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大学数学基礎解説
文献あり

超フィルター全体の集合の上のRudin-Keisler順序が全順序でないことの証明

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$$\newcommand{A}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{c}[0]{\mathrm{c}} \newcommand{F}[0]{\mathcal{F}} \newcommand{frakc}[0]{\mathfrak{c}} \newcommand{G}[0]{\mathcal{G}} \newcommand{leRK}[0]{\le_{\mathrm{RK}}} \newcommand{Pow}[0]{\mathcal{P}} \newcommand{S}[0]{\mathcal{S}} $$

この記事では,超フィルター全体の集合の上のRudin-Keisler順序が全順序でないことの証明を与える.

自然数全体の集合$\omega$上の超フィルター全体の集合を$\beta \omega$と書き,$\omega$上の非単項超フィルター全体の集合を$\beta \omega \setminus \omega$と書く.

生成されるフィルター

$\F \subset \Pow(\omega)$のとき,$((\F))$$\F$を含む最小のフィルターを表す.
すなわち
$$ ((\F)) = \{ A \subset \omega : (\exists B_1, \dots B_n \in \F)(B_1 \cap \dots B_n \subset A) \} $$
である.これは一般には真でないフィルター$\Pow(\omega)$になりえる.

像フィルター

$p \in \beta \omega$$f \colon \omega \to \omega$に対して
$$ f^*(p) = \{ A \subset \omega : f^{-1}(A) \in p \} $$
と定め,これを$f$による$p$像フィルターという.これは超フィルターである.

Rudin-Keisler順序

$p, q \in \beta \omega$に対して$p \leRK q$という関係を,ある関数$f \colon \omega \to \omega$が存在して,$p = f^*(q)$であることだと定める.
この順序をRudin-Keisler順序と呼ぶ.

次の定理がこの記事の目標である.

Kunen

擬順序集合$(\beta \omega, \leRK)$は線形でない.つまり互いに比較できない2元が存在する:
2元$p, q \in \beta \omega$が存在して$p \not \leRK q$かつ$q \not \leRK p$.

定理を証明するために必要となる,独立集合の概念を導入する.

$\S \subset \Pow(\omega)$かつ$\F$$\omega$上のフィルターとする.
$\S$$\F$を法として独立であるとは,任意の互いに異なる$\S$の元$X_1, \dots, X_n, Y_1, \dots, Y_m$に対して


$$ X_1^\c \cup \dots \cup X_n^\c \cup Y_1 \cup \dots \cup Y_m \not \in \F $$

となることを意味する.

事実 (Fichtenholz-Kantorovitch, Hausdorff)

:
$S \subset \Pow(\omega)$が存在して, $\omega$上のフレシェフィルターを法として独立であり,かつ濃度$\frakc$を持つ.

  1. $\S \ne \emptyset$かつ$\S$$\F$を法として独立なとき,$\F$は真のフィルターである.
  2. $\S$$\F$を法として独立であり,$\A \subset \S$のとき,$\S \setminus \A$$((\F \cup \A))$を法として独立である.
  3. $\S$$\F$を法として独立であり,$\A \subset \S$のとき,$\S \setminus \A$$((\F \cup \{A^\c : A \in \A \}))$を法として独立である.
  4. $\S$$\F$を法として独立で,$\S' \subset \S$のとき$\S'$$\F$を法として合同である.

(1)の証明.$A \in \S$を取ると,独立性の定義より$A \not \in \F$.よって,$\F$は真のフィルターである.

(2)の証明.
$\S \setminus \A$から任意に元$X_1, \dots, X_n, Y_1, \dots, Y_m$を取る.
示すべきは,
$$ X_1^\c \cup \dots \cup X_n^\c \cup Y_1 \cup \dots \cup Y_m \not \in ((\F \cup \A)) $$
である.背理法でそうでないとするとある$F \in \F$$A_1, \dots, A_k \in \A$について
$$ F \cap A_1 \cap \dots \cap A_k \subset X_1^\c \cup \dots \cup X_n^\c \cup Y_1 \cup \dots \cup Y_m $$
を得る.この包含関係を変形すると
$$ F \subset X_1^\c \cup \dots \cup X_n^\c \cup Y_1 \cup \dots \cup Y_m \cup A_1^\c \cup \dots \cup A_k^\c $$
である.これは仮定「$\S$$\F$を法として独立」に矛盾している.

(3)は(2)と同様に示せる.

(4)は定義より明らか. ■

$\F$$\G$$\omega$上のフィルターとする.
$\S \subset \Pow(\omega)$$\F$$\G$の両方を法として独立である非空集合する.
$f \colon \omega \to \omega$とする.
このときフィルター$\F' \supset \F$$\G' \supset \G$$\S' \subset \S$が存在して,$\S'$$\F'$$\G'$の両方を法として独立であり,$S \setminus \S'$が有限集合で,かつある$B \in F'$について$f^{-1}(B)^\c \in \G'$となる.

$A \in \S$を一つ取り固定する.

ケース1

: $\S \setminus \{A\}$$((\G \cup \{f^{-1}(A)^c\}))$を法として独立なとき.
このとき,$\S' = \S \setminus \{A\}, \G' = ((\G \cup \{f^{-1}(A)^c\})), \F' = ((\F \cup \{A\})), B = A$が補題の結論を満たす.

$\S'$$\G'$を法として独立なことはケース1の仮定そのものである.
$\S'$$\F'$を法として独立なことは補題2の(2)よりよい.

ケース2

: $\S \setminus \{A\}$$((\G \cup \{f^{-1}(A)^c\}))$を法として独立でないとき.
このとき独立性の定義より,互いに異なる$X_1, \dots, X_n, Y_1, \dots, Y_m$$\S \setminus \{A\}$の中に取れて,また,$G \in \G$が取れて,
$$ X_1^\c \cup \dots \cup X_n^\c \cup Y_1 \cup \dots \cup Y_m \supset G \cap f^{-1}(A)^\c. $$
を満たす.
したがって,両辺の補集合を取って,$G$を「移項」すると
$$ X_1 \cap \dots \cap X_n \cap Y_1^\c \cap \dots \cap Y_m^\c \cap G \subset f^{-1}(A). $$
を得る.
ここで,$\G' = ((G \cup \{X_1, \dots, X_n, Y_1^\c, \dots, Y_m^\c\}))$とおくと$f^{-1}(A^c)^c = f^{-1}(A) \in \G'$である.
また,$\F' = ((\F \cup \{A^c\}))$とおき,$\S' = \S \setminus \{ A, X_1, \dots, X_n, Y_1^c, \dots, Y_m^c \}$とおき,$B = A^c$とおく.
このとき補題2より$\S'$$\F'$$\G'$の両方を法として独立であることがわかる. ■

Kunenの定理の主張の再掲

:
擬順序集合$(\beta \omega, \leRK)$は線形でない.つまり互いに比較できない2元が存在する:
2元$p, q \in \beta \omega$が存在して$p \not \leRK q$かつ$q \not \leRK p$.

長さ$\frakc$の再帰的構成による.

$(f_\alpha : \alpha < \frakc)$$\omega$から$\omega$への関数の枚挙とする.

再帰的に$(\F_\alpha, \G_\alpha, \S_\alpha : \alpha < \frakc)$で次を満たすものを構成する.

  1. $\F_\alpha, G_\alpha$$\omega$上のフィルターであり,列$(\F_\alpha : \alpha < \frakc), (\G_\alpha : \alpha < \frakc)$は単調増大かつ連続である.
  2. $\F_0$$\G_0$はフレシェフィルター.
  3. $\alpha$について$X \in \F_{\alpha+1}$があって,$f_\alpha^{-1}(X)^c \in \G_{\alpha+1}$を満たす.また,各$\alpha$について$Y \in \G_{\alpha+1}$があって,$f_\alpha^{-1}(Y)^c \in \F_{\alpha+1}$を満たす.
  4. $\alpha$について$\S_\alpha$$\F_\alpha$$G_\alpha$の両方を法として独立であり,濃度$\frakc$を持つ.
  5. $(\S_\alpha : \alpha < \frakc)$は単調減少かつ連続である.
  6. $\alpha$について$\S_\alpha \setminus \S_{\alpha+1}$は有限集合である.

(3)が肝心な条件である.

この構成が終わったあと,$p$$\bigcup_{\alpha < \frakc} \F_\alpha$を拡大して得られる超フィルター,$q$$\bigcup_{\alpha < \frakc} \G_\alpha$を拡大して得られる超フィルターとする.
このとき$\omega$から$\omega$への関数をすべて枚挙していたことと,条件(3)より$p \not \leRK q$かつ$q \not \leRK p$が分かる.

独立集合の列$(\S_\alpha : \alpha < \frakc)$は補助的なものである.
これなしで(1)-(3)だけで帰納法が回ればそれでよかったのであるが,残念ながら回らない.

さて,$(\F_\alpha, \G_\alpha, \S_\alpha : \alpha < \frakc)$の構成方法を見よう.

$\alpha = 0$のとき,$\F_0, \G_0$はフレシェフィルターとして,$\S_0$はFichtenholz-Kantorovitch, Hausdorffにより定まるサイズ$\frakc$の独立集合とすればよい.

$\alpha$が極限順序数のとき.$\F_\alpha = \bigcup_{\beta < \alpha} \F_\beta$, $\G_\alpha = \bigcup_{\beta < \alpha} \G_\beta$, $\S_\alpha = \bigcap_{\beta < \alpha} \S_\beta$とする.これで条件(4)が満たされることは容易に確かめられる.

$\alpha = \beta + 1$が後続順序数のとき.
補題3を2回適用すればよい.なお,そのうちのちょうど1回は$\F$$\G$の役割を入れ替えることに注意する. ■

参考文献

[1]
Kunen, Kenneth, Ultrafilters and independent sets, Transactions of the American Mathematical Society, 1972, pp. 299--306
投稿日:2023219
OptHub AI Competition

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でぃぐ
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