箙
を箙(えびら, quiver)とする.すなわちは頂点の集合, 矢の集合, 矢に始点と終点を対応させる写像の組である.
正整数と矢の列で,, , をみたすものを道という.を道の長さと言ってで表す.
頂点は長さの道とみなす.また,矢と長さの道とを同一視する.の道全体の集合をで表す.
に対しと定め,また長さ正の道に対し, と定めることで,の定義域をに拡張しておく.
道の組はをみたすとき結合可能であるという.結合可能な道の組に対し,を
と定め,の結合という.ただし上式3行目ではとした.が成り立つ.
箙に付随する半群
を箙とし,とおく.は道の結合によって半群をなす.ただし,結合可能でない道の組に対してはと定める.
半群に関する用語をいくつか準備する.を非負整数のモノイドとする.
をゼロ元を持つ半群とする.写像は,任意のに対し,ならばをみたすとき,上の-length function という.
をゼロ元を持つ半群とする.が-equidivisibleであるとは,任意のに対し,ならば次のいずれかが成り立つことをいう:
(R1) あるがあって,, である.
(R2) あるがあって,, である.
箙に付随する半群について,次が成り立つ.
- は上の-length functionである.
- 任意の異なる頂点に対し,である.
- 任意の道に対し,である.
- は-equidivisibleである.
を真のイデアルとし,リースの剰余半群を考える.についても命題1と類似の性質が成り立つ;
- 上の-length function は上の-length function を導く.また,は空でない.
- 任意の異なるに対し,である.
- 任意のに対し,をみたすが存在する.
- は-equidivisibleである.
自然な全射準同型をで表す.はを含むことに注意.
(1) , , とすればよい.任意の with に対し,
ゆえは上の-length functionである.もしであれば,任意のに対しであるからに反する.よってに属さないが存在し,ゆえである.
(2) 自明.
(3) に対し,またはであるとき,である.よってならで,である.
(4) がをみたすとする.の-equivisiblityから,(一般性を失うことなく定義2の(i)が成り立つと仮定して)あるにより, と表せる.であるからであり,, が成り立つ.よっては-equidivisibleである.
主定理
この記事の目標は,上命題の逆を示すことである.すなわち;
をゼロ元を持つ半群とする.は次をみたすとする.
(1) は-length function を持ち,
は空でない.
(2) 任意の異なるに対しである.
(3) 任意のに対し,があってをみたす.
(4) は-equidivisibleである.
このとき箙とイデアルがあって,となる.
準備
をゼロ元を持つ半群とする.
は定理の(1)~(3)をみたすとする.このとき任意のに対し,(3)をみたすは一意に定まる.
もをみたすとすると,が成り立つ.特に,, である.従って(2)から, でなければならない.
は定理の(1)~(3)をみたすとする.このとき任意のに対し,補題3によって一意に定まるをそれぞれと表す.
は定理の(1)~(3)をみたすとする.このときの冪等元全体の集合はに等しい.
任意のに対し,であるからを得る.
任意のに対し,であるが,(2)によりである.よってである.であり,ゆえである.もしであれば,(2)によりとなって矛盾する.したがってである.
とおく.はの部分半群をなす.実際,に対し,であるか,さもなくばである.
とおく.
であれば,は矢を持たない箙の半群と同型である.以下とする.
任意のをとる.もしであれば,定義から, と書ける.であるから,である.である限りこの操作を続けられるが,長さが真に減少することから有限回で止まる.従って,があって,
と表すことができる.
が(4)をみたす(-equidivisibleである)とき,分解()は一意である.
まず,が-cancellativeであることを示す.そのため,がをみたすとする.-equidivisiblityから,一般性を失うことなく, なるが存在する.長さを比較することでが分かる.よってである.なので,命題6から,であり,補題5によりを得る.従ってである.これでがleft -cancellativeと分かった.right -cancellativeも同様である.
分解()の一意性を示す.そのためもをみたすとする.一般性を失うことなくとしてよい.-equidivisiblityから,あるいはをみたすが存在する.であるから,である.右からをかけてを得る.よって-cancellativityからである.再び-cancellativityから=を得る.これを繰り返して,, , , を得る.であるから,であり,を得る.以上で証明が完了した.
定理の証明
箙を定める.このとき準同型で,であって,任意の, に対し, をみたすものが一意に存在する.実際長さ正の道はと表されるから,と定めればよい.準同型になるためにはのときでなければならないが,これは命題7により成り立つ.
分解()からは全射である.またその一意性から,のkernel relationは
となって,のイデアルが誘導するリースの合同関係に一致する.従ってを得る.以上で定理が示された.