二次方程式の解の公式は,平方完成を行なって移行し,平方根を求めれば導出できる.これは中学校の数学で教わる話である.
ここではさらに三次方程式の解の公式について考える.複素数を学んだことがあるならば,少し苦労すれば理解できる.三次方程式
\begin{equation}
x^3 + ax^2 + bx + c = 0 , (1)
\end{equation}
にはカルダノの公式とよばれる解の公式が存在する.ここでは簡単のため,(1) のように三次の係数を$1$としておく.$1$でない場合は,方程式全体を三次の係数で割って$1$にする.もちろん,(1)で $c=0$ の場合は $x=0$ が解になり,あとは因数分解で二次方程式を導出して解けばいいので,この場合も除く.
二次方程式の解の公式を導出するときに行なった平方完成の場合と同様に,立方完成を用いて二次の係数をなくす.つまり,
\begin{equation}
y = x + \frac{a}{3} , (2)
\end{equation}
という文字の置き換えを行って,方程式を書き換えると,
\begin{equation}
y^3 + 3 py + 2q = 0 ,
\end{equation}
のような形になる.$p, q$ と $a, b, c$ の関係は
\begin{eqnarray}
p &=& \frac{b}{3} - \frac{a^2}{9} , \\
q &=& \frac{c}{2} - \frac{a^3}{54} ,
\end{eqnarray}
である.この次が重要な点である.
\begin{equation}
y = u+v ~~(u+v \ne 0) , (3)
\end{equation}
というように,未知数 $u, v$ を導入する.すると,解くべき方程式は以下のように書き換えられる.
\begin{eqnarray}
y^3 + 3py + 2q = u^3 + 3 (p + uv)(u+v) + v^3 + 2q = 0 , (4)
\end{eqnarray}
(4) が成り立つためには,以下の二つの式が成り立てばよい.
\begin{equation}
u^3 + v^3 + 2q =0 , (5)
\end{equation}
\begin{equation}
(p+uv)(u+v) = 0 . (6)
\end{equation}
$u+v \ne 0$ としていたので,(6) を $uv = -p$ と書き直せる.そこで,両辺を三乗して
\begin{equation}
u^3 v^3 = -p^3 , (7)
\end{equation}
となる.さて(5),(7) をよく見てみよう.ここで二次方程式の解と係数の関係を考えると,$u^3, v^3$ は
\begin{equation}
z^2 + 2q z - p^3 = 0 , (8)
\end{equation}
の解 $z$ である.この式は二次方程式の解の公式で解ける.
\begin{equation}
u^3 = -q + \sqrt{p^3 + q^2} , (9)
\end{equation}
\begin{equation}
v^3 = -q - \sqrt{p^3 + q^2} . (10)
\end{equation}
両辺の三乗根を計算すると,$u, v$ が求まる.また,$y=u+v$ から$y$ が求まる.$u, v$ はそれぞれ3つずつ決まるので,$y$ は三次方程式にも関わらず解が9個あるように見えるが,$uv=-p$という条件から3個になる.
(9),(10) を解く準備として,
\begin{equation}
z^3 = 1 ,
\end{equation}
を考える.この式は因数分解可能であり,
\begin{equation}
(z-1)(z^2 + z + 1) = 0 ,
\end{equation}
から,
\begin{equation}
z= 1, \frac{-1 \pm \sqrt{3} i}{2},
\end{equation}
となる.ここで
\begin{equation}
\omega = \frac{-1 + \sqrt{3}}{2} ,
\end{equation}
と置くと,元の方程式の解は $z=\omega, \omega^2, \omega^3(=1)$ と表される.
一般に $x^3 = a^3$ の解が $x = a, \omega a, \omega^2 a$ と表される事を考えると,(9),(10) の解は
\begin{eqnarray}
u_1 &=& \omega \sqrt[3]{-q + \sqrt{p^3 + q^2}} , \\
u_2 &=& \omega^2 \sqrt[3]{-q + \sqrt{p^3 + q^2}} , \\
u_3 &=& \sqrt[3]{-q + \sqrt{p^3 + q^2}} ,
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
v_1 &=& \omega \sqrt[3]{-q - \sqrt{p^3 + q^2}} , \\
v_2 &=& \omega^2 \sqrt[3]{-q - \sqrt{p^3 + q^2}} , \\
v_3 &=& \sqrt[3]{-q - \sqrt{p^3 + q^2}} ,
\end{eqnarray}
と書ける.この中で,$uv=-p$ を満たす $u+v$ の組み合わせだけが解になる,結局,求める解は
\begin{equation}
y = u_1+v_1, u_2+v_2, u_3+v_3 ,
\end{equation}
となる.$y$ を $x$ の式で置き換え,$p, q$ を元の方程式の係数で書けば,三次方程式の解は全て得られる(元の係数に戻すと大変複雑なので省略する).