位相空間は,点の集まりと見做されることとなる台集合とその上の開集合を定める構造との組として定義される.この二つのうちどちらがより情報を持っているかと考えると,開集合系を忘却するとただのバラバラした点の集まりしか残らないのに対して,台集合を忘却しても開合系の合併を取ることで元の台集合が復元できる点で情報が多いことが分かる.これは開集合系が台集合の二重冪集合の元であって任意合併と有限交叉で閉じるものとして定義されていたからであり,古典的な位相空間論が点どうしの近さを表現する為めに台集合から始めて集合論的に構成していくスタイルを採っていたことに依るものである.
では台集合を忘却した上で,開集合系の集合論的構成も忘却した場合はどうであろうか??即ち,点どうしの近さだけを覚えている状況,例えば開集合どうしの包含関係を抽象的に順序集合と見做す状況では,その順序集合だけから元の空間の情報はどの程度復元できるであろうか??
少し考えてみると例えば位相的に識別できない点の有無などは開集合系の順序集合としての性質からは復元することができないことが分かる.このように必ずしも全ての空間の全ての情報を復元できるとは限らない.併し慎重に議論を重ねることにより実はある程度の分離公理を満たす空間の情報は本質的に復元できることが明らかになるのである.こういった観点に立って空間概念を考察するのが無点拓朴論(Pointless Topology)である.
先ずは位相空間の開集合系の為す束の持つ性質について調べ,それを用いて芦景(ロケール)を導入しよう.早速,$\mathfrak{O}_X$の部分集合$\mathcal{S}$について考えると,このとき$$\mathsf{colim}_{\Powlat}(\mathcal{S})=\bigcup\mathcal{S}$$が成立し,開集合系の公理より$\bigcup\mathcal{S}\in\mathfrak{O}_X$である.よって元の圏の余極限(とその構造射)を部分圏が有しているので$$\Colimobj_{\localetopsp}(\mathcal{S})=\bigcup\mathcal{S}$$が成立する.よって$\localetopsp$は完備束であるが,この極限について計算すると$$\begin{align*}
\Limobj_{\localetopsp}(\mathcal{S})
&=\Colimobj_{\localetopsp}(\set{\openset\in\mathfrak{O}_X}{\text{任意の$S\in\mathcal{S}$に対して$\openset\subset S$が成立する}})\\
&=\Colimobj_{\localetopsp}(\set{\openset\in\mathfrak{O}_X}{\text{$\openset\subset\bigcap\mathcal{S}$が成立する}})\\
&=\intop_{\topsp}(\bigcap\mathcal{S})\\
&=\intop_{\topsp}(\Limobj_{\Powlat}(\mathcal{S}))
\end{align*}$$が成立するので,一般には$\Colimobj_{\localetopsp}(S)=\Colimobj_{\Powlat}(S)$が成り立つとは限らない.これは包含函手$\iota\colon\localetopsp\rightarrow\Powlat$が連続だが余連続とは限らないと言い表すことができるが,$\mathcal{S}$が有限集合であれば先の等号が成り立つことに注意されたい.
よって$\Powlat$が完備Boole代数であることと併せれば,一度$\Powlat$に埋め込んで計算することで$\localetopsp$に於いて無限分配束が成り立つことが示される.実際,$\localetopsp$の部分集合族$\mathcal{S}_i$を有限個($n$個とする)とり,$\mathcal{S}_i$達の濃度の中で最大のものを$\cardinal$とする.このとき各$i$に対して$\cardinal$から$\mathcal{S}_i$への全射$f^i$が取れ,これを用いると
$$\begin{align*}
&\Limobj_{\localetopsp}(\set{\Colimobj_{\localetopsp}(\mathcal{S}_i)}{i=1,\ldots,n})\\
&=\Limobj_{\Powlat}(\set{\Colimobj_{\Powlat}(\mathcal{S}_i)}{i=1,\ldots,n})\\
&=\Limobj_{\Powlat}(\set{\Colimobj_{\Powlat}(f^i[\cardinal])}{i=1,\ldots,n})\\
&=\Colimobj_{\Powlat}(\set{\Limobj_\Powlat.(\set{f^i(\ordinal)}{i=1,\ldots,n})}{\ordinal\in\cardinal})\\
&=\Colimobj_{\localetopsp}(\set{\Limobj_{\localetopsp}(\set{f^i(\ordinal)}{i=1,\ldots,n})}{\ordinal\in\cardinal})
\end{align*}$$と計算できる.よって完備Heyting束であることが分かる.この観察の下で,位相空間の開集合系の束論的な性質を抽象化した無点拓朴概念として,芦景を導入することができる.
完備Heyting束を骨組(Frame,フレーム,フレイム)という.二つの骨組$\frame_1$,$\frame_2$について,$\framemor$が$\frame_1$から$\frame_2$への骨組の射であるとは,
を満たすことである.骨組の射は写像の合成で閉じており,台集合の間の恒等写像は骨組の射である.よって写像の合成および恒等写像を構造として備えた骨組の為す圏を考えることができ,これを$\Frmcat$と書く.
骨組の為す圏$\Frmcat$の反対圏を芦景の為す圏といい,$\Loccat$と書く.$\Loccat$の対象を芦景(Locale,ロケール,ロケイル)という.
芦景の典型例は位相空間の開集合系の為す束$\localetopsp$である.これは$\Topcat$の対象から$\Loccat$の対象を定める写像であるが,これは実は函手$\Omega$定める.命題の形でまとめておこう.
$\Omega$は$\Topcat$から$\Loccat$への函手である.これも$\Omega$と書く.
証明は末尾に張ったリンク先で公開しているpdfに譲ることとし,ここでは省略する.
この函手$\Ufunc$は右随伴$\ptfunc$を持つ.この右随伴は芦景に対して位相空間を標準的に対応させるものであり,位相空間から誘導される芦景からの射を司る対象と考えることができる.このことからも大変重要な概念であることが伺われる通り,ある意味で抽象的な芦景の点概念を与えるものになる.
この辺りの事実は既にTwitterで公開している「芦景のーと」に書いています.こちらのノートはJohnstoneのStone Spacesゼミの勉強ノートで,ゼミの進捗と私の時間的余裕とに応じて更新されています.もし興味を持った方がいらっしゃれば以下のURLのTweetからpdfをご覧になるか,Johnstoneを手に取っていただければ幸いです.
TweetのURL:
https://twitter.com/1997_takahashi/status/1322468757109841922
この記事はpdfからの切り抜きのため,個人的なノートに用いている標準的ではない訳語が含まれています.具体的には以下の通りです.一応それぞれに理由があるので,そちらも併記しておきます.