}$成立.
次に$X$に最小元$a_0$があるときは
$x\in\bigcup_{\lambda\in\Lambda}S_\lambda$をとると,ある$\lambda'\in\Lambda$で$x\in S_{\lambda'}$で,これより
$\exists b_{\lambda'}\in X\;\text{s.t.}\;x\in[a_0,b_{\lambda'})\subset S_{\lambda'}$成立.
$\therefore\bigcup_{\lambda\in\Lambda}S_\lambda\in\mathcal{O}_{<}$
以上より$(X,\mathcal{O}_{<})$は位相空間になる.
大丈夫そうですね.
$X$:位相空間 集合$A\subset X$がsequentially open
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}X\setminus A$の点列で極限を$A$に持つものがないとき.
「sequentially closedな集合の点列の収束先はsequentially closedな集合しかない」といった状況です.
特に$X$が距離空間のとき,sequentially openと開集合は同義です.これを抜き出した概念を作ります.
位相空間$X$がsequential
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$
集合$A\subset X$が開集合$\Longleftrightarrow\;A$がsequentially open
このとき以下の命題が成り立つのですが,この反例に順序位相が登場します.
sequentialでない位相空間が存在する
ここでお膳立ては終わりではありません.反例に順序数の集合$[0,\omega_1]$に順序位相を入れた空間を使うのですが,$[0,\omega_1]$とは何かについて説明します.
まず$[0,\omega_1)$とは「すべての可算順序数を含む非可算集合」のことです.$\omega_1$とも書かれますが,今回は「集合」らしさを出すために$[0,\omega_1)$と書くことにします.
そして$[0,\omega_1]$とは「すべての可算順序数を含む非可算集合」に自身の順序数を入れた集合です.$\omega_1+1$とも書かれます.このとき上に書いた別の表し方と合わせて$\omega_1\cup\{\omega_1\}$と書かれることもあります.気分がわかりますね.以下でも$[0,\omega_1)$自体の順序数を$\omega_1$と書くことにします.
$[0,\omega_1]$のお気持ち図
これだけ?もっと説明してほしい!?嫌ですね・・・順序数の説明.長くなりそうで.読む方も眠くなるでしょう.
ところがっ!なんとこいつが何者かの説明は頑張ればネットで探せば出てくるんです!ネットで探せば出てくるものは・・・割愛!
$\omega_1$とは,
このStack Exchangeの投稿
でわかりやすく説明されている順序数です.
また
こちらの資料
も参考になると思います.自分に合った理解をしてくださいね.
...上のリンクを踏んでいろいろ眺めましたね?納得できましたか?
もしよくわからなくても,次行ってみましょう.使用例を読みながらわかるようになることがあるかも.
丸投げ過ぎるので先程書いたことをまとめました.
$[0,\omega_1)$:「すべての可算順序数を含む非可算集合」 その順序数=$\omega_1$
$[0,\omega_1]$:「すべての可算順序数を含む非可算集合」に自身の順序数を入れた集合 i.e. $[0,\omega_1]=[0,\omega_1)\cup\{\omega_1\}$
$\omega_1$の定義・特徴づけには
$(1)$最小の非可算順序数
$(2)$可算順序数全体の集合
があります($(1)\Longleftrightarrow(2)$).
今回は大方$(2)$の見方で$\omega_1$を扱うということです.
最後に,(半ばネタバレですが)これから$[0,\omega_1)$の点列の極限を考えたいのですが,点列から話を膨らませて,$[0,\omega_1)$の部分集合に対して「上限」を定めます.それを用いて$[0,\omega_1)$の点列の極限を定めます.
$A\subset[0,\omega_1),\;\#(A)\leqq\aleph_0$に対して
$\sup A\overset{\text{def}}{=}\bigcup_{\alpha\in A}\alpha$
上記の$\sup A$は順序数であることに注意!また,アライグマさんのご指摘にもありますがこれは「 (一般の) 順序集合における上限」と同じになりますが,ここではこれを事実として認めて深堀りはしないことにします.
定義$4$を用いて$[0,\omega_1)$上の点列の極限を定めます.
ここで唐突に以下の事実を認めます:
$\forall A\subset[0,\omega_1),\;\#(A)\leqq\aleph_0$に対して$\#(\sup A)\leqq\aleph_0\;i.e.\;\sup A\in[0,\omega_1 )$
このとき
$[0,\omega_1)$の点列$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$をとってアルトシタラ極限を$a\in[0,\omega_1)$とすると$a\leq\sup\{a_1,a_2,\cdots\}$
であることと命題$2$より,$[0,\omega_1)$の任意の点列の極限は(高々)可算濃度の順序数で$[0,\omega_1)$に入ることになります.「え,$[0,\omega_1)$の全ての項に自然数をナンバリングしたらどうなるの?」というツッコミが入りそうですが,$\omega_1$は最小の非可算順序数であって,$[0,\omega_1)$の(ある)数列の項全体の集合は(高々)可算濃度なので,大丈夫!
よっしゃ準備完了!「終わり,閉廷!」といった気分になるくらいここまでの内容はボリューミーですが,ここからがメインディッシュです.
前に言ったように,$[0,\omega_1]$に順序位相を入れた位相空間はsequentialではない,つまり,sequentially openな閉集合が存在します.$\{\omega_1\}$です.
(順序位相で閉集合):
背理法で示す.$\{\omega_1\}$が開集合と仮定すると$\exists U\in\mathcal{B}\;s.t.\;\omega_1\in U\subset\{\omega_1\}$が成り立つ.
$[0,\omega_1]$には最小元$0$と最大元$\omega_1$があるので,このとき$U$は以下のいずれかの形をしている:
1のときは$0\in U,0\notin\{\omega_1\}$より不適.
2のときは$\omega_1$が極限順序数,つまり$0$でも後続順序数でもないことから$U\subsetneq\{\omega_1\}$となり不適.
3のときは$U\cap\{\omega_1\}=\emptyset$で明らかに不適.
$\therefore \{\omega_1\}$は開集合ではない.
(sequentially open):
$[0,\omega_1]\setminus\{\omega_1\}\overset{\text{強調}}{=}[0,\omega_1)$の点列$\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}$をとります.このとき(アルトシタラ)極限$\lim_{n\to\infty}x_n$が$\{\omega_1\}$に入らないことを確かめます.
$X:=\{x_1,x_2,\cdots\}$とすると,$X\subset[0,\omega_1)$で$\sup X\in[0,\omega_1)$.$\lim_{n\to\infty} x_n\leq\sup X$より$\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}$のアルトシタラ極限が$\omega_1$になることはありません.
以上より$\{\omega_1\}$はsequentially openです.
いずれにせよ,$[0,\omega_1]\setminus\{\omega_1\}$の点列で極限が$\{\omega_1\}$に含まれるものは無いことがわかりました.
順序位相は少し触れただけで奥深さが垣間見れました.今後自分で遊んでみようと思い,他の使用例は自分で飲み込んでから書くことにします.
ここでは,読者の皆様が一から順序位相を調べるのは大変だと思うのでこの記事を書く際に自分が参考にしたサイトを紹介します.
順序位相の使用例は Wikipedia にいろいろ結果だけまとめてあったり,Stack Exchangeで調べて これとか , こんなものとか 見つかったりします. Dan Maさんの記事 はいろいろ書いてあって勉強になると思います.
私は中学3年生の時にカントル「超限集合論」を何故か買ったことがあり,今も家にありますが,ほとんど積読状態でして,超限順序数まわりに対し心残りがあるんですね.
今回の記事を書いているうちに,これは超限集合論読めよという何者かからの圧(?)ではないかとも思いました.
志学数学にて学生のうちに数学の古典=原著論文を2冊は読んでおけという記載がありますが,今年の春学期に授業でゲーデルの不完全性定理の原著論文を読んだ私としては今「超限集合論」を読めばゴール!って感じがするんですね.どうしよう,読もうかな・・・?