以下では $G$ を群、$H$ を $G$ の部分群とします。また、$G/H$ を$G$ の $H$ による左剰余類全体とします。
背景$H$ の共役部分群 $xHx^{-1}\ (x \in G)$ 全体の共通部分はなぜ正規部分群になるのだろうと疑問に思っていました。命題 1 の「1つ目の証明方法」では理由がよくわかりませんでした。この証明方法よりももっと、「なるほど!」と思うような何かがあるのではないかと調べていたところ、Wikipedia で見つけました。
正規部分群は以下の定義とします。
$H$ が $G$ の正規部分群であるとは、任意の $g\in G$ に対して $gHg^{-1} = H$ が成り立つことをいう。
次は $H$ の共役部分群 $xHx^{-1}\ (x \in G)$ 全体の共通部分が正規部分群となる命題です。
群 $G$ の部分群 $H$ に対して、$\displaystyle \bigcap_{x\in G} xHx^{-1}$ は $G$ の正規部分群である。
ここでは 2 つ証明方法を記載します。
素朴な証明です。
$N = \displaystyle \bigcap_{x\in G} xHx^{-1}$ とおく。任意の $g \in G$ に対して $gNg^{-1} = N$ を示す。
($\subset$)
任意の $y \in gNg^{-1}$ に対して、$y=gzg^{-1}$ となる $z \in N$ が存在する。$z \in N$ より、任意の $x \in G$ に対して、$z = (g^{-1}x)h(g^{-1}x)^{-1}$ となる $h \in H$ が存在する。よって、
となるので、$y \in N$ である。
($\supset$)
「($\subset$)」で示したことより、任意の $g \in G$ に対して、$g^{-1}Ng \subset N$ が成り立つから、$N \subset gNg^{-1}$ が成り立つ。
こちらは以下の Web サイトを参考にしました。$\rm left\ multiplication$ という作用を考えます。
$G$ の $G/H$ への作用を $ g\cdot (xH) = gxH \ (g \in G)$ と定義する。この作用により、$g\in G$ に対して
$$ \varphi_g : G/H \to G/H,\ xH \mapsto g(xH)$$
を考えることができる。$ {\rm Sym}(G/H) = \lbrace\ \varphi_g\ |\ g \in G\ \rbrace$ と書くと、$ {\rm Sym}(G/H) $ は写像の合成に関して群となる。準同型写像
$$ \varphi : G \to {\rm Sym} (G/H),\ g \mapsto \varphi_g$$
を考える。任意の $x \in G$ に対して、
$$ g \in {\rm Ker} (\varphi) \Longleftrightarrow g(xH) = xH \Longleftrightarrow g \in xHx^{-1}$$
であるから、${\rm Ker} (\varphi) = \displaystyle \bigcap_{x\in G} xHx^{-1}$ である。
命題 1 の $\displaystyle \bigcap_{x\in G} xHx^{-1}$ を $G$ における $H$ の正規核と呼び、$H_G$ と書きます。$H_G$ は命題 1 により $G$ の正規部分群であり、$H$ の共役部分群全体の共通部分ですので特に $H$ に含まれます。そこで $H_G$ は $H$ の中でどのくらい大きな正規部分群なのか、それは次の命題が述べます。
$G$ における $H$ の正規核は、$H$ に含まれる $G$ の最大の正規部分群である。
$H$ に含まれる $G$ の任意の正規部分群を $N$ とすると、
$$ N = \bigcap_{x \in G} xNx^{-1} \subset \bigcap_{x \in G} xHx^{-1}$$
となる。
✅$\displaystyle \bigcap_{x\in G} xHx^{-1}$ は正規核と呼ばれ、$H$ に含まれる $G$ の最大の正規部分群である。
✅$G$ の $G/H$ への $G$ 倍作用($\rm left\ multiplication$)を考えると正規核は自然にその姿を現し、それは $G/H$ への作用が自明な元全体からなる。