2

非可換環上の多項式

506
0

本稿では可換とは限らない環上の多項式環を定義するのが目的である。以下、環は零環ではない単位的な環とする。

Rを環、N={0,1,2,}とする。NからRへの写像で有限個の自然数を除いて送った先が0であるものをR上の多項式という。mNを送った先をamとして、an0かつm>nam=0であるとき、この写像のことをanxn+a1x+a0と表す。全てのnNを0に送る写像は0と書く。
f(X)=anxn+a0(an0)R上の多項式とする。nfの次数といい、degfと表す。(0の次数はとする。)

便宜上のため、赤字の部分の表示を「左係数表示」ということにする。任意のR上の多項式は左係数表示として一意的に表される。

R上の多項式全体の集合をR[x]と表す。これに次の条件を満たすような演算+,を入れるのが目的である。

+,

以下の4条件を満たしていてほしい。
R[x]+,について環になる。
+:R[x]×R[x]R[x]は係数ごとの和で定義する。
degfgdegf+deggが成立する。
④不定元xRの元を代入できる。

和については可換環のときと同様で問題ない。積のときに不都合である事の説明をする。可換環上の多項式のときは、任意の元aRについて、Xa=aXが成立している。非可換環でもこれを認めると、任意の元bRを代入したときab=baとなりRが非可換環であることに矛盾する。よって、積は異なった形で入れる必要がある。積がうまく定められたとしてそれがどのように定義されるべきか考える。

分配法則によると、(anxn++a0)(bmxm++b0)=i,jaixibjxjとなる。

よって、aixibjxjという多項式をどのように左係数表示するかが問題になる。aixjは既に左右にいるのでxibjを左係数表示すれば良い。そのためには、xib=xi1(xbj)としてxbjを左表示すると、xi1(xの左表示)となり左側のxの次数が一つ下がる。これをj1回繰り返せば良い。よって、xbjをどのように左係数表示するかが問題になる。

deg(xa)degx+dega1であるからxaを左係数表示したときAx+Bの形で表される。このA,Bは当然aのみに依存するのでαR×RRδ:R×RRを用いて、xa=α(a)x+δ(a)と書ける。

xa=α(a)x+δ(a)を満たすα,δが定まれば積の構造が決定される。よって、α,δの性質を調べたらよい。天下り的だが以下の命題を示すことで結果を得る。

積が矛盾なく定義されているとき、α,δは以下の性質を満たす。
αは環準同型である。
δは群準同型である。
δ(1)=0である。
④任意のa,bRについて、δ(ab)=α(a)δ(b)+δ(a)bが成立する。
逆に、①〜④が満たされていたら積は矛盾なく定義できる。

②〜④を満たすδα微分という。

上で、R[X]の任意の元は左係数表示として一意的に表されることを強調した。R[x]の元をxaのように「右係数表示」した時に一意的に表されるとは限らない。しかし、ある条件のもとでは一意的な表示が可能である。

R[x]α微分δによる積が入った環とする。αが全単射ならばR[x]の任意の元は一意的に右係数表示ができる。

投稿日:20201111
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

B2 現在代数学(特に環論)を勉強中。 将来は群論やりたいとか思ってます。 気が向いた時に更新していく感じでいきます。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中