この記事ではノルム空間の連続的埋め込みという概念を導入し、連続的埋め込みでないと一般には成り立たないような主張を、連続的埋め込みでないときの反例とともに紹介する。
導入
ノルム空間と呼ばれる空間のクラスが存在する:
ノルム空間
上の線型空間と写像の組がノルム空間であるとは、次の3つが成立することである:
- であり、 (半正値性)
- (斉次性)
- (三角不等式)
またこのとき「はのノルムである」ともいう。
の部分空間についてのへの制限は明らかにのノルムである。このようなノルムを考えたとき、をの部分ノルム空間という。もう少し条件が弱いが有用な「部分」のあり方として次の連続的埋め込みがある:
連続的埋め込み
線型空間があり、がそれぞれのノルムであるとする。このとき「ノルム空間がの連続的埋め込みである」とはとなることである。
ノルム空間の間の線型写像の連続性の概念を用いて言い換えれば「包含写像は連続である」となる。
主張
この記事では部分空間が連続的埋め込みであるときに成り立つ性質を紹介する:
ノルム空間があり、がの部分空間となっているとする。このときがの連続的埋め込みになっているならば、のノルムがとして定まる。
- 半正値性
他は明らかなので$|x|{X_1+X_2}=0 \Rightarrow x=0$のみ示す。
連続的埋め込みの仮定からあるがあり、$| x |X \leq C| x |{X_i} \quad (x \in X_i, i=1,2)|x|{X_1+X_2}=0\varepsilon > 0\exists x_1 \in X_1, \exists x_2 \in X_2, | x_1 |{X_1}, | x_2 |{X_2} <\varepsilon/2C|x|_X \leq |x_1|X+|x_2|X \leq C(|x_1|{X_1}+|x_2|{X_2})<\varepsilon$
つまり$|x|_X=0x=0$である。 - 斉次性
のときは明らかなので、のときに示す。
任意のについて、$\exists x_1 \in X_1, \exists x_2 \in X_2, | x_1 |{X_1}+| x_2 |{X_2} <|x|{X_1+X_2}+\varepsilon/|\alpha||\alpha x|{X_1+X_2} \leq |\alpha x_1 |{X_1}+|\alpha x_2 |{X_2} = |\alpha|| x_1 |{X_1}+|\alpha|| x_2 |{X_2} < |\alpha||x|{X_1+X_2}+\varepsilon$
つまり$|\alpha x|{X_1+X_2} \leq |\alpha||x|{X_1+X_2}|x|{X_1+X_2} =|\alpha^{-1}\alpha x|{X_1+X_2} \leq |\alpha^{-1}||\alpha x|{X_1+X_2}|\alpha||x|{X_1+X_2} \leq |\alpha x|{X_1+X_2}$ - 三角不等式
$| \cdot |{X_1}, | \cdot |{X_2}$についてのそれより明らか。
上の証明ではの証明に連続的埋め込みの仮定を用いた。これが無駄ではなく一般にはこの仮定を外せないことが次の例よりわかる。
反例
以下では実際に反例を構成していく。
の定義
まずノルム空間を構成する。
を通常の和とスカラー倍について上のベクトル空間と見做す。またの部分空間によってとする。
の元は代表元を用いてと書き、の部分集合と見做す。またに対してと定義する。
がノルムとなっていることを示す。まず次の簡単な事実に注意する。
- 半正値性
$| x+W |X=0 \Rightarrow x \in Wx=(x_n)\forall \varepsilon > 0, \exists y=(y_n) \in x+W, \sum{n=1}^{\infty} |y_n| < \varepsilon|\sum_{n=1}^{\infty} x_n| = |\sum_{n=1}^{\infty} y_n| \leq \sum_{n=1}^{\infty} |y_n| < \varepsilon\forall m \in \mathbb{N}, x_{2m-1}-x_{2m} = y_{2m-1}-y_{2m} \leq |y_{2m-1}|+|y_{2m}| < \varepsilon\sum_{n=1}^{\infty} x_n=0\forall m \in \mathbb{N}, x_{2m-1}=x_{2m}$となり示せた。 - 斉次性
のときに$| \alpha(x+W) |_X \leq |\alpha| | x+W |_X\forall \varepsilon > 0, \exists y \in \alpha(x+W), s(y) < |\alpha| | x+W |_X + \varepsilons(z)<| x+W |_X +\varepsilon/|\alpha|z \in x + Wy=\alpha z$とすれば示される。 - 三角不等式
より従う。
の定義
のある部分空間にと関係のないノルムを定義し、が連続的埋め込みとならないようにする。
の部分空間 (resp.)をと定める。
またこの条件を満たすを「 (resp.)におけるの正統な表示」という。
補題2から次がわかる。
(resp. )の元についてその正統な表示はちょうど一つ存在する。
を (resp. )の元とする。このとき (resp.)における正統な表示によって、(resp. )をと定義する。
(resp. )は (resp.)のノルムである。
についてのみ示すが、についても同様に示される。
- 半正値性
がの正統な表示であることから従う。 - 斉次性
の正統な表示について、がの正統な表示となることから従う。 - 三角不等式
における絶対値の三角不等式から従う。
実際の反例
の元を第項目のみでそれ以外の項はとなるような実数列として定義する。
余談
この記事の内容は、投稿者が課題が解けなかったときに多分連続的埋め込みの条件を書き忘れたのだろうと納得するために構成した反例である
(当時のツイート)
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