ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
$M/xM$の$A/(x)$-加群としての生成元を$s_1,\cdots,s_n$とし、その$M$に於ける代表元を$\overline{s_1},\cdots,\overline{s_r}$とおく。そしてこれら代表元で生成される$M$の部分$\mathbb{C}[y]$-加群をNとおく。これは自由$\mathbb{C}[y]$-加群である。ここで$\mathbb{C}[y]$-加群$\bigoplus_{i=0}^\infty x^iN$を考えると、これには自然に$A$-加群の構造が入る。$A$-加群の準同型$$M':=\bigoplus_{i=0}^\infty x^iN\to M$$を取る。ここでこの準同型は単射であり、左辺はその構成から自由$\mathbb{C}[x,y]/(xy)$-加群である。よって上記の単射が実は全射であること、つまり$M/M'=0$であることを示せば証明ができるので、以下これを示していく。
まず
$$
\frac{M/M'}{x(M/M')}\simeq M/(xM+M')=0$$
である一方、
$$\frac{(M/M')}{y(M/M')}\simeq M/(yM+M')=M/M'
$$である。下の条件から$M/M'$は有限生成$\mathbb{C}[x]$-加群であるが、PID上有限生成加群の構造定理及び$x$が単元として作用していることから、これは$\mathbb{C}$上の有限次元線型空間であり、$\mathbb{C}[x]$-加群として自由でないことがわかる。ここでこの加群の生成元のうちひとつをとり、さらに(この元は$M/M'$の元であったから)その$M$に於ける代表元をひとつとることができる。これによって生成される$M$の部分$\mathbb{C}[x]$-加群を$M''$とおく。このときこの加群の構成により$N\cap M''=0$であるから、これと$yM\subseteq M'$を合わせると自然な$\mathbb{C}[x]$-加群の準同型$M''\hookrightarrow M\twoheadrightarrow M/yM$は単射であることが従う。ここで仮定より$M/yM$は自由$\mathbb{C}[x]$上の自由加群であったから、その部分加群である$M''$も自由加群になるが、これは有限次元$\mathbb{C}$-線型空間でもあったからよって$M''=0$が従う。以上から$M/M'=0$が示せた。
まず
$$
N=x(x+y-1)B+ y(x+y-1)B+ xy B=(xy,x^2-x,y^2-y)B
$$
とおく。初めにこれが自由でないことを背理法で示す。自由であるとすると単項生成されるので、その生成元を$f$とする。この多項式を$f$とする。これは$\mathbb
{C}[x,y]$に於いて
$$
x^2-x,y^2-y,xy\in I:=(xy(x+y-1),f)
$$
を意味している。ここで$x=0,y=0$及び$y=1-x$を代入することで
$$
f(0,y)|y^2-y
$$
$$
f(x,0)|x^2-x
$$
$$
f(x,1-x)|x^2-x
$$
が従う。これによってある$a\in\mathbb{C}$を用いて$f=x+y-1+axy$と取れる。
このときある多項式$g,h\in\mathbb{C}[x,y]$を用いて$1=(x+y-1)g+xyh$と表せるが、これは$y=0$を代入することで$1=(x-1)g$となり起こり得ないことがわかる。よって矛盾が従うから、$N$は$B$上自由ではない。次に
$$
\begin{split}
N/xN&\to B/xB\simeq \mathbb{C}[y]\\
f&\mapsto f(0,y)
\end{split}
$$
とおいたとき、これは単射でありその像は$y(y-1)\mathbb{C}[y]$であるから、$B/xB\simeq\mathbb{C}[y]$上自由であり、そのランクは$1$である。$N/yN$及び$N/(x+y-1)N$が$B/yB$及び$B/(x+y-1)B$上ランク$1$の自由加群であることも同様に確かめられる。以上から$N$は所望の条件を満たしている。