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大学数学基礎解説
文献あり

『多様体の基礎』定理12.4の証明の修正案

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『多様体の基礎』(松本幸夫)の定理12.4の証明中で、p.162の式(12.12)は成立するとは限らない。$ m< n $の場合の証明に対する修正案を考えたので、以下に記述する。

$m< n$の場合

$p \in M$$q=f(p)$とする。定理10.5を用いて、$M$の座標近傍$(U_1, \phi)$$N$の座標近傍$(V_1,\psi)$で次の条件を全て満たすものをとる:
$ \begin{cases} p\in U_1,\\ q\in V_1,\\ f(U_1)\subset V_1,\\ U_1,V_1に関するfの局所座標表示はf(x_1,...,x_m)=(x_1,...,x_m,0,...,0) \end{cases} $

今、$f:M\rightarrow f(M)$は同相であるから、$f(U_1)$$f(M)$の開集合である。よって$N$のある開集合$W$を用いて$f(U_1)=f(M)\cap W$と書ける。

さて、次の約束をする:
$U_1$の部分集合であって、$\phi$による像が開直方体$(a_1,b_1)\times ...\times (a_m,b_m)$に等しいもののことも$(a_1,b_1)\times ...\times (a_m,b_m)$と書き、開直方体と呼ぶことにする。$V_1$の部分集合についても$\phi$$\psi$に変更して同様の約束をする。

$p\in U_2\subset U_2$を満たす開直方体$U_2=(a_1,b_1)\times ...\times(a_m,b_m)$と、$q\in V_2\subset V_1\cap W$を満たす開直方体$V_2=(a'_1,b'_1)\times...\times(a'_n,b'_n)$をとる。$\phi (p)=(p_1,...,p_m)$とすると、$\psi (p)=(p_1,...,p_m,0,...,0)$である。よって、$1\leq i\leq m$に対して、$\mathbb{R}$の部分集合としての$(a_i,b_i)$$(a'_i,b'_i)$について、$p_i\in (a_i,b_i)\cap (a'_i,b'_i)$が成り立つ。$(a''_i,b''_i)=(a_i,b_i)\cap (a'_i,b'_i)$を満たす$a''_i,b''_i\in \mathbb{R}$をとる。

$U=(a''_1,b''_1)\times ...\times(a''_m,b''_m)\subset U_1,\\ V=(a''_1,b''_1)\times ...\times (a''_m,b''_m)\times (a'_{m+1},b'_{m+1})\times ...\times (a'_n,b'_n)\subset V_1$
とおく。すると、$A:=\{(y_1,...,y_n)\in V\, |\, y_{m+1},...,y_n=0\}$について$A\subset f(M)\cap V\subset f(U)\subset A$を示すことができ、$f(M)\cap V=\{(y_1,...,y_n)\in V\, | \,y_{m+1},...,y_n=0\}$を得る。
あとの議論は本と同様。

参考文献

[1]
松本幸夫幸夫, 多様体の基礎, 東京大学出版会, 1988, pp.161-162
投稿日:202316

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