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大学数学基礎解説
文献あり

ガロア理論⑧ Gauss の補題

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はじめに

今回は,整数係数多項式にまつわる重要な事実 Gauss の補題とその系を証明します。この事実から整数係数多項式の上既約性にある程度の判定を与えることができ,とくに円分多項式[1]とよばれる重要な多項式の既約性が示されます。

Gauss の補題

原始多項式

f[x]とし,f(x)=a0+a1x++anxnとする。
(a0,a1,,an)=1であるとき,f(x)原始的あるいは原始多項式であるという。

Gauss の補題

g,h[x]が原始的ならば積f=gh[x]も原始的である。

背理法で示す。つまり,ある素数pfのすべての係数を割り切り,かつpgの係数のすべては割り切らず,hについても同様と仮定して矛盾を導く。
g(x)=b0+b1x++bmxm
h(x)=c0+c1x++cnxn
f(x)=a0+a1x++am+nxm+n
(ai,bi,ci(i),am+n,bm,cn0でない) とすると
ak=b0ck+b1ck1++bkc0(0km+n)
仮定から,b1,,bmおよびc1,,cnの中にpで割り切れないものが存在するから,その中で添字が最小のものをそれぞれbi,cjとする。
このとき,k=i+jとすると
ak=(b0ck++bi1cj+1)+bicj+(bi+1cj1++bkc0)
bicjpで割り切れず,それ以外の項はpで割り切れるから,akpで割り切れないことになるが,pfのすべての係数を割り切ることに矛盾する。
したがって,fが原始的でないならば,gまたはhは原始的でないことになる。
対偶をとれば元の命題も示される。□

Gauss の補題
  • g(x)=4x24x15,h(x)=5x2+13x6とすると
    f(x)=20x4+32x3151x2171x+90

Gauss の補題

f[x]上可約であるとき,f=ghを満たす定数でないg,h[x]がとれる。かつ,fがモニックならば,g,hがモニックになるようにとれる。

前半のステートメントは言い換えれば,「f[x]上可約ならば上可約」もしくは「f[x]上既約ならば上既約」ということになる。

前半

上可約なf[x]は定数でないg,h[x]を用いてf=ghとかける。さらに,適当なb,c×によってbg,ch[x]となるようにできる。このとき,G=bg,H=ch,a0=bcとすればa0f=GH
a0=1ならば,f=GHf[x]上の分解である。
a0>1ならば,a0fのすべての係数を割り切る素数p0が存在し,しかも補題1によりp0GまたはHのすべての係数を割り切る[2]。たとえばGがそうであったとし,1p0G[x]を新たにGと置きなおすと,a1f=GH(a1=a0p0)
a1=1ならば,f=GHf[x]上の分解である。
a1>1ならば,上と同じように操作を繰り返しa2を得る。
このようにして得られる列(an)は狭義単調減少な正整数の列であるから,(an)有限数列である。したがってan=1を満たすnが存在する。□

前半が示されれば,後半はほとんど明らかである。

後半

モニック多項式f[x]f=gh(g,h[x])と分解されたとし,g,hの最高次係数をそれぞれb,cとする。このときbc=1であるから(b,c)=(1,1),(1,1)
前者の場合g,hはモニックである。
後者の場合g,hはモニックで,f=(g)(h)である。□

例は割愛する。

系の前半の証明における操作は,a0の素因数分解に現れる(重複を含めた)素数の個数と同じ回数で終わる。



[1]: 素数pに対し,1+x++xp1上既約である。証明は次回する。



[2]: 補題1のステートメントからは直接的に明らかでないかもしれない。その証明で用いた背理法の仮定が誤りであることを用いると直ちにわかる。

参考文献

[1]
加藤文元, ガロア理論12講
投稿日:2023319
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Qualtagh
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数学徒 じゅけんせいのすがた 扱う分野:位相空間論 群論 環論 体論 位相幾何

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