この記事は CEED Advent Calendar 2022 の19日目の記事である.
パンルヴェ方程式論は,ある程度,楕円函数論のマネをして進む.そのことは,パンルヴェ方程式を勉強している人にとっては当たり前のことのようにも思われるが,パンルヴェ方程式を良く知らない人にとっては,必ずしもわかりやすく無い.そこで,パンルヴェ第一方程式(正確には超越函数)は,ペー函数に似てるねという話をして,そのことをわかってもらおうと思う.
複素解析をあまりよく知らない人などは,ラティスとか,ローラン展開とかいった用語はあまり気にせずに,(むしろ,言葉をとばして式だけ追って!)読んで欲しい.そもそも,厳密性は全然気にしないで書いている.
三角函数は周期を持つ函数である.たとえば,$$\sin(t+2\pi)=\sin t,\,\tan(x+\pi)=\tan x$$など.複素数平面で考えると,もう少し欲が出てきて,周期を2つ持つような函数が欲しくなる.
このような函数が楕円函数である.もう少し,正確に述べると次のようになる.
複素数平面上の有理型函数$f(t)$で次を満たすものを楕円函数という .$a/b\notin{\mathbb{R}}$が存在し,任意の$t\in{\mathbb{C}}$に対し
$$f(t+a)=f(z),f(t+b)=f(b)$$ が成り立つ.
ここで注目してほしいのは,有理型函数であるという事である.周期が一つの場合は,${\mathbb{C}}$全体で正則な函数$\sin x,\cos x$などが存在したが,二重周期を課すと,${\mathbb{C}}$全体で正則なものは存在しない.そこで,正則という条件を緩めて,有理型としたのである.
一方,正則函数のほうが,有理型函数よりはるかに扱いやすいわけであるから,正則函数が欲しいとも思う.そこで二重周期の方を緩めて擬周期性を課したものを考える.それがテータ函数である.
テータ函数の定義は,Langの著書(参考文献3)に従った.その為,$\sigma$函数は,テータ函数であるとしているが,このような流儀はあまり一般的ではないかもしれない.指標付きテータ函数とシグマ函数の比較的簡単な関係式が知られているので,その場合でもだいたいテータ函数でペー函数がかけていると思ってよい.
テータ函数と楕円函数は,密接に関係している.この後に述べる話もその一例である.
周期を$\Omega_1,\Omega_2$とするラティスを$\Gamma$とかく.つまり,$$\Gamma:= {\mathbb{Z}}\Omega_1+{\mathbb{Z}}\Omega_2=\{a\Omega+b\Omega\mid a,b\in{\mathbb{Z}}\}$$とする.このとき,
周期を$\Gamma$とするワイエルシュトラスのペー函数$\wp(t)$を
$$\wp(t):=
\frac{1}{t^2}+\sum_{\Omega\in\Gamma,\Omega\neq0}\big(\frac{1}{(t-\Omega)^2}-\frac{1}{\Omega^2}\big)$$で定義する.ペー函数は2位の極を一つ持つ楕円函数である.
次に$\wp(t)$の満たす微分方程式を導こう.この計算は典型的なものなのであるから述べておく.
まず$\wp(t),\wp'(t)$(ただし$'=\frac{d}{dt}$)をローラン展開すると,$$\begin{eqnarray}
\wp(t)&=\frac{1}{t^2}+\frac{g_2}{20}t^2+\frac{g_3}{28}t^4+\mathcal{O}(t^6)
\\\wp'(t)&=-\frac{2}{t^3}+\frac{g_2}{10}t^2+\frac{g_3}{7}t^4+\mathcal{O}(t^5)\end{eqnarray}$$となる.ただし,$g_2,g_3\in{\mathbb{C}}$である.次に,これらを組み合わせて,正則になるようにする.
$$\begin{eqnarray}
\wp'(t)^2&=\frac{4}{t^6}&+\frac{2g_2}{5}\frac{1}{t^2}&-\frac{4g_3}{7}t^4&+\mathcal{O}(t^2)
\\-4\wp(t)^3&=-\frac{4}{t^6}&-\frac{3g_2}{5}\frac{1}{t^2}&-\frac{3g_3}{7}t^4&+\mathcal{O}(t^6)
\\g_2\wp(t)&=&-g_2\frac{1}{t^2}&&+\mathcal{O}(t^2)\end{eqnarray}$$ から,$$\wp'(t)^2-4\wp(t)^3+g_2\wp(t)=-g_3+\mathcal{O}(t^2)$$となる.右辺は${\mathbb{C}}$上正則なので,リュービルの第一定理から定数で,その値は$g_3$である.したがって,$\wp(t)$は次の微分方程式を満たす. $$y'^2=4y^3-g_2y-g_3$$ただし$g_2,g_3$は定数である.
両辺を微分し,$y'$で割ることで,この微分方程式を二階の微分方程式に書き換える.すると
$$y''=6y^2-\frac{g_2}{2}$$ となる.また次の事も,直接計算によりわかる.
$H_{\wp}=\frac{1}{2}p^2-2q^3-\frac{g_2}{2}q$とおくと,$(4)$はハミルトン方程式
$$\begin{eqnarray}
q'=\frac{\partial H_{\wp}}{\partial p}\\
p'=-\frac{\partial H_{\wp}}{\partial q}\end{eqnarray}$$ と等価である.
ぺー函数の満たすの方程式において$-g_2/2$を$t$に書き換えた方程式
$$y''=6y^2+t\tag{PI}$$をパンルヴェ第一方程式という.この方程式もハミルトン方程式にかける.実際,
$H_{I}=\frac{1}{2}p^2-2q^3+tq$とおくと,$(PI)$はハミルトン方程式
$$\begin{eqnarray}
q'=\frac{\partial H_{I}}{\partial p}\\
p'=-\frac{\partial H_{I}}{\partial q}\end{eqnarray}$$ と等価である.
次にテータ函数を定義し,楕円函数との関係について述べる.楕円函数とテータとの関係は基本的であり,その類似としてパンルヴェ超越函数(パンルヴェ方程式の解)とタウ函数の関係がある.
$\sigma$函数を
$$\sigma(t):= t\prod_{\Omega\in\Gamma,\Omega\neq0}\big(1-\frac{t}{\Omega}\exp\big(\frac{t}{\Omega}+\frac{1}{2}\big(\frac{t}{\Omega}\big)^2\big)\big)$$
で定める. $\sigma$函数はテータ函数である.また,このとき
$$\wp(t)=-\frac{d^2}{dt^2}\sigma(t)$$
を満たす.
実際, $$\begin{eqnarray} &\frac{d^2}{dt^2}\sigma(t)=\frac{d}{dt}\frac{\sigma'(t)}{\sigma(t)}=\frac{d}{dt}\big(\frac{1}{t}+\sum_{\Omega\in\Gamma,\Omega\neq0}\big(\frac{1}{t-\Omega}-\frac{1}{\Omega}+\frac{t}{\Omega^2}\big)\big) =-\wp(t)\end{eqnarray}$$ である.
これをマネて(PI)のタウ函数$\tau$を(PI)の解$\lambda$に対し,$$\lambda=-\frac{d^2}{dt^2}\tau$$ により定義する.このとき,$$\lambda=-\frac{\tau\tau''-(\tau')^2}{\tau^2}$$である.これを(PI)に代入することで(PI)は,タウ函数の方程式
$$\tau\tau''''-4\tau'''\tau'+3(\tau'')^2+t\tau^2=0$$にかける.広田微分を函数$f,g$に対し
$$\mathcal{D}f\cdot g=f'g-fg', \,\mathcal{D}^2f\cdot g=f''g-2f'g'+fg'',\cdots$$となるものとして定義する.この時,上の$\tau$函数の微分方程式は
$$\mathcal{D}^4\tau\tau+2t\tau^2=0$$とかける.この方程式を(PI)に付随する双一次形式という.
この先はもう少し,テータ函数とかパンルヴェ方程式について勉強しないと書けないのでこのあたりで終わる.
武部尚志,楕円積分と楕円関数 おとぎの国の歩き方
野海正俊,パンルヴェ方程式–対称性からの入門–
Serge Lang, Elliptic Function Second Edition
岡本和夫,パンルヴェ方程式
1.はペー函数の基本的なことが書いてある.面白い本ではあるが,読みやすい本ではない.前半のほうが面倒くさいのでいい加減に読んで,ペー函数のところくらいからまじめに読むのでちょうどよい気がする.それならこの本はパラパラするだけにして,まじめに勉強するには別の本をという方が無難かもしれない.
2.はペー函数の満たす微分方程式のハミルトニアンがのっている.広田微分についても載っている.パンルヴェ第二,第四方程式の対称性を生かした話が書いてあり,タウ函数が活躍する.
3.は$\sigma$函数について参照した(p.p.239-p.p.243参照).その他,楕円函数に関する難しいことが書いてある.他の本で入門してから読むとよいのだろう(私は全然読めていない).
4.はパンルヴェ方程式の本で最良の本だと思う.必ずしも読みやすい本ではないが,読んでいて面白い.4年の講究はだいたいこの本を読んでいる.今回の話は1章に書いてあるのだが,セミナーでは一章を飛ばして2章から読み始め,現在5章である.今年度中に読み終えることができればとてもうれしいが,行間の空き方がすさまじくなってきているので簡単ではなさそうである.