9
大学数学基礎解説
文献あり

多重調和和と多重ゼータ値の級数展開と母関数について

312
2

私がこの前投稿した、"The expanded series of multiple harmonic sums and multiple zeta values" という論文の解説記事です。

全文はこちらからご覧いただけます。

https://zenodo.org/record/7736712

それではさっそくいきましょう。

目的

今回の目的は、多重調和和についての収束する級数展開を手に入れることです。

たとえば指数関数には

ex=k=0xkk!

という級数展開があって、この表示から導ける数々の性質があります。それを多重調和和に適用しようというのが今回の目的です。

記法

  1. この記事を通してインデックスは左向きで書きます。つまり、ζ(α1,,αm):=0<km<km1<<k11k1α1k2α2kmαm=km=1km1=km+1k1=k2+11k1α1k2α2kmαmとします。1<α1 を満たすインデックスを許容インデックスと呼びます。
  2. 右多重調和和をζq(α1,,αm):=0<km<km1<<k1q1k1α1k2α2kmαm=km=1qkm1=km+1qk1=k2+1q1k1α1k2α2kmαmで定義し、左多重調和和をqζ(α1,,αm):=q<km<km1<<k11k1α1k2α2kmαm=km=q+1km1=km+1k1=k2+11k1α1k2α2kmαmと定義します。また、ζq(αk,,αk1)=qζ(αk,,αk1):=1と定義します。
  3. {α}m:=(α,,αm) と定義します。
  4. 差分作用素を Δq[f(q)]:=f(q+1)f(q) で定義します。
  5. S1st(αβ) は符号なし第1種スターリング数を表します。このとき、
    S1st(αβ)=(α1)!ζα1({1}β1) が成立しています。
  6. インデックス A=(α1,,αm) に対して、その除去インデックスをA[j]:=(α1,,αj), A[j]:=(αj+1,,αm) と定義します。
  7. 許容インデックスAに対して、その双対インデックスをAとします。

主定理

記法の紹介が終わったところで、主定理を証明しましょう。

MZV展開公式

許容インデックス A=(α1,,αm) 及びqZ<0に対して次が成立する:

ζ(A)ζq(A)=k=0j=1mAj,kζq(A[j])k+α11q!(q+k+α11)!.
ここで、Aj,kxについての次の恒等式を帰納的に満たす:
x,k=0Aj+1,kx!(x+k+α1)!=k=0Aj,k(k+α11)(x+1)αj+11x!(x+k+α1)!(1jm1),A1,k=S1st(k+α11α11)=(k+α12)!ζk+α12({1}α12).

両辺を差分作用素で計算すれば証明が完了する。まず、左辺は
Δq[ζ(α1,,αm)ζq(α1,,αm)]=Δq[ζq(α1,,αm)]=km=1q+1km1=km+1q+1k1=k2+1q+11k1α1k2α2kmαm+km=1qkm1=km+1qk1=k2+1q1k1α1k2α2kmαm=ζq(α2,,αm)(q+1)α1と計算できる。次に右辺は、
Δq[k=0j=1mAj,kζq(αj+1,,αm)k+α11q!(q+k+α11)!]=k=0ζq(α2,,αm)S1st(k+α11α11)q!(q+k+α1)!k=0j=1m1(Aj+1,kAj,k(k+α11)(q+1)αj+11)ζq(αj+2,,αm)q!(q+k+α1)!=ζq(α2,,αm)(q+1)α1k=0j=1m1(Aj+1,kAj,k(k+α11)(q+1)αj+11)ζq(αj+2,,αm)q!(q+k+α1)! と計算できる。Aj,kの定義から、
k=0j=1m1(Aj+1,kAj,k(k+α11)(q+1)αj+11)ζq(αj+2,,αm)q!(q+k+α1)!=0
を得る。従って
Δq[ζ(α1,,αm)ζq(α1,,αm)]=Δq[k=0j=1mAj,kζq(αj+1,,αm)k+α11q!(q+k+α11)!].
よって両辺は定数の差を除いて等しい。いま、
limqζ(α1,,αm)ζq(α1,,αm)=limqk=0j=1mAj,kζq(αj+1,,αm)k+α11q!(q+k+α11)!=0
より証明は終了する。

Q.E.D.

これで主定理の証明は終わりました。

謎の展開係数

ですが、まだこれだけでは満足できません。謎の展開係数Aj,kがあるからです。

Aj,kの正体を追ってみましょう。

次が成立:
k=0Aj,kk+α11q!(q+k+α11)!=qζ(A[j]).

両辺に差分作用素を適用する。左辺は
Δq[k=0Aj+1,kk+α11q!(q+k+α11)!]=k=0Aj+1,kq!(q+k+α1)!=1(q+1)αj+1k=0Aj,k(k+α11)(q+1)!(q+k+α1)!であり、右辺は
Δq[qζ(A[j+1])]=1(q+1)αj+1q+1ζ(A[j]).
よく見ると同じ漸化式を満たしていることがわかる。A1,k=qζ(α1) は簡単に確認できて、q で両辺は0に収束するから証明は終了する。

Q.E.D.

qZ<0で次が成立する:
ζ(A)=k=0mqζ(A[k])ζq(A[k]).

よって、Aj,kの母関数はqζ(A[j])ということになります。ここからAj,kを求めることができると思いますが、私の力不足により証明には至っていません。予想を紹介します。

Aj,kの明示公式

次が成立:
Aj,k=(k+α12)!(k+α11)((A[j]))[1]2ζk+α12(((A[j]))[1]).
ここで、
A(α)=Aα
とする。

(MZV明示展開公式) 予想

許容インデックスA及びqZ<0に対して次が成立:

ζ(A)ζq(A)=k=0j=1m(k+α12)!ζk+α12(((A[j]))[1])ζq(A[j])(k+α11)((A[j]))[1]1q!(q+k+α11)!.

(双対性) 予想

許容インデックスAに対して次が成立:
ζ(A)=ζ(A)

予想を仮定すれば、MZV明示展開公式においてq=0として
ζ(A)=k=0ζk+α12((A)[1])(k+α11)(A)[1]=ζ(A).

Q.E.D.

予想を仮定すれば双対性を導くことができますが、予想の仮定なしでも種々の結果が得られます。

導かれる結果

One-Height Duality

1<αで次が成立:
ζ(α,{1}m)=ζ(m+2,{1}α2).

主定理において、A=(α,{1}m)及びq=0とすると、
ζ(α,{1}m)=k=0S1st(k+α1α1)(k+α1)m+1(k+α1)!=k=0(k+α2)!ζk+α2({1}α2)(k+α1)m+1(k+α1)!=k=0ζk+α2({1}α2)(k+α1)m+2=ζ(m+2,{1}α2).

Q.E.D.

ζ(α1,α2)=k=1j=0(j+α12)!ζj+α12({1}α12)kα2(j+α11)k!(k+j+α11)!.

主定理より、
ζq(α1,α2)=k=1qζq(α1)ζk(α1)kα2=k=1q(ζ(α1)ζk(α1))(ζ(α1)ζq(α1))kα2=k=1qj=0(j+α12)!ζj+α12({1}α12)kα2(j+α11)(k!(k+j+α11)!q!(q+j+α11)!)
qとして、
ζ(α1,α2)=k=1j=0(j+α12)!ζj+α12({1}α12)kα2(j+α11)k!(k+j+α11)!.

Q.E.D.

例2

次が成立:
ζ(2,α)=k1=1k2=11k1α1k2(k11)!(k21)!(k1+k2)!.

例2

次が成立:
ζ(3,α)=k1=1k2=1ζk2(1)k1α(k2+1)k1!k2!(k1+k2+1)!.

コネクターと似た形が出現するのは面白いですね。

おわりに

今回の記事では多重調和和の展開級数の明示公式を紹介しました。

誰かが予想を証明してくれたらうれしいです。

Aj,kの明示公式(再掲)

次が成立:
Aj,k=(k+α12)!(k+α11)((A[j]))[1]2ζk+α12(((A[j]))[1]).

では最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献

[1]
Hanamichi Kawamura, Takumi Maesaka, Shin-ichiro Seki, Multivariable connected sums and multiple polylogarithms, arXiv
投稿日:2023317
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

みつき
みつき
26
5690
数学が好きな大学1年生です。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 目的
  2. 記法
  3. 主定理
  4. 謎の展開係数
  5. 導かれる結果
  6. おわりに
  7. 参考文献