本稿は,位相空間論の基礎知識を前提として,数直線の閉区間上のC-1級関数の連続性,特に区間端点の連続性について再考するものです.
ポイントは,区間端点の微分可能性および導関数について,片側微分(右微分・左微分)を導入しない流儀でC-1級関数を定義することです.代わりに,「区間内点の導関数が区間端点へ連続拡張可能であること」を,C-1級関数の定義に採用します.この定義では,もとのC-1級関数の区間端点での連続性は自明とは言えません.そこで,位相空間論の知識を引用して,区間端点での連続性を証明します.最後に,片側微分によるC−1級関数の定義と,導関数の連続拡張の存在によるC-1級関数の定義が同値であることを確認します.
前提とする位相空間論の知識は,完備距離空間,稠密性,写像の一様連続性とし,これらの定義は割愛します.
本稿は「位相空間論の知識を,微積分の問題へ適用すること」を趣旨としています.このため,位相空間論の知識を既知とする一方,微積分については細かい議論を展開するという,ややいびつな印象を与える記事となっていることをご了承ください.
まずは基本事項の確認として、区間上の実数値関数の微分可能性および導関数の定義を記します。
$ \small{I}$:=$\left( c,d \right)$ $\subset \mathbb{R}$を開区間とし,$ \overline{ I } $ :=$\lbrack c,d \rbrack$ を,$ \small{I}$に端点を付け加えた閉区間とする.
$ \small{f}$ を$\overline{ I }$から$ \mathbb{R}$への関数とする.
$ a\in I$ (開区間)に対し、極限$\lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} $が存在するとき,$ \small{f} $は$ \small{a} $で微分可能であるという.
$ \small{f} $の$ \small{a} $における微分係数を,$ \small{f’(a)}$:= $ \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} と定義する.$
$ \small{f} $が開区間$ \small{I} $の任意の点で微分可能であるとき、$ \small{f} $は$ \small{I} $で微分可能であるという.
開区間$ \small{I} $の点$ \small{x} $に対し,微分係数$ \small{f’(x)} $を与える関数を$ \small{f} $の導関数という.
以下の命題は既知とし,証明は省略します.
開区間$ \small{I} $から$ \mathbb{R} $への関数$ \small{f} $が$ a\in I $で微分可能ならば,$ \small{f} $は$ \small{a} $で連続である.
さて、本稿の目的は閉区間上のC-1級関数について考察することです.C-1級関数とは平易に言うと「微分可能かつ導関数が連続である関数」です.閉区間上のC-1級関数を論じるには、導関数の定義域が閉区間を含んでいる必要があります.ところが、定義−1では、微分可能性および導関数は開区間上、つまり区間の内点でしか定義されていません.言い換えると、導関数の定義域に区間端点が含まれていません.
このような場合,通常は片側微分(右微分・左微分)を導入して、微分可能性および導関数の定義を区間端点へ拡張します.具体的には、次のように定義します.
$\overline{I}$:=$\lbrack c,d \rbrack$$ \subset $$ \mathbb{R}$を閉区間とする.
$\small{f}$を$\overline{I}$から$ \mathbb{R} $への関数とする.
$a\in \small{I}$に対し,右微分係数$f_{+}^{\prime}(a)$および左微分係数$f_{-}^{\prime}(a)$を以下の通り定義する;
$$
f_{+}^{\prime}(a) := \lim_{h \downarrow{0}} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} , \qquad f_{-}^{\prime} (a):= \lim_{h \uparrow{0}} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} .
$$
$f_{+}^{\prime}(a)$が存在するとき、$\small{f}$は$\small{a}$で右微分可能という.$f_{-}^{\prime}(a)$が存在するとき,$\small{f}$は$\small{a}$で左微分可能という.
$\small{f}$が開区間$\small{I}$:=$ \left( c,d \right) $で微分可能かつ,cで右微分可能かつdで左微分可能であるとき,$\small{f}$は$\overline{I}$で微分可能であるという.
$\small{f}$の$\small{I}$での導関数を$ f^{\prime} $とする.
$\small{f}$の$\overline{I}$での導関数$\widetilde{ f^{\prime} } $を以下のように定義する;
$ \widetilde{ f^{\prime} }(x):= \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\ f^{\prime} (x) \qquad (x\in{I}= \left( c,d \right) ) \\
\ f_{+}^{\prime}(c)\qquad (x=c) \\
\ f_{-}^{\prime}(d)\qquad (x=d) \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} $
$\small{f}$が$\overline{I}$で微分可能かつ$ \widetilde{ f^{\prime} } $が$\overline{I}$で連続であるとき,$\small{f}$は$\overline{I}$でC-1級であるという.
本稿では,この定義-2のC-1級関数の定義と同値な定義を,片側微分を導入しない方法で、以下のように与えます.定義-2と定義-3が同値であることは,本稿の後半で証明します.
$ \small{I} $:=$ \left( c,d \right) \subset \mathbb{R} $を開区間とし,$ \overline{ I } $:=$ \lbrack c,d \rbrack $を$\small{I}$に端点を付け加えた閉区間とする.
$ \overline{ I } $から$ \mathbb{R} $への関数$ \small{f}$が次の(i),(ii)の性質をみたすとき,$ \small{f} $を$ \overline{ I } $上のC-1級関数という.
ここで,次の命題を考えます.
閉区間$\overline{I}$から$ \mathbb{R} $への関数$\small{f}$が「定義-3」の意味で$\overline{I}上で$C-1級ならば,$\small{f}$は$\overline{I}$上連続である.
区間の内点での連続性は,「微分可能ならば連続である(命題-1)」という命題から問題なく成り立ちます.ここで示すべきことは,区間端点での連続性です。定義-3のC-1級関数の定義からは、関数$\small{f}$の区間端点の連続性は自明とは言えません.
ここで位相空間論から,以下の定理を引用します.(証明は,位相空間論の成書を参照ください)
$\small{X, Y}$を完備距離空間とする.
$\small{X_o}$を$\small{X}$の稠密な部分集合とする.
$\small{X_o}$から$\small{Y}$への一様連続関数$\small{f}$に対し,$\small{X}$から$\small{Y}$への一様連続関数$ \widetilde{f} $が一意に存在し,$ \widetilde{f}|_{X_{o}} =f $をみたす.
また,以下に示す$ \mathbb{R} $の距離空間としての性質は既知とします.
$\small{I}$:=$\left( c,d \right) \subset \mathbb{R}$を開区間とし,$\overline{I}$:=$\lbrack c,d \rbrack $を$\small{I}$に端点を付け加えた閉区間とする.
$\mathbb{R}$にはEuclid距離を入れる.$\small{I}$および$\overline{I}$は$ \mathbb{R} $の部分距離空間と見る.この時,以下が成立する.
(R1) $ \mathbb{R} $は完備距離空間.
(R2) $\overline{I}$は完備距離空間.
(R3) $\small{I}$は$\overline{I}$の稠密な部分集合.
これらの位相空間論の知識を引用し、命題-2の証明を行います.
証明の方針は次の通りです.
$\small{f}$は$\overline{I}$でC-1級であるから,$\overline{I}$上の連続関数$ \widetilde{ f^{\prime} } $が一意に存在して,$
\widetilde{ f^{\prime} }|_{I}= f^{\prime} $.
$\overline{I}$は閉区間で,$\widetilde{ f^{\prime}}$は$\overline{I}$上連続だから,最大・最小定理より,$ \widetilde{ f^{\prime} } $の$\overline{I}$上の最大値$
\max_{x \in { \overline{I}} } \lbrace \widetilde{ f^{\prime} }(x) \rbrace$ が存在する.
$ \left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\| _{\overline{I}} := \max_{x \in { \overline{I}} } \lbrace \widetilde{ f^{\prime} }(x) \rbrace $とする.
任意の$ \varepsilon >0 $に対し,$ \delta := \frac{ \varepsilon }{ \left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\|_{ \overline{I} } } $とおく.
$ \left| x_{1} - x_{2} \right|< \delta $をみたす任意の$ x_{1}, x_{2} \in I $ をとる.
$\small{f}$は$\overline{I}$上C-1級であるから,開区間$\small{I}$上で微分可能である.
よって,$ \lbrack x_{1}, x_{2} \rbrack \subset I $に対し,平均値の定理を用いると,
$ \eta \in I $が存在して,
$ \left| f(x_{2}) - f(x_{1}) \right| = f^{\prime} ( \eta ) \left| x_{2}-x_{1}\right|$
$
= \widetilde{ f^{\prime} }( \eta ) \left| x_{2}-x_{1}\right|$
$
\leqq \left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\|_{ \overline{ I } } \left| x_{2}-x_{1}\right|$
$
\lt \left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\|_{ \overline{ I } } \delta $
$
= \left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\|_{ \overline{ I } } \frac{ \varepsilon }{\left\| \widetilde{ f^{\prime} } \right\|_{ \overline{ I } }} $
$
= \varepsilon
$
以上より,$\small{f}$は開区間$\small{I}$で一様連続.
定理-3を用いると,$\small{I}$から$\mathbb{R}$への一様連続関数$\small{f}|_{I}$に対し,$\overline{I}$から$\mathbb{R}$への一様連続関数$ \widetilde{f} $が一意に存在して,$ \widetilde{f}|_{I}=f|_{I} $.
$ \widetilde{f} $の存在の一意性より,$\overline{I}$上で$ \widetilde{f}=f $.
以上より,$\small{f}$は$\overline{I}$上一様連続.(よって連続)
最後に,以下を証明する.
閉区間$\overline{I}:=[c,d]$から$\mathbb{R}$への関数$\small{f}$が、定義-2の意味でC-1級関数であることの必要十分条件は,定義-3の意味でC-1級関数であることである.
定義-2の意味でC-1級関数ならば,すでに閉区間$\overline{I}$上で連続な導関数が存在しているから,定義-3の意味でC-1級関数であることは自明である.
逆に,定義-3の意味でC-1関数ならば定義-2の意味でC-1級関数であることを示す.
関数$\small{f}$が定義-3の意味で$\overline{I}$上C-1級関数であるとする.
まず,$\small{f}$が端点$\small{c}$で右微分可能であることを示す.
関数$\small{f}$は定義-3の意味で$\overline{I}$上C-1級であるから,$\overline{I}$から $\mathbb{R}$への連続関数$ \widetilde{ f^{\prime} } $が存在して,$ \widetilde{ f^{\prime} }|_{I}= f^{\prime} $.
$ \widetilde{ f^{\prime} } $は$ c \in \overline{ I } $で連続だから,
$ \lim_{h \downarrow 0} \widetilde{ f^{\prime} }(c+h) = \widetilde{ f^{\prime} }(c) \quad \cdots(1)$
$ (0 \lt h \lt \frac{d-c}{2} とする) $
$ c+h \in I $から、微分係数の定義より、
$ \widetilde{ f^{\prime} }(c+h)= f^{\prime} (c+h)= \lim_{l \downarrow 0} \frac{f(c+h+l)-f(c+h)}{l} \quad \cdots (2) $
$(0\lt l \lt \frac{d-c}{2}とする)$
$\small(2)$を$\small(1)$へ代入すると,
$ \lim_{h \downarrow 0} \lim_{l \downarrow 0} \frac{f(c+h+l)-f(c+h)}{l} = \widetilde{ f^{\prime} }(c) \quad \cdots (3) $
命題-2より,$\small{f}$は$\overline{I}$上連続だから,
$ c+l \in \overline{ I }に対し, \lim_{h \downarrow 0}f(c+h+l)=f(c+l) $
$ c \in \overline{ I }に対し, \lim_{h \downarrow 0}f(c+h)=f(c) $
これらを$\small{(3)}$へ代入すると,
$ \lim_{h \downarrow 0} \lim_{l \downarrow 0} \frac{f(c+h+l)-f(c+h)}{l} = \lim_{l \downarrow 0} \frac{f(c+l)-f(c)}{l} = \widetilde{ f^{\prime} }(c) $
以上より,$\small{f}$は$\small{c}$で右微分可能で,$ f_{+}^{\prime} (c)= \widetilde{ f^{\prime} }(c) $
同様の方法で,$\small{f}$が端点$\small{d}$で左微分可能で,$ f_{-}^{\prime} (d)= \widetilde{ f^{\prime} }(d) $
以上より,$\small{f}$は定義-2の意味で$\overline{I}$上C-1級関数である.
閉区間上の導関数の定義については、多くの微積分の教科書では片側微分が導入されています.しかし、この考え方に従って閉区間上のC-1級関数を正確に定義しようとすると、本稿の定義-2のように、意外と煩雑な定義になります.それと比べると、本稿の定義-3は、かなりスッキリとした定義になっているのではないでしょうか.
また、本稿の内容はC-k級関数、つまり高階導関数にもそのまま当てはめることができます.