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代数的数全体の集合は体をなす(線型代数)

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$$\newcommand{A}[0]{\mathbb{A}} \newcommand{abs}[1]{\left |#1\right |} \newcommand{bm}[0]{\boldsymbol} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{F}[4]{{}_{#1}F_{#2}\left[\begin{array}{c}#3\end{array};#4\right]} \newcommand{Fourier}[2]{\mathcal{F}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hartley}[2]{\mathcal{H}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hilbert}[2]{\mathcal{Hil}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{inttrans}[3]{\mathcal{#1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{invtrans}[3]{\mathcal{#1}^{-1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{Laplace}[2]{\mathcal{L}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{matrix}[1]{\left ( \begin{matrix}#1\end{matrix} \right )} \newcommand{Mellin}[2]{\mathcal{M}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\operatorname{Res}}} \newcommand{tLaplace}[2]{\mathcal{B}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Weierstrass}[2]{\mathcal{W}_{#1}\left [#2\right ]} $$

:タイトルに体と入っていますが、この記事は体論の知識を前提としていません。代わりに線型代数の基礎(行列式,固有値など)を使います。

はじめに

代数的数とは、有理数係数のモニック多項式の根となる複素数のことです。例えば$0,\frac 12,\sqrt{ -2 }$などは代数的数です。ここで、代数的数全体の集合を$\A$とします($\A$$\Q$の代数的閉包なので、一般的には$\bar \Q$と書かれます)。
この記事では、以下の二つの命題を示します。

(i)$\alpha,\beta \in \A \Rightarrow \alpha+\beta ,\alpha\beta \in \A$
(ii)$\alpha\in \A\setminus\{0\}\Rightarrow \alpha ^{-1}\in \A$

(i)より$\A$が可換環をなす事がわかり、さらに(ii)より$\A$が体をなす事がわかります。

(i) $\A$は可換環

さて、今回のメインパートである(i)を示していきます。まず方針をざっくりと説明します。

$\alpha,\beta\in\A$のとき、$V=\Q[\alpha,\beta]$$\Q$上の有限次元ベクトル空間であり、$V$上の変換$x\mapsto (\alpha +\beta)x$$x\mapsto \alpha\beta x$線型変換なので、$\alpha+\beta$$\alpha\beta$はその表現行列の固有値、つまり固有多項式の根であり、従って代数的数であることが分かります。

この章の末尾にある例を見ると理解しやすいかもしれません。
では証明に入りましょう。まず次の補題を示します。

$\lambda,\gamma_1,\ldots,\gamma_n\in \C ,V=\langle \gamma_1,\ldots,\gamma_n\rangle _{\Q}\neq\{0\}$とする.このとき,
$\lambda \gamma_i\in V(i=1,\ldots,n)$ならば$ \lambda\in \A$

仮定より,
$$\lambda \gamma_i=\sum_{j=1}^n a_{ij}\gamma _j\quad(a_{ij}\in \Q)$$
とおける.このとき,
$$ \begin {aligned} \bm {\gamma}=\left(\begin{matrix}\gamma_1\\ \vdots\\ \gamma_n\end{matrix}\right) \end {aligned}$$
とすれば
$$ \begin {aligned} \lambda\bm\gamma&=\left(\begin{matrix} a_{11}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&\,&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{nn} \end{matrix}\right)\bm\gamma \end {aligned} $$
である. $V\neq \{0\}$より$\bm\gamma \neq \bm 0$なので$\lambda$$(a_{ij})$の固有値であり,
$$ \left |\begin{matrix} a_{11}-\lambda&a_{12}&\cdots&a_{1n}\\ a_{21}&a_{22}-\lambda&\cdots&a_{2n}\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ a_{n1}&a_{n2}&\cdots&a_{nn}-\lambda \end{matrix}\right |=0 $$
左辺に$(-1)^n$を掛けたものは$\lambda$に関する有理数係数のモニック多項式なので,$\lambda\in \A$である.(証明終)

ここまでくれば、あと少しです!
$\alpha,\beta\in \A$に対して、$\alpha+\beta,\alpha\beta\in \A$を示します。

有理数係数のモニック多項式$P,Q$であって, $P(\alpha)=Q(\beta)=0$となるものをとり,それらから最高次の項を除いたものをそれぞれ$p,q$とする.
$V=\langle\alpha^k\beta^l\mid 0\leq k< \deg P,0\leq l<\deg Q\rangle_{\Q}$とすると,
$$ \begin {aligned} \alpha \cdot \alpha ^{k}\beta ^{l}&=\begin {cases} \alpha^{k+1}\beta^l&0\leq k<\deg P-1\\ \alpha^{\deg P}\beta^l=-p(\alpha)\beta^l&k=\deg P-1 \end {cases} \end {aligned} $$
なので, $\alpha\cdot \alpha^k\beta^l\in V$であり,同様に$\beta\cdot \alpha^k\beta^l\in V$でもあるから, $(\alpha+ \beta)\cdot \alpha^k\beta^l,\alpha\beta\cdot \alpha^k\beta^l\in V$である.
$1=\alpha^0\beta^0\in V$より$V\neq\{0\}$であるから,補題より$\alpha+\beta,\alpha\beta\in\A$である.(証明終)

$\sqrt{2}+\sqrt{3}\in \A$を示してみましょう。
$P(x)=x^2-2,Q(x)=x^2-3$とすると,
$V=\langle 1,\sqrt 2,\sqrt 3,\sqrt 6\rangle_{\Q}$となります。
$$ \begin {aligned} \left (\sqrt 2+\sqrt 3\right )\left(\begin{matrix}1\\\sqrt 2\\ \sqrt 3\\ \sqrt 6\end{matrix}\right) &= \underbrace{\left(\begin{matrix} 0&1&1&0\\ 2&0&0&1\\ 3&0&0&1\\ 0&3&2&0 \end{matrix}\right)}_A \left (\begin{matrix}1\\\sqrt 2\\\sqrt 3\\\sqrt 6 \end{matrix}\right ) \end {aligned} $$
なので,$\sqrt 2+\sqrt 3$$A$の固有値であり,$\det (A-\lambda I)=\lambda^4-10\lambda^2+1$の根になっています。本当かどうか気になる人は、ぜひ実際に代入するなり2次方程式を2回解くなりしてみてください。

(ii) $\A$は体

次に(ii)を示していきます。今回は簡単です。
$\alpha \in \A\setminus\{0\}$とします。このとき有理数係数のモニック多項式$P$であって,$P(\alpha)=0,P(0)\neq 0$となるものがとれます(変数をくくり出せば定数項を非零にできる)。
ここで、$Q(x)=P(0)^{-1}x^{\deg P}P(x^{-1})$とおくと、$Q$$\Q$係数のモニック多項式であり,$Q(\alpha^{-1})=(P(0)\alpha^{\deg P})^{-1}P(\alpha)=0$なので$\alpha^{-1}\in \A$です。(証明終)

おまけ ($\A$は代数閉体)

任意の$\A$係数のモニック多項式が$\A$に根を持つことも同様の手法で示せるので、ついでに書いておきます。$\A$は体であり、 代数学の基本定理から$\C$は代数閉体なので、次を示せば良いです。

$P$$0$でない$\A$係数多項式とする. このとき, 複素数$\alpha$$P$の根ならば, $\alpha\in \A$である.

(おまけなので, 概略のみを書きます)
$$ \begin {aligned} P(x)&=\sum _{k=0}^n\gamma_k x^k\quad (\gamma_k\in \A) \end {aligned} $$
とする.
$P\neq0$より, $V=\Q[\alpha,\gamma_0,\ldots,\gamma_n]\neq\{0\}$$\Q$上の有限次元ベクトル空間をなすので, $\alpha$$V$上の線型変換$x\mapsto \alpha x$の表現行列の固有値であるから, $\alpha \in \A$.

$\A $係数多項式$x^2-1-\sqrt 2$の根$\sqrt{1+\sqrt 2}$$\A$に属することを示します。
$V=\Q[1,1+\sqrt{2},\sqrt{1+\sqrt 2}]$$\Q $上の有限次元ベクトル空間をなします($V=\langle 1,\sqrt 2,\sqrt{1+\sqrt 2},\sqrt2 \sqrt{1+\sqrt 2}\rangle_{\Q}$)。
$$ \begin {aligned} \sqrt {1+\sqrt 2} \matrix { 1\\ \sqrt 2\\ \sqrt {1+\sqrt 2}\\ \sqrt 2\sqrt {1+\sqrt 2} } &=\underbrace{\matrix { 0&0&1&0\\ 0&0&0&1\\ 1&1&0&0\\ 2&1&0&0 }}_A \matrix { 1\\ \sqrt 2\\ \sqrt {1+\sqrt 2}\\ \sqrt 2\sqrt {1+\sqrt 2} } \end {aligned} $$
より$\sqrt{1+\sqrt 2}$$A$の固有値なので,$\det (A-\lambda I)=\lambda^4-2\lambda^2-1$の根です。従って$\sqrt{1+\sqrt 2}\in \A$です。

$\A/\Q$は代数拡大ですから、$\A$$\Q$の代数閉包$\bar{\Q}$であることが示されました。
今回は以上です。ありがとうございました。

投稿日:2023313
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