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高校数学解説
文献あり

角の三等分の幾何学

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はじめに

AMC11日目.毎日ユニークで面白い記事に楽しませていただいている.今日は私,るさがモーリーの定理という定理について書いていこうと思う.
 私のことを知っている人ならば,私のことを組み合わせの人と認識しているかもしれないが,実は私は幾何好きである(解けるとは言っていない.残念ながら).そこで学校での探究の時間で幾何の研究をし(といってもほとんど調べ学習レベルであるが),昨年のクリスマスに「数学が恋人!!!」と叫びながら研究発表をすることになった.それ以来その研究は誰の目に止まることもなく今日に至るわけであるが,そこで出会った美しさをこれで終わりにするというのはなんとももったいないと思い,今日この場で推し定理の布教,もとい紹介をさせていただく.
 テーマは先に述べた通り「フランク・モーリーの定理」.数学好きからすればもはやクリシェかもしれない.しかし,この定理の先には本来の主張に止まらない世界が広がっているのである.少々難しいところがあるかもしれないが,あまり気を張らずに美しさをのんびりと感じてもらえれば良い.
 各所に載せた図はあまりに複雑であり,わかりやすくなるように努力はしたものの理解は難しいかもしれない.そこで全ての図をGeoGebraのデータとして こちら に公開する.これらも参考にしながら読み進めれば理解も捗るだろう.それでは前置きはこの程度にして早速本題に入ろう.

フランク・モーリーの定理って?

2000年以上も前から続いてきたにもかかわらず,最近になっても美しい定理が見つかり続けるというのは初等幾何の世界の魅力だろう.フランク・モーリーの定理もそのような定理のひとつで,発見されたのは今から約120年前の1899年.初等幾何の世界ではかなり新しい定理である.実用性は皆無であるものの,この神秘的な美しさを放つこの定理.ここまで美しい定理がまだ残されていたという衝撃はきっと大きなものだっただろう.定理の主張は以下の通りである.

フランク・モーリーの定理

任意のABCに対して全ての内角の三等分線をとり,交点を図のようにD,E,Fと定めると,DEFは正三角形となる.

フランク・モーリーの定理 フランク・モーリーの定理

証明については参考文献[2]に三角関数の計算によるものがあるので興味のある者はそちらを参考にしてほしい.
 美しさは図を見ていただければよくわかってもらえると思う.私はこの美しさに惹かれてかれこれ数年はモーリーの定理信者を続けている.余談だが,角の三等分線はコンパスと定規で作図できないため上の図も作図不可能であり,これも個人的には美しいポイントのひとつである.フリーハンドで書こうものならそれはそれはひどい図が出来上がるだろう.ぜひ一度書いてみてほしい.

定理は拡張したい

定理を見れば拡張したくなるもの.それはモーリーの定理でも例外ではなく,この定理を拡張してより美しい世界を見ようとする者がいた.ここから先はF.G.Taylor,W.L.Marrによるこの方面での結果[1]を紹介する.
 一口に拡張といえども,その方針は多岐にわたる.n角形で考えてみたり,n等分線を考えてみたり,さまざまなことが考えられる.ここで彼らが着目したのは「角の三等分線の取り方」であった.はじめに,内角の二等分線の交点で内心を得られたのを外角の二等分線の交点にしてみることで傍心が得られたように,内角の三等分線を外角の三等分線にしてうまくいかないかということを考える.これを実際に図にすると以下のようになる.
このとおり,正三角形が現れた.これを定理としてまとめる.

外角におけるフランク・モーリーの定理

任意のABCに対して全ての 外角 の三等分線をとり,交点を図のようにD,E,Fと定めると,DEFは正三角形となる.

外角におけるフランク・モーリーの定理 外角におけるフランク・モーリーの定理

証明は内角の場合と全く同様にできるのだが,なぜこのようにうまくいくのだろうか.内角と外角の三等分線を比較すると,簡単な計算によって単に120ずれただけだということがわかる.36013.もうお分かりだろうか.これは例えば60の三等分を考えたときに,普通に20とするか,あるいは60=60+360だと考えて140だとするかという違いであって,内角と外角の三等分線は本質的に全く同じものなのである.ここまで来れば,内角の三等分線から240ずらした「三つ目の三等分線」を考えたくなるのは自然な発想である.180から内角だけ引いた部分を外角と呼ぶように,360から内角だけ引いた部分を優角と呼ぶことにすれば,実はこの三つ目の三等分線は優角の三等分線となる.

内角と外角の三等分線 内角と外角の三等分線

優角とその三等分線 優角とその三等分線

そして優角での三等分線でも交点をとってみると想像通り正三角形が現れる.

優角におけるフランク・モーリーの定理 優角におけるフランク・モーリーの定理

定理の形にまとめると以下のとおり.

優角におけるフランク・モーリーの定理

任意のABCに対して全ての 優角 の三等分線をとり,交点を図のようにD,E,Fと定めると,DEFは正三角形となる.

なお優角というのは正しい用語ではない.一般に優角といえば180<θ<360であるような角を指す言葉であって,多角形の外側の角を指すものではない.そもそも三角形以外では外側の角が180より大きいとは限らないから全くもって適切ではないのだが,三角形に限れば外側が本来の優角の意味に合致することが保障されるから今回はこの語を用いることにした.
 さて,角の三等分線には3種類の取り方があって,それぞれに対してモーリーの定理と同様のことを考えられることがわかったのだが,これで終わりではない.内角の三等分線同士というように,同じ種類の三等分線同士の交点しかまだとっていないではないか.せっかく色々な三等分線をとったのだからもっと色々な三等分線をとってみよう.
 内角,外角,優角にそれぞれ0,1,2の番号を与え,例えばBの内角とCの外角の三等分線の交点がD01というように添え字に三等分線の種類の番号をつけることでこれらにDqr,Erp,Fpqと名前をつける.これらを図示すると次の図のようになる.

モーリーの定理の拡張 モーリーの定理の拡張

これを初めて見たときの感動といったらすごかった(語彙力).私はこの図のように大量の正三角形が現れるという事実をモーリーの定理の拡張と呼んでいる.一度,定理の形にまとめておこう.

フランク・モーリーの定理の拡張

任意の三角形に対して先述のとおりDqr,Erp,Fpqを定めると,これらのうちの6点を通るような直線が9本現れ,それらは3本平行な直線3組からなる.さらにこれらの交点からなる正三角形が27個存在する.

この定理の証明を与えるには三線座標と呼ばれるものが必要である.

三線座標

ABCに対してある点Xの三線座標とはXの辺BC,CA,ABとの距離の比をα:β:γとしたときの組(α,β,γ)のことである.ここでいう「距離」とは三角形の内部が正であるような符号付き距離である.

定義1

定数の組(a,b,c)に対して,aα+bβ+cγ=0を満たす三線座標(α,β,γ)を持つ点の集合は直線をなす.また,すべての直線はこの形で表せる.

三線座標に関して,詳しくは[3]を参照してほしい.以下,座標といえばこの三線座標を指すものとする.
 はじめに示すのは,6点が同一直線上にあるということである.
 αp=A3+2p3π,βq=B3+2q3π,γr=C3+2r3πとすると,簡単な計算によりDqrの座標が(1,2cosγr,2cosβq)で表せることがわかる.Erp,Fpqも同様である.したがっての座標は(2cosγ0,1,2cosα0),(2cosβ0,2cosα0,1)と表せるので,頑張ってこの2点を通る直線を求めるとαsinα2+βsinβ1+γsinγ1=0となる.ここでαp,βqαp1,βq+1に変換し,さらにA,B,CC,A,Bに入れ替えて同様のことを考える.これによって,E00,F00D02,E21へと移るのだが,これらを結ぶ直線の式は変化しないということがわかる.さらにalphap,γrαp1,γr+1に変換し,A,B,CB,C,Aに入れ替えてみる.これによって,E00,F00F21,D20へと移るが,この場合にもこれらを結ぶ直線の式は変化しない.したがってこの式の上にE00,F00,D02,E21,F21,D20が全てあるということがわかる.残りの8本の直線に関しても同様の証明ができるだろう.
 次に3組の平行な直線が現れることを証明しよう.ここではE00F00E11F11E22F22を示す.AE00CABF01,AF00BACE10がわかるので,
AE00AC=ABAF01,AF00AB=ACAE10;AE00AF00=AE10AF01
を得る.これはE00F00E10F01すなわちE00F00E22F22を示している.残りの直線についても同様に示すことができる.

射影的な話

射影幾何学という考え方がある.厳密な定義は他にあるが,ユークリッド平面においては3点が同一直線上に並ぶ共線性と,3直線が一点で交わる共点性について考える幾何学といって良いだろう.射影幾何学の世界はその性質上,長さや角度といった計量の概念を扱うことを苦手とする.角の三等分線やら正三角形やらとはいかにも相性が悪い.ここからはそんなモーリーの定理に隠れた射影的な側面の話をしよう.
 例のごとく内角の三等分線をとり,その交点D,E,F,D,E,Fを図のようにとる.DEFがモーリーの定理における正三角形である.もしやDEFも正三角形に!?と思った読者もいるだろうが,図からわかるように残念ながら正三角形になるとは限らない.さらにADBCBECACFABの交点をそれぞれX,Y,Zとし,D,E,FからBC,CA,ABにおろした垂線をそれぞれXD,YD,ZD;XE,YE,ZE;XF,YF,ZFとする(煩雑なので図には示さない.GeoGebraには非表示で点をとっている).

図に名前をつけないといけない仕様に困っています 図に名前をつけないといけない仕様に困っています

このときいくつかの三角形の相似から
EZEEYE=FYFFZF,FXFFZF=DZDDXD,DYDDXD=EXEEYE
が成り立つので
BXXCCYYAAZAB=ADBADCBECBEACFACFB=DZDABDYDACEXEBCEZEBAFYFCAFXFCB=1
これによって3直線AD,BE,CFが共点であることが示された.一度共点性が示されてしまえば,あとは射影的な手法でいくらでも議論できる.ここではブリアンションの定理を用いる.

ブリアンションの定理とその逆

六角形ABCDEFにおいて,すべての辺(あるいはその延長)に接する二次曲線が存在するならば,AD,BE,CFは共点である.逆も成り立つ.

AD,BE,CFが共点だったので,補題から六角形AFBDCEの全てに接する二次曲線が存在する.ここで2つの六角形AECDBF,DFEDFEについて考えるとAFBDCEと同じ辺を持っていることがわかるので,再び補題からAECDBFにおいて3直線AD,BE,CFが,DFEDFEにおいて3直線DD,EE,FFが共点であることがわかる.
DD,EE,FFの交点,AD,BE,CFの交点,AD,BE,CFの交点をそれぞれM1,T1,T2とする.さらなる射影幾何の定理,デザルグの定理を使えば面白いことがわかる.

デザルグの定理とその逆

2つの三角形ABC,ABCにおいて,3直線AA,BB,CCが共点ならば,BC,BCの交点,CA,CAの交点,AB,ABの交点の3点が共線である.逆も成り立つ.

DEF,DEFDD,EE,FFは共点だったので,デザルグの定理によってEF,EFの交点とB,C3点が共線である,すなわち3直線BC,EF,EFが共点であることがわかる.続いてBEE,CFFで,この共点から再びデザルグの定理によりEE,FFの交点,BE,CFの交点,BE,CFの交点の3点が共線とわかるのだが,この交点はM1,T1,T2にほかならない.これで以下の定理が得られた.

モーリーの定理における共点・共線 モーリーの定理における共点・共線

図8の中心付近の拡大図 図8の中心付近の拡大図

モーリーの定理における共点・共線

任意のABCに対して内角の三等分線をとり,交点を先述のとおりD,E,F,D,E,Fと定めると,DD,EE,FF3本,AD,BE,CF3本,AD,BE,CF3本がそれぞれ共点であり,さらにその3つの交点は共線である.

次に同様のことをモーリーの定理の拡張に対しても考えるのだが,ほとんど同じ議論で単調なので一部だけを紹介して残りは読者に任せることにする.
 Dqr,Erp,Fpqの記法を思い出し,D,E,Fに対してDqr,Erp,Fpqを定義したのと同じようにD,E,Fに対してDqr,Erp,Fpqを定める.外角におけるモーリーの定理において共点性の議論をすると,D11D11,E11E11,F11F113本,A11D11,B11E11,C11F113本,A11D11,B11E11,C11F113本が共点であることがわかるので,この交点をそれぞれM2,T3,T4とする.同様に優角におけるモーリーの定理において共点性の議論をすると,D22D22,E22E22,F22F223本,A22D22,B22E22,C22F223本,A22D22,B22E22,C22F223本が共点であることがわかるので,この交点をそれぞれM3,T5,T6とする.当然M2,T3,T4M3,T5,T6はそれぞれ共線なのだが,実際にはより強く以下が成り立つ.

モーリーの定理の拡張における共点・共線

任意のに対して先述の通りM1,M2,M3,T1,T2,T3,T4,T5,T6を定める.このとき,M1,T1,T2,M34点,M2,T3,T4,M14点,M3,T5,T6,M24点はそれぞれ共線である.

静止画では全く理解できないほど複雑な図なので,図は省略する.配布しているGeoGebraのファイルには作図したものを入れているので,そちらを確認してほしい.また,証明に関しては三線座標などによって容易にできるから各自で試みられたい.

モーリーの定理の別証

この共点・共線性を利用するとモーリーの定理を証明できる.
 まずBCDに注目する.CBD=DBD,BCD=DCDであることからDが内心となることがわかる.よってBDD=CDD.同様にCEE=AEE,AFF=BFFがわかる.これより簡単な角度計算からM1ED=60+B3,M1FD=60+C3,EDF=120+A3とわかるので,EM1F=120すなわちEM1F=FM1E=60.よってEM1DFM1DなのでED=FDとなり,さらにEM1DFM1DからDE=DFである.よってDE=EF=FDが分かったのでDEFは正三角形である.
 この議論でDD,EE,FFの共点性が用いられたことに注意してほしい.

モーリーの定理の別証 モーリーの定理の別証

問題

本文中で紹介できなかったいくつかの事実に関して,問題の形で事実だけ述べる.答えに関しては[1]に詳しい.

モーリーの定理の拡張において,基本的には任意のp,q,rに対してDqrErpFpqが正三角形であることの証明が通常のモーリーの定理と全く同じようにして得られる.しかし,p+q+r1(mod 3)を満たすとき,またそのときに限り,同様の手法では証明がうまく通らず,実際にDqrErpFpqはほとんどの場合において正三角形ではない.なぜか.

モーリーの定理の拡張において,D,E,Fで共線となっていた6点に対応するD,E,Fはある二次曲線上に位置する.さらに定理の拡張で平行だった3本の直線に対応する二次曲線はABCの外接円上のある点で交わり,3組の平行な3直線それぞれに対してこの交点をとるとこの3点は正三角形をなす.なぜか.
ヒント:ある三角形に対して,直線上を動く点の等角共役の軌跡は二次曲線をなす.

シムソンの定理において,外接円上の点が自由に動くときシムソンの定理が主張する直線がなす包絡線は図11のようなデルトイド(サイクロイドの一種)をなす.この頂点を結ぶ三角形は正三角形であり,その辺はモーリーの定理で現れる正三角形の辺とそれぞれ平行である.なぜか.

モーリーの定理とsteinerのデルトイド モーリーの定理とsteinerのデルトイド

この問題は[1]では触れられていない.詳しくは[4]を参照されたい.

おわりに

ここまでモーリーの定理について書いてきたが,いかがだっただろうか.少しでも面白いと思ってもらえたならば嬉しい.もしモーリーの定理に興味を持ってもっと深く知りたいと思ったならば,ぜひとも[1]を読んでほしい.英語論文であって少々敷居が高いものの,ここで紹介しきれなかった面白い事実がたくさん載っている.そしてなにか面白いことが分かったならば,是非とも私に教えてもらえれば嬉しい.
 クリスマスまであと2週間.数学が恋人だった去年に続き,今年は受験勉強と一夜を過ごすことになりそうだ.来年こそは本当の恋人と……

参考文献

[1]
F. G. Taylor, W. L. Marr, The six trisectors of each of the angles of a triangle, Proceedings of the Edinburgh Mathematical Society, 1913, pp. 119-131
[4]
M. de Guzma ́n, The envelope of the Wallace-Simson lines of a triangle, RACSAM, 2001, pp. 57-64
投稿日:20221210
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るさ
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