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大学数学基礎解説
文献あり

解釈モリモリで環論をやる イデアルとは

1908
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どうも

 こんにちは ごててんです カジュアルめな数学の記事を書きたいという欲を抑えきれませんでした

読者の想定・注意

 環と体と整域の定義を知っているくらいの前提です 環論やったことあります!という人はそんなの知ってるわ!という感じでムカつくと思うので読まないでください(?)

 この記事は、単に環といえば「$1$を持つ可換環」を意味し, 環は自明な環でないとします!

言い訳

 可換代数をちょっとやったくらいの知識で個人の解釈モリモリの記事を書いています. 超的はずれなことを書いている可能性がありますが許してください. 無茶苦茶勇気を出してイメージとかそういうものを書いています(?)

この記事の目的

 証明をほどほどに、イデアルのイメージを掴むのが目的です
厳密さ等を伴わないイメージを書くこともあるので苦手な方はブラウザバック推奨です

イデアルって何

 イデアルにまつわる標語を覗いてみましょう

街頭インタビュー! イデアルって何ですか?

倍数みたいなヤツ
正規部分群の環バージョン
環の性質を語る上でたいへんに便利な概念
・環上の加群の特別な場合

 大体このくらいの理解が共通認識としてある気がします. では定義です.

イデアル

 $A$を環, $I \subset A$を空でない部分集合とする. $I$$A$のイデアルとなるとは, 次の2つの条件をみたすことである.

  1. 任意の $x,y \in I$ に対し $x+y \in I$ が成立する.
  2. 任意の $a \in A,$$x \in I$ に対し $ax \in I$ が成立する.

 例を見ていきましょう.

倍数

 $\mathbb{Z}$において考える. $n \in \mathbb{Z}$とすると, $n$の倍数全体 $n\mathbb{Z} = \{ $$ nx $$ | $$ x \in \mathbb{Z} $$ \}$ はイデアル.  

 (2) の条件が特徴的です. $3$の倍数は何をかけても$3$の倍数, という感じの性質が現れています.
どんな元も$3$の倍数をかければ$3$の倍数になってしまう, とも読めます.

多項式環

 多項式環$A[X]$において考える. $X$で割り切れる元全体 $(X) = \{ $$ Xf(X) $$ | $$ f(X) \in A[X] $$ \}$ はイデアル.  

 もう少し面倒な例も見てみましょう.

多項式環2

 多項式環$\mathbb{Z}[X]$において考える. $2$で割り切れる元と$X$で割り切れる元の線形結合全体 $(2,X) = \{ $$ 2f(X)+Xg(X) $$ | $$ f(X), g(X) \in \mathbb{Z}[X] $$ \}$ はイデアル.  

 例1,2 は「何かの倍数」くらいのものでしたが 例3 では「何かと何かの線形結合」みたいなパターンが出てきてしまいました. 一筋縄では行きませんね.

 これをもう少し掘り下げてみましょう.

イデアルの生成

 $A$を環, $x_1 , \cdots , x_n \in A$とする. このとき, $(x_1 , \cdots , x_n) = \{ $$a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n$$|$$ a_1 , \cdots , a_n \in A $$ \} $$x_1 , \cdots , x_n$生成されるイデアルという. とくに, $ x \in A$ に対し$(x) = \{ $$ax$$|$$ a \in A $$ \} $$x$で生成される単項イデアルという.  

 ほぼベクトル空間の生成ですね.

 「~の倍数」というのが単項イデアルにあたります. そして上の 例3 が単項イデアルでない例です. (単項イデアルとして書けないことを証明してみよう!)

休憩と補足

イデアルの生成はベクトル空間の生成?

 ちょっと休憩です. イデアルの生成がほぼベクトル空間の生成と書きました. これをもう少し補強します.

イデアルの定義をみてみると,

  1. 任意の $x,y \in I$ に対し $x+y \in I$ が成立する.
  2. 任意の $a \in A,$$x \in I$ に対し $ax \in I$ が成立する.

 ということで, スカラー倍 について閉じていると見れます. また条件の中では**イデアルの元同士の積を考えていません.**(イデアルの元同士の積を考えること自体はいっぱいあるのですが)

 こうしてみると, イデアルは部分ベクトル空間のように見えてきますね. 気になったひとは「環上の加群」で検索してみてください......

イデアルの生成(無限集合バージョン)

 さきほどイデアルの生成を定義しましたが, これでは有限集合によって生成されるイデアルしか定義できていません. 代数学で無限を扱うときは無限和を回避する工夫などが必要になるので, たとえば次のように工夫します.

イデアルの生成:無限集合バージョン

 $A$を環, $S \subset A$を空でない部分集合とするとき, $(S)=\{$$ \sum_{\lambda \in \Lambda} a_{\lambda} x_{\lambda} $$|$$ (a_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$$A$の元の列, $ (x_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$$S$の元の列, $\Lambda$有限集合$\}$と定める.

 こうして無限集合の場合も生成を定義することができました. これに対し, 有限生成という言葉があります. 有限集合によって生成されるイデアルを「有限生成なイデアル」と呼びます.

単項イデアルとは

 もうひとつ補足です. さきほど$(x) = \{ $$ax$$|$$ a \in A $$ \} $$x$で生成される単項イデアルと定義しました.
 ここから意味を拡張して, イデアル$I \in A$が, $x \in A$があり $I=(x)$と書けるとき$I$単項イデアルと言います.

 この意味で, 例3 の$(2,X)$は単項イデアルではありません.

単項イデアル整域

 イデアルの標語をまた見てみましょう.

街頭インタビュー! イデアルって何ですか?

倍数みたいなヤツ
正規部分群の環バージョン
環の性質を語る上でたいへんに便利な概念
・環上の加群の特別な場合

 この上から3つ目,「環の性質を語る上でたいへんに便利な概念」がどういう意味なのか. その一つの答えを書こうと思います.

 まずはとても性質の良い環を一つ定義します

単項イデアル整域, PID

 すべてのイデアルが単項イデアルとなる整域を単項イデアル整域という. (よくPIDと書かれる.)

 有理整数環$\mathbb{Z}$はPID.

 この事実の証明はちゃんと書けば少々面倒です. 超ラフに証明のスケッチを書いておきます

 <証明の雑スケッチ> $I$$(0)$でないイデアルすれば, $I$の元の$0$より大きい元で一番小さいものを$d$とすると, $I=(d)$がわかります. ここは整数の割り算(余り付きの方)を使うといい感じにわかります.

 ちゃんとした証明は大体の環論の本に書いてあると思うのでそちらをどうぞ......

 体はPID.

 後ほど証明します.

でない例

 整数係数の多項式環$\mathbb{Z}[X]$PIDでない.

 たとえば$(2,X)$は単項イデアルでないのでPIDとなりません.

 体$K$が係数の多項式環$K[X]$はPID.

 証明は$\mathbb{Z}$の場合に近いです. こちらもちゃんとした証明は大体(?)の環論の本に書いてあると思うのでそちらをどうぞ......

でない例2

 体$K$が係数の2変数の多項式環$K[X,Y]$PIDでない.

 たとえば$(X,Y)$は単項イデアルでないのでPIDとなりません.

 

PIDの立ち位置?

 PIDはいろいろな環の特別な場合になっています. この記事で定義はしませんが, 以下の環の特別な場合となっています.

・ネーター環
・一意分解環
・整閉整域
・デデキント整域

 うち一意分解環と整閉整域は定義に「イデアル」という言葉が含まれません. イデアルを制限することで, イデアルと関係なく定義される概念と整合性がとれている結果が出てくる. これだけでイデアルを見る重要性が感じられると思います.

 簡単に定義できるのでネーター環は定義しておきます.

ネーター環

 すべてのイデアルが有限生成である環をネーター環という.

体をイデアルで特徴づける

 定義していない言葉を使って「これだけでイデアルを見る重要性が感じられると思います!」などと言われてもしっくりこないと思います. そこで, イデアルを使って特徴づけることができる一番(?)簡単な例を書こうと思います.

 $K$を可換環とするとき, 以下は同値.

  1. $K$は体.
  2. $K$のイデアルは$K$$(0)$のみ.

 なんと, 体であることを「イデアルが$(0)$と自分自身しかない」という情報で表現することができます. ここからもイデアルが持っている環の情報を感じ取ることができますね(?)
 早速証明していきたいところですが, たいへんに便利な補題を示してから行きたいと思います

伝家の宝刀

 $A$を環, $I$をイデアルとするとき, $I$に1つでも単元が含まれていれば$I=A$となる.

 ラフな感じに証明します.
 $I$をイデアル, $x \in I$を単元としておきます. $a \in A$とするときこれが$I$に入っていることを示せば証明終了です.

 $a = (ax^{-1})x$と変形できるので, $a$$I$の元$x$$A$の元$ax^{-1}$の積で書けています. 「イデアルは倍数」という標語を思い出すと $A$の元と$I$の元の積は$I$の元でした. つまり$a \in I$がわかります.
 よって$A \subset I$であるので, $I=A$がわかりました.

 伝家の宝刀などと書きましたが, 環論をしていると呼吸レベルで使います.

さて, 定理1の証明に入っていきます.

定理1の証明

 (1)$\Rightarrow$(2):$I$$(0)$でないイデアルとする. これが$K$であればよい. $x \in I$$0$でない元とするとこれは単元. 補題より単元を含むイデアルは全体に一致する. つまり$I=K$.

 (2)$\Rightarrow$(1):$x \in K$$0$でない元とすると, イデアル$(x)$$(0)$でない. よって$(x)=K$となるしかない. $1 \in K = (x)$であるので$a \in K$があり$ax=1$と書ける. これは$x$が可逆元であることを意味する. よって$0$でないすべての元が可逆元であるとわかったので$K$は体.

 そして定理1を使うと, さきほど証明をしなかった例5(体はPID)を示すことができます. なぜなら体$K$のイデアルは$K$$(0)$のみであり, $K=(1)$であるのですべてのイデアルが単項イデアルとなっています.

少し噛み砕きます

「体」における「倍数」はつまらない

 はい. いま体であることと, イデアルが$(0)$と自分自身しかないことが同値であるということを示しました. これをもう少し日本語にしてみましょう.

 イデアルというのはある意味で「倍数」のことでした. イデアルが$(0)$と自分自身しかない, というのは「倍数」の概念がほとんどない, と言い換えられます. 有理数体$\mathbb{Q}$で考えてみましょう.

 有理数範囲で考えてみれば, 確かに倍数の概念はばかばかしくなります. $3$の倍数として$6$を持ってきたとしても, $\frac{1}{3}$を掛けてしまえば$2$になってしまいます. $3$の倍数ライセンス剥奪です.

 つまり定理1は 割り算ができるということと, 倍数の概念がつまらないということが同値だ, などと(無茶に)言い換えることができます.

おつかれさまでした

 ここまでありがとうございました イデアルの重要性を必死に訴えたつもりです. 環論を勉強し始めた人の助けになれば幸いです. それでは~

参考文献

[1]
M.F.Atiyah, I.G.MacDonald 著, 新妻 弘 訳, Atiyah-MacDonald可換代数入門, 共立出版, 2006
[2]
雪江 明彦, 代数学2 環と体とガロア理論
投稿日:202318

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ごててん
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位相空間と環が好きです

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