1

集合論および選択公理を用いない自然数・整数・有理数・実数の定義

1036
2

本記事では、集合論を用いずに自然数を定義し、順に整数、有理数、実数を定義する。集合論を用いないところが肝である。集合論を用いない微分積分学の基礎とするべく、本記事を執筆する。

まずは、自然数を定義する。整数、有理数、実数についても随時加筆する。最初に、次の公理を認める。

等号

任意の数学的対象xyに対して(この言い方は些か不明確だが、本記事で定義されるいかなる概念に対しても、という意味である)、命題x=yが定義されており、
  (反射律) x=xは常に真である。
  (対称律) x=yが真ならば、y=xも真である。
  (推移律) x=y,y=zが真ならば、x=zも真である。
を満たす。さらに、命題P(x)が真であるならば、P(y)も真である(代入原理)。

自然数

自然数

次に述べることを公理として認める。まず、自然数を定義しよう。
(1) 1広義自然数である。
(2) nmが広義自然数の時、広義自然数n+mを定める2項演算+が与えられている。さらに、2項演算+は次を満たす。
(2.1 和の結合法則) (n+m)+l=n+(m+l)が真である。
(2.2 和の交換法則) n+m=m+nが真である。
(2.3 和の単調性) n+m=nは偽である。
(2.4) 広義自然数n自然数であるとは、n=1++1が真であることである。和の単調性から、n=1++1の右辺の表示は一意であることに注意。特に、1は自然数である。

次に、積に相当する2項演算を導入しよう。
(4) nmが自然数の時、自然数nmを定める2項演算が存在する。さらに、は次を満たす。
(4.1 積の結合法則) (nm)l=n(ml)が真である。
(4.2 積の交換法則) nm=nmが真である。
(4.3 分配法則) n(m+l)=nm+nlが真である。
(4.4 乗法単位元の存在) n1=1n=nが真である。

順序と引き算を定義する。
(5) 2つの自然数n,mに対して、命題n<mを、「n+l=mとなる自然数lが存在する」で定義する。このとき、m,nに対して、このようなlは一意に定まるので、n<mとなる自然数に対して、n+l=mとなる自然数lを対応させる規則を、mnと書く。

数学的帰納法を証明しておく。

数学的帰納法

自然数nを定めるごとに、命題P(n)が定まるとする。
次が成立するとする。
(1) P(1)は真
(2) P(n)が真ならば、P(n+1)が真
このとき、すべての自然数に対して、P(n)は真である。

自然数の定義より、n=1++11の有限和で書ける。
従って、仮定より、
P(1)は真、P(2)は真、と繰り返すことで、有限回の繰り返しで、P(1++1)が真であることが分かる。

順序の性質

次が成立する。
(1) n<m,n=m,n>mのいずれか1つだけが成立する。
(1) n<mかつm<lならばn<lである。
(2) n<mならばn+l<m+lである。

自然数の表示の一意性から従う。

整数

次に、整数を定義しよう。

整数

引き算とは別に、ただの記号として、,0を導入する。
(ZA.1) nが整数であるとは、nが自然数であるか、0であるか、ある自然数を用いてn=mと書けることである。

整数の四則演算

2つの整数n,mに対して、整数n+ZmnZmを対応させる2項演算を定義する。
n,mを整数とする。このとき、nについては①nが自然数、②n=0, ②n=kの3通りが、考えられ、mについても、①mが自然数、②n=0、③m=jの通りが考えられる。
(1) 和を次のように定義する。
(1.1) n,mがともに自然数の時、n+Zm:=n+mと定義する。
(1.2) nが自然数, mjとする。n>jならばn+Zm:=njn=jならばn+Zm:=0n<jならばn+Zm:=(jn)と定義する。
(1.3) n=kかつmが自然数の時、n+Zm:=m+Znと定義する。
(1.4) n=kかつm=jのとき、n+Zm=(k+j)と定義する。
(1.5) 0+Zm=mn+Z0=nと定義する。

  1. 積を次のように定義する。
    (2.1) n,mがともに自然数の時、nZm:=nmと定義する。
    (2.2) nが自然数, mjとする。このとき、nZm:=njと定義する。
    (2.3) n=kかつmが自然数の時、nZm:=mZnと定義する。
    (2.4) n=kかつm=jのとき、nZm:=kjと定義する。
    (2.5) nZ0:=0かつ0Zm:=0

10

1=0を仮定する。代入原理より、1+1=1+Z1=1+Z0=1. しかし、これは(2.3 和の単調性)に反する。

整数の四則演算についての性質

Zと書く。次が成り立つ。
(1) n0=0n=0
(2) n1=1n=n
(3) (n+m)+l=n+(m+l)
(4) n+m=m+n
(5) (nm)l=n(ml)
(6) nm=nm
(7) n(m+l)=nm+nl

(2)-(7)は公理と定義から分かる。(1)の証明は有名なので割愛する。

最後に、整数の順序とその基本性質をまとめておく。

整数の順序

整数n,mに対して、命題n<Zmを、「ある自然数lが存在して、n+l=mである」と定義する。

順序の性質

次が成立する。
(1) n<Zm,n=m,m<Znのいずれか1つだけが成立する。
(1) n<Zmかつm<Zlならばn<Zlである。
(2) n<Zmならばn+l<Zm+lである。

投稿日:2023214
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中