当記事はサークル「 Wathematica 」のクリスマスアドベントカレンダー企画の12月24日分の記事です.
この記事のテーマは誘導表現です.
何をするのかざっくりと言えば, 群$G$とその部分群$H$, $H$の表現$W$が与えられたときに, それらから新しく$G$の表現を構成します.
$G$を有限群, $H$を$G$の部分群とします.
$(V,\rho)$を$G$の表現として, $V$の部分空間$W$が$H$不変であるとします. つまり,
$\rho(h)w\in W\ (h\in H,w\in W)$
がなりたつとします. $(W,\rho|_H)$が$H$の表現になっていることに注意しましょう.
$g\in G$に対して,
$ gW:=\{\rho(g)w\mid w\in W \}$
とします.
$gH=g'H \Rightarrow gW=g'W$
がなりたつ.
$\rho(g)w\in gW$をとる.
$\rho(g)w$
$=\rho(g')\rho(g'^{-1})\rho(g)w$
$=\rho(g')\rho(g'^{-1}g)w$
仮定より, $g'^{-1}g\in H$で$W$は$H$不変だから$\rho(g'^{-1}g)w\in W$
よって, $\rho(g)w=\rho(g')\rho(g'^{-1}g)w\in g'W$がなりたち,
$gW \subset g'W$である.
逆の包含も同様に示せる. $\square$
これによって$gW$は代表元の取り方に寄らず左剰余類$gH\in G/H$によって決まることが分かります. よって$\gamma=gH$として$gW$を$\gamma W$と書きます.
誘導表現を以下で定義します.
記号は上と同じとする.
$G$の表現$(V,\rho)$が$H$の表現$W$から誘導されているとは
$V=\oplus_{\gamma\in G/H}\gamma W$
がなりたつことである.
$W$から誘導された$G$の表現を$\Ind^G_HW$とかく.
これを見ただけでは$(V,\rho)$ありきであまり$W$から得られたという感じはしないかもしれませんが, 定義はあくまで$G$の表現が$W$から誘導されているとはどういうことかを示すためのものなので, あまり気にする必要はありません.
まずは$\Ind^G_HW=(V,\rho)$があったとしてその様子を見てみましょう.
$H$による左剰余類の代表系$\{g_1,\cdots,g_k\}$を固定します. すなわち, $G/H=\{g_1H,\cdots,g_kH\}$です.
定義から, 各$v\in V$は
$\displaystyle v=\sum_{i=1}^k\rho(g_i)w_i\ (w_i\in W)$
と一意的に書けます.
$v\in V$に対する$g\in G$の作用を見てみましょう.
$g\in G$に対して, ある$\sigma_g\in \mathfrak{S}_n, h_i\in H$が存在して,
$gg_i=g_{\sigma_g(i)}h_i$
が成り立ちます.
(ややこしいと思ったら, $g$が代表元の系$\{g_1,\cdots g_k\}$をシャッフルするというイメージを持ってもらえれば良いです. $h_i$自体はあまり本質的ではないので)
これに注意しつつ, $g\in G$による作用を見ると,
$\displaystyle\rho(g)v=\rho(g)\sum_{i=1}^k\rho(g_i)w_i$
$\displaystyle=\sum_{i=1}^k\rho(gg_i)w_i$
$\displaystyle=\sum_{i=1}^k\rho(g_{\sigma_g(i)})\rho(h_i)w_i$
$\displaystyle=\sum_{i=1}^k\rho(g_i)\rho(h_{\sigma^{-1}_g(i)})w_{\sigma^{-1}_g(i)}$
となっています.
これを見ながら$\displaystyle v=\sum_{i=1}^k\rho(g_i)w_i\ (w_i\in W)$を$\rho(g_i)$を隠して$\displaystyle\bigoplus_{i=1}^kw_i\in W^{\oplus k}$だと思うと, $g\in G$の$V=W^{\oplus k}$における作用は
$\displaystyle W^{\oplus k}\ni\bigoplus_{i=1}^kw_i \longmapsto \bigoplus_{i=1}^k\rho(h_{\sigma^{-1}_g(i)})w_{\sigma^{-1}_g(i)} \in W^{\oplus k} \cdots (*)$
と理解できます.
この$W^{\oplus k}$は単に$k$個の$W$の直和というよりは,左剰余類の代表系$\{g_i\}_{i=1}^k$によって番号づけられた$g_iW$の直積だと理解した方がいいかもしれません.
$i$番目の$W$の元$w_i$が$\rho(h_i)$の分だけ動きながら$\sigma_g(i)$番目の$W$に写っているという感じですね.
$(*)$をよく見るとこれは群$H$と$H$の表現$(W,\rho)$, および拡大先の群$G$の情報のみから決まっています. このことから, 誘導表現$V=W^{\oplus k}=\Ind^G_HW$は存在すれば一意的であることが分かります.
さらに, ($\Ind^G_HW$の存在を仮定したことを一旦忘れて,$(*)$を$\GL(W^{\oplus k})$の元としてみれば)$(*)$は$G$の演算と両立することが計算すれば確かめられるので, これが新たに$G$の$W^{\oplus k}$上の表現, すなわち$H$の表現$W$から誘導された表現の構成を与えていることが分かります.
したがって, これは誘導表現が必ず存在していることを構成的に示しています.
以上の考察から(本当はきちんとした証明を与えるべきですが)次の定理が得られました.
有限群$G$, $G$の部分群$H$, $H$の表現$W$が与えられたとする.
$W$から誘導された$G$の表現$\Ind^G_HW$が同値を除いて一意的に存在する.
誘導表現の定義と一意的に存在することをみました. 誘導表現には加群の係数拡大の一例になっているなどまだまだ深い内容があるのですが, それは気が向いたら書きたいと思います.