裳華房から出版されている 「手を動かしてまなぶシリーズ」 が人気を集めているようです。今年の秋頃、私も 藤岡敦「手を動かしてまなぶ 線形代数」 を読みました。
挫折しにくい工夫がなされていて、高校~大学の良い架け橋になっている本だと感じました。初めて線形代数を学ぶ方におすすめです。
そこで今回は、主に「手を動かしてまなぶ 線形代数」を読んでいる人や、線形代数を学び始めている人に向けた記事を書いてみたいと思います。
内容としては「3項間漸化式の一般項を線形代数で求める」という、定番すぎるものです。しかし、高校~大学の架け橋となる上、線形代数の練習になる良いトピックだと思ったので、取り上げてみたくなりました。
線形代数を使うことで、小高い丘から見下ろすような感じで3項間漸化式を眺められるのではないかと思います。
また、対角化まで勉強していなくとも「これから線形代数を学ぼうと思っている人」も読んでくださったら、うれしいです。本論は飛ばして「さいごに」だけでも良いので……。
※本記事では、一般論だけでなく具体例を進んで扱うスタンスを大事にしています。「もういいよ」と言われそうなほど、しつこく具体的な計算をしていきます。
<前提知識>
高校数学~線形代数の対角化くらいまで。「手を動かしてまなぶ 線形代数」の7章までに該当。
本記事では、
を扱っていきます。「手を動かしてまなぶ 線形代数」では
数列
のように、前の2項から、次の項を定める関係式が与えられているとします(このような式は「3項間漸化式」と呼ばれています)。
例えば、
が与えられた場合
のように、
一方で、
と表すこともできます(このような式は「一般項」と呼ばれています)。
高校で学ぶ数学Bでは「3項間漸化式が与えられた上で、一般項を求める」といった問題が定番となっています。
その際、特性方程式
の解を求めて、そこから一般項を求めていくという方法がよく知られています。
が与えられた場合、特性方程式の解は
より、
これを元に
と立式して、
本記事では、線形代数を使って、一般項を求めていきましょう。
数列
が与えられているとする。
このとき
とすると
が成り立つ。よって
となり
となることがわかる。ただし、
したがって、
もしも、
を満たす。
となることと
であることから
となることがわかる。
とする。
このとき、
となる。また、
となる。
であり、第2行から
となることがわかる。
とすると、先の行基本変形により
であることから、
となる。
したがって、固有値
となり、
※このことから、数学Bで漸化式を解く際に使っていた特性方程式は
※参考になる箇所:藤岡敦「手を動かしてまなぶ 線形代数」pp.194-196
今回は、
とし、
このとき、ある正則行列
を満たす。
固有値
であるとする。
(1)より
となる。
(1)の両辺に
が成り立つ。
(2)-(3)より
となる。
である。
よって、(1)より
であることと、
となる。
したがって、
このことから
とすると、
また、
となるので
を満たす。
具体的に
命題1の証明より、固有値
として
とすればよい。
よって
となる。
また
より
である。
よって
となることが確認できる。
数列
および
が相異なる2つの固有値
このとき、ある複素数
と表すことができる。
とすると
が成り立つ。
命題2より
となるので
であることから、ある複素数
と表せることがわかる(
数列
とすると、命題1より、
となるので、
命題3より、
と表せる。
となるので、
よって、
である。
となるため、
しかし、任意の複素正方行列は、ジョルダン標準形と呼ばれる行列に相似であることが知られています。対角化はできなくとも、対角行列に近い形まで持っていくことが可能です。
今回は、
とし、
であるとする。
このとき、ある正則行列
を満たす。
固有値
を満たすとする(このような
とする。
(1)より
となり、
であることがわかる。
(1)より
なので、
となる。
したがって、
ここで
とすると、
また、
となる。
したがって
となるので
が成り立つ。
具体的に
命題1の証明から、固有値
とする。
また、
なので
であることがわかる。
とすると
となる。
行基本変形により
となるので
を満たす。
を満たす。
よって
とすればよい。
また
であり
となることが確認できる。
数列
および
の固有方程式
このとき、ある複素数
と表すことができる。
とすると
が成り立つ。
命題4より
となる。
とすると
である。
二項定理より
となるので
であることから、ある複素数
と表せることがわかる(
数列
とすると、命題1より、
となるので、
命題5より、
と表せる。
より
となる。
よって、
である。
線形代数を使った方法の良いところの1つとして、
4項間漸化式について、その様子を少し見てみましょう。
数列
が与えられているとします。
このとき
とすると
が成り立つので
となります。
したがって、3項間漸化式の場合のように、
よって、ある正則行列
を満たします。
したがって、ある複素数
と表せることがわかります。
また、
となっています。
「手を動かしてまなぶ 線形代数」を読み終わったら、ぜひ続編である「手を動かしてまなぶ 続・線形代数」も手にとってみてください。「手を動かしてまなぶ 線形代数」の伏線が回収されていて、楽しいです。
なにかと「役に立つ」と言われている線形代数ですが、1966年に初版が出版された斎藤正彦「線型代数入門」のあとがき(1996年に書かれたもの)には、こんな記述がありました。
この本が出てすぐのころ, ある人から何を目標にして書いたのか, と聞かれたことがある. 若かった私は「十年後の日本の技術水準を上げるためだ」と答えたのを覚えている. 結果的にそのとおりになったのは喜ばしい.
(斎藤正彦「線型代数入門」p.257)
私は線形代数の工学分野への応用などにはくわしくないのですが、この言葉を読むと、線形代数の力を思い知らされます。
現在、「手を動かしてまなぶ 線形代数」はじめ、わかりやすい線形代数の本や解説サイトが存在していて、良い時代になりましたね。