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Mellin変換の基礎的知識

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はじめに

 どうもこんにちは、🐟🍊みかん🍊🐟です。今回は、初めてMathlogを書くついでに、メリン変換に関する重要な結果である"Ramanujan Master Theorem"というものを紹介し、僕が初学の際に躓いた点を解決するにあたって考えたこと書いていこうと思います。この記事は、そこそこ長くなるので、メリン変換を知っている人は前半部分はがっつり読み飛ばしていただいて結構です。

 ちなみに筆者個人としては人名等々は元の言語で記述したい(とはいえ、アルファベットしか書けないので三次方程式解いたことで有名なعمر خیامは普段書いていません)のですが、メリンはひらがなで書くとかわいいので、カタカナで書いている場合が多かったりします。

先に断っておくと、このMathlogは「Ramanujan's master theorem」を完全に理解するという観点からは不適切である可能性があります。というのも、「完全に理解させよう」という意図ではなく、相手が「わかった気になる」くらいの記事を書くことに重きをおき、より多くの人に読みやすいと感じるような記事にしているからです。もし完全に理解したいというのであれば、より発展的な資料を探して読んでみることを強く推奨します。

Mellin変換の触り

 Mathlogを見てみた感じ、メリン変換自体を解説している記事があまりなかったので一応定義しておきます。関数f(x)のメリン変換は次の積分で定義されます。

メリン変換

関数fのメリン変換は次式で定義される。
M{f(x)}(s)=0xs1f(x)dx

 初めて見る人では、「こんな変なものを考えて何が面白いのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、数学的につまらないものであれば淘汰されて消えてしまっている可能性が高いので、なにかしら面白みはありそうです。実際今回紹介する定理や、Perronの公式などに応用されています。具体的になにか積分を求めてみましょう。
0sin(x2)dx
これはFresnel積分という有名な積分で、いくつかの求め方が存在しますが、正弦関数のメリン変換を既知とすると瞬殺できます。(後で頑張って計算します)
0sin(x2)dx=120t12sintdt(x2t)=12M{sin(t)}(12)=12Γ(12)sin(π4)=π8
となります。ほとんど何も計算していません。留数計算でも求めることができますが、積分経路が思いつきにくい(八分円を使う)ので、かなり有効な手法だと思います。

Dirichlet積分を求める際にも利用できそうです。次のように計算できます。
0sinxxdx=lims0+M{sinx}(s)=lims0+Γ(s)sin(sπ2)=lims0+sΓ(s)sin(sπ2)sπ2π2=π2

どうでしょうか。理論的背景はともかくとして、計算上の有用性がありそうな気がしませんか?

Mellin変換の存在条件と逆変換

メリン変換は広義積分で与えられているので、積分値が存在しない場合はメリン変換が定まりません。従って、存在する条件を知っておく必要があります。次の事実が広く知られています。

メリン変換の存在性

局所可積分な関数fに対して、f(x)=O(xa)(x0+)f(x)=O(xb)(x)が成立するとき、a<Res<bの範囲で積分Mf(s)は絶対収束し、その区間内で解析的である。

これは広義積分の収束条件から簡単に証明できるので証明は与えないことにします。「必要十分じゃないじゃん」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、十分条件が分かっているため間違って使うことはないので大丈夫だと思います。

さて、メリン変換には逆変換が存在します。次のように与えられます。

メリン逆定理

関数φa<Res<bの範囲で解析的であり、Ims±においてφ(s)0に一様収束するとき、a<c<bを満たす実数cに対して、
f(x)={M1φ}=12πicic+ixsφ(s)ds
が成り立つ。

定理の条件が満たされているとき、φ(s)=Mf(s)とおくと、Diracのdelta関数を用いて
12πicic+ixsφ(s)ds=12πicic+i(0f(u)us1du)xsds=12πi0(ux)c+iσidσf(u)duu(sc+iσ,uxet)=12πet(c+iσ)dσf(xet)ectdt=(12πeitσdσ)f(xet)ectdt=δ(t)f(xet)ectdt=f(x)
となるので、成立する。

この証明は個人的にかなり好きです。

Ramanujan's Master Theorem

ようやくメインディッシュです。メリン変換の定義式を見ても、結局のところ元の関数に対して定まるメリン変換というのは(実解析を考えている限り)そこまで明らかなものではなく、例えば正弦関数のメリン変換

M{sinx}(s)=Γ(s)sin(πs2)(0<Res<1)

にしてもかなり大変そうです。Laplace変換の有名な等式

0L(f)(x)g(x)dx=0f(x)L(g)(x)dx

を用いれば

M{sinx}(s)=0L1(sin)(x)L(1x1s)(x)dx=12Γ(1s)0us2121+udu(x2u)=12Γ(1s)B(12s2,12+s2)=12Γ(1s)Γ(12s2)Γ(12+s2)=12Γ(1s)πsin(π2+πs2)=Γ(s)sin(πs)2ππcos(πs2)=Γ(s)sin(πs2)

と計算できますが、Laplace変換を知っていないとなかなか思いつけない変形ですし、結構面倒ではありませんか?面倒ですよね?そう、面倒なんですよ。

そこで、お役立ちの定理、Ramanujan's Master Theoremが出てくるわけですね。まず紹介をします。

Ramanujan's Master Theorem

f(z)=k=0φ(k)(z)k
と展開されるとき、そのメリン変換は
M{f(x)}(s)=πsinπsφ(s)
で与えられる。

これを見てどう思いますか?僕は、「そんなわけないのでは?????」と思いました。考えてみましょう。φ(s)=1sΓ(s)としてみます。このとき、f(z)=ezですから積分は確かにガンマ関数に一致します。

しかしながらです。φ(s)=cos(2πs)sΓ(s)としてもf(z)は変わりませんが、そのメリン変換の結果が変わってしまいます。不合理です。従ってこの命題は成立しないと思いました。

しかし、証明を見ないとわからないことがあると思い、証明を見てみることにしました。証明の大まかな流れとしては、

(1)最後のメリン変換の式をメリン逆変換する
(2)留数定理を使う

という流れでした。ここで、よくよく考えてみるとπsinπsφ(s)というのはいつでもメリン逆変換できるわけではないですよね。それを考えて厳密に考え直すと定理の内容を修正する必要があります。要するに、定理の主張だけ何故だか収束のことをあまり気にしていないんですね。なので、追加するべき定理の条件としては、

(1)πsinπsφ(s)がメリン逆変換可能な単葉関数

とでもなるでしょうか。このようにすると、不安はある程度解消されそうな感覚はしませんか?例えば先の余弦関数を掛ける例だと、φ(s)=cos(2πs)Γ(s)Imsで0に一様収束してくれないんですよね。実際に確かめてみると、次の主張が従うことを示すことができます。(証明が間違っていたら申し訳ございません)

二つの関数ψ,φの通常型母関数が収束し、kZ0[ψ(k)=φ(k)]が成り立ちそれぞれがメリン逆変換可能であれば、ψ=φとなる。

証明はチャレンジしてみてください。(僕だったら自分で証明しないときっと納得しなかったので)ともかく、上記の命題を認める限り先ほど出した「余弦関数を掛けてやったら違うの作れるじゃん」という問題は完全に消し去れます。やったね!!!

ちなみに、精密な議論ではない直感的な証明を記すと、次のようにすることができます。(一般的に正しくない議論がいくつか含まれています)

Ramanujan's master theorem

φ(s)=a0λ(a)as
という形で書けるものとすると、
0ts1f(t)dt=0ts1k=0φ(k)(t)kdt=0ts1k=0a0λ(a)ak(t)kdt=a0λ(a)0ts1k=0(at)kdt=a0λ(a)0ts11+atdt=a0λ(a)as0us11+udu(uat)=πsin(πs)φ(s)

だいぶ直感的な導出ですね。

よく使う等式

いくつかメリン変換を求めるうえでよく使う等式を示しておきたいと思います。なお、ここは補足に近いです。また、f(x)はメリン変換可能な解析関数としておきます。

a>0のとき、
M{f(ax)}(s)=asM{f(x)}(s)

積分の表示においてaxtとすることで得られる。

ν0に対して
M{f(xν)}(s)=1|ν|M{f(x)}(sν)

積分の表示においてxνtとすることで得られる。

M{xνf(x)}(s)=M{f(x)}(s+ν)

定義から明らかです。

M{lnf(x)}(s)=ddsM{f(x)}(s)

関係式
ddsxs=lnsxs
を用いて、(偏)微分と積分を交換して得ます。

次のものは英語版のWikipediaにも載っていなかったので需要はあると思います。

M{f(x)}(s)=cos(πs)M{f(x)}(s)

f(x)は解析的なので
f(x)=n=0φ(n)xn
としてみると、
f(x)=n=0φ(n)(x)nf(x)=n=0cos(πn)φ(n)(x)n
となるので、Ramanujan's master theroemを用いて得る。

よく使うのはこれくらいです。興味があれば英語版WikipediaのMellin変換の公式を見ておくといいと思います。

具体例

具体例に関して記述しようとは思ったのですが、おそらく僕がここに書くよりも、こちらの Wikipedia(Ramanujan's master theorem) やそのExternal linksの欄に掲載されているpdfを見ていただくほうがより多くの具体例に触れられると思います。

一応二つの例を示しておきます。最初に示した正弦関数のメリン変換と、超幾何関数のメリン変換について触れておきます。

正弦関数のほうに関しては簡単に計算できて、
M{sin(x)}(s)=M{xn=01Γ(2n+2)(x)2n}(s)=12M{n=01Γ(2n+2)(x)n}(s+12)=12πsin(s+12π)1Γ(1s)=Γ(s)sin(πs2)
となります。 超幾何関数(Wikipedia) に関しては、よく使う等式とPochhammer記号のガンマ関数表記
(x)n=Γ(x+n)Γ(x)
を考えると、Γ(a)=kΓ(ak)と略記すれば即座に以下の結果を得ます。

超幾何関数のメリン変換

次の等式が成り立つ。
0rFs[cd;x]xs1dx=Γ(s)Γ(cs)Γ(d)Γ(c)Γ(ds)

多くの関数は超幾何級数で表すことができるので、超幾何級数表示が判明している関数のメリン変換は(命題5から命題9の結果も併せて考えれば)瞬殺できることになります。逆に、メリン変換の結果がガンマ関数で書けているなら、元の関数の超幾何級数表示もわかりますね。

おわりに

初めて書いたmathlogで慣れないことも多くありましたが、「わかった気になる」をお届けするという観点からはうまくできていると嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました!

投稿日:2023226
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