入試問題の背景にあることも時々ある, $Γ$(ガンマ)関数, $B$(ベータ)関数について, 簡単な説明をしていきます.
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正の実数$x$に対し, $Γ$関数$\Gamma(x)$を以下で定義します.
ただし, $\displaystyle\int_0^\infty f(x)\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_0^R f(x)\,dx$ という意味です.
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このとき, 部分積分より,
$$
\begin{eqnarray*}
\Gamma(x+1) &=&\int_0^\infty t^{x}e^{-t}\,dt \\
&=&\Big[-t^xe^{-t}\Big]_0^\infty-\int_0^\infty-xt^{x-1}e^{-t}\,dt \\
&=&x\int_0^\infty t^{x-1}e^{-t}\,dt \\
&=&x\Gamma(x)
\end{eqnarray*}
$$
従って,
が成り立ちます.
${}$
さらに, $$\displaystyle\Gamma(1)=\int_0^\infty e^{-t}\,dt=\lim_{R\to\infty}\big[-e^{-t}\big]_0^R=1$$なので, 自然数${}n{}$に対し,
$$\begin{eqnarray*}
\Gamma(n+1)&=&n\Gamma(n) \\
&=&n(n-1)\Gamma(n-1) \\
&=&\cdots \\
&=&n(n-1)\cdots\cdot2\cdot1\cdot\Gamma(1) \\
&=&n!
\end{eqnarray*}$$
従って,
が成り立ちます.
${}$
以上より, $Γ$関数は, 階乗の概念の一般化と言うことができます.
階乗の一般化はいくつもあり得るのでは, と思う方もいるかもしれませんが, 実は, 自然数のときに階乗と一致してかつ良い性質(複素微分可能性と対数凸性などです)を持つような一般化は, この$Γ$関数しかないことが知られています.
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正の実数$x,y$に対し, $B$関数$B(x,y)$を以下で定義します.
まず, 実数$\alpha,\beta\,(\alpha<\beta)$に対して$$\displaystyle s=\alpha+t(\beta-\alpha)=(1-t)\alpha+t\beta$$と置換すると, $\displaystyle t=\frac{s-\alpha}{\beta-\alpha},\ 1-t=\frac{\beta-s}{\beta-\alpha}$ なので,
$$\begin{eqnarray*} \int_0^1t^{x-1}(1-t)^{y-1}\,dt &=& \int_\alpha^\beta\Big(\frac{s-\alpha}{\beta-\alpha}\Big)^{x-1}\Big(\frac{\beta-s}{\beta-\alpha}\Big)^{y-1}\frac{ds}{\beta-\alpha} \\ &=& \frac{1}{(\beta-\alpha)^{x+y-1}}\int_\alpha^\beta(s-\alpha)^{x-1}(\beta-s)^{y-1}\,ds \end{eqnarray*}$$
従って,
となります.
これは俗に言う1/6公式などの一般化になっていることがわかると思います. ($B$関数の値の求め方は次節で紹介します.)
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次に, 定義式において $t=\sin^2\theta$ と置換すると,
$$\begin{eqnarray*}\int_0^1t^{x-1}(1-t)^{y-1}\,dt &=& \int_0^{\fracπ2}(\sin^2\theta)^{x-1}(\cos^2\theta)^{y-1}\cdot2\sin\theta\cos\theta\,d\theta \\
&=& 2\int_0^{\fracπ2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta\,d\theta\end{eqnarray*}$$
従って,
となります.
${}$
この節では, 綺麗な関係式
の証明をしていきます.
これには重積分が必要となるので, 多少, 厳密さを欠いた証明となってしまいますが許してください.
定義式より,
$$\begin{eqnarray*}
\Gamma(x+y)B(x,y)&=&\int_0^\infty t^{x+y-1}\,e^{-t}\,dt\cdot2\int_0^{\fracπ2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta\,d\theta \\
&=&2\int_0^\infty r^{2(x+y)-1}\,e^{-r^2}\,dr\cdot2\int_0^{\fracπ2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta\,d\theta \ \ \ (t=r^2) \\
&=&4\int_{r=0}^{r=\infty}\int_{\theta=0}^{\theta=\fracπ2}\big(r\cos\theta\big)^{2x-1}\big(r\sin\theta\big)^{2y-1}\,e^{-r^2}\cdot r\, d\theta dr
\end{eqnarray*}$$
ここで, $u=r\cos\theta,\ v=r\sin\theta$ とおくと, $r,\theta$の動きに合わせて, $(u,v)$は, $uv$平面の第1象限, 即ち $u>0, v>0$ を動きます.
いま, この重積分の意味を考えてみると, $r\theta$平面上の微小な長方形$drd\theta$ ($2$変数なので微小な区間ではなく微小な長方形となります. ) に対して, 関数の値と微小面積の積を足し合わせたものと捉えられます.
この長方形が $u=r\cos\theta,\ v=r\sin\theta$ なる変数変換によって$uv$平面でどのような図形になるかを考えると, これは各辺が$dr,r\,d\theta$の長方形となります. (具体的には, $r,\theta$が$dr,d\theta$増えたときの点$(u,v)$の移動を考えると, ベクトル$\displaystyle\binom{\cos\theta}{\sin\theta}dr,\ \binom{-r\sin\theta}{r\cos\theta}d\theta$ によって囲まれた部分を動くとわかります. )
従って, 微小面積は$uv$平面では$r\,drd\theta$となることがわかりました. つまり $r\,drd\theta=dudv$ となります.
これを用いて変数変換を行うと, $u,v$の積分区間はどちらも$0\to\infty$であることにも注意して,
$$\begin{eqnarray*} \Gamma(x+y)B(x,y)&=&4\int_{r=0}^{r=\infty}\int_{\theta=0}^{\theta=\fracπ2}\big(r\cos\theta\big)^{2x-1}\big(r\sin\theta\big)^{2y-1}\,e^{-r^2}\cdot r\, d\theta dr \\ &=&4\int_0^\infty\int_0^\infty u^{2x-1}\cdot v^{2y-1}\cdot e^{-(u^2+v^2)}\,dudv \end{eqnarray*}$$
となります. 後はこれを変形していけば,
$$\begin{eqnarray*}
\Gamma(x+y)B(x,y)&=&4\int_0^\infty\int_0^\infty u^{2x-1}\cdot v^{2y-1}\cdot e^{-(u^2+v^2)}\,dudv \\
&=&2\int_0^\infty u^{2x-1}e^{-u^2}\,du\cdot2\int_0^\infty v^{2y-1}e^{-v^2}\,dv \\
&=&\int_0^\infty s^{x-1}e^{-s}\,ds\cdot\int_0^\infty t^{y-1}e^{-t}\,dt\ \ \ (u^2=s,v^2=t) \\
&=&\Gamma(x)\Gamma(y)
\end{eqnarray*}$$
以上より, 示すことができました. お疲れ様でした.
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では, $Γ$関数と$B$関数の関係式
を用いて, いろいろな計算をしていきましょう.
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まずは, 1/6公式の一般化として紹介した式
の右辺を具体的に計算してみます. 簡単のため自然数$m,n$を用いて$x=m+1,\ y=n+1$ とおくと,
$$\begin{eqnarray*}
\int_\alpha^\beta(s-\alpha)^m(\beta-s)^n\,ds &=& (\beta-\alpha)^{m+n+1}B(m+1,n+1) \\
&=& (\beta-\alpha)^{m+n+1}\frac{\Gamma(m+1)\Gamma(n+1)}{\Gamma(m+n+2)} \\
&=& \frac{m!n!}{(m+n+1)!\,}(\beta-\alpha)^{m+n+1}
\end{eqnarray*}$$
と計算できます. 見やすいように積分変数を$x$に変えて,
を得ます. 実際に$m=n=1$とすると1/6公式になっていることが分かると思います.
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次に, 例の関係式で $\displaystyle x=y=\frac12$ としてみます. すると,
$$\begin{eqnarray*}
B\Big(\frac12,\frac12\Big)&=&\frac{\Gamma\big(\frac12\big)\Gamma\big(\frac12\big)}{\Gamma(1)} \\
&=&\Gamma\Big(\frac12\Big)^2
\end{eqnarray*}$$
一方, $B$関数の, 三角関数を用いた積分表示から
$$\begin{eqnarray*} B\Big(\frac12,\frac12\Big)&=&2\int_0^{\fracπ2}\,d\theta \\ &=&π \end{eqnarray*}$$
であるので, $\Gamma(x)>0$ と併せて以下を得ます.
これは予想外の値になっていて面白いと思います.
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最後に, $B$関数の, 三角関数の積分による表示
において $\displaystyle x=n+\frac12,\ y=\frac12$ としてみます. すると,
$$\begin{eqnarray*} \int_0^{\fracπ2}\sin^{2n}\theta\,d\theta&=&\frac12B\Big(n+\frac12,\frac12\Big) \\ &=&\frac12\cdot\frac{\Gamma\big(n+\frac12\big)\Gamma\big(\frac12\big)}{\Gamma(n+1)} \\ &=& \frac{n-\frac12}{n}\cdot\frac{\Gamma\big(n-\frac12\big)}{\Gamma(n)}\cdot\frac{\sqrtπ}2 \\ &=&\cdots \\ &=&\frac{n-\frac12}{n}\cdot\frac{n-\frac32}{n-1}\cdot\cdots\cdot\frac{\frac12}{1}\cdot\frac{\Gamma\big(\frac12\big)}{\Gamma(1)}\cdot\frac{\sqrtπ}2 \\ &=&\frac{2n-1}{2n}\cdot\frac{2n-3}{2n-2}\cdot\cdots\cdot\frac{1}{2}\cdot\frac{π}2 \end{eqnarray*}$$
のようになります. 奇数乗の場合も同様に求められます.
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ここまで読んでくださった方, 本当にありがとうございます.
簡単な紹介と言ったのに, いろいろ書いて長くなってしまってすみません.
この先の発展としては, $Γ$関数の無限積表示, 対数微分, 相反公式, 等があると思います. 興味がある方はお勉強してみると, とても面白いですよ.
では改めて, ありがとうございました.
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