記事をご覧になってくださった皆様、はじめまして。Wathematicaの瀬川という者です。早稲田大学基幹理工学部数学科に在籍しており、今年1年間はWathematicaに入会して一般位相空間論を中心に数学の勉強をしてきました。本記事は、Wathematicaの2024年度Advent Calender( https://wathematica-adv-2024.vercel.app/ ) に寄稿するもので、一般位相空間論の話題から、コンパクト化に就いて気儘に書き綴ってみたいと思います。尚、本稿では$T_1$-分離公理を常に仮定します。
コンパクト空間の重要性は周知のことと思います。従って、位相空間はコンパクトであると嬉しいですよね。そこで、与えられた位相空間を色々いじくってコンパクトにする、コンパクト化と呼ばれる手法があります。
例えば、複素平面$\mathbb{C}$は非常に良い位相的性質を持ちますがコンパクトではないです。そこで、後述するように、無限遠点と呼ばれる点$\infty$を形式的に付け加えていい感じの位相を入れた1点コンパクト化$\mathbb{C}\cup\{\infty\}$を考えるんですが、実はこれはコンパクトになることが知られています。これをRiemann球面と呼びます。(一般に$\mathbb{R}^n$の1点コンパクト化は$S^{n}$に同相になります。立体射影を具体的に同相写像として構成すればよいです。)
位相空間$X$に対して、コンパクト空間$Y$が$X$のコンパクト化であるとは、埋め込み$h:X\hookrightarrow Y$が存在して、($X\approx h(X)$となり、)$h(X)$が$Y$内稠密である事である。
今回はこのようなコンパクト化に就いていろいろ考えていきます。
先ずは1点コンパクト化に就いて議論しましょう。アイデアとしては、上で述べたように位相空間に無限遠点を形式的に一つ付け加えることに依り、新しく良い感じの位相を入れてコンパクト空間を構成するといった感じです。
$X$を非コンパクト位相空間、$\mathcal{O}$をその開集合系とする。$X$に含まれない元$p_{\infty}$を取り、$\alpha X=X\cup\{p_{\infty}\}$と置く。この時、$\alpha X$上の開集合系を、$\mathcal{O}'=\mathcal{O}\cup\{U\subseteq\alpha X\mid p_{\infty}\in U且つ\alpha X\setminus Uがコンパクト\}$で定めると$(\alpha X,\mathcal{O}')$はコンパクト位相空間になる。
開集合系の3公理を満たしている事と$X$が$\alpha X$の部分空間になっている事は容易に確認出来るので、実際にコンパクト化であることを見ておきましょう。
$\alpha X$がコンパクトであることを示す。$\mathcal{U}=(U_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$を$\alpha X$の任意の開被覆とする。$\Lambda=\Lambda_1\cup\Lambda_2,\Lambda_1\cap\Lambda_2=\emptyset$で、$\lambda\in\Lambda_1$の場合$U_{\lambda}$は$X$の開集合で、$\lambda\in\Lambda_2$の場合$\alpha X\setminus U_{\lambda}$はコンパクトであるとする。$\mathcal{U}$は$\alpha X$の被覆なので或る$\lambda_0\in\Lambda_2$に対して$p_{\infty}\in U_{\lambda}$となる。従って$\Lambda\neq\emptyset$である。この$U_{\lambda_0}$に対して$\alpha X\setminus U_{\lambda_0}$はコンパクトで、特に仮定より$\alpha X\setminus U_{\lambda_0}\subseteq\alpha X\subseteq\bigcup\limits_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$となるので、有限個の$\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in\lambda$が存在して$\alpha X\subseteq\bigcup\limits_{j=1}^{n}U_{\lambda_j}\cup U_{\lambda_0}$となり、これは与えられた開被覆の有限部分被覆である。従って$\alpha X$はコンパクトである。
最後に稠密である事を示す。$p_{\infty}$の任意の開近傍$U$を取ったときに$\alpha X\setminus U$はコンパクトであるが、$X$はコンパクトでないので$X\neq \alpha X\setminus U$である。従って$X\cap U\neq\emptyset$となるので$X$は$\alpha X$内稠密。
こうして構成出来た$\alpha X$が$T_2$-分離公理を満たす為の必要十分条件を見ておきましょう。
位相空間$X$の1点コンパクト化$\alpha X$が$T_2$コンパクト化である為の必要十分条件は、$X$が局所コンパクト且つ$T_2$-分離公理を満足するであることである。
(必要性)
$\alpha X$が$T_2$-分離公理を満たすとする。この時、任意の$x\in X$に対して$x\in U,p_{\infty}\in V,U\cap V=\emptyset$となる開集合$U,V$が存在する。この時$X\setminus V$は$\alpha X$の位相の入れ方よりコンパクトであり、$x$の近傍なので$X$は局所コンパクトである。
(十分性)
$X$が局所コンパクト且つ$T_2$-分離公理を満たすとする。相異なる2点$x,y\in\alpha X$を任意に取る。
$x,y\in X$の場合、$x\in U,y\in V,U\cap V=\emptyset$となる開集合$U,V\subset X$が存在するが、$\alpha X$の位相の入れ方からこれは$\alpha X$に於ける開集合でもある。
$y=p_{\infty}$の場合、$X$の局所コンパクト性から、$X$に於ける$x$の開近傍$W$及び$X$のコンパクト集合$K$が存在し、$x\in W\subseteq K$となる。この時$X\setminus K$は$p_{\infty}$の開近傍であり、$W\cap(X\setminus K)=\emptyset$を満たす。これらは$\alpha X$に於ける開集合である。
従って$\alpha X$は$X$の$T_2$-コンパクト化である。
まずは完全正則空間の$T_2$コンパクト化を用いた特徴づけを与えましょう。非常に面白い命題です。
位相空間$X$が完全正則(completely regular)である或いは$T_{3\frac{1}{2}}$-分離公理を満たすとは、任意の$x\in X$及び$x$を含まない閉集合$F$に対して、$f(x)=0$且つ$f(F)\subset\{1\}$を満たす連続函数$f:X\to[0,1]$が存在することである。
パッと見で分かるようにUrysohnに似ていますね。というか$T_4$で成り立つんだったら$T_3$とかでも成り立つんじゃね?っていう気持ちで当時研究を進めてみたら$T_3$だけど$T_{3\frac{1}{2}}$じゃない空間が登場してきたのでこういう分離公理を考えたんだと思います。(反例にはTychonoff's corkskrewと呼ばれるものがあります。1とかを見てください。)後述するように初期のTychonoffは位相空間の立方体への埋め込みを研究していたようで、($[0,1]$の直積空間のこと。)そこからかの有名なTychonoffの定理も出てきたようです。
さて、完全正則空間は以下に述べるように実はコンパクト化と非常に密接な関係があります。唐突ですがそのために必要な補題を一つ述べておきます。
位相空間の族$\{Y_{\lambda}\mid\lambda\in\Lambda\}$の直積空間を$Y$とする。この時、$T_1$-空間$X$から$Y_\lambda$への連続写像$f_{\lambda}\in C(X,Y_{\lambda})$が存在し、任意の$x\in X $と$x$を含まない閉集合$F\subseteq X$に対して$f_{\lambda}(x)\notin\mathrm{Cl}_{Y_{\lambda}}f_{\lambda}(F)$を満たすとき、$h:X\to Y$は埋蔵である。但し、$h(x)=(f_{\lambda}(x))_{\lambda\in\lambda}$である。
証明は2を参照して下さい。この補題は結構便利です!
位相空間$X$が完全正則である為の必要十分条件は、$X$が$T_2$コンパクト化$bX$を持つ事である。
(必要性)
$w(X)$を$X$の位相濃度とせよ。即ち、$w(X)=\min\{\mathrm{Card}\mathcal{B}\mid\mathcal{B}はXの開基\}$である。この時、$X$は$I^{w(X)}$の或る部分空間に同相であることを示そう。
今、$\mathrm{Card}\mathcal{B}\leq w(X)$を満たす開基$\mathcal{B}$が存在する。$X$の開基の要素の組$(U,V)\in\mathcal{B}\times\mathcal{B}$であって、$f(U)\subset[0,\frac{1}{2}],f(X\setminus V)\subset\{1\}$を満たすものの全体を$\Lambda$とする。各$(U,V)\in\Lambda$に対して条件を満たす連続写像を$f_{(U,V)}$とする。
$x\in X$と$x$を含まない閉集合$F$をそれぞれ任意に取る。この時或る$V\in\mathcal{B}$が存在して、$x\in V\subset X\setminus F$となる。今、$X$が完全正則であることより、$g(x)=0,g(X\setminus V)\subset\{1\}$を満たす連続写像$g\in C(X,I)$が存在する。$g^{-1}([0,\frac{1}{2}))$は$x$の開近傍なので、或る$U\in\mathcal{B}$が存在して$x\in U\subset g^{-1}([0,\frac{1}{2}))$となる。この時$(U,V)\in\Lambda$なので$f_{(U,V)}(x)\leq\frac{1}{2}$且つ$f_{(U,V)}(F)\subset\{1\}$を満たす。従って$f_{(U,V)}(x)\notin\mathrm{Cl}_If_{(U,V)}(F)$を満たすので、補題1から埋蔵写像$h:X\hookrightarrow I^{\Lambda}$が存在する。又$\mathrm{Card}\Lambda\leq w(X)$なので埋蔵写像$i:I^{\Lambda}\hookrightarrow I^{w(X)}$を構成できる。以上より、埋蔵$i\circ h:X\hookrightarrow I^{w(X)}$が構成出来た。
さて、Tychonoffの定理より$I^{w(X)}$はコンパクトであり、$T_2$-分離公理を満たす空間の直積空間も積位相で$T_2$-分離公理を満足するので、埋蔵写像$i\circ h:X\hookrightarrow I^{w(X)}$に依る像$(i\circ)h(X)$の閉包$\mathrm{Cl}_{I^{w(X)}}(i\circ h)(X)$はコンパクト$ T_2$空間になる。これが所望のコンパクト化である。
(十分性)
$bX$が$T_2$且つコンパクトならば正規であり、特に完全正則である。又、$x\in X$に対して$\{x\}$は$bX$の閉集合である。今$X$は$bX$の部分空間と見做せるので完全正則である。従ってUrysohnの補題より完全正則であることが分かる。
従って、前節に述べたことから次が成り立ちます。
局所コンパクトHausdorff空間は完全正則。
$X$が局所コンパクトHausdorffならば、$X$の1点コンパクト化$\alpha X$は$T_2$なので定理1より従う。
後、定理3の副産物としては、$T_4$-分離公理は部分空間に必ずしも受け継がれるわけではないことが簡単に分かります。例えばSorgenfrey平面$\mathbb{S}$は完全正則なので$I^{w(\mathbb{S})}$に埋蔵出来ます。しかし、正規空間$I^{w(\mathbb{S})}$に対してその部分空間である$\mathbb{S}$は正規空間ではないです。($I^{w(\mathbb{S})}$が正規であることはコンパクト且つ$T_2$であるからですね。)これもTychonoffの板と同じく$T_4$だが$T_5$でない空間の例です。
では実際に完全正則空間のStone–Čechコンパクト化を構成します。$X$のStone–Čechコンパクト化$\beta X$は、めちゃくちゃ大きくて、$X$上の有界連続函数を$\beta X$全体に連続的に有界性を保って拡張できるという性質で特徴づけることができます。(このような性質をジェネトポの文脈だと$C^{\ast}$拡張的であると言ったりします。)ここで、必要な補題を一つ述べておきます。
位相空間$X$とその稠密な部分集合$A$に対して、以下の4条件は同値。
(1)$A$の任意の交わらないゼロ集合$Z_0,Z_1$に対して$\mathrm{Cl}_XZ_0\cap\mathrm{Cl}_XZ_1=\emptyset$
(2)任意のコンパクト$T_2$-空間$Y$に対して、任意の$f\in C(A,Y)$は或る$g\in C(X,Y)$へ拡張される
(3)任意の$f\in C(A,I)$は或る$g\in C(X,I)$へ拡張される
(4)$A$は$X$内に於いて$C^{\ast}$拡張性を持つ
これも証明は2を参照してください。Tietzeの拡張定理の証明から出てきます。
完全正則空間$X$に対し、$X$のコンパクト化$\beta X$であって、$X$が$\beta X$内で$C^{\ast}$拡張性を持つものが存在する。
$C(X,I)=\{f_{\lambda}\mid\lambda\in\Lambda\}$としておく。$X$の完全正則性から、任意の$x\in X$と$x$を含まない閉集合$F\subset X$に対し、$f_{\lambda}(x)\notin\mathrm{Cl}_If_{\lambda}(F)$となる$\lambda\in\Lambda$が存在する。従って補題2より対角写像$h:X\to I^{\Lambda}$は埋蔵である。$\beta X=\mathrm{Cl}_{I^{\lambda}}h(X)$と置くと、$\beta X$はコンパクト$T_2$-空間の閉部分集合なので、$X$の$T_2$-コンパクト化である。
$\beta X$が$C^{\ast}$拡張的であることを示す。$f\in C(X,I)$を任意に取ると、或る$\lambda\in\Lambda$が存在して$f=f_{\lambda}$である。この時$f=\mathrm{pr}_{\lambda}\circ h$であるから$g=\mathrm{pr}_{\lambda}|_{\beta X}$と置くと、$X$と$h(X)$を同一視した上で$f=g_X$が成り立つ。従って$f$は$g\in C(\beta X,I)$へ拡張されるので、補題5より$X$は$\beta X$内$C^{\ast}$拡張性を持つ。
$\beta X$を$X$のStone–Čechコンパクト化(Stone–Čech compactification)と呼ぶ。
Stone–Čechコンパクト化が$T_2$コンパクト化のうち、包含関係で最大元であることを示しましょう。
$X,Y$を完全正則空間とする。$Y$の$T_2$コンパクト化$bY$と任意の$f\in C(X,Y)$に対して$f|_X=g$を満たす連続写像$g\in C(\beta X,bY)$が一意に存在する。$f$が全射ならば$g$も全射であるようにとれる。
埋蔵を考えて$f\in C(X,bY)$であるとして良い。$bY$はコンパクトなのでStone–Čechコンパクト化の定義より、$f$は$g\in C(\beta X,bY)$に拡張される。(補題2を用いた。)又、$\beta X$は$T_2$-分離公理を満たすので、このような拡張は一意的である。
後半の主張を示そう。$f$が全射ならば$Y=f(X)\subseteq g(\beta X)\subseteq bY$であり、$g(\beta X)$はコンパクト空間の連続像なのでコンパクト。従って$g(\beta X)$は$T_2$-空間$bY$に於ける閉集合である。$Y$は$bY$内稠密なので、$bY\subseteq \mathrm{Cl}_{bY}Y\subseteq \mathrm{Cl}_{bY}g(\beta X)=g(\beta X)\subseteq bY$従って$g(\beta X)=bY$となるので$g$も全射。
定理7を恒等写像に用いればStone-Čechコンパクト化の一意性が分かります。
完全正則空間$X$が2つのStone-Čechコンパクト化$\beta_1X,\beta_2X$を持ったとする。この時同相写像$f:\beta_1X\to\beta_2X$であって$f|_X=\mathrm{id}_X$を満たすものが存在する。
以上の議論を踏まえると、完全正則空間$X$の$T_2$コンパクト化の全体を$\mathcal{K}(X)$とする時、$\gamma X,\delta X\in\mathcal{K}(X)$に対して$f|X=\mathrm{id}_X$となる連続写像$f\in C(\delta X,\gamma X)$が存在する時、$\gamma X\leq \delta X$と定義すると$\leq$は順序を定め、$\gamma X\sim\delta X$を$\gamma X\leq\delta X$且つ$\delta X\leq\gamma X$であると定義すれば、商集合$(\mathcal{K}(X)/\sim,\leq)$にも自然に順序が入り、その最大元が$\beta X$になります。若し$X$が局所コンパクトなのであれば$\alpha X$が最小元になります。($\alpha X\leq\gamma X\leq\beta X$となる元$\gamma X$がどういった挙動をするのか全く知らないので、詳しい方がいれば教えていただきたいです。後は、個人的には$\alpha X=\beta X$となる空間$X$のクラスが決定されているのかも気になります。例えばTychonoffの板とか長い直線は1点コンパクト化とStone--Čechコンパクト化が一致します。)
Stone-Čechコンパクト化がこんな感じで良い普遍性を満たしている理由としては、圏論的な意味合いがあります。$\mathrm{CptHaus}$をコンパクト$T_2$-空間の圏とする時、忘却函手$U:\mathrm{CptHaus}\to\mathrm{Top}$の左随伴がStone-Čechコンパクト化になります。これの余単位が、各位相空間$X$から$\beta X$への埋め込みになります。(左随伴が存在することを示すには一般随伴函手定理というものを使います。適当な圏論の教科書を見てください。)
Stone-Čechコンパクト化の具体例などは1とか2を参照して下さい。濃度が$2^{2^{\aleph_0}}$とかになったりして、物凄く大きくなってて凄いです。
ここらへんで皆さん疲れてきたと思うのでちょっと宣伝させてください。Wathematicaの2024年度のAdvent Calenderなんですが見てもらえば分かるように1年生もたくさん記事を書いてくれていて、しかもみんなクオリティが高いです。(自分の記事なんて彼らのものとは比べられないくらい拙い出来です、、、)
その中でもとりわけオススメの記事が、12月6日の生ポテト君(@rowpotato)の記事です。彼もジェネトポの記事を書いていて、所謂BNSの距離化可能定理に就いて証明しています。(リンクはこちら→
https://note.com/namapotato_3157/n/nf3215d2302b2
)彼とは普段よく一緒にゼミをするのですが、一般位相空間論をはじめとして数学に対する造詣が恐ろしく深く、後輩と思えないくらいの実力者です。(いつもありがとうね。)自分が紹介するのは恐れ多いのですが、併せて読むととても面白いと思うので、皆さんも位相空間と戯れながらクリスマスを迎えましょう!!
さて、ここまではStone-Čechコンパクト化を有界連続函数に依る特徴づけから$I $の直積に埋め込むことで構成しましたが、実はフィルターを用いた別の構成法があります。取り敢えずフィルターの定義から見ていきましょう。
$X$を空でない集合とする。部分集合族$\mathcal{F}\subset 2^X$がフィルター(より正確には、真のフィルター)であるとは、以下の3条件を満たすこととする。
(1)$\emptyset\notin\mathcal{F}$
(2)$A,B\in\mathcal{F}\Longrightarrow A\cap B\in\mathcal{F}$
(3)$A\in\mathcal{F},A\subseteq B\Longrightarrow B\in\mathcal{F}$
例えば位相空間に於いて近傍系はフィルターを成します。(コンパクト性はフィルターを用いて特徴づけることができたり、フィルターは位相空間論では非常に有用な概念なんですがここでは深くは触れません。)後はBoole代数とかでイデアルの双対概念になっていたりします。(一般に半順序集合上で定義できる概念です。)
フィルター$\mathcal{F}$が極大フィルターであるとは、$\mathcal{F}\subsetneq\mathcal{G}$なるフィルター$\mathcal{G}$が存在しないことである。
極大フィルターは確かに存在します。これはZorn(Tukey)の補題より明らかにわかります。(或るフィルターより細かいフィルターの全体が帰納的順序集合になる事を示す。)
位相空間$X$の部分集合族$\mathcal{L}\subset2^X$が正規基底であるとは、以下の条件を満たすことである。
(1)$\emptyset,X\in\mathcal{L}$
(2)$\mathcal{L}$は$X$の閉基を成す。
(3)$A,B\in\mathcal{L}\Longrightarrow A\cap B,A\cup B\in\mathcal{L}$
(4)任意の$A\in\mathcal{L}$と任意の$x\in X\setminus A$に対して、或る$B\in\mathcal{L}$が存在して$x\in B$且つ$A\cap B=\emptyset$を満たす。
(5)$A,B\in\mathcal{L}$が$A\cap B=\emptyset$を満たすならば、或る$C,D\in\mathcal{L}$が存在して$C\cup D=X$且つ$A\cap C=\emptyset$且つ$B\cap D=\emptyset$を満たす。
以下、$X$は完全正則であるとし、$\mathcal{L}$をその正規基底、$\mathcal{L}$上のフィルターであって極大なもの全体の集合を$wX$と記すことにします。この$wX$が今回我々が扱いたいWallman型コンパクト化というものです。じゃあ位相はどうやって入れるんだ?っていうのが問題になるんですが、次のようにします。
$O\subset X$を開集合とするとき、$\mathfrak{O}(O)=\{\mathcal{F}\in wX\mid\exists F\in\mathcal{L}\mathrm{s.t.}F\subset O\in\mathcal{F}\}$と置き、$\{\mathfrak{O}(O)\mid X\setminus O\in\mathcal{L}\}$の生成する位相を$wX$に入れます。この時$wX$が$X$のコンパクト化になっていることを確かめましょう。
$wX$は$X$の$T_2$コンパクト化である。
各$x\in X$に対して$\xi_x=\{F\in\mathcal{L}\mid x\in F\}$とする。$\xi_x$は$\mathcal{L}$上の極大フィルターになるので$\xi_x\in wX$である。このとき写像$x\mapsto \xi_x$がコンパクト化を与えることを示す。
$X\setminus O\in\mathcal{L}$に対して、$x\notin O$ならば$X\setminus O\in\xi_x$だから$x\notin\mathfrak{O}(O)$であり、$x\in O$ならば正規基底の定義から$X\setminus O$に対してそれと交わらない$x\in F\in\mathcal{L}$が存在するので$x\in \mathfrak{O}(O)$である。従って$\mathfrak{O}(O)\cap X=O$が成り立つ。従って$X$は$wX$の部分空間と見做すことができて、特に$X$は$wX$内稠密であることが分かった。
次に$wX$が$T_2$-分離公理を満たすことを確認する。相異なる2点$\xi,\xi'\in wX$を取る。この時、或る$F_1\in\xi,F_2\in\xi'$に対して$F_1\cap F_2=\emptyset$である。$\mathcal{L}$が正規基底であることより、$G,H\in\mathcal{L}$が存在して$X=G\cup H$且つ$G\cap F_1=H\cap F_2=\emptyset$となる。この時$\xi\in\mathfrak{O}(X\setminus G)$且つ$\xi'\in\mathfrak{O}(X\setminus H)$となり、$\mathfrak{O}(X\setminus G)\cap\mathfrak{O}(X\setminus H)=\mathfrak{O}((X\setminus G)\cup(X\setminus H))=\mathfrak{O}(\emptyset)=\emptyset$であるから$T_2$-分離公理を満足する。
最後に$wX$のコンパクト性を示す。その為に、$wX$の有限交叉的な閉集合族$\mathcal{A}$を任意に取る。この時、$\mathcal{G}=\{F\in\mathcal{L}\mid\exists A\in\mathcal{A}\mathrm{s.t.}A\subset\mathrm{Cl}_{wX}F\}$と置くと、これは有限交叉性を持つ。実際、$F\cap G=\emptyset$なる$F,G\in\mathcal{L}$を取り、$\xi\in wX$を任意に取ると、$F\notin\xi$或いは$G\notin\xi$となるので、$\xi$の極大性から$\xi\in\mathfrak{O}(X\setminus F)\cup\mathfrak{O}(X\setminus G)$であるので、$\mathrm{Cl}_{wX}F\cap\mathrm{Cl}_{wX}G=\emptyset$となり有限交差的である。従って、$\mathcal{G}$を含む極大フィルター$\xi'$が取れて、この時$A\subset\mathrm{Cl}_{wX}F$となる任意の$F\in\mathcal{L}$に対して$\xi\in\mathrm{Cl}_{wX}F$であるから$\xi\in A$即ち$\displaystyle\bigcap\mathcal{A}\neq\emptyset$なので$\mathcal{A}$は有限交叉性を持つ。従って$wX$はコンパクトである。
以上より、$wX$は$X$の$T_2$-コンパクト化であることが示された。
以上の証明では、コンパクト性の特徴づけの一つである、「任意の有限交叉的な閉集合族の共通部分は空でない」を用いました。
完全正則空間$X$に対して$wX$をWallman型コンパクト化という。
最後にStone–Čechコンパクト化がWallman型コンパクト化であることを見て終わりにします。ここで、$A\Subset B\subset X$とは、或る連続写像$f\in C(X,I)$が存在して、$f(A)=\{0\},f(X\setminus B)=\{1\}$となることとします。
完全正則空間$X$に対して$\beta X$はWallman型コンパクト化である。
$\mathcal{Z}$を$X$に於ける全てのゼロ集合の族とするとき、$\mathcal{Z}$は正規基底になる。$\mathcal{Z}$から構成されるWallmanコンパクト化$wX$が最大コンパクト化であることを示せば良い。
$A\Subset B\subset X$とすると、$Z_1,Z_2\in\mathcal{Z}$が存在して$A\subset Z_1,X\setminus B\subset Z_2,Z_1\cap Z_2=\emptyset$を満たす。この時正規基底の定義より
$\mathrm{Cl}_{wX}A\subset\mathrm{Cl}_{wX}Z_1=wX\setminus O(X\setminus Z_1)\subset O(X\setminus Z_2)=wX\setminus\mathrm{Cl}_{wX}Z_2\subset wX\setminus\mathrm{Cl}_{wX}(X\setminus B)$
即ち$\mathrm{Cl}_{wX}A\cap\mathrm{Cl}_{wX}(X\setminus B)=\emptyset$となる。
この時$wX=\beta X$となる事を示す。定理7の議論から、$\mathrm{id}_X:X\to X$の連続拡張$f:\beta X\to wX$であって$ f|_X=\mathrm{id}_X$を満たすものが存在する。特に$f$は全射である。今、$f$が単射であることを示せば良い。そうすれば、$f$はコンパクト空間$\beta X$から$T_2$-空間$wX$への連続な全単射となり同相写像になるからである。
$f$が単射でないと仮定して矛盾を導く。この時、相異なる$2$点$x,y\in\beta X$で$f(x)=f(y)$となるものが存在する。$\beta X$は完全正則なので、$g\in C(\beta X,I)$を$ g(x)=0$且つ$g(y)=1$となるように取れる。ここで
$A'=\{x\in X\mid g(x)\leq\frac{1}{3}\},B'=\{x\in X\mid g(x)\geq\frac{1}{3}\}$
と置くと、$A'\Subset X\setminus B'$であるから、上の議論から$\mathrm{Cl}_{wX}A'\cap\mathrm{Cl}_{wX}B'=\emptyset$となる。$f(x)$の$wX$に於ける開近傍$V$を任意に取る。$f$の連続性から$f^{-1}(V)$は$x$の$\beta X$に於ける開近傍であり、特に$g(x)=0$なので或る$z\in f^{-1}(V)\cap X=V\cap X(\because f|X=\mathrm{id}_X)$が存在して$g(z)<\frac{1}{3}$となる。ここに$g$の連続性を用いた。これより$z\in V\cap A'$なので$V\cap A'\neq\emptyset$である。即ち$f(x)\in\mathrm{Cl}_{wX}A'$となる。全く同様にして$f(x)\in\mathrm{Cl}_{wX}B'$が言えるが、これは$\mathrm{Cl}_{wX}A'\cap\mathrm{Cl}_{wX}B'=\emptyset$に矛盾する。
以上から、Stone–Čechコンパクト化はWallman型コンパクト化であることが分かった。
今回は主に位相空間の$T_2$コンパクト化に話を絞りましたが、世の中には一様空間に対するSmirnovコンパクト化というものや、粗空間に対するHigsonコンパクト化というものがあるらしく、最先端の位相空間論ではHigsonコンパクト化とWallman型コンパクト化の関係が調べられているようです。いつか記事に纏められればなと思います。ここまで読んでくださりありがとうございました!Mathlogでの処女作ともなりましたが、今後も位相空間論の記事を書いていければと思います。Wathematicaアドベントカレンダー、まだまだ続きますのでほかの方の記事も是非ご覧くださいね!