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指数法則の証明

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導入

証明が気になったので,モノイドや群における指数法則を,累乗の帰納的定義のみを用いて示してみました.

Zで整数の全体を,Nで非負整数の全体を表します.

モノイドにおける指数法則

Mをモノイドとして,その演算をで表し,単位元を1で表す.

xMnNに対して,Mの元xnx0=1xn+1=xnx (nN) により帰納的に定義する.

xMに対してx1=x0+1=x0x=1x=xである.

指数法則 1

任意のxMm,nNに対して
(1)x,m,nxm+n=xmxn.
である.

xMmNを任意に取り,等式(1)x,m,nが成り立つことをnに関する帰納法で示す.

xm+0=xm=xm1=xmx0なので(1)x,m,0は成り立つ.

nNを任意に取る.(1)x,m,nが成り立てば,
xm+(n+1)=x(m+n)+1=xm+nx=()(xmxn)x=xm(xnx)=xmxn+1.
となって(1)x,m+1,nも成り立つ (()では(1)x,m,nを用いた).

命題 1 の別証明

xMkNを任意に取り,「k=m+nをみたす任意のm,nNについて等式(1)x,m,nが成り立つ」という命題をP(k)で表し,kに関する帰納法で示す.

0=m+nとなるm,nN(m,n)=(0,0)のみである.x0+0=x0=x01=x0x0なので(1)x,0,0は成り立ち,P(0)は成り立つ.

kNを任意に取り,P(k)が成り立つことを仮定する.k+1=m+nをみたすm,nNを任意に取る.

  1. m=k+1かつn=0のときはx(k+1)+0=xk+1=xk+11=xk+1x0となってわかる.
  2. n>0のときは,n1Nm+(n1)=kに注意すれば,
    xm+n=x(m+(n1))+1=xm+(n1)x=()(xmxn1)x=xm(xn1x)=xmxn.
    となってわかる (()では(1)m,n1を用いた).

よって(1)x,m,nも成り立ち,m,nの任意性からP(k+1)も成り立つ.

命題 1

任意のxMm,nNに対して
(2)x,nxxn=xnx.
である.

xxn=x1xn=()x1+n=xn+1=()xnx1=xnxとなってわかる (()()ではそれぞれ(1)x,1,n(1)x,n,1を用いた).

群における指数法則

Gを群として,その演算をで表し,単位元を1で表し,gGの逆元をg1で表す.Gは同じ演算 (と単位元) に関してモノイドをなすので,指数法則とその系はGの元についても成立する.

gGn<0をみたすnZに対して,Gの元gngn=(g1)nで定義する.ここで,右辺に現れる(g1)nは定義 1 で導入したものである.

定義 1 と定義 2 を合わせれば,gGnZに対してgnGが定まったことになる.

gGに対して,gの逆元をhGで表し,定義 2 の意味でのg1hGで表すとき,h=h(1)=h1=hなので,gの逆元は定義 2 の意味でのg1に等しいことがわかる.

任意のgGnNに対して
(3)g,n(gn)1=(g1)n.
である.

gGを任意に取り,等式(3)g,nが成り立つことをnに関する帰納法で示す.

11自身の逆元なので(g0)1=11=1=(g1)0であり,(3)g,0は成り立つ.

nNを任意に取る.(3)g,nが成り立てば,
(gn+1)1=(gng)1=()g1(gn)1=()g1(g1)n=()(g1)ng1=(g1)n+1.
となって(3)g,n+1も成り立つ (()ではh,kGに対して(hk)1=k1h1が成り立つことを,()()ではそれぞれ(3)g,n(2)g1,nを用いた.).

指数法則 2

任意のgGs,tNに対して
(4)g,s,tgst=gs(g1)t.
である.

gGs,tNを任意に取る.

  1. stのときは,stNに注意すれば,
    gst=gst1=gst[gt(gt)1]=(gstgt)(gt)1=()(gstgt)(g1)t=()gs(g1)t.
    となってわかる (()()ではそれぞれ(3)g,t(1)g,st,tを用いた).
  2. s<tのときは,st<0tsNに注意すれば,
    gst=(g1)ts=1(g1)ts=[gs(gs)1](g1)ts=gs[(gs)1(g1)ts]=()gs[(g1)s(g1)ts]=()gs(g1)t.
    となってわかる (()()ではそれぞれ(3)g,s(2)g1,s,tsを用いた).

任意のgGnZに対して,
(5)g,ngn=(g1)n.
である.

  1. g0=1=(g1)0=(g1)0なので(5)g,0は成り立つ.
  2. n>0のときは,n<0に注意すれば,(g1)nの定義と(g1)1=gからgn=((g1)1)n=(g1)nとなって(5)g,nは成り立つ.
  3. n<0のときは,gnの定義から(5)g,nは成り立つ.
指数法則 1 の拡張

任意のgGm,nZに対してgm+n=gmgnである.

gGm,nZを任意に取る.

  1. m,n0のときは命題 1 (指数法則 1) から従う.
  2. m0かつn<0のときは,m,nNに注意すれば,gm+n=gm(n)=()gm(g1)n=gmgnとなってわかる (()では(4)g,m,nを用いた).
  3. m<0かつn0のときは,m,nNに注意すれば,
    gm+n=()(g1)(m+n)=(g1)mn=()(g1)m[(g1)1]n=gm[(g1)1]n=()gmgn.
    となってわかる (()()ではそれぞれ(5)g,m+n(4)g1,m,nを用いて,()では(g1)1=gを用いた).
  4. m,n<0のときは,m+n<0m,nNに注意すれば,
    gm+n=(g1)(m+n)=(g1)(m)+(n)=()(g1)m(g1)n=gmgn.
    となってわかる (()では(1)g1,m,nを用いた).
投稿日:2023330
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数学科に所属しています.博士1年生です.

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