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大学数学基礎解説
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重心座標系・三線座標系についてのまとめ

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はじめに

三角形についていろいろ調べていると、'三線座標'や'重心座標'といった三角形に相対的な位置の表現がよく用いられる。また解析幾何的証明法にも利用される。これらの基本的な性質について、自分にはあまり自明でないことも多かったので、行間を埋めつつここにまとめる。

目次

  1. 定義と基本性質
    内容定義1: 重心座標
    定義2: 三線座標
    系1: 重心座標と面積比
    定理1: 重心座標と三線座標の変換
    系2: 座標の定数倍
    定理2: デカルト座標と重心座標の変換
  2. 重心座標系の直線
    内容定理3: 2点を通る直線
    系3: 共線条件
    定理4: 直線を表す方程式
    系4: 共点条件
  3. 重心座標系の円錐曲線
    内容定理5: 円錐曲線の方程式
    定理6: 円錐曲線の外接
    系5: 外接円の重心座標方程式
    定理7: 円錐曲線の内接
    定理8: 内接する円錐曲線の中心
  • 2021/01/20 初稿
  • 2021/01/26 円錐曲線の内接について加筆

1. 定義と基本性質

2次元平面上ABCをおき、その座標をそれぞれA(ax,ay)などとする。位置ベクトルA(a)、辺の長さBC=aもそれぞれ同様に定義する。

重心座標: Barycentric coordinates

平面上の点X(x)が、x=ξba+ηbb+ζbcξb+ηb+ζbで表されるとき、(ξb,ηb,ζb)Xの重心座標という。ただしξb+ηb+ζb0

三線座標: Trilinear coordinates

平面上の点Xが、直線BC,CA,ABからの距離の比がそれぞれξt,ηt,ζtであるとき、(ξt,ηt,ζt)を点Xの三線座標という。点Xが、直線BCに対して点Aと同じ側にあるときξt>0とし、反対側にあるときξt<0とする。ηt,ζtについても同様に符号を定める。

以下のことがらが従うことは簡単にわかる。

1: 重心座標と面積比

符号を、3点が反時計回りに並ぶとき正、時計回りに並ぶとき負と定める符号付き面積について、
XBC:XCA:XAB=ξb:ηb:ζbである。

座標系の模式図 座標系の模式図

座標を模式的に示すと上図のようになる。これを踏まえて、座標の変換を考えることができる。

重心座標と三線座標の変換

ある点の三線座標(ξt,ηt,ζt)がであるとき、その点の重心座標は(aξt,bηt,cζt)である。

符号付き面積の比は、XBC:XCA:XAB=aξt:bηt:cζtであることと、面積比と重心座標の関係から従う。

本来なら、2次元平面上の位置を表すのに3つの座標は必要ない。そのため、重心座標・三線座標と平面上の位置が厳密に1対1対応するわけではなく、次の性質を持つ。

2: 座標の定数倍

Xが重心座標で(ξb,ηb,ζb)、三線座標で(ξt,ηt,ζt)と表されるとき、0でない実数kを用いて重心座標(kξb,kηb,kζb)、三線座標(kξt,kηt,kζt)で表される点はともに点Xを表す。

重心座標については、定義から明らか。
三線座標で(ξt,ηt,ζt)と表される点は、定理1より重心座標では(aξt,bηt,cζt)と表され、重心座標(kaξt,kbηt,kcζt)も同じ点を表す。このとき三線座標は(kξt,kηt,kζt)であるから、題意は示される。

通常、重心座標ではξb+ηb+ζb=1となるように、三線座標ではξt:ηt:ζtが簡単な比となるように選ばれる。なお、ξt,ηt,ζtに各辺からの実際の距離を用いるなら、それを絶対三線座標と呼ぶ。

デカルト座標と重心座標の変換

Xは、デカルト座標で(x,y)、重心座標で(ξb,ηb,ζb)、とそれぞれ表される。ただしξb+ηb+ζb=1とする。このとき次が成り立つ。
(axbxcxaybycy111)(ξbηbζb)=(xy1)

重心座標の定義と与えられた束縛条件から直ちに得られる。

三角形の代表的な点の重心座標・三線座標は文献を参照すればたくさん載っている。

2. 重心座標系の直線

ここでは重心座標(ξb,ηb,ζb)を用いて議論するが、 定理1 を援用しつつ係数を適宜調整することで三線座標でも形式的に同じ結果が得られることを注意しておく。

2点を通る直線

相異なる2点P(p,q,r), U(u,v,w)を通る直線を表す方程式は
|ξbηbζbpqruvw|=0(qwrv)ξb(pwru)ηb+(pvqu)ζb=0

X(ξb,ηb,ζb)をとる。p+q+r=u+v+w=ξb+ηb+ζb=1としてよい。点Xが直線PU上にあることと、ある実数tを用いてCX=tCP+(1t)CUと書けることは同値である。これは、CX=ξbCA+ηbCBなどであることから
(ξbtp(1t)u)CA+(ηbtq(1t)v)CB=0
と表される。CACBは線形独立だから、
ξbtp(1t)u=ηbtq(1t)v=0
である。これがtについて解を持つためには、
ξbupu=ηbvqv(ξbu)(qv)(ηbv)(pu)=0
でなければならない。逆に、ξb,ηb,p,q,u,vがこれを満たすならば、ξbupu=ηbvqvの値をtとすればよい。
(ξbu)(qv)(ηbv)(pu)=|ξbuηbvpuqv|=|ξbuηbv1puqv1001|=|ξbηb1pq1uv1|=|ξbηb1ξbηbpq1pquv1uv|=|ξbηbζbpqruvw|
であるから、題意は示された。

3: 共線条件

3点L(l,m,n), P(p,q,r), U(u,v,w)が同一直線上にあることは、
|lmnpqruvw|=0 であることと同値である。

定理3 より、点Lは直線PU上にあることを意味するからよい。

直線を表す方程式

重心座標系において、lξb+mηb+nζb=0は直線を表す。

定理3 より、直線を表す方程式がこのようにあらわされることは明らか。
逆に、点X(ξb,ηb,ζb;x) (ξb+ηb+ζb=1) が方程式lξb+mηb+nζb=0を満たすとする。明らかにl=m=nではないから、少なくとも2つは相異なる。mnの場合を示すが、m=nの場合でもlm,nは成り立つから同様の議論が成立することに注意する。ξb=tとして、
ηb=nmn+tl+nmn,ζb=mmn+tlmmn
であるから、
x=ta+(nmn+tl+nmn)b+(mmn+tlmmn)c=(nmnb+mmnc)+t(a+l+nmnb+lmmnc)
となるので、これは直線を表す。よって題意は示された。

4: 共点条件

3直線l1ξb+m1ηb+n1ζb=0, l2ξb+m2ηb+n2ζb=0, l3ξb+m3ηb+n3ζb=0 が1点で交わることは、
|l1m1n1l2m2n2l3m3n3|=0と同値である。

3直線が1点で交わるとき、その点をP(p,q,r)とすれば以下が成り立つ。
(l1m1n1l2m2n2l3m3n3)(pqr)=O
これは(p,q,r)=(0,0,0)を自明な解として持つが、点Pを表す重心座標としては不適。よって非自明な解(p,q,r)を持たなければならないので、
|l1m1n1l2m2n2l3m3n3|=0
でなければならない。逆にこれが成り立つとき、非自明な(p,q,r)の解が存在するので、そのような点P(p,q,r)で3直線は一点で交わる。

3. 重心座標系の円錐曲線

ここでも重心座標(ξb,ηb,ζb)を用いて議論する。三線座標への変換についての注意も同様。

円錐曲線の方程式

重心座標において円錐曲線 (楕円・放物線・双曲線) を表す方程式は、
(ξbηbζb)(plmlqnmnr)(ξbηbζb)=0pξb2+qηb2+rζb2+2lξbηb+2mηbζb+2nζbξb=0

デカルト座標(x,y)上で、円錐曲線は一般に
px2+qy2+2rxy+2sx+2ty+u=0(xy1)(prsrqtstu)(xy1)=0
と表される。この3×3行列をAとし、定理2におけるデカルト座標と重心座標の変換行列をBとすると、
(xy1)A(xy1)=(ξnηbζb)tBAB(ξbηbζb)
Aは対称行列であり、tBBは互いに転置であることに注意して計算すれば、tBABは対称行列となることがわかる。よって題意が示された。

円錐曲線の形状判定

デカルト座標における方程式では、2次形式による表現行列の行列式を調べることで円錐曲線を分類できるが、重心座標における表現での分類法は明らかでないし、この表現形にはたとえば2直線も含まれうる。

円錐曲線の外接

円錐曲線のうち、ABCの各頂点を通るものは、
lξbηb+mηbζb+nζbξb=0

各頂点は重心座標でA(1,0,0), B(0,1,0), C(0,0,1)と表されるから、これらを通るならば 定理5 においてp=q=r=0である。2llなどと係数を取り直せば題意の式が得られる。

この式は円錐曲線が外接するならば満たすべき式であり、ある式が与えられた場合にそれがどのような形状なのかを判断するには至らないことには注意する。

5: 外接円の重心座標方程式

外接円を表す方程式は、a2ηbζb+b2ζbξb+c2ξbηb=0

ABCの頂点を除く外接円上に点Pを取る。面積の絶対値の比は
|PBC|:|PCA|:|PAB|=12PBPCsinA:12PCPAsinB:12PAPBsinC=|ξb|:|ηb|:|ζb|

外接円と点Pの例 外接円と点Pの例

Pが弧BC間 (A内) にある場合を考える。するとPBC<0,PCA,PAB>0であるから、
a2ηbζb+b2ζbξb+c2ξbηb=PAPBPC4(a2PAsinBsinCb2PBsinCsinAc2PCsinAsinB))=12RPAPBPCsinAsinBsinC(aPAbPBcPC)
なおRは外接円半径。トレミーの定理により、aPA=bPB+cPCが成り立つから、この式の値は0となる。点Pが他の弧上にあるときにも、負の面積となる三角形が変わることとトレミーの定理の表式が変わることに注意すれば、常にこの式の値は0となる。
よって題意は示された。

円錐曲線の内接

頂点を除いた3辺BC,CA,AB上あるいはその延長線上で接する円錐曲線は
p2ξb2+q2ηb2+r2ζb22pqξbηb2qrηbζb2rpζbξb=0
で表され、接点の重心座標はそれぞれ(0,r,q), (r,0,p), (q,p,0)である。ただしp,q,r0

BCを表す方程式はξb=0であるから、 定理5 においてξb=0とした式qηb2+rζb2+2mηbζb=0が重解をもつ。q(あるいはr)が0とすると、ζb(あるいはηb)が0となる解が得られるが、これはξb=0と合わせて頂点を表すので不適。よってこのときm2=qr>0が成り立つから、qrは同符号。よってq,r,mをそれぞれq2,r2,qrと置き換えることができ、このとき重解はqηb=rζb、すなわちηb:ζb=r:q
CA,ABと接する条件についても同様の議論ができ、題意の式を得る。

内接する円錐曲線の中心

ABCに内接する円錐曲線
p2ξb2+q2ηb2+r2ζb22pqξbηb2qrηbζb2rpζbξb=0
の中心の重心座標は、(q+r,r+p,p+q)である。

平行する2つの接線による接点の中点が中心となる。辺ABに平行な直線はζb=αで表されるから、この直線が与えられた円錐曲線と接するようなαの値とその時の接点の座標を求めればよい。またξb+ηb+ζb=1なる解を考えれば十分なので、ηb=1αξbを考える。β=1αとおいて、
p2ξb2+q2(βξb)2+r2α22pqξb(βξb)2qr(βξb)α2rpαξb=0(p+q)2ξb22(βq(p+q)+αr(pq))ξb+(βqαr)2=0
これがξbに関して重解を持てばよいから判別式Dについて
D4=β2q2(p+q)2+2qrαβ(p2q2)+α2r2(pq)2(p+q)2(βqαr)2=4pqr(p+q)αβ4pqr2α2=0
α=0の解は辺ABで接することを示すから、それ以外の解としてα=p+qp+q+rを得て、そのときの接点の座標は
(pr(p+q)(p+q+r),qr(p+q)(p+q+r),p+qp+q+r)
与えられた円錐曲線の式について、p,q,rすべてを定数倍してもあらわす曲線は変わらないから、p+q+r=1であるとしてよい。また 系2 によって接点の座標は(pr,qr,(p+q)2)と書ける。
続いて辺ABでの接点は(q,p,0)なので、これらの中点の座標は(pr+q,qr+r,(p+q)2)となり、
pr+q=r(p+q)+(1r)q=(q+r)(p+q)qr+p=r(p+q)+(1r)p=(r+p)(p+q)
と計算できるから円錐曲線の中心は(q+r,r+p,p+q)

あとがき

直線についてはおよそ満足しているが、円錐曲線についてはまだまだ不十分な点が多い。とくに形状の分類、焦点の座標が不足している。今後進展があれば追記・修正しようと思う。

参考文献

投稿日:2021120
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Hurdia
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  1. はじめに
  2. 1. 定義と基本性質
  3. 2. 重心座標系の直線
  4. 3. 重心座標系の円錐曲線
  5. あとがき
  6. 参考文献