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大学数学基礎解説
文献あり

二元二次形式の代数

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はじめに

 この記事では後の記事に向けての準備として(二元)二次形式
f(x,y)=ax2+bxy+cy2(a,b,cZ)
に代数(積の構造)を入れる話について解説します。
 以下、簡単のため上のような二次形式fに対してf=[a,b,c]という記法を使います。
 まず二次形式についての諸々の概念を定めておきます。

integer form
  • 二次形式f=[a,b,c]に対し
    D=b24ac
    と定められる数をf判別式という。本記事ではfが正定値、つまりD<0である場合のみ考える。
  • 二次形式f=[a,b,c]gcd(a,b,c)=1を満たすときf原始的(primitive)であると言う。
  • 二次形式f,gがある変換
    (XY)=(pqrs)(xy)(p,q,r,sZ,psqr=1)
    によって
    f(X,Y)=g(x,y)
    と言う関係を満たすときfgは(properに)同値であると言う(psqr=1であるときimproperに同値と言う)。同値な二次形式は同じ判別式を持つ。
  • 判別式Dの原始的二次形式全体の集合
    {[a,b,c]b24ac=D,gcd(a,b,c)=1}
    を「properに同値である」という同値関係で割った集合C(D)類群と言い、その元の個数h(D)類数と言う。

 この記事ではC(D)にある群構造を入れていくことになります。
 興味深いことに判別式Dの虚二次体Q(d)のイデアル類群は二次形式の類群C(D)と同型となることが知られているようです。

同値関係と簡約化

 類群に群構造を入れていく前にC(D)の完全代表系について考えます。それは二次形式の簡約化という手法によって以下のように定式化されます。

reduced form

 二次形式f=[a,b,c]
|b|ac
|b|=aまたはa=cならばb0
を満たすときf簡約(reduced)であると言う。

 判別式Dの簡約な原始的二次形式全体の集合はC(D)の完全代表系をなす。

・任意の二次形式はある簡約な二次形式と同値である。
・異なる簡約な二次形式は異なる同値類を定める。
を示せばよい。
 正定値の二次形式を考えていたのでa,c0であることに注意する。

簡約化の存在

 任意の二次形式f=[a,b,c]に対してfと同値な二次形式F=[A,B,C]|B|が最小となるように取る。このとき
(XY)=(1k01)(xy)
という変換を考えると
F(X,Y)=Ax2+(B+2kA)xy+Cy2(CZ)
が成り立つのでB=B+2kAが最小となるようなkを取ることで
A<BA
特に|B|Aとできる。よってBの最小性より|B||B|Aが成り立つ。同様に|B|Cもわかる。
 またA>Cのとき変換(X,Y)=(y,x)によって[C,B,A]を再びFとおくことでACとしてよく、
A=CかつB<0の場合は変換(X,Y)=(y,x)によってF=[A,B,A]は簡約
A<CかつB=Aのとき(X,Y)=(x+1,y)によってF=[A,A,C]は簡約
A<CかつBAのときFは簡約
となるのでfはある簡約な二次形式と同値であることが示された。

非同値性

 f=[a,b,c]を簡約な二次形式とすると
f(x,y)(a|b|+c)(min{x,y})2
が成り立つのでxy0において
f(x,y)a|b|+cca
が成り立つ。よってaf(x,y)(x,y)=(0,0)を除く整数点上で表現する最小の整数であり、cは二番目に小さい整数となる。
 いま簡約な二次形式g=[a,b,c]fと同値であるとして、(a,b,c)=(a,b,c)となることを示す。

  • a<c<a|b|+cであるとき
    a,aの最小性からa=aが直ちに導かれる。このときf(x,y)=a,cの解はそれぞれ(±1,0),(0,±1)の丁度2つであることに注意するとa=cならばg(x,y)=aの解が4つになり矛盾。よってa<cであり、c,cの二番目の最小性からc=cが導かれる。
     いま
    f(px+qy,rx+sy)=g(x,y)(psqr=1)
    とおくと
    a=g(1,0)=f(p,q),c=g(0,1)=f(r,s)
    であるので(p,q)=(±1,0),(q,r)=(0,±1)が成り立つ。またpsqr=1より複号同順であることがわかるので
    g(x,y)=f(±x,±y)=f(x,y)
    を得る。
  • |b|=aまたはa=cのとき
    c=a|b|+cまたはa=cなのでf,g4点以上で最小値、あるいは二番目の最小値を取ることから同様にして(a,c)=(a,c)がわかる。判別式の不変性からb2=b2がわかるのでb,b0よりb=bを得る。

 この命題によって不定方程式
b24ac=D
|b|acにおいて解くことでC(D)の要素および類数を求めることができます。
 D<0に注意すると
D=b24aca24a2
より
aD3
aの範囲を絞れるのを覚えておくと便利です。

ディリクレ積と類群

二次形式の積

 いま判別式Dの二次形式に対して積の構造を考えてみましょう(英語ではcomposeなので合成と言った方がいいかもしれません)。
 素朴に考えるとf,gの積F
f(x,y)g(x,y)=F(X,Y)(X=X(x,y),Y=Y(x,y))
と定めたくなりますが、さらに一般化して
f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)(X=X(x,y,z,w),Y=Y(x,y,z,w))
という関係によって定めます。
 しかしこの関係だけではFはproperに同値という関係を除いても一意には定まりません。例えば以下の主張が成り立つことからFの候補は少なくとも4つ程度存在することがわかります。

 判別式Dの二次形式f=[a,b,c],g=[a,b,c]gcd(a,a)=1を満たすとき
Bb(mod2a)Bb(mod2a)
なる整数B2aaを法としてただ一つ存在し、そのようなBに対し
B2D(mod4aa)
が成り立つ。

 gcd(2a,2a)=2および
bb(mod2)(Db2b2(mod4))
から中国剰余定理より
Bb(mod2a)Bb(mod2a)
なるBlcm(2a,2a)=2aaを法としてただ一つ存在することがわかる。
 具体的には
pa+qa=1
を満たすような整数p,qに対して
B=pab+qab
がその解となる。
 また
ab2aD,ab2aD(mod4aa)
に注意するとB=pab+qabに対して
(b+b)B(pa+qa)(D+bb)=D+bb(mod4aa)
つまり
B2DB2(b+b)B+bb=(Bb)(Bb)0(mod4aa)
が成り立つことがわかる。

 判別式Dの二次形式f=[a,b,c],g=[a,b,c]gcd(a,a)=1を満たすとき
B±b(mod2a)B±b(mod2a)
(複号任意)なる整数Bを取り
F(x,y)=aax2+Bxy+B2D4aay2
とおくと、あるX,Yが存在して
f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)
が成り立つ。

 ±B=b+2kaとおくと変換(x,y)=(x+ky,y)によって
f(x,y)=ax2±Bxy+aCy2(C=B2D4aa)
が成り立つのでf=[a,±1B,aC]および同様にg=[a,±2B,aC]と置き直してよい。
 このとき
f(x,y)=a(x±B+D2ay)(x±BD2ay)
と因数分解できることに注意して±3=±1±2とおきX,Y
X±3B+D2aaY=(x±1B+D2ay)(z±2B+D2aw)=xz+B+D2aa(±2axw+±1ayz)±32B2+2BD(B2D)4aayw=(xz3Cyw)±3B+D2aa(±1axw±2ayz+Byw)
によって定めると
f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)
が成り立つことがわかる。

 例えばこれによって定まる二次形式f=[14,10,21],g=[9,2,30](D=1076)の積は
[126,±38,5],[126,±74,13]
となり、これらの簡約化は
[5,±2,54],[13,±4,21]
とすべて異なることがわかります。
 ちなみに二次形式の二乗に対しては次のような公式も成り立ちます。

 判別式Dの二次形式f=[a,b,c]に対してあるX,Yが存在して
f(x,y)f(z,w)={X2D4Y2D0(mod4)X2+XY+1D4Y2D1(mod4)
が成り立つ。

 D0(mod4)のときはX,Y
X+D2Y=a(x+b+D2ay)(z+bD2aw)=(axz+b2(xw+yz)+cyw)+D2(yzxw)
によって定め、D1(mod4)のときは
X+1+D2Y=a(x+b+D2ay)(z+bD2aw)=(axz+b+12xw+b12yz+cyw)+1+D2(yzxw)
によって定めることでわかる。

 このように二次形式の積は様々な取り方が考えられますが、以下では一番定理3における
Bb(mod2a)Bb(mod2a)
によって定まる積をディリクレ積(Dirichlet composition)と呼び、この積について考えていくことにします。ディリクレ積ではX,Y
X+B+D2aaY=(x+B+D2ay)(z+B+D2aw)
という対称性の高い形で定まるため一番自然な積と考えることができます。
 ちなみにディリクレ積は定理4を誘導するとは限りません。例えばf=[3,2,4](D=44)の場合を考えるとfと同値な二次形式g=[4,2,3]fのディリクレ積は[12,10,3]と定まりますが、これの簡約化は[3,2,4][1,0,11]となります。

類群のディリクレ積

 上で二次形式の積を考えたとき何かと同値な変換を考えていたことからわかるように、直接二次形式の積を考えるのは何かと不便があります。ということで二次形式そのものではなく類群C(D)における同値類の積を考えていくことにします。

 原始的な二次形式f=[a,b,c]と任意の整数n0に対しf(x,y)nが互いに素となるような整数x,y(x,yは互いに素)が存在する。

 gcd(a,b,c)=1よりgcd(a,a+b+c,c)=1でもあるのでnの素因数pに対して(xp,yp)=(1,0),(0,1),(1,1)のいずれかはf(xp,yp)pと互いに素となるように取れる。このとき中国剰余定理から任意のpnに対し
xxp,yyp(modp)
となるような整数x,yを取ると
f(x,y)f(xp,yp)0(modp)
つまりf(x,y)nは互いに素となる。

 二次形式fと整数nに対しf(x,y)=nなる互いに素な整数x,yが存在するとき、ある整数m,lが存在してf[n,m,l]と同値となる。

 f(α,γ)=nとするとα,γは互いに素であったのである整数β,γが存在して
αδβγ=1
が成り立つ。このとき変換
(XY)=(αβγδ)(xy)
によって
f(X,Y)=nx2+mxy+ly2
が成り立つことがわかる。

 簡単のため原始的二次形式f=[a,b,c]の定める同値類をf=[a,b,c]と書くことにします。
 いまf=[a,b,c],g=[a,b,c]について、補題5,6からgはあるgcd(a,a)=1なる二次形式[a,b,c]に同値となります。このときfh=[a,b,c]の定めるディリクレ積[aa,B,C]fgの積と定めることができます。

C(D)のディリクレ積

 ディリクレ積はC(D)においてwell-difinedに定まる二項演算となる。

 ディリクレ積がwell-defined性についてはめんどくさそうなので省略する。
 C(D)がディリクレ積について閉じていること、つまり原始的な二次形式の積が再び原始的となることを示す。
 f,gの積F=[a,b,c]gcd(a,b,c)=d>1を満たすとする。このとき補題5よりあるx,y,z,wが存在してf(x,y),g(z,w)dと互いに素となり、ある整数X,Yが存在して
f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)
が成り立つことからF(X,Y)dと互いに素となるのでF(X,Y)は常にdで割り切れることに矛盾。よってd=1を得る。

C(D)の代数的構造

 C(D)はディリクレ積について可換群となり(!)、その単位元や逆元は以下のように定まることがわかります。

C(D)の代数

 C(D)はディリクレ積についての可換群となる。特に

  • C(D)の単位元は主形式(principal form)
    I(x,y)={x2D4y2D0(mod4)x2+xy+1D4y2D1(mod4)
    の定める同値類Iであり、これを主類(principal class)と言う。
  • [a,b,c]の逆元は[a,b,c]となる。

 ディリクレ積の結合性についてはめんどくさそうなので省略する。

Iの単位性

 I[a,b,c]のディリクレ積は[a,B,C]となるが、Bの取り方はBb(mod2a)において自由なのでB=bとでき、主張を得る。

[a,b,c]の可逆性

 [a,b,c][a,b,c]=[c,b,a]のディリクレ積は[ac,b,1]=[1,b,ac]となる(このことについてはおまけとして補足する)ので
X={xb2yD0(mod4)xb+12yD1(mod4)
およびY=yによって
I(X,Y)=x2bxy+acy2
が成り立つことから主張を得る。

位数2の元の個数

 C(D)の代数については次回の記事で深堀りするとして、最後に次回の記事に向けた命題を一つ証明しておきます。

 簡約な二次形式f=[a,b,c]f2=Iを満たすときb=0またはa=bまたはa=cが成り立つ。

 f2=Iならばf=f1=[a,b,c]が成り立つのでf=[a,b,c]g=[a,b,c]が同値となるような条件を考えればよい。
0<|b|<a<cのときはfgは異なる簡約形式を定めるので不適
b=0のときf=gより適当
a=bのときg(x+1,y)=f(x,y)より適当
a=cのときg(y,x)=f(x,y)より適当
よって主張を得る。

 判別式Dに対しrDの素因数p3の個数としμを次のように定める。
D1(mod4)のときμ=r
D0(mod4)のときD=D/4とおくと
μ={rD1,3(mod4)r+1D2,3(mod4),D4(mod8)r+2D0,3(mod8)

 C(D)f2=Iなる元の個数は丁度2μ1個となる。

 D0(mod4)かつb=0のときac=Dなる互いに素なa,cの取り方はDが奇数のとき2r通り、Dが偶数のとき2r+1通りであり、a<cなるものはその半分の2r1,2r通りとなる。D1(mod4)のときはbは奇数なのでb0である。
 あとはa=cのときb=2cbとおくと0<b<cよりc<b<2cであり(X,Y)=(x+y,x)によって
cX2+(2cb)XY+cY2=bx2+bxy+cy2
が成り立つのでb=a<cのときと合わせてD=b(b4c)なる互いに素なb,c(b<2c)の個数を考えればよい。

  • D1(mod4)のときbは奇数なのでbb4cは互いに素であり、D=bdなる互いに素なb,dの取り方は2r通りでb<2c=(b+d)/2つまりb<dなる取り方は2r1通りである。
  • D0(mod4)のときb=2bとおいてD=b(b2c)を考える。
    • D1(mod4)のときcbと互いに素、特に奇数であったので
      b(b2c)b(b2)1(mod4)
      つまりD=b(b2c)なるb,cは存在しない。
    • D2(mod4)またはD4(mod8)のとき、同様にcは奇数bは偶数なので
      b(b2c)b(b2)0(mod8)
      となってD=b(b2c)なるb,cは存在しない。
    • D3(mod4)のときD=bdなる互いに素なb,dの取り方は2r通りでb<c=(b+d)/2つまりb<dなる取り方は2r1通りである。
    • D0(mod8)のとき、b=2bとおいてD/4=b(bc)を考えるとD/4=bdなる互いに素なb,dの取り方は2r+1通りで2b<c=b+dつまりb<dなる取り方は2r通りである。

 以上より主張を得る。

 特にこの命題と
C0(D)={fC(D)f2=I}
C(D)の部分群であることから次のことが言えます。

命題10

 h(D)2μ1で割り切れる。

ディリクレ積についての補足

 命題8の証明において[a,b,c]×[c,b,a]=[ac,b,1]としていましたが、gcd(a,c)=1とは限らないので補題2だけではこの操作を説明できません。
 上では簡単のためディリクレ積をgcd(a,a)=1において定めていましたが、実際はもう少し広い条件でディリクレ積は定められています(その場合でももちろんC(D)上でwell-definedになります)。具体的には補題2を少し拡張した以下の命題によってディリクレ積は定められます。

 判別式Dの二次形式f=[a,b,c],g=[a,b,c]gcd(a,a,(b+b)/2)=1を満たすとき
Bb(mod2a)Bb(mod2a)B2D(mod4aa)
なる整数B2aaを法としてただ一つ存在する。

bb(mod2)D+bb2=b24ac+bb2b+b2b(mod2a)D+bb2=b24ac+bb2b+b2b(mod2a)
に注意するとm=2aaおよび
(a1,a2,a3)=(a,a,b+b2)(b1,b2,b3)=(ab,ab,D+bb2)
に対して以下に示す補題が適用でき、
b+b2BD+bb2(mod2aa)

B2D(Bb)(Bb)(mod4aa)
と同値であることから主張を得る。

 整数mおよびak,bk(k=1,2,n)gcd(m,a1,a2,,an)=1を満たすとき、連立合同方程式
akxbk(modm)
に解が存在することと
aibjajbi(modm)
が成り立つことは同値である。特にその解はmを法としてただ一つ求まる。

 方程式に解が存在すれば
aiajxaibjajbi(modm)
が成り立たなければならない。
 逆に
aibjajbi(modm)
が成り立つとき、仮定より
pm+k=1npkak=1
なる整数p,pkを取り
x=k=1npkbk
とおくと
aix=j=1npjaibj(j=1npjaj)bibi(modm)
よりこれがその解となる。
 またyも同じ方程式を満たすとき
ak(xy)0(modm)
より
xy(k=1npkak)(xy)k=1npk0=0(modm)
と一意性がわかる。

 いま[a,b,c]は原始的としていたのでこれと[a,b,c]=[c,b,a]
gcd(a,a,b+b2)=gcd(a,c,d)=1
を満たし、補題11のようなBとしてB=bが取れるので[a,b,c][c,b,a]のディリクレ積は[ac,b,1]となる。と説明することができます。

参考文献

[1]
David A. Cox, Primes of the form x² + ny², Wiley, 1989, pp. 47-53
投稿日:2023122
OptHub AI Competition

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 同値関係と簡約化
  3. ディリクレ積と類群
  4. 二次形式の積
  5. 類群のディリクレ積
  6. $C(D)$の代数的構造
  7. 位数$2$の元の個数
  8. ディリクレ積についての補足
  9. 参考文献