前回の記事で,拡大体を定義しました。今回は,実際に体を"拡げる"ということをしていきます。が,その前に,前回導入を忘れていた記法を導入しておきます。
体$L$が体$K$の拡大体であることを$L/K$と書く。
ということで本題に移りましょう。
1.中間体・添加した体
2.拡大次数
(読み返しやすくするため,今回から目次をつけることにしました。前回の記事にも目次を追加してあります)
体$L$を体$K$の拡大体とする。体$M$が体$K$の拡大体かつ体$L$の部分体であるとき,体$M$を$L/K$の中間体といい,$L/M/K$と書く。
包含関係は$K⊆M⊆L$となる。
インフォーマルな言い方をすれば,$K(A)$とは$K,A$の元を使った四則演算[1]によって表されるような$L$の元 だけ を すべて 集めてできる体である。もちろん,$A⊆K$ならば$K(A)=K$となる。
上の例はどれも単拡大である。議論に慣れるため,最初の二つを簡単に証明しておこう(最後の例は明らかであろう)。
$ℚ[\sqrt2]⊆ℚ(\sqrt2)$は定義から明らかなので,逆の包含関係を示す。そのためには
$\displaystyle\frac{1}{p+q\sqrt2}∈ℚ[\sqrt2]\;(p,q∈ℚ∧(p,q)≠(0,0))$をいえば十分であるが,
$\displaystyle\frac{1}{p+q\sqrt2}=\frac{p}{p^2-2q^2}-\frac{q}{p^2-2q^2}\sqrt2$
から直ちに示される。□
$ℚ(\sqrt2+\sqrt3)⊆ℚ(\sqrt2,\sqrt3)$は明らかなので,逆の包含関係を示す。そのためには$\sqrt2,\sqrt3∈ℚ(\sqrt2+\sqrt3)$をいえば十分である。$\displaystyle x=\sqrt2+\sqrt3,y=\sqrt2-\sqrt3\left(=-\frac{1}{\sqrt2+\sqrt3}\right)$ は$ℚ(\sqrt2+\sqrt3)$の元であり,$\displaystyle\sqrt2=\frac{x+y}{2},\sqrt3=\frac{x-y}{2}$ であるから,$\sqrt2,\sqrt3∈ℚ(\sqrt2+\sqrt3)$ □
$L/K$を$K$-線形空間と見なしたときの次元を$L/K$の拡大次数といい,$[L:K]$と書く。$[L:K]<∞$であるとき,$L/K$は有限次拡大であるといい,そうでないとき無限次拡大であるという。
$L/K$が線形空間の公理を満足することは各自で確かめよ。定義によれば,$[L:K]=n(<∞)$とは「$n$個の一次独立な$L$の元が存在して,その$K$係数の一次結合によって$L$の任意の元が表せること」に他ならない。
これも,議論に慣れるため最初の例について証明する(他の二つの例について同じように示そうとするとやや面倒である)。
上で示したように$ℚ(\sqrt2)=\{p+q\sqrt2|p,q∈ℚ\}$であるから,$<1,\sqrt2>$は$ℚ(\sqrt2)$を生成する。
次に$p+q\sqrt2=0$とし,このとき$q≠0$と仮定すると,$\displaystyle\frac{p}{q}=-\sqrt2$を得るが,これは$p,q∈ℚ$に矛盾する。ゆえに$q=0$であり,$p=0$も従う。よって$1,\sqrt2$は一次独立である。□
実は,ある方法を使えば有限次拡大の拡大次数は基底を構成せずともわかってしまいます。
また,$ℚ(\sqrt2)=ℚ[\sqrt2]$が成り立つことを確かめましたが,これは偶然なのでしょうか?それとも……。