多重ゼータ値には双対性と呼ばれる美しい性質があります. これは, $\bk=(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\{1\}^{a_2-1},b_2+1,\dots,\{1\}^{a_r-1},b_r+1)$としたとき, $\bk^{\dagger}:=(\{1\}^{b_r-1},a_r+1,\{1\}^{b_{r-1}-1},a_{r-1}+1,\dots,\{1\}^{b_1-1},a_1+1)$として定義される双対インデックスに対し,
$$\begin{eqnarray}
\zeta(\bk)=\zeta(\bk^{\dagger})
\end{eqnarray}$$が成り立つというものです. 具体例を見ていきましょう. $(3)$の双対インデックスは定義より, $(1,2)$なので,
$$\begin{eqnarray}
\zeta(3)=\zeta(1,2)
\end{eqnarray}$$が成り立ちます. これはEulerによって初めて示された式です. 一見双対インデックスの定義がよくわからないかもしれませんが, これを証明するためにコネクターというものをもちいることができます.
$\bk=(k_1,\dots,k_a)$に対し,
$$\begin{eqnarray}
\bk_{\to}&=&(k_1,\dots,k_a,1)\\
\bk_{\up}&=&(k_1,\dots,k_{a-1},k_a+1)
\end{eqnarray}$$という矢印記号を考えます. そして, $\to^{n},~\up^{n}$をそれぞれ, $\underbrace{\to\cdots\to}_n,~\underbrace{\up\cdots\up}_n$の意味でもちいることにします. また$\varnothing_{\to}=(1)$とすると, $(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\{1\}^{a_2-1},b_2+1,\dots,\{1\}^{a_r-1},b_r+1)=\varnothing_{\to^{a_1}\up^{b_1}\cdots\to^{a_r}\up^{b_r}}$と表すことができます. つまり, 双対インデックスは, $\varnothing_{\to^{a_1}\up^{b_1}\cdots\to^{a_r}\up^{b_r}}$に対し, $\varnothing_{\to^{b_r}\up^{a_r}\cdots\to^{b_1}\up^{a_1}}$で表すことができます. これを矢印一つずつ輸送して証明する, という具体的な方法が連結和法というもので, この場合, 横矢印が縦矢印に, 縦矢印が横矢印に移っているということを考えれば,
$$\begin{eqnarray}
Z(\bk_{\to};\bl)&=&Z(\bk;\bl_{\up})\\
Z(\bk_{\up};\bl)&=&Z(\bk;\bl_{\to})
\end{eqnarray}$$を満たす$Z(\bk;\bl)$があればよいことが分かります. 対称性より, 横矢印を縦矢印に変える輸送関係式があれば十分ということになります. これを級数をもちいて構成します. とりあえず, $C(n_a, m_b)$というものがあるとして,
$$\begin{eqnarray}
Z(\bk;\bl):=\sum_{0=n_0\lt n_1\lt\cdots\lt n_a\\0=m_0\lt m_1\lt\cdots\lt m_b}\frac{1}{\bn^{\bk}\bm^{\bl}}C(n_a,m_b)
\end{eqnarray}$$としてみます. すると$C(n,m)$が満たすべき等式は,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{n\lt a}\frac 1aC(a,m)=\frac 1mC(n,m)
\end{eqnarray}$$となります. これは$n$について差分すると,
$$\begin{eqnarray}
\frac 1nC(n,m)=\frac 1m(C(n-1,m)-C(n,m))
\end{eqnarray}$$つまり,
$$\begin{eqnarray}
C(n,m)=\frac{n}{n+m}C(n-1,m)
\end{eqnarray}$$これを帰納的に適用して,
$$\begin{eqnarray}
C(n,m)=\frac{n(n-1)\cdots 1}{(n+m)\cdots(m+1)}C(0,m)
\end{eqnarray}$$ここで, 境界条件を考えます. 満たすべき等式,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{n\lt a}\frac 1aC(a,m)=\frac 1mC(n,m)
\end{eqnarray}$$に$n=0$を代入して,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\lt a}\frac 1aC(a,m)=\frac 1mC(0,m)
\end{eqnarray}$$となりますが, この右辺は通常の多重ゼータ値になるために$\frac 1m$である必要があります. よって, $C(0,m)=1$と考えます.
$$\begin{eqnarray}
C(n,m)&=&\frac{n(n-1)\cdots 1}{(n+m)\cdots(m+1)}C(0,m)\\
&=&\frac{n!m!}{(n+m)!}
\end{eqnarray}$$という対称的なコネクターの形が求まりました. これで具体的に輸送をしてみましょう.
$$\begin{eqnarray}
\zeta(3)&=&\sum_{0\lt n}\frac 1{n^3}C(n,0)\\
&=&\sum_{0\lt n,m_1}\frac{1}{n^2m_1}C(n,m_1)\\
&=&\sum_{\substack{0\lt n\\0\lt m_1\lt m_2}}\frac{1}{nm_1m_2}C(n,m_2)\\
&=&\sum_{0\lt m_1\lt m_2}\frac{1}{m_1m_2^2}\\
&=&\zeta(1,2)
\end{eqnarray}$$これで一般に双対性が証明できることが分かりますね.
$$\begin{eqnarray}
\zeta(\bk)=Z(\bk;\varnothing)=Z(\bk_{\down};1)=\cdots=Z(1;(\bk^{\dagger})_{\down})=Z(\varnothing;\bk^{\dagger})=\zeta(\bk^{\dagger})
\end{eqnarray}$$という風に$\wt(\bk)$回の輸送を行うことで証明ができます. 一方でこの連結和の輸送関係式は連結和$Z$が多重ゼータ値で表せることも示しています. 美しい具体例として,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\lt n,m}\frac{(n-1)!(m-1)!}{(n+m)!}&=&Z(1;1)\\
&=&\zeta(2)
\end{eqnarray}$$という計算ができます.
Shin-ichiro Seki, Shuji Yamamoto, A new proof of the duality of multiple zeta values and its generalizations, arXiv:1806.04679