$$\newcommand{A}[0]{\mathbb{A}}
\newcommand{Ab}[0]{\mathcal{A}b}
\newcommand{btl}[1]{\boxtimes_l^{#1}}
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\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}}
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\newcommand{func}[3]{{#1}\,\colon{#2}\to{#3}}
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\newcommand{mor}[3]{\operatorname{Hom}_{#1}({#2},{#3})}
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$$
導入
証明が気になったので,モノイドや群における指数法則を,累乗の帰納的定義のみを用いて示してみました.
$\mathbb{Z}$で整数の全体を,$\mathbb{N}$で非負整数の全体を表します.
モノイドにおける指数法則
$M$をモノイドとして,その演算を$\cdot$で表し,単位元を$1$で表す.
$x\in M$と$n\in\mathbb{N}$に対して,$M$の元$x^n$を$x^0=1$と$x^{n+1}=x^n\cdot x$ ($n\in\mathbb{N}$) により帰納的に定義する.
$x\in M$に対して$x^1=x^{0+1}=x^0\cdot x=1\cdot x=x$である.
指数法則 1
任意の$x\in M$と$m,n\in\mathbb{N}$に対して
$$(1)_{x,m,n}\,\,\,\,\,\,\,\,x^{m+n}=x^m\cdot x^n.$$
である.
$x\in M$と$m\in\mathbb{N}$を任意に取り,等式$(1)_{x,m,n}$が成り立つことを$n$に関する帰納法で示す.
$x^{m+0}=x^m=x^m\cdot1=x^m\cdot x^0$なので$(1)_{x,m,0}$は成り立つ.
$n\in\mathbb{N}$を任意に取る.$(1)_{x,m,n}$が成り立てば,
$${x^{m+(n+1)}
=x^{(m+n)+1}
=x^{m+n}\cdot x
\overset{(*)}{=}(x^m\cdot x^n)\cdot x
=x^m\cdot(x^n\cdot x)
=x^m\cdot x^{n+1}.}$$
となって$(1)_{x,m+1,n}$も成り立つ ($(*)$では$(1)_{x,m,n}$を用いた).
命題 1 の別証明
$x\in M$と$k\in\N$を任意に取り,「$k=m+n$をみたす任意の$m,n\in\N$について等式$(1)_{x,m,n}$が成り立つ」という命題を$P(k)$で表し,$k$に関する帰納法で示す.
$0=m+n$となる$m,n\in\N$は$(m,n)=(0,0)$のみである.$x^{0+0}=x^0=x^0\cdot1=x^0\cdot x^0$なので$(1)_{x,0,0}$は成り立ち,$P(0)$は成り立つ.
$k\in\N$を任意に取り,$P(k)$が成り立つことを仮定する.$k+1=m+n$をみたす$m,n\in\N$を任意に取る.
- $m=k+1$かつ$n=0$のときは$x^{(k+1)+0}=x^{k+1}=x^{k+1}\cdot1=x^{k+1}\cdot x^0$となってわかる.
- $n>0$のときは,$n-1\in\N$と$m+(n-1)=k$に注意すれば,
$$x^{m+n}
=x^{(m+(n-1))+1}
=x^{m+(n-1)}\cdot x
\overset{(*)}{=}(x^m\cdot x^{n-1})\cdot x
=x^m\cdot(x^{n-1}\cdot x)
=x^m\cdot x^n.$$
となってわかる ($(*)$では$(1)_{m,n-1}$を用いた).
よって$(1)_{x,m,n}$も成り立ち,$m,n$の任意性から$P(k+1)$も成り立つ.
命題 1
任意の$x\in M$と$m,n\in\mathbb{N}$に対して
$$(2)_{x,n}\,\,\,\,\,\,\,\,x\cdot x^n=x^n\cdot x.$$
である.
$x\cdot x^n=x^1\cdot x^n\overset{(*)}{=}x^{1+n}=x^{n+1}\overset{(**)}{=}x^n\cdot x^1=x^n\cdot x$となってわかる ($(*)$と$(**)$ではそれぞれ$(1)_{x,1,n}$と$(1)_{x,n,1}$を用いた).
群における指数法則
$G$を群として,その演算を$\cdot$で表し,単位元を$1$で表し,$g\in G$の逆元を$g^{-1}$で表す.$G$は同じ演算$\cdot$ (と単位元) に関してモノイドをなすので,指数法則とその系は$G$の元についても成立する.
$g\in G$と$n<0$をみたす$n\in\mathbb{Z}$に対して,$G$の元$g^n$を$g^n=(g^{-1})^{-n}$で定義する.ここで,右辺に現れる$(g^{-1})^{-n}$は定義 1 で導入したものである.
定義 1 と定義 2 を合わせれば,$g\in G$と$n\in\mathbb{Z}$に対して$g^n\in G$が定まったことになる.
$g\in G$に対して,$g$の逆元を$h\in G$で表し,定義 2 の意味での$g^{-1}$を$h'\in G$で表すとき,$h'=h^{-(-1)}=h^1=h$なので,$g$の逆元は定義 2 の意味での$g^{-1}$に等しいことがわかる.
任意の$g\in G$と$n\in\mathbb{N}$に対して
$(3)_{g,n}\,\,\,\,\,\,\,\,(g^n)^{-1}=(g^{-1})^n.$
である.
$g\in G$を任意に取り,等式$(3)_{g,n}$が成り立つことを$n$に関する帰納法で示す.
$1$は$1$自身の逆元なので$(g^0)^{-1}=1^{-1}=1=(g^{-1})^0$であり,$(3)_{g,0}$は成り立つ.
$n\in\mathbb{N}$を任意に取る.$(3)_{g,n}$が成り立てば,
$${(g^{n+1})^{-1}
=(g^n\cdot g)^{-1}
\overset{(\dagger)}{=}g^{-1}\cdot(g^n)^{-1}
\overset{(*)}{=}g^{-1}\cdot(g^{-1})^n
\overset{(**)}{=}(g^{-1})^n\cdot g^{-1}
=(g^{-1})^{n+1}.}$$
となって$(3)_{g,n+1}$も成り立つ ($(\dagger)$では$h,k\in G$に対して$(h\cdot k)^{-1}=k^{-1}\cdot h^{-1}$が成り立つことを,$(*)$と$(**)$ではそれぞれ$(3)_{g,n}$と$(2)_{g^{-1},n}$を用いた.).
指数法則 2
任意の$g\in G$と$s,t\in\mathbb{N}$に対して
$(4)_{g,s,t}\,\,\,\,\,\,\,\,g^{s-t}=g^s\cdot(g^{-1})^t.$
である.
$g\in G$と$s,t\in\mathbb{N}$を任意に取る.
- $s\geqslant t$のときは,$s-t\in\mathbb{N}$に注意すれば,
$${g^{s-t}
=g^{s-t}\cdot1
=g^{s-t}\cdot[g^t\cdot(g^t)^{-1}]
=(g^{s-t}\cdot g^t)\cdot(g^t)^{-1}
\overset{(*)}{=}(g^{s-t}\cdot g^t)\cdot(g^{-1})^t
\overset{(**)}{=}g^s\cdot(g^{-1})^t.}$$
となってわかる ($(*)$と$(**)$ではそれぞれ$(3)_{g,t}$と$(1)_{g,s-t,t}$を用いた). - $s< t$のときは,$s-t<0$と$t-s\in\mathbb{N}$に注意すれば,
$${\begin{align}
g^{s-t}
&=(g^{-1})^{t-s}
=1\cdot(g^{-1})^{t-s}
=[g^s\cdot(g^s)^{-1}]\cdot(g^{-1})^{t-s}\\
&=g^s\cdot[(g^s)^{-1}\cdot(g^{-1})^{t-s}]
\overset{(*)}{=}g^s\cdot[(g^{-1})^s\cdot(g^{-1})^{t-s}]
\overset{(**)}{=}g^s\cdot(g^{-1})^t.
\end{align}}$$
となってわかる ($(*)$と$(**)$ではそれぞれ$(3)_{g,s}$と$(2)_{g^{-1},s,t-s}$を用いた).
任意の$g\in G$と$n\in\mathbb{Z}$に対して,
$$(5)_{g,n}\,\,\,\,\,\,\,\,g^n=(g^{-1})^{-n}.$$
である.
- $g^0=1=(g^{-1})^0=(g^{-1})^{-0}$なので$(5)_{g,0}$は成り立つ.
- $n>0$のときは,$-n<0$に注意すれば,$(g^{-1})^{-n}$の定義と$(g^{-1})^{-1}=g$から$g^n=((g^{-1})^{-1})^n=(g^{-1})^{-n}$となって$(5)_{g,n}$は成り立つ.
- $n<0$のときは,$g^n$の定義から$(5)_{g,n}$は成り立つ.
指数法則 1 の拡張
任意の$g\in G$と$m,n\in\mathbb{Z}$に対して$g^{m+n}=g^m\cdot g^n$である.
$g\in G$と$m,n\in\mathbb{Z}$を任意に取る.
- $m,n\geqslant0$のときは命題 1 (指数法則 1) から従う.
- $m\geqslant0$かつ$n<0$のときは,$m,-n\in\mathbb{N}$に注意すれば,$g^{m+n}
=g^{m-(-n)}
\overset{(*)}{=}g^m\cdot(g^{-1})^{-n}
=g^m\cdot g^n$となってわかる ($(*)$では$(4)_{g,m,-n}$を用いた).
- $m<0$かつ$n\geqslant0$のときは,$-m,n\in\mathbb{N}$に注意すれば,
$${g^{m+n}\overset{(*)}{=}(g^{-1})^{-(m+n)}
=(g^{-1})^{-m-n}
\overset{(**)}{=}(g^{-1})^{-m}\cdot[(g^{-1})^{-1}]^n
=g^m\cdot[(g^{-1})^{-1}]^n
\overset{(\ddagger)}{=}g^m\cdot g^n.}$$
となってわかる ($(*)$と$(**)$ではそれぞれ$(5)_{g,m+n}$と$(4)_{g^{-1},-m,n}$を用いて,$(\ddagger)$では$(g^{-1})^{-1}=g$を用いた). - $m,n<0$のときは,$m+n<0$と$-m,-n\in\mathbb{N}$に注意すれば,
$${g^{m+n}
=(g^{-1})^{-(m+n)}
=(g^{-1})^{(-m)+(-n)}
\overset{(*)}{=}(g^{-1})^{-m}\cdot(g^{-1})^{-n}
=g^m\cdot g^n.}$$
となってわかる ($(*)$では$(1)_{g^{-1},-m,-n}$を用いた).