2
大学数学基礎解説
文献あり

Keisler-Shelahの定理の応用――あるいは、牛刀割鶏

225
0
$$$$

こちらは, Mathematical Logic Advent Calendar 2022 の12日目の記事である.

本記事は,参考文献1の第16章を参考にしている.

次の定理はKeisler-Shelahの定理と呼ばれる.

Keisler-Shelahの定理

$\mathcal L$を一階の言語とする.
$M$$N$$\mathcal L$構造とする.このとき次は同値である:

  • $M \equiv N$ (すなわち,$M$$N$は初等同値である),
  • ある無限集合$I$とある$I$上の非単項超フィルター$\mathcal U$について超冪$M^\mathcal U$$N^\mathcal U$は同型.

この記事では,Keisler-Shelahの定理という牛刀を使って,次の2羽の鶏を割く (2つの定理を証明する).

$K, L$を体とする.$m, n$を自然数とする.このとき次は同値.

  1. 2つの行列環$M_m(K)$$M_n(L)$は初等同値である,
  2. $m = n$かつ$K \equiv L$
Robinsonのjoint consistency theorem

$\mathcal L_1$$\mathcal L_2$を一階の言語とする.
$T_1$$T_2$をそれぞれ無矛盾な$\mathcal L_1$$\mathcal L_2$の理論とする.
$\mathcal L = \mathcal L_1 \cap \mathcal L_2$とおく.
また,完全な$\mathcal L$理論$T \subseteq T_1 \cap T_2$があるとする.
このとき,$T_1 \cup T_2$は無矛盾である.

はじめの節で行列環に関する定理,次の節でRobinsonの定理の証明を行う.

行列環に関する定理の証明

$K, L$を体とする.$m, n$を自然数とする.このとき次は同値.

  1. 2つの行列環$M_m(K)$$M_n(L)$は初等同値である,
  2. $m = n$かつ$K \equiv L$

はじめに初等同値を同型にしたバージョンが正しいことを補題として示しておく.

$K, L$を体とする.$m, n$を自然数とする.このとき次は同値.

  1. 2つの行列環$M_m(K)$$M_n(L)$は環として同型である,
  2. $m = n$かつ$K \simeq L$
略証

(2)ならば(1)は明らかである.
(1)ならば(2)を示そう.
$K^m$は(同型を除いて)一意的な$M_m(K)$単純加群であった.また,同型$\operatorname{End}_{M_m(K)} K^m \simeq K$が存在した.

よって$M^m(K)$$M_n(L)$からそれぞれ一意的な単純加群を取り出し,それに$\operatorname{End}_{M_m(K)} (\cdot)$を取る操作を行ったものを考えると,$K \simeq L$を得る.

あとは次元の一意性を使えば,$m = n$も得ることができる.

次は簡単にわかるものである.

$R$を環,$n$を自然数,$\mathcal U$をある集合$I$上の超フィルターとする.このとき$M_n(R)^\mathcal U \simeq M_n(R^\mathcal U)$が成り立つ.

略証

$M_n(R)^\mathcal U$の元$\langle [a_{ij}]_\mathcal U : 1 \le i, j \le n \rangle$$M_n(R^\mathcal U)$の元$[\langle a_{ij} : 1 \le i, j \le n \rangle]_\mathcal U$に送る写像を考えるとwell-definedかつ同型である.

これで最初に紹介した定理を示せる.

主張の再掲:

$K, L$を体とする.$m, n$を自然数とする.このとき次は同値.

  1. 2つの行列環$M_m(K)$$M_n(L)$は初等同値である,
  2. $m = n$かつ$K \equiv L$

同値変形を行っていく.

$$ M_m(K) \equiv M_n(L)\\ \iff (\exists \mathcal U)(M_m(K)^\mathcal U \simeq M_n(L)^\mathcal U) \text{ (by Keisler-Shelah)}\\ \iff (\exists \mathcal U)(M_m(K^\mathcal U) \simeq M_n(L^\mathcal U)) \text{ (by 補題5)} \\ \iff (\exists \mathcal U)(m = n \land K^\mathcal U \simeq L^\mathcal U) \text{ (by 補題4)} \\ \iff m = n \land K \equiv L \text{ (by Keisler-Shelah)} $$
これで示せた.

Robinsonのjoint consistency theoremの証明

$\mathcal L_1$$\mathcal L_2$を一階の言語とする.
$T_1$$T_2$をそれぞれ無矛盾な$\mathcal L_1$$\mathcal L_2$の理論とする.
$\mathcal L = \mathcal L_1 \cap \mathcal L_2$とおく.
また,完全な$\mathcal L$理論$T \subseteq T_1 \cap T_2$があるとする.
このとき,$T_1 \cup T_2$は無矛盾である.

$T_1$のモデル$M_1$$T_2$のモデル$M_2$をとる.
$M_1, M_2$それぞれの$L$への制限を$N_1, N_2$と書く.
すると,$N_1$$N_2$はともに$T$のモデルである.
ところが,$T$は完全だったので初等同値$N_1 \equiv N_2$を得る.
よってKeisler-Shelahの定理より,ある超フィルター$\mathcal U$を取れて,,$N_1^\mathcal U \simeq N_2^\mathcal U$を得る.
$f \colon N_1^\mathcal U \to N_2^\mathcal U$を同型写像とする,.

集合として$M_i^\mathcal U = N_i^\mathcal U$ (for $i = 1, 2$)なことに注意しておく.

$N_2^\mathcal U$$\mathcal L$構造であるが,これを$\mathcal L_1 \setminus \mathcal L$の記号を適切に解釈したものを$P$とすれば,$f \colon M_1^\mathcal U \to P$$\mathcal L_1$構造として同型となる ($M_1^\mathcal U$に入っている解釈を「押し出せ」ばよい).
このとき$P \models T_1$である.

$\mathcal L_2 \setminus L$の記号を適切に解釈することにより,$P$をさらに延長して$\mathcal L$構造$Q$にして,$Q$$T_2$も満たすようになる ($M_2^\mathcal U$による記号の解釈を持ってくればよい).

こうして$T_1 \cup T_2$のモデルである$\mathcal L$構造$Q$が得られた.

以上,牛刀割鶏でした.

牛刀 (Keisler--Shelahの定理)の証明はまたいつかどこかで行いたいです。

参考文献

[1]
Isaac Goldbring, Ultrafilters Throughout Mathematics , Graduate Studies in Mathematics, Amer Mathematical Society, 2022
投稿日:20221231

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

でぃぐ
でぃぐ
54
2908

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中