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調和積の定義と連結和

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多重ゼータ値には調和積というものがあります. この記事ではその定義を確認して, その連結和を見いだすまでの発想を書いていきたいと思います. 多重ゼータ値をnk:=i=1aniki
ζ(k):=0<n1<<na1nkとして, と定義します. その積を考えてみます.
ζ(k)ζ(l)=0<n1<na0<m1<mb1nk1ml
調和積とは, ni,mjの間にni<mj, ni>mj ni=mjのいずれかの順序を入れて展開していったものです. 具体例で考えてみます. 双方がdepth 1の場合,
ζ(k)ζ(l)=0<n,m1nkml=0<n<m1nkml+0<m<n1nkml+0<n=m1nkml=ζ(k,l)+ζ(l,k)+ζ(k+l)のようになります. 一般の場合は全てこのように展開するわけにはいかないので, 最後のna,mbについて考えて, 再帰的に定義してみます.
ζ(k)ζ(l)=0<n1<<na0<m1<<mb1n1k1nakam1l1mblb=0<n1<<na<mb0<m1<<mb1n1k1nakam1l1mblb+0<n1<<na0<m1<<mb<na1n1k1nakam1l1mblb+0<n1<<na=mb0<m1<<mb1n1k1nakam1l1mblbのようになりますね. これを書き直すと,
ζ(k)ζ(l)=0<n1<<na0<m1<<mb1n1k1nakam1l1mblb=0<n1<<na<r0<m1<<mb1<r1n1k1nakam1l1mb1lb1rlb+0<n1<<na1<r0<m1<<mb<r1n1k1na1ka1m1l1mblbrka+0<n1<<na1<r0<m1<<mb1<r1n1k1na1ka1m1l1mb1lb1rka+lbと表すことができます. つまり調和積は再帰的に,
ζ((k1,,ka)(l1,,lb))=ζ((k1,,ka1)(l1,,lb),ka)+ζ((k1,,ka)(l1,,lb1),lb)+ζ((k1,,ka1)(l1,,lb1),ka+lb)となることが分かります. そこで, 一般にその途中過程
ζ((k1,,ka)(l1,,lb),h1,,hc)を考えてみます. これを具体的に書いてみると,
ζ((k1,,ka)(l1,,lb),h1,,hc)=0<n1<<na<r10<m1<<mb<r1r1<<rc1nkmlrhというふうになりますね. これを連結和, と考えてZ(k;l;h)と書いてみます. すると, その輸送関係式は
Z(k,k;l,l;h)=Z(k;l,l;k,h)+Z(k,k;l;l,h)+Z(k;l;k+l,h)
となります. しかしこれはdepthごとの輸送になっていて, 矢印記号,
k=(k1,,ka,1)k=(k1,,ka1,ka+1)k=(k1+1,,ka1,ka)k=(1,k1,,ka1,ka)k=(k1,,ka1,ka1)k=(k11,,ka1,ka)で輸送関係式を表すことができていません. 例えば, k=l=1とすることにより,
Z(k;l;h)=Z(k;l;h)+Z(k;l;h)+Z(k;l;↑←h)となりますが, 縦矢印の輸送を表すことができません. ここで, weightごとの輸送関係式を行うために連結和の定義を工夫します.
Z(k,k;l,l;h)=Z(k;l,l;k,h)+Z(k,k;l;l,h)+Z(k;l;k+l,h)をよく観察してみましょう, 左辺において, k,l側にあったk,lが右辺において, h側に一気に輸送されているように見えます. これらをk,l側にあるとみなすことを考えます. すると以下のような見方ができます.
0<n1<<na<na+1<r10<m1<<mb<mb+1<r1r1<<rc1n1k1nakana+1km1l1mblbmb+1lr1h1rchc=0<n1<<na<na+1=r00<m1<<mb<mb+1<r0r0<r1<<rc1n1k1nakana+1km1l1mblbmb+1lr1h1rchc+0<n1<<na<na+1<r00<m1<<mb<mb+1=r0r0<r1<<rc1n1k1nakana+1km1l1mblbmb+1lr1h1rchc+0<n1<<na<na+1=r00<m1<<mb<mb+1=r0r0<r1<<rc1n1k1nakana+1km1l1mblbmb+1lr1h1rchc(k,k)を改めてkと置くなどして改めると,
0<n1<<na<r10<m1<<mb<r1r1<<rc1nkmlrh=0<n1<<na=r00<m1<<mb<r0r0<r1<<rc1nkmlrh+0<n1<<na<r00<m1<<mb=r0r0<r1<<rc1nkmlrh+0<n1<<na=r00<m1<<mb=r0r0<r1<<rc1nkmlrhよってあらためて,
Z(k;l;h):=0<n1<<na=r10<m1<<mb=r1r1<<rc1nkmlrhと置いてみると, 上の輸送関係式は,
Z(k,0;l,0;h)=Z(k;l,0;0,h)+Z(k,0;l;0,h)+Z(k;l;0,h)さて, 輸送関係式に0を含んだインデックスが現れることは矢印記法においては好ましくないので, 再び定義を工夫します. 今度は最初からk,lを下げて定義してみましょう.
Z(k;l;h):=0<n1<<na=r10<m1<<mb=r1r1<<rc1nkmlrhこの効果は上の0をつける操作が矢印記号で表すことができるようになるということです. それによって, 上の式は,
Z(k;l;h)=Z(k;l;0,h)+Z(k;l;0,h)+Z(k;l;0,h)さて, h側には0が出てきていますが, ここで定義から明らかに分かる輸送関係式,
Z(k;l;h)=Z(k;l;h)=Z(k;l;h)によって,
Z(k;l;0,h)+Z(k;l;0,h)+Z(k;l;0,h)=Z(k;l;h)+Z(k;l;h)+Z(k;l;↑←h)よって, まとめると,
Z(k;l;h):=0<n1<<na=r10<m1<<mb=r1r1<<rc1nkmlrhと定義したとき,


Z(k;l;h)=Z(k;l;h)=Z(k;l;h)Z(k;l;h)=Z(k;l;h)+Z(k;l;h)+Z(k;l;↑←h)

と上手く輸送関係式を記述することができました. さて, 最後に境界条件を確認して起きましょう, これは定義より,
ζ(k)ζ(l)=Z(k;l;2)Z(k;1;h,h)=Z(1;k;h,h)=ζ(kh1,h)ここで, nnを意味します. これでζ(k)ζ(l)から始めて, k,lのweightを減らす方向に輸送関係式をもちいて, 最後に境界条件をもちいれば調和積を計算することができます. Connectorsに載っている調和積の連結和は, ここで扱ったのとは少し違って,
ZN(k;l;h):=rc=n1<<naNrc=m1<<mbN0<r1<<rc1nkmlrhという形ですが, これもほとんど同様です. これらあくまでweight 1ずつ輸送できることによって, 記述が簡単になるということで, 実際に計算するときには向かないので注意です.

参考文献

S. Seki, Connectors, arXiv:2006.09076

投稿日:2020119
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Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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