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代数的数の和、積は再び代数的数となる ほか

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はじめに

 この記事では「代数的数の和、積は再び代数的数となる」という定理の別証明を考え、そのいくつかのアナロジーを考えていきます。

証明

 一般的には以下のような証明がよく知られています。

 代数的数の和、積は再び代数的数となる。

 α,βをそれぞれr,s次の代数的数とする。このとき適当な次数下げによって
αn=k=0r1An,kαk,βn=k=0s1Bn,kβk
なる有理数An,k,Bn,kが取れるので
{αiβj0i<r,0j<s}
を縦に並べたベクトルをΓと置くと、γ=α+β,αβに対してある正方行列Pが存在し
γΓ=PΓ
が成り立つ。したがってγは代数方程式
det(xIP)=0
を満たすことがわかる。

 そして今回考えるのは以下のような証明となります。

 γ=α+β,αβに対して
{γn0nrs},{αiβj0i<r,0j<s}
を縦に並べたベクトルをそれぞれγ,Γとおく。
 このとき
(α+β)n=k=0n(nk)αkβnk,(αβ)n=αnβn
に注意すると、上と同じく適当な次数下げによって
γ=PΓ
なる(rs+1)×rs行列Pが取れるが、そのサイズからある横ベクトル
C=(c0c1crs)
が存在してCP=0が成り立つのでγは代数方程式
Cγ=n=0rscnγn=0
を満たすことがわかる。

アナロジー

 前者ではγQ(α,β)上の線形写像とみなすことによって証明を行っています。これは代数的整数論においては重要な手法とはなりますが、以下で紹介するような議題に対しては発展性が低いです。
 しかし後者においては「αn,βnの次数下げができる」ということのみを用いているので、これはいくつかの場面においてアナロジーを考えることができます。

 数列an,bnがそれぞれ何らかの線形漸化式を満たしているとき、cn=an+bn,anbnも何らかの線形漸化式を満たす。

 an,bnが満たす漸化式をそれぞれ
an+r=k=0r1Ak(n)an+k,bn+s=k=0s1Bk(n)bn+k
とし、cn=an+bnのときはt=r+sに対して
{cn+k0kt},{an+i0i<r}{bn+j0j<s}
を、cn=anbnのときはt=rsに対して
{cn+k0kt},{an+ibn+j0i<r,0j<s}
を縦に並べたベクトルをそれぞれγ,Γとおく。
 このとき
(a+b)n+k=an+k+bn+k,(ab)n+k=an+kbn+k
に注意すると、適当な次数下げ(添え字下げというべきか)によって
γ=P(n)Γ
なる(t+1)×t行列P(n)が取れるが、そのサイズからある横ベクトル
C(n)=(C0(n)C1(n)Ct(n))
が存在してC(n)P(n)=0が成り立つのでγは代数方程式
C(n)γ=k=0tCk(n)cn+k=0
を満たすことがわかる。

 関数u,vがそれぞれ何らかの(滑らかな係数を持つ)線形微分方程式を満たしているとき、w=u+v,uvも何らかの線形微分方程式を満たす。

 u,vの満たす微分方程式の次数(階数)をそれぞれr,sとし、w=u+vのときはt=r+sに対して
{w(n)0nt},{u(i)0i<r}{v(j)0j<s}
を、w=uvのときはt=rsに対して
{w(n)0nt},{u(i)v(j)0i<r,0j<s}
を縦に並べたベクトルをそれぞれγ,Γとおく。
 このとき
(u+v)(n)=u(n)+v(n),(uv)(n)=k=0n(nk)u(k)v(nk)
に注意すると、やはり適当な次数下げ(階数下げ)によって
γ=P(x)Γ
なる(t+1)×t行列P(x)が取れるが、そのサイズからある横ベクトル
C(x)=(C0(x)C1(x)Ct(x))
が存在してC(x)P(x)=0が成り立つのでγは代数方程式
C(x)γ=k=0tCk(x)w(k)=0
を満たすことがわかる。

応用例

 上で示された主張を見て、だから何だと思うかもしれません。
 しかしan,bn,cnまたはu,v,wの満たす方程式の解空間の次元を考えると、例えば以下のような主張を示せたりします。

Clausenの公式

2F1(a,ba+b+12;z)2=3F2(2a,2b,a+b2a+2b,a+b+12;z)
が成り立つ。

 ざっくりと説明する。
 まず左辺をv=u2とおくと、uは超幾何微分方程式を満たすので、
(vvvv)=P(z)(u2uuu2)
なる4×3行列P(z)が取れる。つまりvはある三階線形微分方程式Lv=0を満たすことがわかる。
 またuに対応するP関数Pの積が生成する線形空間
P(z)2={k=1nu1,ku2,ku1,k,u2,kP(z),nN}
はその特性指数から三次元となることがわかるので、Lv=0の解はvP(z)2によって尽くされることがわかる。
 特にP(z)2の挙動からLv=0z=0,1,のみを特異点に持つFuchs型微分方程式となり
P{0100a12ab12bz}2=P{01002a12a2b12b12ab12a+bz}
を得る。
 いま
3F2(a,b,cd,e;z)
に対応するリーマン図式は
P{0100a1d1b1efcz}(f=d+eabc)
であることに注意すると、両辺のz=0周りにおける基本解はそれぞれ
2F1(a,ba+b+12;z)2,z12a2b2F1(12a,12b32ab;z)2,z12ab2F1(a,ba+b+12;z)2F1(12a,12b32ab;z)
3F2(2a,2b,a+b2a+2b,a+b+12;z),z12a2b3F2(12a,12b,1ab2(1a+b),32ab;z),z12ab3F2(ab+12,ba+12,12a+b+12,32ab;z)
と表せるので、それぞれのz=0における挙動を比較することで
2F1(a,ba+b+12;z)2=3F2(2a,2b,a+b2a+2b,a+b+12;z)
を得る。

 ちなみに特性指数12abに対応する解を比較することで
2F1(a,ba+b+12;z)2F1(12a,12b32ab;z)=3F2(ab+12,ba+12,12a+b+12,32ab;z)
という等式も得られます。
 一見ちゃんと証明しているように見えますが、一般にリーマン図式から元の微分方程式は復元できずアクセサリー・パラメーターと呼ばれる不定項が出てきます。したがってより厳密にはリーマン図式の等号だけではなくアクセサリー・パラメーターの一致まで確認しなければならないことに注意してください。

おわりに

 はい。
 微分作用素をD=ddzとおくと、この手法によってあるDK(z)K(z)なる関数体K(z)(例えば有理関数体C(z)など)に対して
K(z)={u(z)LK(z)[D],Lu=0}
とおくとK(z)は環となることがわかります(前進作用素San=an+1を考えれば数列空間と漸化式についても同じことが言える)。ちなみに一般に逆元については閉じていません。例えばzCなのに対しその逆u(z)=1/zはいかなるC係数線形微分方程式も満たしません。
 こういう代数方程式、漸化式、微分方程式の和や積についてのアナロジーの裏には何か面白い理論がありそうですが、どうなんでしょう。とりあえず雑学程度に思っておけばいいと思います。

投稿日:2023414
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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