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大学数学基礎解説
文献あり

解釈モリモリで環論をやる 剰余環

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どうも

 こんにちは ごててんです カジュアルめな数学の記事を書きたいという欲を抑えきれませんでした2

読者の想定・注意

 イデアルの定義を知っているくらいの前提です 環論やったことあります!という人はそんなの知ってるわ!という感じでムカつくと思うので読まないでください(?)

 この記事は、単に環といえば「$1$を持つ可換環」を意味し, 環は自明な環でないとします!

言い訳

 可換代数をちょっとやったくらいの知識で個人の解釈モリモリの記事を書いています. 超的はずれなことを書いている可能性がありますが許してください. 無茶苦茶勇気を出してイメージとかそういうものを書いています(?)

この記事の目的

 証明をほどほどに、剰余環のイメージを掴むのが目的です
厳密さ等を伴わないイメージを書くこともあるので苦手な方はブラウザバック推奨です

「ゼロ」を定義する

 群論未習の人が読むかは分かりませんが, 群論をやっていない前提で書きます. この記事の目標に入る前に, 次の問題を見てみましょう.

 $a$$7$で割ると$3$で余る整数, $b$$7$で割ると$1$余る整数とする. このとき$a+b,ab$$7$で割ると余りは何か.

 数学に慣れ親しんだ皆さんなら「$4,3$」と即答できると思います. どうして, 単純に $1+3=4, 1 \times 3 = 3$としていいか. それは環の立場から言えば$7\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}$のイデアルだからと説明できます.

$\mod 7$で考えることは, $7$の倍数の余りを考えているとも考えられますが, この記事では次のようにも言いたいと思います.

   

$\mod 7$で考えるということは, $7\mathbb{Z}$を「ゼロ」と思い込むということだ!

   

 はい. 本題に戻ります. この, 「ゼロ」と思い込む操作はイデアルならばいつでも使うことができます. これをしっかり考えてみます.

剰余環を定義する前に

 少し準備をします.

 $A$を環, $I$$A$のイデアル, $a \in A$とするとき, $a+I= \{$$ a+x $$|$$ x \in I $$ \} $と定める.

 $a+I$は, そのまま考えれば$a$だけずれている$I$という感じです. つまり, $I$で「割り算」をしたときの余りが$a$となる元の集合と考えることができます.

 ここでの「割り算」は比喩です!

 例を見ていきましょう.

簡単な例

 $\mathbb{Z}$において, $1+7\mathbb{Z}= \{ \cdots,-6,1,8,15, \cdots \}$であり, $3+7\mathbb{Z} = 10 + 7\mathbb{Z} = 17 + 7\mathbb{Z}$.

 集合として扱っているのがポイントです. 集合は中身さえ同じなら同じものなので, 表記が違くても同じものである可能性があるのが大事です.

 

表記が違くても同じ?

 表記が違くても同じものの代表として, 分数の表記があります. $\frac{1}{3}$$\frac{3}{9}$も同じものを指しています. にもかかわらず, 表記の仕方によって足し算や掛け算の結果が変わることはありません. $\frac{1}{3}+1$$\frac{2}{6}+1$の計算結果が変わったらおかしいですよね. この話を念頭に置いておいてください.

 

補題と言うほどでもないが......

 $A$を環, $I$をイデアル, $a\in A$, $x \in I$とすれば, $ a+I = a+x+I $.

 $I$の元でずらしても, $a+I$は集合として変わらないという主張です. なんとなく当たり前な気がします. ちゃんと示してもいいですが, ちゃんと示します.

 $y \in a+I$とすると, $z \in I$がとれ$y=a+z$とかける. このとき$z-x \in I$であることを利用すると$y = a+z = a+x + (z-x) \in a+x + I$. よって, $a+I \subset a+x+I$. 逆も同様.

 

 もう少し難しい例も見ていきましょう.

 $\mathbb{Q}[X]$において, $1+(X^2)=1+X^2+(X^2)=1-X^3+(X^2)$.

 ちゃんと解説します. $(X^2)$$X^2$で生成されたイデアルで, たとえば$X^2,2X^2,-X^2,X^3,X^4$などが属しています.
 さきほどの補題を使えば, $1+(X^2)=1+X^2+(X^2)=1-X^3+(X^2)$がわかります.

 もっと行きましょう.

 $\mathbb{Z}[X]$において, $1+(4,X^2)=5+(4,X^2)=1+X^2+(4,X^2)$

 $(4,X^2)$$4$$X^2$で生成されたイデアルで, たとえば$4,8,X^2,2X^3,-12+X^4$などが属しています.

 なんとなくイメージを掴めましたでしょうか.

剰余環を定義します

 早速定義...... の前にもう少しあります. 冒頭の問題を環の言葉にしてみます.

$a_1$$a_2$$I$を法として等しい」
$b_1$$b_2$$I$を法として等しい」
このとき
$a_1+b_1$$a_2+b_2$$I$を法として等しい」
$a_1 b_1$$a_2 b_2$$I$を法として等しい」

......ということが成立します. これは次のように書くことができます.

 $A$を環, $I$をイデアル, $a_1,a_2,b_1,b_2 \in A$. このとき$a_1+I=a_2+I,$$b_1+I=b_2+I$が成立しているとする. すると次が成立する.

$a_1+b_1+I=a_2+b_2+I$
$a_1 b_1+I=a_2 b_2+I$

 証明は省きます. 証明を読むより自力で証明したほうが楽しいと思いますし.

 この命題は超大事です. なぜなら「剰余環」が存在していい理由だからです. そしてついに剰余環の「器」を定義します.

 $A$を環, $I$をイデアルとするとき, $A/I=\{$$ a + I $$|$$ a \in A $$\}$と定める.

 これも一旦例を紹介します.

$\mathbb{Z} / 5\mathbb{Z} = \{ 0+5\mathbb{Z}, 1+5\mathbb{Z}, 2+5\mathbb{Z}, 3+5\mathbb{Z}, 4+5\mathbb{Z} \}$.

$\mathbb{Z} / n\mathbb{Z} = \{ 0+n\mathbb{Z}, 1+n\mathbb{Z}, \cdots , (n-1)+n\mathbb{Z} \}$.(全部で$n$個の元からなる.)

 $X^2$で割ったあまりなので, 次のように$\mathbb{Q}[X] / (X^2)$$1$次式と定数で書き切ることができます.

$\mathbb{Q}[X] / (X^2) = \{ $$ a+bX+(X^2) $$ | $$ a,b \in \mathbb{Q} $$ \} $.

 

 さて, ようやく本題です. 「器」に演算を入れましょう.

 $A/I$の元$a+I,b+I$をとってくるとき, $(a+I)+(b+I)=a+b+I$と定めます.
 また, $(a+I)(b+I)=ab+I$と定めます.

 よし!これで晴れて$A/I$に演算が入って環にできる~~~!!!

 と行きたいところですが, 最後に絶対に避けては通れない部分があります.

 この演算が well-defined かを確かめなければなりません.

 

 ......

 

 well-defined って何だ......?

 

well-defined とは

 「well-defined である」とは, 無茶苦茶ざっくり言えば 「ちゃんと定義されている」ということです. これに関しては, well-definedでない例を見たほうがわかりやすいと思うので, ちゃんと定義されていない例を書いてみます

やばすぎる関数

 対応$f:\mathbb{Q} \rightarrow \mathbb{Z}$を, 有理数から「分母と分子の和」に対応させるものとする. これは well-defined な写像でない.

 何がいけないのでしょうか. 実験してみましょう.

 $f(\frac{1}{3})=1+3=4$ であるにもかかわらず, $f(\frac{2}{6})=2+6=8$となってしまいます. 同じ値から飛ばしているのに飛ばした先の値が異なるという, 絶対にあってはならないことが起きていますね. これは写像の原則「1つの元にただ1つの元が対応する」というものに反しています.

 

 $A/I$の演算の話に戻りましょう. どこに well-defined かどうかが問題になる箇所があるのでしょうか. 有理数の場合は, 分数の表し方が一通りでないことが問題となりました. $A/I$で問題になるのは, たとえば$1+5\mathbb{Z}=6+5\mathbb{Z}$というように, $A/I$の元も表し方が一通りでないということでした.

 

 $a+I$$b+I$も, 表し方の一つに過ぎないのに, その和を$a+b+I$と定めていいのか. ということになります. 別の表し方だったら変わってしまう. それはいけません. しかし実際は変わりません.

 

 命題2の前に書いたものを思い出してみましょう

$a_1$$a_2$$I$を法として等しい」
$b_1$$b_2$$I$を法として等しい」
このとき
$a_1+b_1$$a_2+b_2$$I$を法として等しい」
$a_1 b_1$$a_2 b_2$$I$を法として等しい」

 

 これはまさに, $A/I$における和と積が well-defined である, ということを言っています!

 

 $A/I$の元として$a_1 + I , b_1 + I$をとってきて, その和を$a_1+b_1+I$と定めたとします. さて, $a_2 + I , b_2 + I$という, $a_1 + I , b_1 + I$の別の書き方がありました. なんと, その和の$a_2+b_2+I$$a_1+b_1+I$と必ず一致します(命題2). これはつまりどんな書き方を採用しても最終的な結果は同じという意味で, まさしく well-defined ということです!

劇的フィナーレ!!!

 $A/I$は, 上で定義した和と積により環となる. この環を$A$$I$による剰余環と呼ぶ.

 この剰余環によって, 新しい環を大量に作ることができます. イデアルの数だけ作ることができます.

一番有名な例

 $\mathbb{Z} / n\mathbb{Z} $は全部で$n$個の元からなる環. $m+n\mathbb{Z}$$\overline{m}$と書かれることが多い.
 演算としては, たとえば$\mathbb{Z} / 6\mathbb{Z} $で考えると$\overline{2}+\overline{5}=\overline{7}=\overline{1}.$ また, $\overline{3} \times \overline{4}=\overline{12}=\overline{0}$. $\mathbb{Z} / 6\mathbb{Z} $は整域でない.

dual number

 $\mathbb{R}[X] / (X^2) = \{ $$ a+bX+(X^2) $$ | $$ a,b \in \mathbb{R} $$ \} $の演算を考える. $(X+(X^2))(X+(X^2))=X^2+(X^2)=0+(X^2)$のように, $2$乗すると$0$になる元をもつ環を得たことになる. この環は dual number の環などと呼ばれる.

 この, 「$2$乗すると$0$になってしまう数を作りたい!」という要望に, $X^2$を「ゼロ」として定義すれば$X$$2$乗して$0$になる!というアイデア. これを実現できるのが剰余環なのです!

 冒頭に「ゼロ」を定義すると書いたのはこういうわけです.

 $3$乗して$0$になる元を作りたければ$\mathbb{R}[X] / (X^3)$とすればいいですし, いろいろ融通が利きます.

 さて, $\mathbb{R}[X] / (X^2+1)$とすればどうなるでしょうか. $X^2+1$が「ゼロ」になるということは, $x=X+(X^2+1)$としたとき, $x^2 = X^2+(X^2+1)= X^2 - X^2 - 1 + (X^2+1) = $$-1$$+(X^2+1)$となります. これは$2$乗して$-1$になっていると考えられます. つまりこの$x$虚数単位に他なりませんね!

おつかれさまでした

 初等的な代数学を勉強するときの壁としてよく挙げられるのは well-defined だと思います. この記事で少しでも理解に近づいたのなら幸いです. ここまで読んでいただきありがとうございました.

参考文献

[1]
M.F.Atiyah, I.G.MacDonald 著, 新妻 弘 訳, Atiyah-MacDonald可換代数入門, 共立出版, 2006
[2]
雪江 明彦, 代数学2 環と体とガロア理論
投稿日:202319

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ごててん
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位相空間と環が好きです

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