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大学数学基礎解説
文献あり

Refined対称多重ゼータ値とBTT philosophy

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はじめに

この記事では, [3] で導入された refined 対称多重ゼータ値 ζRS(k) と [1] で導入された ξ-value ξ(k) について基本的な性質を取り扱い, これらが一致することを示します. 内容はほとんどこれらの論文に基づきます. 双方の文献で index の向きが違うのを読みやすくするための個人的な覚書ですので, 原論文とは若干記号の用法が異なります. 調和代数の性質など, いくつか証明を省略しているところがありますが, 適宜参考文献をご参照いただければと思います. 不明点・ご意見・文句などあれば私の Twitter もしくは Instagram までお願いいたします.

調和代数

非負整数 r に対し, (Z1)r の元を 深さ r の index と呼ぶ. とくに, 深さ 0 の index はただ一つ存在するものと考え, これを と書く. 深さを問わない index 全体の集合を I0 と書き, I:=I0{}, R0:=spanQI0 とおく. さらに, 正整数 k に対し, I0 上の Q 線型写像 Rk:I0Ik(k,k) によって定める (要は右端の成分として k を付け足す操作である. 今後も index に括弧を付ける付けないは文脈から想像できるものとして曖昧に扱う).

調和積

次の規則によって R0 上の Q 双線型写像 を定める:
k=k=k(kI0),Rk(k)Rl(l)=Rk(k(l,l))+Rl((k,k)l)+Rk+l(kl)(k,lI0, k,lZ1)
調和積 と呼ばれ, (R0,) は可換かつ結合的な Q 代数になる ([5, Theorem 2.1]).

代数的正規化

I0 の部分集合 I0
I0:={}r=1((Z1)r1×Z2)
と定め, これの元を admissible index と呼ぶ. R0:=spanQI0 とおく. 調和積の定義より, (R0,)(R0,) の部分 Q 代数になっていることがわかる.

[6, Corrollary 5]

次の性質を満たす Q 線型写像 reg:R0R0 が一意に存在する:
kI0 と非負整数 n に対し, R0 における等式
(k,{1}n)=j=0nreg(k,{1}nj)j!(1)(1)j
が成り立つ. ここで (k,{1}N) とは kR1N 回適用してできる index である.

この命題から regQ 代数の準同型 (R0,)(R0,) を定めていることもわかる.

対称化写像

index k=(k1,,kr) に対し
ϕ(k):=j=0r(1)kj+1++kr(k1,,kj)(kr,,kj+1)R0
と定める. k= のときは ϕ(k)= と考える. これを延長してできる Q 線型写像 ϕ:R0R0対称化写像 と呼ぶ (名称としての初出は [7] でしょうか?).

いかなる index も ϕ で写すと常に admissible index の線型和になる: 即ち ϕ(R0)R0 である.

次節以降の結果を用いるが, index k が admissible であることと ζ(k;T)T に依らないことは同値である. したがって ζ(ϕ(k);T) が定数であることを示せばよいが, これは補題 18 からわかる.

多重ゼータ値と調和正規化

多重ゼータ値

admissible index k=(k1,,kr) に対し
ζ(k):=0<n1<<nr1n1k1nrkrR
とおき, 多重ゼータ値 と呼ぶ. k= なら ζ(k):=1 とおく. 多重ゼータ値の張る空間を Z:=spanQ{ζ(k)kI0} と書く.

対応 kζ(k)Q 線型に延長することで ζ:R0R が定まるが, 次が知られている.

調和関係式

ζQ 代数の準同型 (R0,)R を与える.

調和関係式と命題 1 より, Q 代数の準同型 ζ(;T):(R0,)R[T] であって, (1)T に送り, また R0 上に制限すると ζ に一致するようなものが一意に存在する. これを ζ(;T) と書き, 調和正規化多項式 と呼ぶ. 命題 1 より, ζ(k;T) の多項式としての次数は k の末尾に並ぶ 1 の個数に等しい (とくに k が admissible であることと ζ(k;T) が定数であることは同値である).

いかなる index k=(k1,,kr) に対してもある正の定数 J(k) が存在して
0<n1<<nr<N1n1k1nrkr=ζ(k;logN+γ)+O(N1(logN)J(k))(N)
が成り立つ. ここで
γ:=limN(n=1N1nlogN)
は Euler 定数である.

対称多重ゼータ値

命題 2 により, 任意の index k に対し ζS(k):=ζ(ϕ(k)) が意味を持つ. この値の Z/ζ(2)Z における射影を ζS(k) と書き, 対称多重ゼータ値 と呼ぶ.

調和正規化多項式が Q 代数準同型 (R0,)Z[T] を与えていたことから
ζS(k1,,kr)=j=0r(1)kj+1++krζ(k1,,kj;T)ζ(kr,,kj+1;T)
と書くこともできる (命題 2 より右辺は T に依らない).

反復積分

以後, D と書いたら C の有限部分集合のこととする.

接基点とpath

C の点 pTp(C) の元 v/t (vC{0}) の組を 接基点 と呼び, 単に vp と書く. 接基点 vp, vp が与えられているとき, 区分的に滑らかな連続写像 γ:[0,1]C
γ(0)=p,γ(1)=p,limt+0γ(t)pt=v,limt10γ(t)pt1=v
をすべて満たし, かつ 0<t<1 ならば γ(t)CD となるとき, γvp から vp への CD 上の path と呼ぶ.

接基点 p,p が与えられているとき, p から p への path のホモトピー類 (これの定義は [2, §3.8.3] 参照) 全体の集合を π1(CD;p,p) と書く. このとき path どうしの合成
π1(CD;p,p)×π1(CD;p,p)(γ1,γ2)↦∈γ1γ2π1(CD;p,p)
および (p は接基点), path の逆向きを与える写像
π1(CD;p,p)γγ1π1(CD;p,p)
が定まる.

シャッフル積

D の元で添字付けられた形式的変数による Q 上の非可換多項式環を HD:=QezzD と書く. このとき Q 双線型写像 ш:HD×HDHD
1шw=wш1=w(wHD),wezшwez=(wezшw)ez+(wшwez)ez(w,wHD, z,zD)
というルールによって帰納的に定める. (HD,ш) は可換かつ結合的な Q 代数になる.

とくに, H0:=Qe1H{0,1}e0, H1:=Qe1H{0,1} とおくと, j{0,1} に対し (Hj,ш)Q 代数となる. 一方, 簡単にわかるように, index k=(k1,,kr) に対し w(k):=e1e0k11e1e0kr1 とおくと w は全単射 R0H1 を与え, また R0 に制限すると H0 への全単射を与える. この対応を通じて, index k, l に対し kшl:=w1(w(k)шw(l))R0 とおいて Q 双線型に延長することで R0 および R0 に ( とは異なる積 ш によって) Q 代数の構造が入る.

正規化反復積分

p, p を接基点, γπ1(CD;p,p) とする. このとき, 任意の a1,,akD に対し, ある非負整数 N および c0,,ckC が存在して
z<t1<<tk<1zj=1kdγ(tj)γ(tj)aj=j=0Ncj(logz)j+O(z(logz)N+1)(z+0)
となる. これを用いて
IγT(p;ea1eak;p)=j=0Ncj(T)j
とおき, とくに T=0 を代入してできる写像 (つまりいまの記号なら ea1eakc0) を Q 線型に延長して Iγ(p;;p):HDC を定める.

ζ(1;T)=ζш(1;T)=T が成り立つように定義したかったため, 既存の文献で採用されている反復積分の正規化多項式の記号 (たとえば [4, §5] の冒頭) とは T の符号が違います.

定義中に現れた z に関する漸近展開において, もし a1p かつ akp であれば, そもそも左辺の積分が z+0 で収束するため N=0 となって IγT(p;ea1eak;p) の値が T に依らないことがわかる.

反復積分の基本性質

p,p,p を接基点, γ,γ1π1(CD;p,p), γ2π1(CD;p;p) とし, w=ea1eak, wHD の元としたとき, 次が成り立つ.

  1. (シャッフル積公式) Iγ(p;w;p)Iγ(p;w;p)=Iγ(p;wшw;p).
  2. (反転公式) Iγ(p;w;p)=(1)kIγ1(p;eakea1;p).
  3. (path分解公式) Iγ1γ2(p;w;p)=j=0kIγ1(p;ea1eaj;p)Iγ2(p;eaj+1eak;p).

以後, tt (t[0,1]) から定まる π1(C{0,1};10,(1)1) の元を dch と書く.

admissible index k に対し
ζ(k)=(1)rIdch(10;w(k);(1)1)
が成り立つ.

命題 6 より, 写像
I0k(1)rIdchT(10;w(k);(1)1)C[T]
I0 に制限したとき ζ(k) に一致する. これを ζш(;T) と書くことにし, とくに T=0 を代入して得られる値を ζш(k) などと書く.

あとに述べるように, ζш(k;T)ζ(k;T) は同じではないものの互いに深く関係している. たとえば次が成り立つ:

[6, Corollary 5]

次の性質を満たす Q 線型写像 regш:R0R0 が一意に存在する:
kI0 と非負整数 n に対し, R0 における等式
(k,{1}n)=j=0nregш(k,{1}nj)j!ш(1)шш(1)j
が成り立つ.

admissible index k と非負整数 n に対し
ζш(k,{1}n;T)=j=0nζш(k,{1}nj)j!Tj
が成り立つ.

k の深さを r と書く. 命題 7 の両辺に w を適用することで H1 での等式だと思い, IdchT(10;;(1)1) を適用することで, シャッフル積公式 (命題 5 (1)) より
IdchT(10;w(k)e1n;(1)1)=j=0nIdchT(10;(wregш)(k,{1}nj);(1)1)IdchT(10;e1;(1)1)jj!
となる. regш の像は常に H0 に入ることから, 多重ゼータ値の反復積分表示 (命題 6) より
IdchT(10;w(k)e1n;(1)1)=j=0nIdch0(10;(wregш)(k,{1}nj);(1)1)IdchT(10;e1;(1)1)jj!=j=0n(1)r+njζ(regш(k,{1}nj))IdchT(10;e1;(1)1)jj!
となる. また
z<t<1zddch(t)dch(t)1=logz1z=logz+O(z)(z+0)
であるから IdchT(10;e1;(1)1)=T となり, したがって
ζш(k,{1}n;T)=(1)r+nj=0n(1)r+njζ(regш(k,{1}nj));(1)1)(T)jj!=j=0nζ(regш(k,{1}nj))Tjj!
を得る. 両辺で T=0 とすることで ζш(k,{1}n)=ζ(regш(k,{1}n)) となるから目的の主張を得る.

対称多重ゼータ値が T に依らない値
ζS(k1,,kr):=j=0r(1)kj+1++krζ(k1,,kj;T)ζ(kr,,kj+1;T)
Z/ζ(2)Z 上の射影として定義できたことを思い出し,
ζSш(k1,,kr):=j=0r(1)kj+1++krζш(k1,,kj;T)ζш(kr,,kj+1;T)
と定めておく (あとで T に依らないことを示す).

Refined対称多重ゼータ値

[3, Definition 2]

複素平面上で 1 の周囲を反時計回りに一周する path のホモトピー類を απ1(C{0,1};(1)1,(1)1) と書き, β:=dchαdch1π1(C{0,1};10,10) とおく. index k=(k1,,kr) に対し
ζRS(k):=(1)r2πiIβ(10;e1e0k11e1e0kr1e1;10)
とおき, refined 対称多重ゼータ値 と呼ぶ.

index k=(k1,,kr) に対し
ζRS(k)=0abrkj=1 (a<jb)(2πi)ba(b+1a)!(1)kb+1++krζш(k1,,ka)ζ(kr,,kb+1)
が成り立つ.

k:=k1++kr と書き, e1e0k11e1e0kr1e1=ea1eak+1 と書く. まず β=dchαdch1 であったから, path 分解公式と反転公式 (それぞれ命題 5 の (3), (2)) より
ζRS(k)=(1)r2πi0cdk+1Idch(10;ea1eac;(1)1)Iα((1)1;eac+1ead;(1)1)Idch1((1)1;ead+1eak+1;10)
であるが, 右辺の和における c=d の部分は, path 分解公式をもう一度使うことによって
(1)r2πi0c=dk+1Idch(10;ea1eac;(1)1)Idch1((1)1;ead+1eak+1;10)=Idchdch1(10;ea1eak+1;10)=0
となる. また α の定義より
Iα((1)1;eac+1ead;(1)1)={(2πi)dc/(dc)!(ac+1==ad=1),0(otherwise)
であるから, 結局
ζRS(k)=(1)r2πi0c<dk+1ac+1==ad=1(2πi)dc(dc)!Idch(10;ea1eac;(1)1)Idch1((1)1;ead+1eak+1;10)=(1)r2πi0abrka+1=kb=1(2πi)b+1a(b+1a)!Idch(10;e1e0k11e1e0ka1;(1)1)Idch1((1)1;e0kb+11e1e0kr1e1;10)
と書ける. さらに右辺は反転公式と ζш の定義により
ζRS(k)=(1)r2πi0abrka+1==kb=1(2πi)b+1a(b+1a)!Idch(10;e1e0k11e1e0ka1;(1)1)(1)kb+1++krIdch(10;e1e0kr1e1e0kb+11;(1)1)=0abrka+1==kb=1(2πi)ba(b+1a)!ζш(k1,,ka)ζш(kr,,kb+1)
と計算できる.

任意の index k に対し ζRS(k)Z[2πi] であり, mod 2πiZζSш(k1,,kr) に一致する.

q-多重調和和

正整数 N に対し ζN:=exp(2πi/N) とおく.

q-多重調和和

N を正整数, qC{zzj=1(j=1,,N1)} とする. このとき index k=(k1,,kr) に対し
zN(k;q):=0<n1<<nr<Nj=1rq(kj1)nj[nj]qkj
とおく. ここで正整数 n に対し
[n]q:=1qn1q
である.

Nk の深さ以下になるときは zN(k;q):=0 だと思うことにして, zN(;q):=1 としておく.

index k=(k1,,kr) に対し, 補助的な和
AN(k):=0<n1<<nr<N/2j=1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj,AN+(k):=0<n1<<nrN/2j=1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj,
を定める (両者の違いは和の上限と指数部分の符号のみである). k= なら両者とも 1 と思っておく.

index k=(k1,,kr) に対し
AN(k)={AN+(k)(N が奇数),AN+(k)+(πiN)krAN(k1,,kr1)(N が偶数),
が成り立つ. ここで上付きのバーは複素共役を表す.

奇数の場合は ANAN+ の定義において和の範囲に違いがないためすぐにわかる. N が偶数のときは AN+ の定義に現れる和を分割することで
AN(k)=(0<n1<<nrN/20<n1<<nr=N/2)j=1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj=AN+(k)eπi(kr2)/2(N/π)krAN(k1,,kr1)=AN+(k)+(πiN)krAN(k1,,kr1)
となる.

index k=(k1,,kr) に対し
zN(k;ζN)=(eπi/NNπsin(πN))k1++krj=0r(1)kj+1++krAN+(k1,,kj)AN(kr,,kj+1)
が成り立つ.

0<n<N に対し
1[n]ζN=1exp(2πi/N)1exp(2πim/N)=eπi/NNπsin(πN)eπin/NNsin(πn/N)/π
であるから
zN(k;ζN)=(eπi/NNπsin(πN))k1++kr0<n1<<nr<Nj=1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj
が成り立つ. 右辺の和の範囲において, N/2 がどこに位置しているかに注目することで
(eπi/NNπsin(πN))(k1++kr)zN(k;ζN)=a=0r(0<n1<<naN/2j=1aeπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj)(N/2<na+1<<nr<Nj=a+1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj)=a=0rAN+(k1,,ka)(N/2<na+1<<nr<Nj=a+1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj)
という分割ができるが, 残った後ろの和で mj:=Nnr+1j (j=a+1,,r) という変換を施すことで
N/2<na+1<<nr<Nj=a+1reπi(kj2)nj/N(Nsin(πnj/N)/π)kj=0<m1<<mra<N/2j=a+1reπi(kj2)mr+1j/N(Nsin(πmr+1j/N)/π)kj=(1)ka+1++krAN(kr,,ka+1)
が得られる.

任意の admissible index k=(k1,,kr) に対し正整数 J1(k) が存在して
AN+(k)=ζ(k)+O(N1(logN)J1(k))(N)
が成り立つ.

k= のときは明らかである. 実数 x と正整数 k に対し
gk(x):=e(k2)ix(xsinx)k
とおくと
AN+(k)=0<n1<<nrN/2j=1rgkj(πnj/N)njkj
であるから
|AN+(k)ζ(k)|=|0<n1<<nrN/2j=1rgkj(πnj/N)1n1k1nrkrm>N/2(0<n1<<nr1<m1n1k1nr1kr1)1mkr|0<n1<<nrN/2|j=1rgkj(πnj/N)1|n1k1nrkr+m>N/2(0<n1<<nr1<m1n1k1nr1kr1)1mkr
と分割できる. 右辺の第一項, 第二項をそれぞれ I1, I2 と書くことにし, まず I1 を評価する: x=0x/sinx が解析的であることより
gk(x)=1+(k2)ix+o(x)(x+0)
と書けて, このことより 0<njN/2 なら |gkj(πnj/N)1|<Cjnj/N なる正の定数 Cj が存在する. この評価と
j=1rgkj(πnjN)1=j=1r(h=1j1gkj(πnjN))(gkj(πnjN)1)
を組み合わせれば
I10<n1<<nrN/21n1k1nrkrj=1r|(h=1j1gkj(πnjN))(gkj(πnjN)1)|0<n1<<nrN/21n1k1nrkrj=1r(h=1j1πnj/Nsin(πnj/N))CjnjN
と評価できる. さらに 0<nj<N/2 より 0<1/sin(πnj/N)N/2nj であるから, 正定数 C0 を用いて
I1C0N0<n1<<nrN/2n1++nrn1k1nrkrrC0N0<n1<<nrN/21n1k1nr1kr1nrkr1
とできる. kr2 という仮定により, 多重調和和の漸近展開 (命題 4) によって, ある定数 J(k)>0 を用いて I1=O(N1(logN)J(k)) (N) とできる. また, 定義より
I2=ζ(k)0<n1<<nr<N/21n1k1nrkr
であり, k が admissible である (したがって ζ(k;T)=ζ(k) である) から, 命題 4 によって I2=O(N1(logN)J(k)) (N) なる定数 J(k)>0 があることもわかる.

N での漸近展開
AN+(1)=logNπ+γπi2+O(N1)
が成り立つ.

定義より
AN+(1)=n=1N/2cos(πn/N)isin(πn/N)Nsin(πn/N)/π=πNn=1N/21tan(πn/N)πi2+πiχN2N
と書ける (χNN が偶数なら 0, 奇数なら 1). 実数 x>0 に対し f(x):=1/x1/tanx とおくと, これは区間 (0,π) 上で非負かつ単調増加であることから
0(N1)/2f(πxN)dxn=1N/2f(πnN)1N/2+1f(πxN)dx
と評価できる. ここで FN(x):=log(πx/N)logsin(πx/N) とおくと FN(x)=πf(πx/N)/N であるから両側の積分は
πN0(N1)/2f(πxN)dx=FN(N12)FN(0)=logπ2+log(11N)logcosπ2N=logπ2+O(N1)(N),πN1N/2+1f(πxN)dx=FN(N2+1)FN(1)=logπ2+log(N+2πtanπN)=logπ2+O(N1)(N)
と評価できる. これと先ほどの不等式から
AN+(1)=πi2+πiχN2N+n=1N/21nπNn=1N/2f(πnN)=πi2+n=1N/21nlogπ2+O(N1)(N)
という風にできるが, 古典的な評価
n=1N/21n=logN2+γ+O(N1)(N)
より補題が従う.

任意の index k に対し, 正整数 J0(k) が存在して
AN±(k)=ζ(k;logNπ+γπi2)+O(N1(logN)J0(k))(N)
が成り立つ.

AN+(k) に関する主張のみ示せばよい (AN(k) の漸近展開はそれと補題 9 より従う). admissible index l=(l1,,ls) と非負整数 n を用いて k=(l,{1}n) と書いておいて, n の帰納法で証明を行う. n=0 のときは補題 11 そのものである. 適当な n でできているとすれば, 正整数 k,n (0<nN/2) に対して成り立つ等式
eπi(k2)n/N(Nsin(πn/N)/π)keπin/NNsin(πn/N)/π=eπi(k1)n/N(Nsin(πnj/N)/π)k+12πiNeπi(k2)n/N(Nsin(πnj/N)/π)k
を用いることで
AN+(l,{1}n)AN+(1)=(n+1)AN+(l,{1}n+1)+j=1nAN+(l,{1}j1,2,{1}nj)2πiNnAN+(l,{1}n)+j=1s(AN+(l1,,lj1,1,lj,,ls,{1}n)+AN+(l1,,lj1,lj+1,lj+1,,ls,{1}n)2πiNAN+(l,{1}n))
と計算できる. 右辺の第一項以外には帰納法の仮定が適用できるため,
TN:=logNπ+γπi2
と書くことにすれば, 正整数 J2(k), J3(k) が存在して
AN+(l,{1}n)AN+(1)=(n+1)AN+(l,{1}n+1)+j=1nζ(l,{1}j1,2,{1}nj;TN)2πiN(n+s)ζ(l,{1}n;TN)+j=1s(ζ(l1,,lj1,1,lj,,ls,{1}n;TN)+ζ(l1,,lj1,lj+1,lj+1,,ls,{1}n;TN))+O(N1(logN)J2(k))=(n+1)AN+(l,{1}n+1)+ζ((l,{1}n)(1);TN)(n+1)ζ(l,{1}n+1;TN)+O(N1(logN)J3(k))(N)
となる (命題 1 と調和正規化多項式の定義により, ζ(l,{1}n;TN)TN の多項式であったことに注意. 二つ目の等号はそれを用いて 2πi/N の掛かった項を O シンボルの中に吸収し, 残った部分を調和積の定義から計算するとわかる). 一方で, これの左辺にも帰納法の仮定を適用できる: 補題 12 によって AN(1)=TN+O(N1) が成り立つから, ある正整数 J3(k) があって
AN+(l,{1}n)AN+(1)=TNζ(l,{1}n;TN)+O(N1(logN)J3(k))(N)
となる. これと今までの結果を合わせると, 正整数 J4(k) を用いて
AN+(l,{1}n+1)=ζ(l,{1}n+1;TN)+1n+1(TNζ(l,{1}n;TN)ζ((l,{1}n)(1);TN))+O(N1(logN)J4(k))(N)
という評価が得られるが, ζ(;TN) が調和積に関する準同型であったことから TNζ(l,{1}n;TN)=ζ((l,{1}n)(1);TN) となって目的の結果が得られる.

index k=(k1,,kr) に対し
ξ(k):=limNzN(k;ζN)=j=0r(1)kj+1++krζ(k1,,kj;πi2)ζ(kr,,kj+1;πi2)
が成り立つ.

zN(k;ζN) の表示 (補題 10) と AN± の漸近展開 (命題 13) から, 正整数 J5(k) を用いて
zN(k;ζN)=j=0r(1)kj+1++krζ(k1,,kj;logNπ+γπi2)ζ(kr,,kj+1;logNπ+γ+πi2)+O(N1(logN)J5(k))(N)
と書けるが, 補題 18 より右辺にある有限和は示したい等式の右辺に等しい.

母関数の計算

R を可換環とする. 写像 Z1,Z2:I0R が与えられているとき, index k=(k1,,kr) に対し
S(k):=j=0r(1)kj+1++krZ1(k1,,kj)Z2(kr,,kj+1)R
とおく. このとき, j{1,2} に対し
Fj:=kI0Zj(k)XkRX0,X1
とおくと
F1X1ε(F2)=kI0S(k)XkX1
が成り立つ. ここで index k=(k1,,kr) に対し Xk:=X1X0k11X1X0kr1 と書いており, εXjXj (j{0,1}) から定まる RX0,X1 上の反準同型である.

j1,,jk{0,1} および PRX0,X1 が与えられているとき, W:=Xj1Xjk における P の係数を P,W と書く. F1,F2RX1RX0,X1 であるから F1X1ε(F2)X1RX1RX0,X1X1 であり, したがって示すべきことは F1X1ε(F2),XkX1=S(k) ということになる. この等式は, k=(k1,,kr) と書くと
F1X1ε(F2),XkX1=j=0rF1,X1X0k11X1X0kj1ε(F2),X0kj+11X1X0kr1X1=j=0rF1,X1X0k11X1X0kj1(1)kj+1++krF2,X1X0kr1X1X0kj+11=j=0r(1)kj+1++krZ1(k1,,kj)Z2(kr,,kj+1)
のようにしていえる.

{,ш} に対し, 前節までで定義した量 ζ(k;T) の母関数を
Φ(X0,X1;T):=kI0ζ(k;T)XkC[T]X0,X1
として定める.

冪級数 Γ0(X)R[[X]]
Γ0(X):=exp(k=2ζ(k;T)kXk)
で定める. 通常のガンマ関数とは Γ0(X)=eγXΓ(1X) という関係がある.

正規化定理 ([6, Theorem 1])

C 線型写像 ρ:C[T]C[T]
exp(TX)Γ0(X)=k=0ρ(Tk)Xkk!
によって定めると, 任意の index k に対し ζш(k;T)=ρ(ζ(k;T)) が成り立つ.

{,ш} に対し, C[T]X0,X1 における等式 Φ(X0,X1;T)=Φ(X0,X1;0)exp(TX1) が成り立つ.

ζ の定義および命題 1 より, = なら
Φ(X0,X1;T)=kI0ζ(k;T)Xk=lI0n=0ζ(l,{1}n;T)XlX1n=lI0n=0j=0nζ(l,{1}nj;0)Tjj!XlX1n=lI0n,j=0ζ(l,{1}n;0)Tjj!XlX1n+j=lI0n=0ζ(l,{1}n;0)XlX1nexp(TX1)=kI0ζ(k;0)Xkexp(TX1)=Φ(X0,X1;0)exp(TX1)
とできる. =ш の場合でも命題 7 およびその系を用いれば同じ結果が示せる.

CX0,X1 における等式 Φш(X0,X1;0)=Φ(X0,X1;0)Γ0(X1) が成り立つ.

ρ を係数ごとの作用で C[T]X0,X1C[T]X0,X1 に延長すると, 正規化定理より Φш(X0,X1;T)=ρ(Φ(X0,X1;T)) である. これと補題 17 を使うと, ρ の定義より
Φш(X0,X1;0)=Φш(X0,X1;T)exp(TX1)=ρ(Φ(X0,X1;T))exp(TX1)=ρ(Φ(X0,X1;0)exp(TX1))exp(TX1)=Φ(X0,X1;0)exp(TX1)Γ0(X1)exp(TX1)=Φ(X0,X1;0)Γ0(X1)
を得る.

index k=(k1,,kr){,ш} に対し, 値
ζ(k;T,X):=j=0r(1)kj+1++krζ(k1,,kj;TX)ζ(kr,kj+1;T+X)R[T,X]
の母関数は
kI0ζ(k;T,X)XkX1=Φ(X0,X1;0)exp(2XX1)X1ε(Φ(X0,X1;0))
と書けて, とくに T に依らない.

補題 15 より
Φ(X0,X1;TX)X1ε(Φ(X0,X1;T+X))=kI0ζ(k;T,X)XkX1
と書けるが, これの左辺は補題 17 により
Φ(X0,X1;TX)X1ε(Φ(X0,X1;T+X))=Φ(X0,X1;0)exp(TX1XX1)X1ε(Φ(X0,X1;0)exp(TX1+XX1))=Φ(X0,X1;0)exp(TX1XX1)X1exp(TX1XX1)ε(Φ(X0,X1;0))=Φ(X0,X1;0)exp(2XX1)X1ε(Φ(X0,X1;0))
となる.

任意の index k に対し ξ(k)=ζRS(k) が成り立つ.

まず
F:=Φ(X0,X1;0)exp(πiX1)X1ε(Φ(X0,X1;0))
とおくと, 補題 18 および定理 14 より
F=kI0ξ(k)XkX1
がわかる. 一方で, index k=(k1,,kr) を逆向きにしたものを k=(kr,,k1) と書くことにし, wt(k):=k1++kr とおけば, 命題 8 より
kI0ζRS(k)XkX1=k,lI0n=0(2πi)n(n+1)!(1)wt(l)ζш(k)ζш(l)XkX1nXlX1=k,lI0n=0(2πi)n(n+1)!ζш(k)ζш(l)XkX1n+1ε(Xl)=(kI0ζш(k)Xk)(n=0(2πi)n(n+1)!X1n+1)ε(lI0ζш(l)Xl)=Φш(X0,X1;0)exp(2πiX1)12πiε(Φш(X0,X1;0))
となり, 補題 17 の系から
kI0ζRS(k)XkX1=Φ(X0,X1;0)Γ0(X1)exp(2πiX1)12πiε(Φ(X0,X1;0)Γ0(X1))=Φ(X0,X1;0)Γ0(X1)Γ0(X1)exp(2πiX1)12πiε(Φ(X0,X1;0))
がわかる. ガンマ関数と Γ0 の関係および相反公式を用いれば
Γ0(X1)Γ0(X1)exp(2πiX1)12πi=πX1sinπX1exp(2πiX1)12πi=eπiX1X1
であるから, F の定義より
kI0ζRS(k)XkX1=F
が得られた.

参考文献

[1]
J. I. Burgos Gil and J. Fresán, Multiple zeta values: From numbers to motives, to appear in Clay Mathematics Proceedings
[2]
M. Hirose and N. Sato, The motivic Galois group of mixed Tate motives over $\mathbb{Z}[1/2]$ and its action on the fundamental group of $\mathbb{P}^{1}\setminus\{0,\pm 1,\infty\}$, preprint, arXiv:2007.04288, 2020
[3]
K. Ihara, M. Kaneko and D. Zagier, Derivation and double shuffle relations for multiple zeta values, Compos. Math., 2006, pp. 307-338
[4]
H. Bachmann, Y. Takeyama and K. Tasaka, Cyclotomic analogues of finite multiple zeta values, Compos. Math., 2018, pp. 2701-2721
[5]
M. Hirose, Double shuffle relations for refined symmetric multiple zeta values, Doc. Math., 2020, pp. 365-380
[6]
M. Ono, $t$-adic symmetrization map on the harmonic algebra, J. Algebra, 2022, pp. 654-669
[7]
M. E. Hoffman, The algebra of multiple harmonic series, J. Algebra, 1997, pp. 477-495
投稿日:2023320
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  1. はじめに
  2. 調和代数
  3. 多重ゼータ値と調和正規化
  4. 反復積分
  5. Refined対称多重ゼータ値
  6. $q$-多重調和和
  7. 母関数の計算
  8. 参考文献