ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
東大数理2023B02
- 環及び有限生成-加群を考える。-加群および-加群が自由であれば、は自由-加群であることを示せ。
- 環を考える。以下を満たす有限生成-加群の例を構成しなさい。
(2-1) ,及びはそれぞれ,及び-加群として自由であり、そのランクはである。
(2-2) は自由-加群ではない。
の-加群としての生成元をとし、そのに於ける代表元をとおく。そしてこれら代表元で生成されるの部分-加群をNとおく。これは自由-加群である。ここで-加群を考えると、これには自然に-加群の構造が入る。-加群の準同型を取る。ここでこの準同型は単射であり、左辺はその構成から自由-加群である。よって上記の単射が実は全射であること、つまりであることを示せば証明ができるので、以下これを示していく。
まず
である一方、
である。下の条件からは有限生成-加群であるが、PID上有限生成加群の構造定理及びが単元として作用していることから、これは上の有限次元線型空間であり、-加群として自由でないことがわかる。ここでこの加群の生成元のうちひとつをとり、さらに(この元はの元であったから)そのに於ける代表元をひとつとることができる。これによって生成されるの部分-加群をとおく。このときこの加群の構成によりであるから、これとを合わせると自然な-加群の準同型は単射であることが従う。ここで仮定よりは自由上の自由加群であったから、その部分加群であるも自由加群になるが、これは有限次元-線型空間でもあったからよってが従う。以上からが示せた。
まず
とおく。初めにこれが自由でないことを背理法で示す。自由であるとすると単項生成されるので、その生成元をとする。この多項式をとする。これはに於いて
を意味している。ここで及びを代入することで
が従う。これによってあるを用いてと取れる。
このときある多項式を用いてと表せるが、これはを代入することでとなり起こり得ないことがわかる。よって矛盾が従うから、は上自由ではない。次に
とおいたとき、これは単射でありその像はであるから、上自由であり、そのランクはである。及びが及び上ランクの自由加群であることも同様に確かめられる。以上からは所望の条件を満たしている。