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行列の演習問題とその解答

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Kを可換体として,Kに成分をもつ2次正方行列の全体をM2(K)で表す.A=[aij]M2(K)を固定して,CA:={BM2(K)AB=BA}とする.行列の基本変形を "" で表す.

問題. CAの任意の2元が可換になるようなAを決定せよ.

B=[bij]M2(K)について,BCAというのは任意の1i,j2に対して
ai1b1j+ai2b2j=a1jbi1+a2jbi2
が成り立つことと同値である.(i,j)=(1,1),(2,2)のときこれはa21b12a12b21=0と表され,(i,j)=(1,2),(2,1)のときはa12b11+(a22a11)b12a12b22=0及びa21b11+(a22a11)b21a21b22=0と表されるので,これは[b11b12b21b22][0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]の解空間
{xK4|[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]x=[000]}
に属していることと同値である.

a12=a21=0かつa11=a22の場合:

[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]=[000000000000]よりCA=M2(K)を得る.

a12=a21=0かつa11a22の場合:

[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]=[00000a22a110000a22a110][000001000010]
より
CA={[b11b12b21b22]M2(K)|(b12=0)(b21=0)}={[b1100b22]M2(K)|b11,b22K}=K[1000]K[0001]
を得る.

a12=0かつa210の場合:

[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]=[0a21000a22a1100a210a22a11a21][01000a22a110010(a22a11)/a211][0100000010(a22a11)/a211][10(a22a11)/a21101000000]
より
CA={[b11b12b21b22]M2(K)|(b11+a22a11a21b21b22=0)(b12=0)}={[b110b21b11+[(a22a11)/a21]b21]M2(K)|b11,b21K}=K[1001]K[010(a22a11)/a21]
を得る.

a120かつa21=0の場合:

[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21]=[00a120a12a22a110a1200a22a110][00101(a22a11)/a120100a22a110][00101(a22a11)/a12010000][1(a22a11)/a120100100000]
より
CA={[b11b12b21b22]M2(K)|(b11+a22a11a12b12b22=0)(b21=0)}={[b11b120b11+[(a22a11)/a12]b12]|b11,b12K}=K[1001]K[010(a22a11)/a12]
を得る.

a120かつa210の場合:

[0a21a120a12a22a110a12a210a22a11a21][0a21a1201(a22a11)/a1201a210a22a11a21][0a21a1201(a22a11)/a12010a21(a22a11)/a12a22a110][01a12/a2101(a22a11)/a12010a21(a22a11)/a12a22a110][01a12/a21010(a22a11)/a2110000][10(a22a11)/a21101a12/a2100000]
より
CA={[b11b12b21b22]M2(K)|(b11+a22a11a12b12b22=0)(b12a12a21b21=0)}={[b11b12(a21/a12)b12b11+[(a22a11)/a12]b12]|b11,b12K}=K[1001]K[01a21/a12(a22a11)/a12]
を得る.

C1,C2M2(K)に対して,C1C2が可換ならKC1KC2の任意の2元も可換になることに注意すれば,以下を得る:

解答. A=[aij]M2(K)に対して,以下は同値である:

  1. CAの任意の2元は可換である.
  2. CAM2(K)である.
  3. Aは単位行列の定数倍でない.

このとき,CAは対角行列の全体になるか,CM2(K)を用いてCA=K[1001]KCと書ける.

まとめ

上の問題は Twitter でフォロワーの方が呟いていたものを簡単にした (一般の次元で考えていたものを2次元にした) ものです.ただ計算しただけなので,線形代数を使った見通しが良い解答などがあれば是非教えてください.(追記: K=Cの場合について,delta さんが Jordan 標準形を使った証明をコメントで与えてくださいました.ありがとうございます.)

高次元の場合の反例について

解答にある主張のうち「(1)(2)(3)」は次元を2以上の整数nに広げても成り立ちますが,「(1)(3)」については,Kの標数が2でなくn4以上の偶数のときに反例があります (こちらの user1551 氏の回答 を参考にしました).n=4の場合には,例えばA=[1000010000100001]が反例になります.実際,Aは単位行列の定数倍ではなく,B1=[1000010000100001]B2=[0010000110000100]
AB1=[1000010000100001]=B1A,AB2=[0010000110000100]=B2A,
より共にAと可換ですが,
B1B2=[0010001010010100][0010000110000100]=B2B1,
よりこれらは可換ではないので,Aは (3) をみたすが (1) をみたさない例になっています.n=6,8,10,12,14,の場合にも同様の手法により反例が作れます.

投稿日:202335
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数学科に所属しています.博士1年生です.

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