Prime avoidance と言えば次のような主張のことです:
(Prime avoidance)
を可換環とする.次を仮定する.
- は,高々2つ以外は素イデアルであるようなのイデアルの組.
- イデアルは,いずれのにも含まれない.
この時,である.
定理1の証明は省略します(検索すれば証明はいくらでも見つかると思います).この定理は,高々2つは素イデアルでなくても良いという部分を無視すれば,おおよそ次のように言い換えることができます.なお,です.
(Prime avoidance - スキーム版)
を可換環,を有限個の点の集合とする.また,をと交わらない閉集合とする.
この時ある(超)閉曲面が存在して,かつはと交わらない.
,の各点に対応するの素イデアルをと書く.
この時定理1よりが取れて,このによって条件が満たされる.
では,この主張の「斉次版」を書きます.こちらが本記事の本題です.
(斉次版 prime avoidance)
を次数付き可換環とし,と表す.次を仮定する.
- は,高々2つ以外は素イデアルであるようなの斉次イデアルの組.
- である.
この時,には斉次な元が存在する.特に,その次数は1次以上に取れる.
定理3はあとで示します.が全て素イデアルの時は条件が簡明になるので、そのバージョンも書いておきます.
を次数付き可換環とし,と表す.次を仮定する.
- は,の斉次素イデアルの組.
- である.
- である.
この時,には斉次な元が存在する.特に,その次数は1次以上に取れる.
なお,この系の主張は Liu の Exercise2.5.5 に(という条件を付け損ねた状態で)だいたい載っています.証明の方針もその誘導を参考にしました.
という条件について
この条件は,が素である場合には「かつ……※」を課すのと同じである.実際,をとれば,である.なお,という条件はがの点を定めることと対応している.後の定理4参照.
一方,が素イデアルと限らない場合には,根基イデアルであってもこの条件は(※のような形には)弱められない.実際,とするととなってしまう.
さらにだけを課しても,が根基と限らない場合には反例がある.例えばとするとに斉次元は存在しない.
こちらも幾何的な解釈を書いておきます.なお,です.
(斉次版 Prime avoidance - スキーム版)
を次数付き可換環,を有限個の点の集合とする.また,をと交わらない閉集合とする.
この時,ある(超)閉曲面が存在して,かつはと交わらない.
の各点に対応する素イデアルがを含まないことに気をつけて,定理2の証明と同様に定理3を適用すれば良い.
では,定理3を証明していきます.以降は全て定理3のセッティングのもとで考えます.ただし,次の2つを仮定します.
- たちには互いに包含関係がない(包含関係がある場合,小さい方を除いて考えれば良い).
- は全て根基イデアル(を避ければ元のも避けられる).
の時定理3は正しい.つまり,には1次以上で斉次な元が存在する.
は斉次イデアルの共通部分なので斉次イデアルゆえ,斉次元のみで生成できる.という仮定よりこの生成元のうちいずれかはに含まれないから,それをとれば良い.
補題5より取れる,1次以上で斉次な元を考える.
- ならが条件を満たす.
- ならが条件を満たす.
- いずれでもない,つまりかつならば,である(が根基イデアルであることに注意).これは次の斉次元.
以上の準備のもとに,定理3の証明を完成させましょう.
(定理3の証明)
帰納法による.補題6まででは済んでいるので,とし,は素イデアルとして構わない.
帰納法の仮定によって,なる1次以上の斉次元が取れる.ならこのが所望の条件を満たすので,以降とする.
また,包含についての仮定よりについて斉次元が取れ,さらにの場合より1次以上の斉次元も取れる.いまは素イデアルなので,とするとでこれは1次以上の斉次元.
ここで,を考える.及びいずれのも根基イデアルであることから,.よってその和はに入るがいずれのにも含まれない.また,これは次の斉次元である.