一般相対性理論の概説をします。一般相対性理論は特殊相対論の後、重力の相対論の構築を目標として建設された理論であり、時空多様体の力学です。陽子と電子との間に働く電磁気力と重力との比は$10^{-39}$程度とされており、重力現象が顕著に支配的となるのは天体や宇宙などマクロなスケールにおいてのみとされています(ただしPlanckエネルギーぐらいの高エネルギーでは重力と他の力は同程度の強さになるとされているようです)。従って一般相対論は物理理論としてはある程度大規模かつ低エネルギーなスケールにおける有効理論と考えられているようです。
擬リーマン幾何における測地線、リーマン曲率テンソルの知識は仮定します。
一般相対性理論では重力を時空の曲がりとして捉えることを目指します。物質の存在が時空を曲げ、その時空の曲率が重力作用として物質の運動に影響を与えるという精神です。特に重力のみを受けて時空中を運動する質点については以下の等価原理を要請します(等価原理は主張の強さなどに関して何種類かありますがここでは単純なものにします)。
重力の影響のみを受けて時空中を運動する質点は時間的な測地線に従う。
以下ではまずこの等価原理が少なくともNewton重力と同程度には重力現象を記述することを見ます。これにより等価原理の正当性がある程度納得できると思います。
Newtonの万有引力の法則によれば重力のみを受けて運動する質点の軌道${\bf x}(\tau)$は、重力ポテンシャルを$\Phi$とすると、
$$
\ddot{x}^i=-\frac{\partial\Phi}{\partial x^i}
$$
となります。これを等価原理から再現するには次のようにします。まず時空の計量が
\begin{align}
g&=-(1+2\Phi(x,y,z))dt^2+h\\
&1>>\Phi\\
&h\sim dx^2+dy^2+dz^2
\end{align}
となっているとします。この計量はほとんど平坦なので弱い重力を表していると考えられます。このとき測地線$x^\mu(\tau)$が非常に遅く運動しているとすると$\dot{x}^0\sim1,\dot{x}^i\sim0$と近似できます。そして測地線の方程式は
\begin{align}
&\ddot{x}^\mu+\Gamma^\mu_{\nu\lambda}\dot{x}^\nu\dot{x}^\lambda\sim\ddot{x}^\mu+\Gamma^\mu_{00}=0
\end{align}
となります。
$$
\Gamma^0_{00}=0,\Gamma^i_{00}=\frac{\partial\Phi}{\partial x^i}
$$
なので万有引力が似的に再現されました。
Newton重力では空間の質量密度分布が$\rho(x,y,z)$で与えられるとき、重力ポテンシャル$\Phi$はPossion方程式
$$
\Delta\Phi=\rho
$$
を満たします。上の例から読み取れるように時空の計量の成分がNewtonの重力ポテンシャルに対応していると考えられます。つまり一般相対性理論では時空の計量テンソルの10個の成分$g_{ij}$が重力ポテンシャルのようなものの役割を果たしているということです。従ってNewton重力のPoisson方程式を一般化するには計量テンソルに対するラプラシアン的なものを考えるのが良さそうです。
ラプラシアンの4次元時空の対応物はダランベルシアン$\square$であり、Minkowskiだと
$$
\square=\partial^\mu\partial_\mu=-\frac{\partial^2}{\partial t^2}+\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}
$$
です。なので$\Delta\Phi$の一般化は$\square g_{ij}$のようなものになります。
また一般相対性理論では「物質が時空を曲げる」という精神がありますので、時空の曲率を表す幾何学量で$\square g_{ij}$の役割を果たすものがあれば良さそうです。この性質を持つものとしてRicciテンソル${\rm Ric}$があります。計算が少し長いのですが、Ricciテンソルは
$$
({\rm Ric})_{\mu\nu}=-\frac{1}{2}\square g_{\mu\nu}+\cdots
$$
という形に展開されます。もちろん一般の時空では「$\cdots$」の部分は非自明に効いてくるのですが、Ricciテンソルのお気持ちとしては計量のダランベルシアンという感じです。ということでPoisson方程式の左辺は${\rm Ric}$と一般化されることになります。
次に右辺の物質の質量密度分布の対応物ですが、これが物質のエネルギー運動量テンソルと呼ばれるものになります。これは各物質に対して物理現象と合うようにいい感じに決めます。Lagrangianが与えられている物質ならば変分原理から決定できます。Lagrangianが無い場合はいい感じに手で与えます。
例えば、地球などの岩石などは完全流体と呼ばれる流体として記述されます。完全流体の流速ベクトル場を$u$とすると、エネルギー運動量テンソルは、関数$\rho,P$により
$$
T_{\mu\nu}=\rho u_\mu u_\nu+P(g_{\mu\nu}+u_\mu u_\nu)
$$
で定義されます。
物質のエネルギー運動量テンソル$T$が与えられたとき、一般相対性理論においては重力ポテンシャルに対するPoisson方程式の一般化として、計量テンソルを決定する方程式は次のEinstein方程式を採用します。
$$
{\rm Ric}=T-\frac{1}{2}{\rm Tr}(T)g\\
$$
成分表示は
$$
R_{\mu\nu}=T_{\mu\nu}-\frac{1}{2}T^\alpha_{\ \ \alpha} g_{\mu\nu}
$$
Einstein方程式が重力ポテンシャルに対するPoisson方程式を近似として再現することを確認しましょう。価原理の説明で使った計量を仮定し、完全流体の流速ベクトル場$u$に対して$u^0\sim1,u^i\sim0$を仮定します。さらに$\Phi<<1,P<<\rho$の近似を使うと
\begin{align}
R_{00}&\sim\frac{\partial^{2}}{\partial x^{2}} \Phi
+ \frac{\partial^{2}}{\partial y^{2}} \Phi
+ \frac{\partial^{2}}{\partial z^{2}} \Phi
- \frac{\left(\frac{\partial}{\partial x} \Phi\right)^{2}
+\left(\frac{\partial}{\partial y} \Phi\right)^{2}
+\left(\frac{\partial}{\partial z} \Phi\right)^{2}}{2 \Phi + 1}
\sim \Delta\Phi\\
T_{00}-\frac{1}{2}T^\alpha_{\ \ \alpha} g_{00}&\sim (\rho-2\Phi P)+\frac{1}{2}(\rho+3P)(1+2\Phi)\sim\frac{3}{2}\rho
\end{align}
となり重力ポテンシャルに対するPoisson方程式が近似的に成り立つことが分かります。以上のことから推察できるように時空に適当な時間座標を取った時の$R_{00}$の大きさがその時空の相対論的重力効果の度合いを表しています。
ここではEinstein方程式を変分原理から導いておきましょう。上の議論では無次元化してましたが、一応次元定数を復活させておきます。一般相対論の作用汎関数は、Einstein-Hilbert作用と呼ばれ、
\begin{align}
S&=\int_M\left(\mathfrak{L}_g+\mathfrak{L}_m-2\Lambda\right)\sqrt{-\det g}dx^4,\\
\mathfrak{L}_g&=\frac{c^4}{16\pi G}R
\end{align}
で与えられます。ここで$R$は$(M,g)$のスカラー曲率で、$\mathfrak{L}_m$は物質場のラグラジアンです。物質場の具体例は電磁場とスカラー場とスピノル場を後で示します。$-2\Lambda$は宇宙項と呼ばれ暗黒エネルギーという宇宙に満ちる謎のエネルギーを表しています。入れなくてもいいですが観測に則した加速膨張を実現するモデルには必要です。
この作用を計量$g$で変分します。任意の$\delta g_{\mu\nu}$を2階対称テンソル場として、
$$
(g_t)_{\mu\nu}:=g_{\mu\nu}+t\delta g_{\mu\nu}
$$
とします。$R(g_t)$を$g_t$に関するスカラー曲率とし、
$$
S_g(g_t):=\int_M R(g_t)\sqrt{-\det g_t}dx^4
$$
とします。このとき、$S_g$の変分は
\begin{align}
\frac{d}{dt}S_g(g_t)|_{t=0}&=\int_M\frac{d}{dt}\left(R(g_t)_{\mu\nu}g_t^{\mu\nu}\sqrt{-\det g_t}\right)|_{t=0}dx^4\\
&=\int_M\left(\frac{d}{dt}R(g_t)_{\mu\nu}\right)|_{t=0}g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
+\int_MR(g)_{\mu\nu}\left(\frac{d}{dt}g_t^{\mu\nu}\right)|_{t=0}\sqrt{-\det g})dx^4
+\int_MR(g)_{\mu\nu}g^{\mu\nu}\left(\frac{d}{dt}\sqrt{-\det g_t}\right)|_{t=0})dx^4\\
&=\int_M\left(\frac{d}{dt}R(g_t)_{\mu\nu}\right)|_{t=0}g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
+\int_MR(g)_{\mu\nu}\delta g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4\\
&+\int_MR(g)_{\mu\nu}g^{\mu\nu}\left(\frac{d}{dt}\sqrt{-\det g_t}\right)|_{t=0}dx^4
\end{align}
ここで、
\begin{align}
\left(\frac{d}{dt}\sqrt{-\det g_t}\right)|_{t=0}
=-\frac{1}{2\sqrt{-\det g}}\frac{d}{dt}\left(\det g_t\right)|_{t=0}
=-\frac{1}{2\sqrt{-\det g}}\det g g^{\mu\nu}\delta g_{\mu\nu}
=-\frac{1}{2}\sqrt{-\det g} g_{\mu\nu} \delta g^{\mu\nu}
\end{align}
であるから、
\begin{align}
\frac{d}{dt}S_g(g_t)|_{t=0}
&=\int_M\left(\frac{d}{dt}R(g_t)_{\mu\nu}\right)|_{t=0}g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
+\int_M\left(R(g)_{\mu\nu}-\frac{1}{2}R(g)g_{\mu\nu}\right)\delta g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
\end{align}
となります。
最後にリーマン幾何学でよく知られたリーマンテンソルに対するLie微分の公式
$$
\mathcal{L}_\xi R^\kappa_{\nu\lambda\mu}
=\nabla_\lambda\mathcal{L}_\xi\Gamma^\kappa_{\mu\nu}
-\nabla_\mu\mathcal{L}_\xi\Gamma^\kappa_{\lambda\nu}
$$
と全く同様にして、
$$
\frac{d}{dt}(R_t)^\kappa_{\nu\lambda\mu}
=\nabla_\lambda\frac{d}{dt}(\Gamma_t)^\kappa_{\mu\nu}
-\nabla_\mu\frac{d}{dt}(\Gamma_t)^\kappa_{\lambda\nu}
$$
が得られます。よって、$\frac{d}{dt}(\Gamma_t)^\kappa_{\mu\nu}|_{t=0}=\delta\Gamma^\kappa_{\mu\nu}$(これは(1,2)型テンソル場)と置くと、
\begin{align}
\left(\frac{d}{dt}R(g_t)_{\mu\nu}\right)|_{t=0}=
\nabla_\alpha\delta\Gamma^\alpha_{\mu\nu}
-\nabla_\mu\delta\Gamma^\alpha_{\alpha\nu}
\end{align}
となるので、
$$
\int_M\left(\frac{d}{dt}R(g_t)_{\mu\nu}\right)|_{t=0}g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
=\int_M(\nabla_\alpha(\delta\Gamma^\alpha_{\mu\nu}g^{\mu\nu})
-\nabla_\mu(g^{\mu\nu}\delta\Gamma^\alpha_{\alpha\nu}))\sqrt{-\det g}dx^4
$$
となり、表面積分として落とすことが出来ます。よって物質が無い場合にはEinstein-Hilbert作用の停留点として
$$
R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=0
$$
が得られます。縮約すると、$-R+4\Lambda=0$となるので、結局
$$
{\rm Ric}=2\Lambda g
$$
となります。特に$\Lambda=0$のときは${\rm Ric}=0$となり真空のEinstein方程式と呼ばれます。
次に物質パートの変分ですが、一般式は以下のように得られます。
\begin{align}
\frac{d}{dt}S(g_t)|_{t=0}
=\int_M\frac{d}{dt}\left(\mathcal{L}_m\sqrt{-\det g}\right)|_{t=0}dx^4
=-\frac{1}{2}\int_M\left(\frac{-2}{\sqrt{-\det g}}\frac{\partial(\mathcal{L}_m\sqrt{-\det g})}{\partial g^{\mu\nu}}\right)\delta g^{\mu\nu}\sqrt{-\det g}dx^4
\end{align}
よって物質のエネルギー運動量テンソルを
$$
T_{\mu\nu}:=\frac{-2}{\sqrt{-\det g}}\frac{\partial(\mathcal{L}_m\sqrt{-\det g})}{\partial g^{\mu\nu}}
$$
と定義すると、Einstein方程式は
$$
R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}
$$
となります。これを縮約すると
$$
-R+4\Lambda=\frac{8\pi G}{c^4}T
$$
なので、
$$
R_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}\left(T_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Tg_{\mu\nu}\right)+\Lambda g_{\mu\nu}
$$
としても同値です。
作用の計量による変分を考えてその停留点としてEinstein方程式を導出しましたが、Einstein-Hilbert作用は座標の取り方に依存しないはずなので、座標変換によってもたらされる計量の変分に関してはEinstein-Hilbert作用の変分は常に0になるべきです。すなわち、必要条件として1パラメータ変換群$\phi_t:M\times\mathbb{R}\to M$により作られる計量の変分
$$
g_t:=\phi^\ast_t(g)=g+t\mathcal{L}_\xi g+\cdots,\ \ \left(\xi(p)=\frac{d}{dt}\phi_t(p)\right)
$$
に関するEinstein-Hilbert作用の変分は0となるべきです。
重力パートに関しては
\begin{align}
\delta S_g&=\int_M\left(R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}\right)(\nabla^\mu\xi^\nu+\nabla^\nu\xi^\mu)\sqrt{-\det g}dx^4\\
&=2\int_M\left(R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}\right)\nabla^\mu\xi^\nu\sqrt{-\det g}dx^4\\
&=-2\int_M\nabla^\mu\left(R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}\right)\xi^\nu\sqrt{-\det g}dx^4\\
\end{align}
となり、$\nabla g=0$とBianchi恒等式から0になります。従って上の要請は重力パートに関しては自動で満たされています。
物質パートに関しては、同様にして
\begin{align}
\delta S_m&=2\int_MT_{\mu\nu}\nabla^\mu\xi^\nu\sqrt{-\det g}dx^4=-2\int_M(\nabla^\mu T_{\mu\nu})\xi^\nu\sqrt{-\det g}dx^4
\end{align}
となるので、これが0となるためには物質場のエネルギー運動量テンソルは
$$
\nabla^\mu T_{\mu\nu}=0
$$
を満たさなければなりません。この式は物質場のエネルギー運動量保存則と呼ばれることが多いです。これは作用が不変となる変換があれば保存則があるというNoetherの定理の一例です。物質場の運動方程式が満たされるとき$\nabla^\mu T_{\mu\nu}=0$も満たされることが知られています。
ここでは一般相対論でよく使う物質場である、完全流体、電磁場、実スカラー場、複素スカラー場、スピノル場を紹介します。
完全流体は単位timelikeベクトル場$u$と実スカラー関数$\rho,P$の組$(u,\rho,P)$で与えれます。$\rho,P$は普通は非負関数です。ラグラジアンはないことはないのですが、場の理論として定式化することは一般的ではありませんので、ここではなしとします。
電磁場とは閉2形式$F$のことです。ラグラジアンは
$$
\mathcal{L}_{em}=-\frac{1}{4}||F||^2=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}
$$
で与えられます。1形式$A$を使って、局所的に$F=dA$と書け、$A$をゲージ場といいます。
実スカラー場は実スカラー関数$\phi$のことです。ラグラジアンは
$$
\mathcal{L}_{rs}=-\frac{1}{2}||\nabla\phi||^2-V(\phi)
=-\frac{1}{2}\partial^\mu\phi\partial_\mu\phi+V(\phi)
$$
で与えられます。$V(\phi)$は$\phi$の実数値関数でポテンシャルと呼ばれます。$V\equiv0$のときは$\phi$は自由場と呼ばれます。
複素スカラー場は複素スカラー関数$\psi$のことです。ラグラジアンは
$$
\mathcal{L}_{cs}=-||\nabla\psi||^2-V(\psi)
=-\overline{\partial^\mu\psi}\partial_\mu\psi+V(|\psi|)
$$
で与えられます。$V(\psi)$は$\psi$の実数値関数でポテンシャルと呼ばれます。$V\equiv0$のときは$\psi$は自由スカラー場と呼ばれます。電磁場と相互作用するときは、電磁場$F$のゲージ場を$A$とするとき、偏微分をgaugedの共変微分に変更します:
$$
\partial_\mu\mapsto \nabla^A_\mu=\partial_\mu+ieA_\mu
$$
ここで、$e$は$\psi$と$A$の結合定数です。複素スカラー場は実スカラー場2個分とみなして、運動項を2倍しておくのが習慣のようです。
スピノル場が存在できるのは時空がスピン多様体のときに限ります。例えば4次元だと大域的なテトラドが存在するとき(接束が自明なとき)に限ります。スピノル場を$\psi$とするとき、ラグラジアンは
$$
\mathcal{L}_{spin}={\rm Re}\langle\psi,(D-m)\psi\rangle
$$
で与えられます。ここで$D$はDirac作用素、$m$はスピノルの質量、$\langle,\rangle$は$Spin$不変内積です。テトラドを$\{e_\mu\}$とするとき、スピン接続は
$$
\nabla_\mu\psi=e_\mu(\psi)+\frac{1}{4}g(\nabla_{e_\mu}e_\nu,e_\lambda)\gamma^\nu\gamma^\lambda\psi
$$
で与えられ、Dirac作用素は$D=i\gamma^\mu\nabla_\mu$で与えられます。
例えば4次元だとスピノル場は$\mathbb{C}^4$に値を持つベクトル場で、$\langle\psi_1,\psi_2\rangle=\psi_1^\dagger\psi_2$で与えられます。
スピノル場が電磁場と相互作用するときは、スピン接続をスピンC接続に変更します:
$$
\nabla_\mu\mapsto \nabla_\mu+ieA_\mu
$$
一般相対論で扱われる有名なEinstein系を紹介します。変分計算などを全て書くと結構長くなりそうなのでここでは結果だけ述べます。個々の物質場に対する変分による運動方程式の導出はまた別の記事にしたいと思います。なお全ての系に宇宙項を入れておきます。
重力と完全流体の系です。時空$(M,g)$と完全流体$(U,\rho,P)$がEinstein-Fluid系を成すとは、
\begin{align}
&R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=T_{\mu\nu}\\
&T_{\mu\nu}=\rho U_\mu U_\nu+P(g_{\mu\nu}+U_\mu U_\nu)\\
&U\rho=-(\rho+P){\rm div}U\\
&(\rho+P)\nabla_UU=-({\rm grad}P)^\perp
\end{align}
を満たすことです。ここで、$({\rm grad}P)^\perp$は${\rm grad}P$の$U$に直交する成分です。
重力と電磁場の系です。時空$(M,g)$と電磁場$F$に対して、Einstein-Maxwell系の作用は
\begin{align}
S=\int_M\left(R-\frac{1}{4}||F||^2-2\Lambda\right)dv
\end{align}
で与えられます。$(g,F)$がこの作用の停留点の配位となるとき、すなわちEinstein-Maxwell系を成すとは、
\begin{align}
&R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=T_{\mu\nu}\\
&T_{\mu\nu}=F_{\mu\alpha}F_\nu^{\ \ \alpha}-\frac{1}{4}F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta}g_{\mu\nu}\\
&\nabla^\mu F_{\mu\nu}=0
\end{align}
を満たすことです。
重力と電磁場と複素スカラー場の系です。時空$(M,g)$と電磁場$F$と複素スカラー場$\psi$に対して、Einstein-Maxwell-Scalar系の作用は
\begin{align}
S=\int_M\left(R-\frac{1}{4}||F||^2-||\nabla^A\psi||^2-V(|\psi|)-2\Lambda\right)dv
\end{align}
で与えられます。$(g,F,\psi)$がこの作用の停留点の配位となるとき、すなわちEinstein-Maxwell-Scalar系を成すとは、
\begin{align}
&R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=T^{em}_{\mu\nu}+T^{cs}_{\mu\nu}\\
&T^{em}_{\mu\nu}=F_{\mu\alpha}F_\nu^{\ \ \alpha}-\frac{1}{4}F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta}g_{\mu\nu}\\
&T^{cs}_{\mu\nu}=2\overline{\nabla^A_\mu\psi}\nabla^A_\nu\psi-(||\nabla^A\psi||^2+V(|\psi|))g_{\mu\nu}\\
&\nabla^\mu F_{\mu\nu}=-ie(\bar\psi\nabla^A_\nu\psi-\psi\overline{\nabla^A_\nu\psi})\\
&\square\psi-\frac{\partial V(|\psi|)}{\partial\bar\psi}=0
\end{align}
を満たすことです。
重力とスピノルの系です。時空$(M,g)$と電磁場$F$とスピノル場$\psi$に対して、Einstein-Dirac-Maxwell系の作用は
\begin{align}
S=\int_M\left(R-\frac{1}{4}||F||^2+{\rm Re}\langle\psi,(D-m)\psi\rangle-2\Lambda\right)dv
\end{align}
で与えられます。$(g,F,\psi)$がこの作用の停留点の配位となるとき、すなわちEinstein-Dirac-Maxwell系を成すとは、
\begin{align}
&R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=T^{em}_{\mu\nu}+T^{cs}_{\mu\nu}\\
&T^{em}_{\mu\nu}=F_{\mu\alpha}F_\nu^{\ \ \alpha}-\frac{1}{4}F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta}g_{\mu\nu}\\
&T^{spin}_{\mu\nu}=\frac{1}{4}\langle\psi,i\gamma_\mu\nabla^A_\nu\psi+i\gamma_\nu\nabla^A_\mu\psi\rangle\\
&\nabla^\mu F_{\mu\nu}=e\langle\psi,\gamma^\mu\psi\rangle e_\mu\\
&(D-m)\psi=0
\end{align}
を満たすことです。
最も有名で非自明なEinstein方程式はたぶんSchwarzschild解です。4次元の真空静的球対称な厳密解であり、計量は以下で与えられます。
$$
ds^2=-\left(1-\frac{2M}{r}\right)dt^2+\left(1-\frac{2M}{r}\right)^{-1}dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\varphi^2)
$$
最初期から現在に至るまで最もよく研究されてきた対象であると言っても過言ではなく、また一般相対論の物理理論としての価値を盤石なものにしてきました。Schwarzschild解の特徴は以下です。
一般相対論が提供する2つの驚異的な体系がBlack Holeと宇宙モデルです。この2つは一般相対論が人類にもたらした非常に重要な科学的知見です。
一般相対論はBlack Hole構造という驚異的な状況が存在し得ることを予言します。無限の時間をかけて到達することができる未来が数学的には極限的に定義され、未来の因果的無限遠と呼ばれます。この未来の因果的無限遠に到達することができる領域を未来の因果的無限遠の因果的過去と言います。Black Holeとは未来の因果的無限遠の因果的過去の補集合として定義されます。
厳密に説明するためには数学的準備がかなり必要なのでここではしませんが、大雑把に言うと、BHとはBHの中に入ってしまった観測者以外のどんな観測者に対しても、その因果的過去と共通部分を持たない時空の領域になります。どんな信号も光速以下でしか伝播しないという仮定の下で、いかなる観測者も自分の世界線の因果的過去しか観測することはできません。BHは定義より任意の観測者の因果的過去に入りませんので、どの観測者の視界にも入らないのです。
果たしてそんな領域が存在するのでしょうか。それは誰にも分かりません。最近は重力波観測装置や電波望遠鏡などの観測技術が進歩していおり「BH観測」という分野が熱いです。しかし正確には、「重力崩壊する直前のすごく密度の高い重い星の観測」でありBHを見ているわけではありません。BHを直接観測できる唯一の可能性は光速よりも速く伝わる信号で観測することですが、現在の物理学の見解ではそれは不可能です。
一般相対論により宇宙そのものをモデル化して研究対象とすることができるようになりました。もちろんかなり大雑把な近似のものでのモデルなのですが、宇宙規模の物理現象を分析するには大雑把な近似でも色々な見解が得られます。2つの有名な見解として、宇宙初期特異点(ビッグバン)と加速膨張です。
宇宙初期特異点に関しては、物理的にある程度リーズナブルな2,3の仮定のもとモデルに依存せずに、初期特異点が存在したことが数学的に証明されています(Hawkingの特異点定理)。一般相対論だけではビッグバン以前のことを探求することはできません。場の量子論を用いてビッグバンがなぜ起きたのをかを説明するインフレーション理論も宇宙背景輻射の観測によりかなり支持されています。しかし宇宙初期に何が起こったのかはまだまだ未解明のことがたくさんあります。
宇宙の加速膨張も観測的にかなり支持されています。しかし一般相対論は宇宙に満ちるダークエネルギーが宇宙を加速膨張させていると説明してくれますが、そのダークエネルギーが何者なのかは教えてくれませんし、現在でもその正体は不明です。
この記事のまとめです。