0
大学数学基礎解説
文献あり

誘導表現の話

1271
0

はじめに

当記事はサークル「 Wathematica 」のクリスマスアドベントカレンダー企画の12月24日分の記事です.

この記事のテーマは誘導表現です.
何をするのかざっくりと言えば, 群Gとその部分群H, Hの表現Wが与えられたときに, それらから新しくGの表現を構成します.

左剰余類との関係

Gを有限群, HGの部分群とします.
(V,ρ)Gの表現として, Vの部分空間WH不変であるとします. つまり,
ρ(h)wW (hH,wW)
がなりたつとします. (W,ρ|H)Hの表現になっていることに注意しましょう.
gGに対して,
gW:={ρ(g)wwW}
とします.

gH=gHgW=gW
がなりたつ.

ρ(g)wgWをとる.
ρ(g)w
=ρ(g)ρ(g1)ρ(g)w
=ρ(g)ρ(g1g)w
仮定より, g1gHWH不変だからρ(g1g)wW
よって, ρ(g)w=ρ(g)ρ(g1g)wgWがなりたち,
gWgWである.
逆の包含も同様に示せる.

これによってgWは代表元の取り方に寄らず左剰余類gHG/Hによって決まることが分かります. よってγ=gHとしてgWγWと書きます.

誘導表現の定義

誘導表現を以下で定義します.

誘導表現

記号は上と同じとする.
Gの表現(V,ρ)Hの表現Wから誘導されているとは
V=γG/HγW
がなりたつことである.
Wから誘導されたGの表現をIndHGWとかく.

これを見ただけでは(V,ρ)ありきであまりWから得られたという感じはしないかもしれませんが, 定義はあくまでGの表現がWから誘導されているとはどういうことかを示すためのものなので, あまり気にする必要はありません.

誘導表現の存在性と一意性

まずはIndHGW=(V,ρ)があったとしてその様子を見てみましょう.
Hによる左剰余類の代表系{g1,,gk}を固定します. すなわち, G/H={g1H,,gkH}です.
定義から, 各vV
v=i=1kρ(gi)wi (wiW)
と一意的に書けます.
vVに対するgGの作用を見てみましょう.
gGに対して, あるσgSn,hiHが存在して,
ggi=gσg(i)hi
が成り立ちます.
(ややこしいと思ったら, gが代表元の系{g1,gk}をシャッフルするというイメージを持ってもらえれば良いです. hi自体はあまり本質的ではないので)
これに注意しつつ, gGによる作用を見ると,

ρ(g)v=ρ(g)i=1kρ(gi)wi
=i=1kρ(ggi)wi
=i=1kρ(gσg(i))ρ(hi)wi
=i=1kρ(gi)ρ(hσg1(i))wσg1(i) 

となっています.
これを見ながらv=i=1kρ(gi)wi (wiW)ρ(gi)を隠してi=1kwiWkだと思うと, gGV=Wkにおける作用は

Wki=1kwii=1kρ(hσg1(i))wσg1(i)Wk () 

と理解できます.
このWkは単にk個のWの直和というよりは,左剰余類の代表系{gi}i=1kによって番号づけられたgiWの直積だと理解した方がいいかもしれません.
i番目のWの元wiρ(hi)の分だけ動きながらσg(i)番目のWに写っているという感じですね.

()をよく見るとこれは群HHの表現(W,ρ), および拡大先の群Gの情報のみから決まっています. このことから, 誘導表現V=Wk=IndHGWは存在すれば一意的であることが分かります.
さらに, (IndHGWの存在を仮定したことを一旦忘れて,()GL(Wk)の元としてみれば)()Gの演算と両立することが計算すれば確かめられるので, これが新たにGWk上の表現, すなわちHの表現Wから誘導された表現の構成を与えていることが分かります.
したがって, これは誘導表現が必ず存在していることを構成的に示しています.

以上の考察から(本当はきちんとした証明を与えるべきですが)次の定理が得られました.

有限群G, Gの部分群H, Hの表現Wが与えられたとする.
Wから誘導されたGの表現IndHGWが同値を除いて一意的に存在する.

おわりに

誘導表現の定義と一意的に存在することをみました. 誘導表現には加群の係数拡大の一例になっているなどまだまだ深い内容があるのですが, それは気が向いたら書きたいと思います.

参考文献

[1]
池田岳, テンソル代数と表現論 線型代数続論
投稿日:20221223
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

浅井
浅井
0
1778

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 左剰余類との関係
  3. 誘導表現の定義
  4. 誘導表現の存在性と一意性
  5. おわりに
  6. 参考文献