こんにちは, 首藤です. Wathematicaアドベントカレンダー企画最終日の記事になります. 初日の記事も僕が書いたのでオセロ理論から全部の記事を僕が書いたことになりますね.
さて, この記事のテーマは”曲率”です. その名の通り, 空間の曲がり具合を表す量なのですが, 具体的にはどのように定まっているのか, またどうすれば計算できるのか, などについて書いていこうと思います.
前提知識は1年次程度の数学?だと思います. 一応軽く証明を書いたりはしますが, 読み飛ばしちゃって全然OKです.
まずは, 平面内の曲線について考えていきましょう.
(ここは読み飛ばして大丈夫です)具体的には
として
そして
こいつにはいくつか良い性質があって, そのひとつが「速度ベクトルとその微分が直交する」ということです. 一応証明をしておきましょう.
ここで,
よって
さて, ここで方向ベクトル
crv1
この
ではいくつか具体的な平面曲線の曲率を求めてみましょう.
と出ました. よって
直線の曲率は0であってほしいですよね. 実際そうなります.
となって曲率は0です.
曲線の曲率を定めることはできたけど, 次元が上がって曲面になったらどうするの?っていう疑問が浮かぶかもしれません. もちろん曲面にも曲率を定めることはできるし, 何なら超曲面(
crv2
うーん図がヘタクソ.
さて,
まず, 単位接ベクトル
crv3
伝わるかな…… オレンジが張られる平面, 赤がそれで切断されてできた曲線のつもりです……
すると, このオレンジの平面内に赤の曲線が描かれている状態になります. さっきやった平面曲線が作れたわけです. 同じ要領で曲率を求めたとしましょう.
(補足:パラメータは
これは最初に取った単位接ベクトル
この関数
実はガウス曲率は, 等長同型な曲面間で保存されます. 等長同型っていうのは, 長さを変えないようにぐにゃぐにゃいじって移り合うもののことをいいます. 平面と円筒とかがそうですね. 紙をそのままぐるっと巻けば円筒になりますよね?そんな感じです.
”等長同型ならばガウス曲率は同じ”ということなので, 対偶をとって”ガウス曲率が違うなら等長同型でない”ことがいえます. これは数学でよくやる分類手法で, そのまま同型かどうか調べるのは大変なので, 特徴的な量を調べて判断しようって感じです.
この定理を”ガウス驚異の定理”っていいます. 本当です. あのガウスがびっくりするくらいの定理だったってことで, こういう名前になったらしいです. 原語では
この定理の有名な帰結として, ”地球の等長な地図は作れない”ことがあります. 曲面の等長な地図が書けるっていうのは, 地図(平面)と等長同型であるってことですが, 地球(球面)のガウス曲率は正の値, 平面のガウス曲率は0なので, どうあがいても等長同型にはなりえません. そんなわけで, 地球の等長な地図は書けないんです. メルカトル図法とかモルワイデ図法とか色々ありますが, そのどれも何かしらの量はおかしくなっています. よく見る地図は端っこがやたらでかくなってたりするでしょ?
これだけだと簡単な形の曲面に対してしか曲率を求められないんですが, とりあえずできるものを2つほどやってみましょう.
球面は対称なので, すべての点での曲率が同じになります. 法ベクトルは外に向かうようにとっておきましょう. 単位接ベクトルはどう取ってもそれらによる球面の切断は円周になります.
crv4
こんな感じです. 頭の中で補正してください…
さて, さっきやったように, 半径
では平面の曲率を調べていきましょう. とは言ってもすごく簡単で, 切断っていうのは平面との共通部分なので直線になります. なので曲率は0となって, 平均曲率, ガウス曲率ともに0になります. これは球面のガウス曲率と異なるので, 球面と平面は等長同型ではないことになります.
ガウス曲率を計算する方法は色々ありますが, ここではshape operatorを使った方法を採用することにします. そのために, まず方向微分というものを導入します.
多様体論でのベクトル場とかの扱いを知っている方は脳内で適当に置き換えてください.
点
となります. 複雑な気がしますが, 実際やってることは似たような微分の繰り返しなので意外と簡単です.
それではshape operatorを定義します. ここまで来てしまえば簡単です.
証明は省きますが, これは接空間
Shape Operatorの固有値はそれぞれその点における主曲率である. 特に, Shape Operatorの行列式はガウス曲率である.
これ凄くないですか?線形代数の授業で意味もわからず計算方法だけ覚えがちな固有値はこんな所でも出てきます. こっちを調べればわざわざ切断を考えたりしなくていいわけです.
さて, ではさっきの球面の曲率と平面の曲率をshape operatorを使って計算してみましょう.
よって
ついでに円筒の曲率も調べてみましょう.
この記事ではshape operatorを使った曲率の計算方法を紹介しましたが, これでは曲率を計算できない曲面もあります. そもそも法ベクトル場がわかんなかったら計算のしようがありません. これをなんとかする方法の1つとして, 微分形式があります. 曲率形式っていう2形式とかそれに関する公式とかを使ってなんかがちゃがちゃやると曲率が計算できるんですが, これをちゃんとやるには, 微分形式だけでなくリーマン接続についてもある程度やる必要があります. なので本記事では触れませんでした. 気になる方はぜひ, 参考文献の"Differential Geometry"を読んでみてください. 多様体がまだよくわかってない方はその前に同著者の"An Introduction to Manifolds"(トゥー多様体)を読んで下さい. 僕のバイブルです.
曲率とは一体なんなのか, どうやったら計算できるのかが少しでもわかって頂けたなら幸いです.