3

代数的数の和、積は再び代数的数となる ほか

537
0
$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{bs}[0]{\boldsymbol} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では「代数的数の和、積は再び代数的数となる」という定理の別証明を考え、そのいくつかのアナロジーを考えていきます。

証明

 一般的には以下のような証明がよく知られています。

 代数的数の和、積は再び代数的数となる。

 $\a,\b$をそれぞれ$r,s$次の代数的数とする。このとき適当な次数下げによって
$$\a^n=\sum^{r-1}_{k=0}A_{n,k}\a^k,\quad\b^n=\sum^{s-1}_{k=0}B_{n,k}\b^k$$
なる有理数$A_{n,k},B_{n,k}$が取れるので
$$\{\a^i\b^j\mid0\leq i< r,0\leq j< s\}$$
を縦に並べたベクトルを$\G$と置くと、$\g=\a+\b,\a\b$に対してある正方行列$P$が存在し
$$\g\G=P\G$$
が成り立つ。したがって$\g$は代数方程式
$$\det(xI-P)=0$$
を満たすことがわかる。

 そして今回考えるのは以下のような証明となります。

 $\g=\a+\b,\a\b$に対して
$$\{\g^n\mid0\leq n\leq rs\},\quad\{\a^i\b^j\mid0\leq i< r,0\leq j< s\}$$
を縦に並べたベクトルをそれぞれ$\boldsymbol{\g},\G$とおく。
 このとき
$$(\a+\b)^n=\sum^n_{k=0}\binom nk\a^k\b^{n-k},\quad(\a\b)^n=\a^n\b^n$$
に注意すると、上と同じく適当な次数下げによって
$$\boldsymbol{\g}=P\G$$
なる$(rs+1)\times rs$行列$P$が取れるが、そのサイズからある横ベクトル
$$C=\begin{pmatrix}c_0&c_1&\cdots&c_{rs}\end{pmatrix}$$
が存在して$CP=\boldsymbol{0}$が成り立つので$\g$は代数方程式
$$C\boldsymbol{\g}=\sum^{rs}_{n=0}c_n\g^n=0$$
を満たすことがわかる。

アナロジー

 前者では$\g$$\Q(\a,\b)$上の線形写像とみなすことによって証明を行っています。これは代数的整数論においては重要な手法とはなりますが、以下で紹介するような議題に対しては発展性が低いです。
 しかし後者においては「$\a^n,\b^n$の次数下げができる」ということのみを用いているので、これはいくつかの場面においてアナロジーを考えることができます。

 数列$a_n,b_n$がそれぞれ何らかの線形漸化式を満たしているとき、$c_n=a_n+b_n,a_nb_n$も何らかの線形漸化式を満たす。

 $a_n,b_n$が満たす漸化式をそれぞれ
$$a_{n+r}=\sum^{r-1}_{k=0}A_k(n)a_{n+k},\quad b_{n+s}=\sum^{s-1}_{k=0}B_k(n)b_{n+k}$$
とし、$c_n=a_n+b_n$のときは$t=r+s$に対して
$$\{c_{n+k}\mid0\leq k\leq t\},\quad \{a_{n+i}\mid0\leq i< r\}\cup\{b_{n+j}\mid0\leq j< s\}$$
を、$c_n=a_nb_n$のときは$t=rs$に対して
$$\{c_{n+k}\mid0\leq k\leq t\},\quad\{a_{n+i}b_{n+j}\mid0\leq i< r,0\leq j< s\}$$
を縦に並べたベクトルをそれぞれ$\g,\G$とおく。
 このとき
$$(\bs a+\bs b)_{n+k}=a_{n+k}+b_{n+k},\quad(\bs a\bs b)_{n+k}=a_{n+k}b_{n+k}$$
に注意すると、適当な次数下げ(添え字下げというべきか)によって
$$\g=P(n)\G$$
なる$(t+1)\times t$行列$P(n)$が取れるが、そのサイズからある横ベクトル
$$C(n)=\begin{pmatrix}C_0(n)&C_1(n)&\cdots&C_t(n)\end{pmatrix}$$
が存在して$C(n)P(n)=\boldsymbol{0}$が成り立つので$\g$は代数方程式
$$C(n)\g=\sum^t_{k=0}C_k(n)c_{n+k}=0$$
を満たすことがわかる。

 関数$u,v$がそれぞれ何らかの(滑らかな係数を持つ)線形微分方程式を満たしているとき、$w=u+v,uv$も何らかの線形微分方程式を満たす。

 $u,v$の満たす微分方程式の次数(階数)をそれぞれ$r,s$とし、$w=u+v$のときは$t=r+s$に対して
$$\{w^{(n)}\mid0\leq n\leq t\},\quad \{u^{(i)}\mid0\leq i< r\}\cup\{v^{(j)}\mid0\leq j< s\}$$
を、$w=uv$のときは$t=rs$に対して
$$\{w^{(n)}\mid0\leq n\leq t\},\quad\{u^{(i)}v^{(j)}\mid0\leq i< r,0\leq j< s\}$$
を縦に並べたベクトルをそれぞれ$\g,\G$とおく。
 このとき
$$(u+v)^{(n)}=u^{(n)}+v^{(n)},\quad(uv)^{(n)}=\sum^n_{k=0}\binom nku^{(k)}v^{(n-k)}$$
に注意すると、やはり適当な次数下げ(階数下げ)によって
$$\g=P(x)\G$$
なる$(t+1)\times t$行列$P(x)$が取れるが、そのサイズからある横ベクトル
$$C(x)=\begin{pmatrix}C_0(x)&C_1(x)&\cdots&C_t(x)\end{pmatrix}$$
が存在して$C(x)P(x)=\boldsymbol{0}$が成り立つので$\g$は代数方程式
$$C(x)\g=\sum^t_{k=0}C_k(x)w^{(k)}=0$$
を満たすことがわかる。

応用例

 上で示された主張を見て、だから何だと思うかもしれません。
 しかし$a_n,b_n,c_n$または$u,v,w$の満たす方程式の解空間の次元を考えると、例えば以下のような主張を示せたりします。

Clausenの公式

$${}_2F_1\l(\begin{matrix}a,b\\a+b+\frac12\end{matrix};z\r)^2 ={}_3F_2\l(\begin{matrix}2a,2b,a+b\\2a+2b,a+b+\frac12\end{matrix};z\r)$$
が成り立つ。

 ざっくりと説明する。
 まず左辺を$v=u^2$とおくと、$u$は超幾何微分方程式を満たすので、
$$\begin{pmatrix}v\\v'\\v''\\v'''\end{pmatrix} =P(z)\begin{pmatrix}u^2\\uu'\\u'^2\end{pmatrix}$$
なる$4\times3$行列$P(z)$が取れる。つまり$v$はある三階線形微分方程式$Lv=0$を満たすことがわかる。
 また$u$に対応する$P$関数$P$の積が生成する線形空間
$$P(z)^2=\l\{\sum^n_{k=1}u_{1,k}u_{2,k}\mid u_{1,k},u_{2,k}\in P(z),\;n\in\N\r\}$$
はその特性指数から三次元となることがわかるので、$Lv=0$の解は$v\in P(z)^2$によって尽くされることがわかる。
 特に$P(z)^2$の挙動から$Lv=0$$z=0,1,\infty$のみを特異点に持つFuchs型微分方程式となり
$$P\l\{\begin{matrix}0&1&\infty\\0&0&a\\\frac12-a-b&\frac12&b\end{matrix}\quad z\r\}^2 =P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ 0&0&2a\\ 1-2a-2b&1&2b\\ \frac12-a-b&\frac12&a+b\end{matrix}\quad z\r\}$$
を得る。
 いま
$${}_3F_2\l(\begin{matrix}a,b,c\\d,e\end{matrix};z\r)$$
に対応するリーマン図式は
$$P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ 0&0&a\\ 1-d&1&b\\ 1-e&f&c\end{matrix}\quad z\r\}\quad(f=d+e-a-b-c)$$
であることに注意すると、両辺の$z=0$周りにおける基本解はそれぞれ
$${}_2F_1\l(\begin{matrix}a,b\\a+b+\frac12\end{matrix};z\r)^2,\quad z^{1-2a-2b}{}_2F_1\l(\begin{matrix}\frac12-a,\farc12-b\\\frac32-a-b\end{matrix};z\r)^2,\quad z^{\farc12-a-b}{}_2F_1\l(\begin{matrix}a,b\\a+b+\frac12\end{matrix};z\r) {}_2F_1\l(\begin{matrix}\frac12-a,\farc12-b\\\frac32-a-b\end{matrix};z\r)$$
$${}_3F_2\l(\begin{matrix}2a,2b,a+b\\2a+2b,a+b+\frac12\end{matrix};z\r),\quad z^{1-2a-2b}{}_3F_2\l(\begin{matrix}1-2a,1-2b,1-a-b\\2(1-a+b),\farc32-a-b\end{matrix};z\r),\quad z^{\farc12-a-b}{}_3F_2\l(\begin{matrix}a-b+\frac12,b-a+\frac12,\farc12\\a+b+\frac12,\frac32-a-b\end{matrix};z\r)$$
と表せるので、それぞれの$z=0$における挙動を比較することで
$${}_2F_1\l(\begin{matrix}a,b\\a+b+\frac12\end{matrix};z\r)^2 ={}_3F_2\l(\begin{matrix}2a,2b,a+b\\2a+2b,a+b+\frac12\end{matrix};z\r)$$
を得る。

 ちなみに特性指数$\frac12-a-b$に対応する解を比較することで
$${}_2F_1\l(\begin{matrix}a,b\\a+b+\frac12\end{matrix};z\r) {}_2F_1\l(\begin{matrix}\frac12-a,\farc12-b\\\frac32-a-b\end{matrix};z\r) ={}_3F_2\l(\begin{matrix}a-b+\frac12,b-a+\frac12,\farc12\\a+b+\frac12,\frac32-a-b\end{matrix};z\r)$$
という等式も得られます。
 一見ちゃんと証明しているように見えますが、一般にリーマン図式から元の微分方程式は復元できずアクセサリー・パラメーターと呼ばれる不定項が出てきます。したがってより厳密にはリーマン図式の等号だけではなくアクセサリー・パラメーターの一致まで確認しなければならないことに注意してください。

おわりに

 はい。
 微分作用素を$D=\frac d{dz}$とおくと、この手法によってある$DK(z)\subset K(z)$なる関数体$K(z)$(例えば有理関数体$\C(z)$など)に対して
$$\ol{K(z)}=\{u(z)\mid \exists L\in K(z)[D],Lu=0\}$$
とおくと$\ol{K(z)}$は環となることがわかります(前進作用素$Sa_n=a_{n+1}$を考えれば数列空間と漸化式についても同じことが言える)。ちなみに一般に逆元については閉じていません。例えば$z\in\ol{\C}$なのに対しその逆$u(z)=1/z$はいかなる$\C$係数線形微分方程式も満たしません。
 こういう代数方程式、漸化式、微分方程式の和や積についてのアナロジーの裏には何か面白い理論がありそうですが、どうなんでしょう。とりあえず雑学程度に思っておけばいいと思います。

投稿日:2023414

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

子葉
子葉
915
185421
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中