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大学数学基礎解説
文献あり

二元二次形式の代数

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では後の記事に向けての準備として(二元)二次形式
$$f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2\quad(a,b,c\in\Z)$$
に代数(積の構造)を入れる話について解説します。
 以下、簡単のため上のような二次形式$f$に対して$f=[a,b,c]$という記法を使います。
 まず二次形式についての諸々の概念を定めておきます。

integer form
  • 二次形式$f=[a,b,c]$に対し
    $$D=b^2-4ac$$
    と定められる数を$f$判別式という。本記事では$f$が正定値、つまり$D<0$である場合のみ考える。
  • 二次形式$f=[a,b,c]$$\gcd(a,b,c)=1$を満たすとき$f$原始的(primitive)であると言う。
  • 二次形式$f,g$がある変換
    $$\begin{pmatrix}X\\Y\end{pmatrix} =\M pqrs\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\quad(p,q,r,s\in\Z,\;ps-qr=1)$$
    によって
    $$f(X,Y)=g(x,y)$$
    と言う関係を満たすとき$f$$g$は(properに)同値であると言う($ps-qr=-1$であるときimproperに同値と言う)。同値な二次形式は同じ判別式を持つ。
  • 判別式$D$の原始的二次形式全体の集合
    $$\{[a,b,c]\mid b^2-4ac=D,\;\gcd(a,b,c)=1\}$$
    を「properに同値である」という同値関係で割った集合$C(D)$類群と言い、その元の個数$h(D)$類数と言う。

 この記事では$C(D)$にある群構造を入れていくことになります。
 興味深いことに判別式$D$の虚二次体$\Q(\sqrt{d})$のイデアル類群は二次形式の類群$C(D)$と同型となることが知られているようです。

同値関係と簡約化

 類群に群構造を入れていく前に$C(D)$の完全代表系について考えます。それは二次形式の簡約化という手法によって以下のように定式化されます。

reduced form

 二次形式$f=[a,b,c]$
$|b|\leq a\leq c$
$|b|=a$または$a=c$ならば$b\geq0$
を満たすとき$f$簡約(reduced)であると言う。

 判別式$D$の簡約な原始的二次形式全体の集合は$C(D)$の完全代表系をなす。

・任意の二次形式はある簡約な二次形式と同値である。
・異なる簡約な二次形式は異なる同値類を定める。
を示せばよい。
 正定値の二次形式を考えていたので$a,c\geq0$であることに注意する。

簡約化の存在

 任意の二次形式$f=[a,b,c]$に対して$f$と同値な二次形式$F=[A,B,C]$$|B|$が最小となるように取る。このとき
$$\begin{pmatrix}X\\Y\end{pmatrix} =\M1k01\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$$
という変換を考えると
$$F(X,Y)=Ax^2+(B+2kA)xy+C'y^2\quad(C'\in\Z)$$
が成り立つので$B'=B+2kA$が最小となるような$k$を取ることで
$$-A< B'\leq A$$
特に$|B'|\leq A$とできる。よって$B$の最小性より$|B|\leq|B'|\leq A$が成り立つ。同様に$|B|\leq C$もわかる。
 また$A>C$のとき変換$(X,Y)=(-y,x)$によって$[C,-B,A]$を再び$F$とおくことで$A\leq C$としてよく、
$A=C$かつ$B<0$の場合は変換$(X,Y)=(-y,x)$によって$F'=[A,-B,A]$は簡約
$A< C$かつ$B=-A$のとき$(X,Y)=(x+1,y)$によって$F'=[A,A,C]$は簡約
$A< C$かつ$B\neq-A$のとき$F$は簡約
となるので$f$はある簡約な二次形式と同値であることが示された。

非同値性

 $f=[a,b,c]$を簡約な二次形式とすると
$f(x,y)\geq(a-|b|+c)(\min\{x,y\})^2$
が成り立つので$xy\neq0$において
$f(x,y)\geq a-|b|+c\geq c\geq a$
が成り立つ。よって$a$$f(x,y)$$(x,y)=(0,0)$を除く整数点上で表現する最小の整数であり、$c$は二番目に小さい整数となる。
 いま簡約な二次形式$g=[a',b',c']$$f$と同値であるとして、$(a,b,c)=(a',b',c')$となることを示す。

  • $a< c< a-|b|+c$であるとき
    $a,a'$の最小性から$a=a'$が直ちに導かれる。このとき$f(x,y)=a,c$の解はそれぞれ$(\pm1,0),(0,\pm1)$の丁度$2$つであることに注意すると$a=c'$ならば$g(x,y)=a$の解が$4$つになり矛盾。よって$a< c'$であり、$c,c'$の二番目の最小性から$c=c'$が導かれる。
     いま
    $$f(px+qy,rx+sy)=g(x,y)\quad(ps-qr=1)$$
    とおくと
    $$a=g(1,0)=f(p,q),\;c=g(0,1)=f(r,s)$$
    であるので$(p,q)=(\pm1,0),(q,r)=(0,\pm1)$が成り立つ。また$ps-qr=1$より複号同順であることがわかるので
    $$g(x,y)=f(\pm x,\pm y)=f(x,y)$$
    を得る。
  • $|b|=a$または$a=c$のとき
    $c=a-|b|+c$または$a=c$なので$f,g$$4$点以上で最小値、あるいは二番目の最小値を取ることから同様にして$(a,c)=(a',c')$がわかる。判別式の不変性から$b^2=b'^2$がわかるので$b,b'\geq0$より$b=b'$を得る。

 この命題によって不定方程式
$$b^2-4ac=D$$
$|b|\leq a\leq c$において解くことで$C(D)$の要素および類数を求めることができます。
 $D<0$に注意すると
$$D=b^2-4ac\leq a^2-4a^2$$
より
$$a\leq\sqrt{\frac{-D}3}$$
$a$の範囲を絞れるのを覚えておくと便利です。

ディリクレ積と類群

二次形式の積

 いま判別式$D$の二次形式に対して積の構造を考えてみましょう(英語ではcomposeなので合成と言った方がいいかもしれません)。
 素朴に考えると$f,g$の積$F$
$$f(x,y)g(x,y)=F(X,Y)\quad(X=X(x,y),Y=Y(x,y))$$
と定めたくなりますが、さらに一般化して
$$f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)\quad(X=X(x,y,z,w),Y=Y(x,y,z,w))$$
という関係によって定めます。
 しかしこの関係だけでは$F$はproperに同値という関係を除いても一意には定まりません。例えば以下の主張が成り立つことから$F$の候補は少なくとも$4$つ程度存在することがわかります。

 判別式$D$の二次形式$f=[a,b,c],g=[a',b',c']$$\gcd(a,a')=1$を満たすとき
\begin{eqnarray} B&\equiv&b\pmod{2a} \\B&\equiv&b'\pmod{2a'} \end{eqnarray}
なる整数$B$$2aa'$を法としてただ一つ存在し、そのような$B$に対し
$$B^2\equiv D\pmod{4aa'}$$
が成り立つ。

 $\gcd(2a,2a')=2$および
$$b\equiv b'\pmod2\quad(\because D\equiv b^2\equiv b'^2\pmod 4)$$
から中国剰余定理より
\begin{eqnarray} B&\equiv&b\pmod{2a} \\B&\equiv&b'\pmod{2a'} \end{eqnarray}
なる$B$$\operatorname{lcm}(2a,2a')=2aa'$を法としてただ一つ存在することがわかる。
 具体的には
$$pa+qa'=1$$
を満たすような整数$p,q$に対して
$$B=pab'+qa'b$$
がその解となる。
 また
$$ab'^2\equiv aD,\quad a'b^2\equiv a'D\pmod{4aa'}$$
に注意すると$B=pab'+qa'b$に対して
$$(b+b')B\equiv(pa+qa')(D+bb')=D+bb'\pmod{4aa'}$$
つまり
\begin{eqnarray} B^2-D&\equiv&B^2-(b+b')B+bb' \\&=&(B-b)(B-b')\equiv0\pmod{4aa'} \end{eqnarray}
が成り立つことがわかる。

 判別式$D$の二次形式$f=[a,b,c],g=[a',b',c']$$\gcd(a,a')=1$を満たすとき
\begin{eqnarray} B&\equiv&\pm b\pmod{2a} \\B&\equiv&\pm b'\pmod{2a'} \end{eqnarray}
(複号任意)なる整数$B$を取り
$$F(x,y)=aa'x^2+Bxy+\frac{B^2-D}{4aa'}y^2$$
とおくと、ある$X,Y$が存在して
$$f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)$$
が成り立つ。

 $\pm B=b+2ka$とおくと変換$(x',y')=(x+ky,y)$によって
$$f(x',y')=ax^2\pm Bxy+a'Cy^2\quad\l(C=\frac{B^2-D}{4aa'}\r)$$
が成り立つので$f=[a,\pm_1B,a'C]$および同様に$g=[a',\pm_2B,aC]$と置き直してよい。
 このとき
$$f(x,y)=a\l(x\pm\frac{B+\sqrt D}{2a}y\r)\l(x\pm\frac{B-\sqrt{D}}{2a}y\r)$$
と因数分解できることに注意して$\pm_3=\pm_1\cdot\pm_2$とおき$X,Y$
\begin{eqnarray} X\pm_3\frac{B+\sqrt D}{2aa'}Y &=&\l(x\pm_1\frac{B+\sqrt D}{2a}y\r)\l(z\pm_2\frac{B+\sqrt D}{2a'}w\r) \\&=&xz+\frac{B+\sqrt D}{2aa'}(\pm_2axw+\pm_1a'yz)\pm_3\frac{2B^2+2B\sqrt D-(B^2-D)}{4aa'}yw \\&=&(xz\mp_3Cyw)\pm_3\frac{B+\sqrt D}{2aa'}(\pm_1axw\pm_2a'yz+Byw) \end{eqnarray}
によって定めると
$$f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)$$
が成り立つことがわかる。

 例えばこれによって定まる二次形式$f=[14,10,21],g=[9,2,30]\;(D=-1076)$の積は
$$[126,\pm38,5],[126,\pm74,13]$$
となり、これらの簡約化は
$$[5,\pm2,54],[13,\pm4,21]$$
とすべて異なることがわかります。
 ちなみに二次形式の二乗に対しては次のような公式も成り立ちます。

 判別式$D$の二次形式$f=[a,b,c]$に対してある$X,Y$が存在して
$$f(x,y)f(z,w)=\l\{\begin{array}{cl} X^2-\frac D4Y^2&D\equiv0\pmod4 \\X^2+XY+\frac{1-D}4Y^2&D\equiv1\pmod4 \end{array}\r.$$
が成り立つ。

 $D\equiv0\pmod4$のときは$X,Y$
\begin{eqnarray} X+\frac{\sqrt D}2Y&=&a\l(x+\frac{b+\sqrt D}{2a}y\r)\l(z+\frac{b-\sqrt D}{2a}w\r) \\&=&(axz+\frac b2(xw+yz)+cyw)+\frac{\sqrt D}2(yz-xw) \end{eqnarray}
によって定め、$D\equiv1\pmod4$のときは
\begin{eqnarray} X+\farc{1+\sqrt D}2Y&=&a\l(x+\frac{b+\sqrt D}{2a}y\r)\l(z+\frac{b-\sqrt D}{2a}w\r) \\&=&(axz+\frac{b+1}2xw+\farc{b-1}2yz+cyw)+\frac{1+\sqrt D}2(yz-xw) \end{eqnarray}
によって定めることでわかる。

 このように二次形式の積は様々な取り方が考えられますが、以下では一番定理3における
\begin{eqnarray} B&\equiv&b\pmod{2a} \\B&\equiv&b'\pmod{2a'} \end{eqnarray}
によって定まる積をディリクレ積(Dirichlet composition)と呼び、この積について考えていくことにします。ディリクレ積では$X,Y$
$$X+\farc{B+\sqrt D}{2aa'}Y =\l(x+\frac{B+\sqrt D}{2a}y\r)\l(z+\frac{B+\sqrt D}{2a'}w\r)$$
という対称性の高い形で定まるため一番自然な積と考えることができます。
 ちなみにディリクレ積は定理4を誘導するとは限りません。例えば$f=[3,2,4]\;(D=-44)$の場合を考えると$f$と同値な二次形式$g=[4,-2,3]$$f$のディリクレ積は$[12,-10,3]$と定まりますが、これの簡約化は$[3,-2,4]\neq[1,0,11]$となります。

類群のディリクレ積

 上で二次形式の積を考えたとき何かと同値な変換を考えていたことからわかるように、直接二次形式の積を考えるのは何かと不便があります。ということで二次形式そのものではなく類群$C(D)$における同値類の積を考えていくことにします。

 原始的な二次形式$f=[a,b,c]$と任意の整数$n\neq0$に対し$f(x,y)$$n$が互いに素となるような整数$x,y\;$($x,y$は互いに素)が存在する。

 $\gcd(a,b,c)=1$より$\gcd(a,a+b+c,c)=1$でもあるので$n$の素因数$p$に対して$(x_p,y_p)=(1,0),(0,1),(1,1)$のいずれかは$f(x_p,y_p)$$p$と互いに素となるように取れる。このとき中国剰余定理から任意の$p\mid n$に対し
$$x\equiv x_p,\quad y\equiv y_p\pmod p$$
となるような整数$x,y$を取ると
$$f(x,y)\equiv f(x_p,y_p)\not\equiv0\pmod p$$
つまり$f(x,y)$$n$は互いに素となる。

 二次形式$f$と整数$n$に対し$f(x,y)=n$なる互いに素な整数$x,y$が存在するとき、ある整数$m,l$が存在して$f$$[n,m,l]$と同値となる。

 $f(\a,\g)=n$とすると$\a,\g$は互いに素であったのである整数$\b,\g$が存在して
$$\a\d-\b\g=1$$
が成り立つ。このとき変換
$$\begin{pmatrix}X\\Y\end{pmatrix} =\M \a\b\g\d\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$$
によって
$$f(X,Y)=nx^2+mxy+ly^2$$
が成り立つことがわかる。

 簡単のため原始的二次形式$f=[a,b,c]$の定める同値類を$f_\sim=[a,b,c]_\sim$と書くことにします。
 いま$f=[a,b,c],g=[a',b',c']$について、補題5,6から$g$はある$\gcd(a,a'')=1$なる二次形式$[a'',b'',c'']$に同値となります。このとき$f$$h=[a'',b'',c'']$の定めるディリクレ積$[aa'',B,C]_\sim$$f_\sim$$g_\sim$の積と定めることができます。

$C(D)$のディリクレ積

 ディリクレ積は$C(D)$においてwell-difinedに定まる二項演算となる。

 ディリクレ積がwell-defined性についてはめんどくさそうなので省略する。
 $C(D)$がディリクレ積について閉じていること、つまり原始的な二次形式の積が再び原始的となることを示す。
 $f_\sim,g_\sim$の積$F_\sim=[a,b,c]_\sim$$\gcd(a,b,c)=d>1$を満たすとする。このとき補題5よりある$x,y,z,w$が存在して$f(x,y),g(z,w)$$d$と互いに素となり、ある整数$X,Y$が存在して
$$f(x,y)g(z,w)=F(X,Y)$$
が成り立つことから$F(X,Y)$$d$と互いに素となるので$F(X,Y)$は常に$d$で割り切れることに矛盾。よって$d=1$を得る。

$C(D)$の代数的構造

 $C(D)$はディリクレ積について可換群となり(!)、その単位元や逆元は以下のように定まることがわかります。

$C(D)$の代数

 $C(D)$はディリクレ積についての可換群となる。特に

  • $C(D)$の単位元は主形式(principal form)
    $$I(x,y)=\l\{\begin{array}{cl} x^2-\frac D4y^2&D\equiv0\pmod4 \\x^2+xy+\frac{1-D}4y^2&D\equiv1\pmod4 \end{array}\r.$$
    の定める同値類$I_\sim$であり、これを主類(principal class)と言う。
  • $[a,b,c]_\sim$の逆元は$[a,-b,c]_\sim$となる。

 ディリクレ積の結合性についてはめんどくさそうなので省略する。

$I_\sim$の単位性

 $I_\sim$$[a,b,c]_\sim$のディリクレ積は$[a,B,C]_\sim$となるが、$B$の取り方は$B\equiv b\pmod{2a}$において自由なので$B=b$とでき、主張を得る。

$[a,b,c]_\sim$の可逆性

 $[a,b,c]_\sim$$[a,-b,c]_\sim=[c,b,a]_\sim$のディリクレ積は$[ac,b,1]_\sim=[1,-b,ac]$となる(このことについてはおまけとして補足する)ので
$$X=\l\{\begin{array}{cl} x-\frac b2y&D\equiv0\pmod4 \\x-\frac{b+1}2y&D\equiv1\pmod4 \end{array}\r.$$
および$Y=y$によって
$$I(X,Y)=x^2-bxy+acy^2$$
が成り立つことから主張を得る。

位数$2$の元の個数

 $C(D)$の代数については次回の記事で深堀りするとして、最後に次回の記事に向けた命題を一つ証明しておきます。

 簡約な二次形式$f=[a,b,c]$$f_\sim^2=I_\sim$を満たすとき$b=0$または$a=b$または$a=c$が成り立つ。

 $f_\sim^2=I_\sim$ならば$f_\sim=f_\sim^{-1}=[a,-b,c]_\sim$が成り立つので$f=[a,b,c]$$g=[a,-b,c]$が同値となるような条件を考えればよい。
$0<|b|< a< c$のときは$f$$g$は異なる簡約形式を定めるので不適
$b=0$のとき$f=g$より適当
$a=b$のとき$g(x+1,y)=f(x,y)$より適当
$a=c$のとき$g(y,-x)=f(x,y)$より適当
よって主張を得る。

 判別式$D$に対し$r$$D$の素因数$p\geq3$の個数とし$\mu$を次のように定める。
$D\equiv1\pmod4$のとき$\mu=r$
$D\equiv0\pmod4$のとき$D'=D/4$とおくと
$$\mu=\l\{\begin{array}{cl} r&D'\equiv1\phantom{,3}\pmod4 \\r+1&D'\equiv2,3\pmod4,\;D'\equiv 4\pmod8 \\r+2&D'\equiv0\phantom{,3}\pmod8 \end{array}\r.$$

 $C(D)$$f_\sim^2=I_\sim$なる元の個数は丁度$2^{\mu-1}$個となる。

 $D\equiv0\pmod4$かつ$b=0$のとき$ac=-D'$なる互いに素な$a,c$の取り方は$D'$が奇数のとき$2^r$通り、$D'$が偶数のとき$2^{r+1}$通りであり、$a< c$なるものはその半分の$2^{r-1},2^r$通りとなる。$D\equiv1\pmod4$のときは$b$は奇数なので$b\neq0$である。
 あとは$a=c$のとき$b=2c-b'$とおくと$0< b< c$より$c< b'<2c$であり$(X,Y)=(x+y,-x)$によって
$$cX^2+(2c-b')XY+cY^2=b'x^2+b'xy+cy^2$$
が成り立つので$b=a< c$のときと合わせて$D=b(b-4c)$なる互いに素な$b,c\;(b<2c)$の個数を考えればよい。

  • $D\equiv1\pmod4$のとき$b$は奇数なので$b$$b-4c$は互いに素であり、$-D=bd$なる互いに素な$b,d$の取り方は$2^r$通りで$b<2c=(b+d)/2$つまり$b< d$なる取り方は$2^{r-1}$通りである。
  • $D\equiv0\pmod4$のとき$b=2b'$とおいて$D'=b'(b'-2c)$を考える。
    • $D'\equiv1\pmod4$のとき$c$$b$と互いに素、特に奇数であったので
      $$b'(b'-2c)\equiv b'(b'-2)\equiv -1\pmod4$$
      つまり$D'=b'(b'-2c)$なる$b',c$は存在しない。
    • $D'\equiv 2\pmod4$または$D'\equiv4\pmod8$のとき、同様に$c$は奇数$b'$は偶数なので
      $$b'(b'-2c)\equiv b'(b'-2)\equiv0\pmod8$$
      となって$D'=b'(b'-2c)$なる$b',c$は存在しない。
    • $D'\equiv3\pmod4$のとき$-D'=b'd'$なる互いに素な$b',d'$の取り方は$2^r$通りで$b'< c=(b'+d')/2$つまり$b'< d'$なる取り方は$2^{r-1}$通りである。
    • $D'\equiv0\pmod8$のとき、$b'=2b''$とおいて$D'/4=b''(b''-c)$を考えると$-D'/4=b''d''$なる互いに素な$b'',d''$の取り方は$2^{r+1}$通りで$2b''< c=b''+d''$つまり$b''< d''$なる取り方は$2^r$通りである。

 以上より主張を得る。

 特にこの命題と
$$C_0(D)=\{f_\sim\in C(D)\mid f_\sim^2=I_\sim\}$$
$C(D)$の部分群であることから次のことが言えます。

命題10

 $h(D)$$2^{\mu-1}$で割り切れる。

ディリクレ積についての補足

 命題8の証明において$[a,b,c]_\sim\times[c,b,a]_\sim=[ac,b,1]_\sim$としていましたが、$\gcd(a,c)=1$とは限らないので補題2だけではこの操作を説明できません。
 上では簡単のためディリクレ積を$\gcd(a,a')=1$において定めていましたが、実際はもう少し広い条件でディリクレ積は定められています(その場合でももちろん$C(D)$上でwell-definedになります)。具体的には補題2を少し拡張した以下の命題によってディリクレ積は定められます。

 判別式$D$の二次形式$f=[a,b,c],g=[a',b',c']$$\gcd(a,a',(b+b')/2)=1$を満たすとき
\begin{eqnarray} B&\equiv&b\pmod{2a} \\B&\equiv&b'\pmod{2a'} \\B^2&\equiv&D\pmod{4aa'} \end{eqnarray}
なる整数$B$$2aa'$を法としてただ一つ存在する。

\begin{eqnarray} b&\equiv&b'\pmod2 \\\frac{D+bb'}2&=&\frac{b^2-4ac+bb'}2\equiv\frac{b+b'}2b\pmod{2a} \\\frac{D+bb'}2&=&\frac{b'^2-4a'c'+bb'}2\equiv\frac{b+b'}2b'\pmod{2a'} \end{eqnarray}
に注意すると$m=2aa'$および
\begin{eqnarray} (a_1,a_2,a_3)&=&(a',a,\frac{b+b'}2) \\(b_1,b_2,b_3)&=&(a'b,ab',\frac{D+bb'}2) \end{eqnarray}
に対して以下に示す補題が適用でき、
$$\frac{b+b'}2B\equiv\farc{D+bb'}2\pmod{2aa'}$$

$$B^2-D\equiv(B-b)(B-b')\pmod{4aa'}$$
と同値であることから主張を得る。

 整数$m$および$a_k,b_k\;(k=1,2,\ldots n)$$\gcd(m,a_1,a_2,\ldots,a_n)=1$を満たすとき、連立合同方程式
$$a_kx\equiv b_k\pmod m$$
に解が存在することと
$$a_ib_j\equiv a_jb_i\pmod m$$
が成り立つことは同値である。特にその解は$m$を法としてただ一つ求まる。

 方程式に解が存在すれば
$$a_ia_jx\equiv a_ib_j\equiv a_jb_i\pmod m$$
が成り立たなければならない。
 逆に
$$a_ib_j\equiv a_jb_i\pmod m$$
が成り立つとき、仮定より
$$pm+\sum^n_{k=1}p_ka_k=1$$
なる整数$p,p_k$を取り
$$x=\sum^n_{k=1}p_kb_k$$
とおくと
$$a_ix=\sum^n_{j=1}p_ja_ib_j\equiv\l(\sum^n_{j=1}p_ja_j\r)b_i\equiv b_i\pmod m$$
よりこれがその解となる。
 また$y$も同じ方程式を満たすとき
$$a_k(x-y)\equiv 0\pmod m$$
より
$$x-y\equiv\l(\sum^n_{k=1}p_ka_k\r)(x-y)\equiv\sum^n_{k=1}p_k0=0\pmod m$$
と一意性がわかる。

 いま$[a,b,c]$は原始的としていたのでこれと$[a',b',c']=[c,b,a]$
$$\gcd\l(a,a',\frac{b+b'}2\r)=\gcd(a,c,d)=1$$
を満たし、補題11のような$B$として$B=b$が取れるので$[a,b,c]$$[c,b,a]$のディリクレ積は$[ac,b,1]$となる。と説明することができます。

参考文献

[1]
David A. Cox, Primes of the form x² + ny², Wiley, 1989, pp. 47-53
投稿日:2023122
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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