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大学数学基礎解説
文献あり

ランダム強制法はKnasterの性質を満たす (The random forcing satisfies the Knaster property)

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ランダム強制法がKnasterの性質を満たすことを示す.

ランダム強制法とは,
$$ \mathbb{B} = \{ p \subseteq 2^\omega : p\text{はBorel集合で }\mu(p) > 0 \} $$
で通常の包含関係で順序を入れた強制概念を指す.ここで$\mu$$2^\omega$上の通常の測度.

強制概念$P$Knasterの性質を満たすとは,どんな非可算な部分集合$A \subseteq P$についても非可算な部分集合$B \subseteq A$がとれて,$B$のどの2元も両立することを意味する.

Knasterの性質を満たす強制概念はcccを満たすことは明らかである.
またランダム強制法がcccを満たすことはとてもよく知られた事実である.
実はより強いKnasterの性質を満たすことを見ていく.

この証明はJorge Antonio Cruz Chapital氏に教えていただいた.

次のErdős-Dushnik-Millerの定理はこの記事では証明せず認めて使う.証明はJechの本などを参照のこと.

Erdős-Dushnik-Millerの定理

$\omega_1 \rightarrow (\omega_1, \omega)^2$である.
言い換えると,どんな色塗り$c \colon [\omega_1]^2 \to 2$についても次のどちらかが成り立つ.

  1. ある$H \in [\omega_1]^{\omega_1}$があって,$c$$[H]^2$上で定数$0$を取る.
  2. ある$K \in [\omega_1]^{\omega}$があって,$c$$[K]^2$上で定数$1$を取る.

ランダム強制法はKnasterの性質を満たす.

$\mathbb{B}$の非可算部分集合$A$を任意にとる.$A$を縮めてサイズ$\aleph_1$にしておく.
$A_n = \{ p \in A : \mu(p) > 1/n \}$とおくと$A = \bigcup_{n \in \omega_{>0}} A_n$であるため,ある$n$が存在して$A_n$が非可算なので,はじめからこの$A_n$$A$であったとして,すべての$p \in A$について$\mu(p) > 1/n$としてよい.
$A$上の色塗り$c \colon A \to 2$
$$ c(p, q) = \begin{cases} 0 & \text{$p$と$q$が両立可能なとき} \\ 1 & \text{$p$と$q$が両立不能なとき} \end{cases} $$
と定める.
Erdős-Dushnik-Millerの定理の条件1か条件2のどちらかが成り立つが,条件2はありえない.
なぜなら,$P$の元であって互いに両立不能なものはたかだか$n$個しかないからだ.
よって,条件1が成り立つ.すなわち濃度$\aleph_1$$B \subseteq A$がとれて,$c$$[B]^2$上で定数$1$をとるが,$c$の定義よりこれはKnasterの性質の証拠となる部分集合である.

参考文献

[1]
Thomas J. Jech, Set Theory: The Third Millennium Edition, revised and expanded, Springer, 2011
投稿日:2023311

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