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現代数学解説
文献あり

特異点論入門〜これほど簡単な入門記事は多分ない〜part1

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特異点論入門 part1

お久しぶりです

こんにちは!!しんぎゅらです!!最近は弊大学で学祭があり,そこで数学科有志企画「数学カフェ・数学おもしろ話コンペティション」というのを運営していましたので,記事が書けていませんでした...
ちなみに私も発表しました.「ライツアウトの〇〇的解法」という記事を元に発表したら、思いの外先生からの評価も高くてびっくりしました!!

さて今回は特異点論について書こうと思います,そうです、私の専門です.

特異点ってなんぞや

まず,イントロダクションです.最初は2変数で始めます.
これから微分を前提とするので,fはある程度微分可能な関数とします.(後でちゃんと,設定はするのでイントロダクションの間は我慢してね)
以下の定理は大学1,2年生の時に習うと思います.

陰関数定理(Implicit Function Theorem)

滑らかな陰関数f(x,y)=0とする. f(a,b)=0なる点(a,b)R2について,
fx(a,b)0が成り立つ時, f(x,y)=0(a,b)の近くでy=g(x)という形で書ける.
同様にfy(a,b)0が成り立つ時, f(x,y)=0(a,b)の近くでx=g(y)という形で書ける.

つまり,陰関数があった時に"ある条件"を満たせば,陽関数として表示できると言う意味ですね!陽関数があれば上手く接線を取ってこれそうですよね
では,その"ある条件"が成り立たないのはいつでしょうか?その時には果たして(滑らかなのに)接線が取れないモノが存在するということでしょうか?

特異点

f:K2K:滑らかな関数と(a,b)K2について,
fx(a,b)=fy(a,b)=0となるとき,(a,b)fの特異点(singular point,singularity)という.

  • x2+y21=0は曲線上の全ての点で陰関数定理の仮定を満たしますね〜
  • y2x3=0は原点Oで陰関数定理の仮定を満たしませんね 尖ってて接せなさそう 尖ってて接せなさそう

数IIBか数IIIで微積分やった人は,関数の性質(増減や極大極小など)を調べたい時には微分して0になる点を調べましたよね?そう、実は高校数学でも皆さんは特異点に触れてきたんです!そう考えれば特異点を考えるモチベーションは分かったはずです.

特異点の定義と必要な概念

さきほど(a,b)が特異点の定義をしましたが, 必要に応じて平行移動すれば特異点を原点Oに持って来れるはずです.そして原点に持ってきた方が幾許か楽なので原点Oに注目して考えます.

集合芽

(X,O)を位相空間として,xXをとる.
A,BOについて関係xを以下で定義.
AxBdefU:xの近傍 s.t.AU=BU
このとき,関係xは同値関係になる.
この同値関係による同値類を集合芽(set germ)といい,(A,x)と書く.

これはデカい集合を考えなくてもxの近くの小さい集合を考えればいいよ〜という設定です(えらくざっくり)

写像芽

X,Y:位相空間,xX,M:={(U,f)|UX:xの近傍,f:UY}について,M上の関係xを考える.
(U1,f1),(U2,f2)Mについて,(U1,f1)x(U2,f2)defUU1U2:xの近傍 s.t.f1|U=f2|U
この関係xは同値関係になり,この同値関係による同値類を写像芽(map germ)という.

こいつも集合芽と同じように,ある点のめっちゃ近くだけ調べる時に使う概念です.ある点の近くで同じ写像だったら,遠くの部分は気にしなくても良いから同一視しちゃおう〜〜!!のノリです(えらくざっくりリターンズ)

また,私は代数学徒です(唐突な自己紹介)そんなそんなsin,cosとかexをそのまま使うのは面倒です.俺らが好きなのは環とかイデアルなんじゃ〜〜い!!
勘の良いガキの皆さんはお気付きでしょう.そうですTaylor展開されたものを考えます.即ち私は解析的な関数しか扱いませんし,展開された関数(多項式みたいなヤツ)を考えます.

En,p=def{f:(Kn,0)Kp|f:解析的な関数}
特にP=1の時にEnと表す.
また,K=Cのとき,EnOnと表す

En,pは加法と乗法に関してをなします.
特にEnK{x1,,xn}:収束冪級数環と言えます.よって局所環であることが分かり,その唯一の極大イデアルmm=x1,,xnEnになります.
mk=,x1i1xnin(ただしi1+in=k),En

(飛ばしてもOK)

アティマク等で可換環論を勉強された方はこう考えるかもしれません
Enmの元って全部可逆なの?」
答えはYes. Enmの元f
f(x)=a+a100x1++a001xn++ai1inx1i1xnin+(a0)と表されるのですが,g(x)=b+b100x1++b001xn++bi1inx1i1xnin+と掛け算して,f×g=1を解くことで
b=a1,b100=a1(1a100b),と帰納的に逆元の係数たちが求まっていきます.

イントロでやった定義をn変数バージョンにしてみましょう!

特異点

fEn,pとする.
fが原点Oで特異点を持つdefヤコビ行列Jfの階数がnpのいずれより小さい.即ち,

rank(f1x1(0)fpx1(0)f1x1(0)fpxn(0))<min{n,p}

fEnが原点Oで特異点を持つfm2

f(x)=a+a1x1++anxn++ai1inx1i1xnin+Enとする.
fは原点Oを通るので,a=f(0)=0.
fx1(x)=a1+(高次の項)となるのでa1=fx1(0)=0
同様にして,i,ai=0が成立.よってfm2

このようにして,特異点を代数的に解釈することもできますね(詳しく知りたい人は接錐(tangent cone)を調べると楽しいよ🎶)

これからは写像芽は原点Oで特異点を持つと仮定するので,以下断りのない限りfm2としますね〜〜

まとめ

  • 特異点を調べるなら原点近傍だけでOK
    集合芽,写像芽を扱ったね
  • 特異点の定義をした!!代数的な解釈も知った!!

次回「アンドロイドはK-同値の夢を見るか」
次を読む

参考文献

[1]
Alexandru Dimca, Topics on Real and Complex Singularities, Advanced Lectures in Mathematics, Springer Nature, 1981
投稿日:2024129
更新日:20241210
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