こんにちは、浅縹です。練習がてら記事を書いてみます、これからも書くとは思いません(気が向いたら書くかもしれないけれどそれだけの力量がなく…)
どういう書き方が見やすいか途中までめっちゃ悩んでいたんですがどうしてもいい感じにならなくて途中から見やすいレイアウトとか考えずに書いています。最初の方も結局なにも考えていないのと同じ感じです、ぜひどうしたら見やすくなりそうか言っていただけると嬉しい…。
つい最近ゼミでやった次の命題について、日本語で証明を書いているサイトが見当たらなかったのでちょうどいいかなあと思い書いてみます。これは余談ですが、英語だとめっちゃたくさん出てきます。
(もし読んでくれる方で環やイデアルの定義を知らない方がいたら,イデアルについては
こちら
にわかりやすくまとまっています(ただ、イデアルが必ずしも「ある元の倍数の集合」そのものになっているとは限らないことに気を付けてください)。整域の定義は調べてください。)
$ 命題:\\ \displaystyle\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]はPID(単項イデアル整域)だがユークリッド整域でない. $
一応PID(単項イデアル整域),ユークリッド整域を定義しておきます.
$ 整域AがPID\Longleftrightarrow Aの任意のイデアルIは1つの元から生成される,即ちあるAの元xを用いて I=\langle x\rangle \quadと表される.$
$ 整域Aがユークリッド整域\Longleftrightarrow 次の条件を満たす写像d:A\backslash\{0\}\rightarrow\mathbb{N}がある.\\ (条件)\\ \forall x,y\in A(b\neq0)\quad \exists q,r\in A\quad s.t. y=xq+r(r=0又はd(r)\lt d(x)). $
ユークリッド整域の写像に課されている条件は整数における除法の原理の類似ですね.ちなみにユークリッド整域ならばPIDです.これはイデアルからdの値を最も小さくする0でない元をとってきたとき,イデアルがその元から生成されることを頑張って証明すると示せます.
$\quad\displaystyle\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]$は,その逆の反例になっています.
さて,以下,
$A=\displaystyle\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right],\\
N:A\rightarrow\mathbb{N}\,は\,\mathbb{C}\,から\,\mathbb{R}_{\geq0}\,へのノルム$
とします.$N$についてですが,
$\displaystyle N(a+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2})=a^2+ab+5b^2\in\mathbb{N}です.$
では早速証明を書いていきます.まずはPIDから…の前に補題です.
$ 環Rに対して,N:R\rightarrow \mathbb{N}が存在して次の条件が成り立つならばRはPID.\\ (条件)\\ \forall x,y\in R\backslash\{0\}\\ N(x) \geq N(y)\Rightarrow y\mid x\quad 又は \quad\exists z,w∈R\quad s.t.\quad 0\lt N(xz-yw)\lt N(y). $
$I(\neq\langle0\rangle)をRのイデアル,y\in IをI\backslash\{0\}の要素で最小のノルムを持つ元とする.\\ x∈I\backslash\{y,0\}をとると$$$N(x)\geq N(y).$$$ また,イデアルの定義から$$$\forall z,w\in R\quad xz-yw\in I.$$$ よって,yの取り方から$$$\quad xz-yw=0\quad又は\quad N(xz-yw)\geq N(y).$$$ 仮定よりy\mid xでなければならず$$$ I=\langle y\rangle. $$$よってRはPID.$
$ 命題:\\ \displaystyle\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]はPID. $
$ x,y\in AがN(x)\geq N(y)かつy\nmid x\\ \displaystyle\Rightarrow \exists z,w\in A \quad s.t.\quad 0< N(\frac{xz}{y}-w)< 1 \quadと示す.\\ これを示せば補題1よりAはPID. $
$y\nmid xの時,有理化して$$$ \displaystyle \frac{x}{y}=\frac{a+b\sqrt{-19}}{c} (\exists a,b,c\in\mathbb{Z},c\geq2,gcd(a,b,c)=1).$$
(1)$c\geq5の時.$
$
d,e,f,q,r\in\bf{Z}を次のようにとる:$
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
ae+bd+cf=1 \\
ad-19be=cq+r \\
(\displaystyle|r|\lt\frac{|c|}{2})
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
$
gcd(a,b,c)=1よりこのようなd,e,fは存在し,q,rは余りの絶対値を最小とするようにqで割った商/余りをとればよい.\\
z:=d+e\sqrt{-19},w:=q-f\sqrt{-19}(\in A)として$
$$
\begin{eqnarray}
\frac{y}{x}\cdot z-w&=&\frac{a+b\sqrt{-19}}{c}(d+e\sqrt{-19})-q+f\sqrt{-19}\\
&=&\frac{ad-19be-cq+(ae+bd+cf)\sqrt{-19}}{c}\\
&=&\frac{r+\sqrt{-19}}{c}.\\
\end{eqnarray}
$$$
\displaystyle N(\frac{r+\sqrt{-19}}{c})=\frac{r^2+19}{c^2}\gt0.$
$\displaystyle c\geq6:\frac{r^2+19}{c^2}\leq\frac{1}{4}+\frac{19}{c^2}\leq\frac{1}{4}+\frac{19}{36}\lt1.$
$\displaystyle c=5:\frac{r^2+19}{c^2}\leq\frac{4+19}{25}\lt1.$
$よってc\geq5の時,z,wを適切に取れば$$$\displaystyle\quad0\lt N(\frac{y}{x}\cdot z-w)\lt1.$$
(2)$c=2$の時.
$a,bの偶奇は異なる.(∵a,bがともに偶数ならばgcd(a,b,c)\neq1,a,bがともに奇数ならばy\mid x.(※))\\
\displaystyle z:=1,w:=\frac{a-1+b\sqrt{-19}}{2}(\in A(※))として$
$$\begin{eqnarray}
\frac{y}{x}\cdot z-w&=&\frac{1}{2}.
\end{eqnarray}$$
$よって$$$0\lt N(\displaystyle\frac{1}{2})=\frac{1}{4}\lt 1.$$$
※a,bの偶奇が等しい時\displaystyle\frac{a+b\sqrt{-19}}{2}\in A.\\
\quad∵\displaystyle\frac{a+b\sqrt{-19}}{2}=\frac{a-b}{2}+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2}.\\
\quad\quad \displaystyle\frac{a-b}{2}\in\mathbb{Z}であることからわかる.
$
(3)$c=3$の時.
$N(a+b\sqrt{-19})=a^2+19b^2\not\equiv0\mod3.(※)$
$a^2+19b^2=3q+r(r=1,2)に対しz:=a-b\sqrt{-19},w:=q(\in A)として$
$$\begin{eqnarray}
\frac{y}{x}\cdot z-w&=&\frac{a+b\sqrt{-19}}{3}\cdot(a-b\sqrt{-19})-q\\
&=&\frac{r}{3}.\\
\end{eqnarray}$$
$r=1,2より成立.$
$※N(a+b\sqrt{-19})\equiv0\mod3ならばa+b\sqrt{-19}は3で割れる.$
(4)$c=4の時.$
$a,bがともに偶数であることはない.\\
aとbの偶奇が異なるとき:\\
\quad a^2+19b^2\equiv a^2-b^2\not\equiv0\mod4.\\
\quad a^2+19b^2=4q+r(r=1,2,3)に対しz:=a-b\sqrt{-19},w:=q(\in A)として$
$$\begin{eqnarray}
\quad\frac{y}{x}\cdot z-w&=&\frac{a+b\sqrt{-19}}{4}\cdot(a-b\sqrt{-19})-q\\
&=&\frac{r}{4}.\\
\end{eqnarray}$$
$\quad r=1,2,3より成立.$
$aとbがともに奇数の時:\\
\quad a^2+19b^2\equiv a^2+3b^2\not\equiv0\mod8.\\
\quad\,\,\displaystyle a^2+19b^2=8q+r(r=1,\ldots,7)に対しz:=\frac{a-b\sqrt{-19}}{2},w:=q(\in A(※))として$
$$\begin{eqnarray}
\frac{y}{x}\cdot z-w&=&\frac{a+b\sqrt{-19}}{4}\cdot\frac{a-b\sqrt{-19}}{2}-q\\
&=&\frac{r}{8}.\\
\end{eqnarray}$$
$\quad r=1,\ldots,7より成立.$
※$(1)c=2 の場合と全く同様に考えればx\in Aである.$
$\,\\\,$
$以上により,A=\displaystyle\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]はPIDである.$
$ c\geq6で証明した後は一つ一つがちょっとした整数問題としても扱えそうで楽しい証明だと思いませんか?僕は思います.\\ というわけで次はユークリッド整域です. $
こちらも補題から示していきます.
$
Rをd:R\backslash\{0\}\rightarrow \mathbb{N}によりユークリッド整域を成す環,\\
xを\,d(x)=min\{d(y)\mid y\in R\backslash R^×\} なる元とする.\\
この時次が成り立つ:
$
$$
R/\langle x\rangleは0とRの単元のみからなる体.
$$
$ \forall z\in Aに対して\\ z=xq+rとするとユークリッド整域の定義より,r=0\quad又は\quad d(r)\lt d(x).\\ xの取り方より $$$r\neq0\Rightarrow r\in R^×.$$$この時$$$ a\equiv r\mod x. $$$ よってR/\langle a\rangleはRの単元と0のみからなる体. $
$Aの単元は\pm1のみである.$
$\displaystyle a+b\cdot\frac{1+1\sqrt{-19}}{2}\in Aが単元\Rightarrow N(a+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2})=1.\\
b\neq0とすると$
$$
N(a+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2})=(a+\frac{b}{2})^2+\frac{19b^2}{4}\geq\frac{19}{4}\gt4.
$$
$
よって,Aの単元は虚部が0ゆえ\pm1のみ.
$
$ x\in A\Rightarrow N(x)\neq2,3.\\ さらにN(x)=4\Rightarrow x=\pm2,N(x)=9\Rightarrow x=\pm3 $
$ 補題3の証明を見れば,x\in Aに対し$$$N(x)=2,3⇒x\in\mathbb{Z}.$$$ \quadしかし,$$$\forall x\in\mathbb{Z}\quad N(x)=x^2\neq2,3.$$$ \quadよって$$$N(x)\neq2,3.$$$ N(x)=4の時:\\ \quad補題3よりx\in \mathbb{Z}ゆえ$$$x=\pm2.$$$ N(x)=9の時:\\ \quad \displaystyle x=a+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2}とした時,b\geq2では$$$N(x)\neq9.$$$ \quad b=1の時,$$$a^2+a+1=9.$$$\mod3を見ればa\equiv1.\mod9でa\equiv1,4,7を見ればこれは不成立.\\ \quad よってb=0より$$$x=\pm3. $$
$ 命題:\\ Aはユークリッド整域でない. $
$
方針:\\
背理法を用います.Aがユークリッド整域だと仮定します.\\
この時A/\langle x\rangle=\{-1,0,1\}なるx\in Aがとれるので,これについて議論します.\\
(1)x=2,3.\\
(2)x=2,3どちらの場合でも,\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}はA/\langle x\rangleにおいて-1,0,1の何れとも等しくない.\\
(3)Aの単元は\pm1のみであったことに矛盾.
$
$
\,\\
(1)x=2,3.\\
R/\langle x\rangle=\{-1,0,1\}より,2\equiv0,\pm1の何れかが成り立つ.\\
よって1\not\equiv0に気を付けると,$$$\,2\equiv0\,又は\,3\equiv0\quad i.e.\quad2\in\langle x\rangle\,又は\,3\in\langle x\rangle.$$$
2\in\langle x\rangleの時:\\
\quad x\mid 2より$$$N(x)\mid N(2)=4.$$$
\quad N(x)=1,2,4の何れかで,xは非単元としていることと補題4よりN(x)=4で,$$$x=\pm2.$$$
\quad\langle2\rangle=\langle-2\rangleよりx=2として良い.\\
3\in \langle x\rangleの時:\\
\quad上と同様にしてx=\pm3.\quad x=3として良い.\\
\,\\
(2)x=2,3どちらの場合でも,\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}はA/\langle x\rangleにおいて-1,0,1の何れとも等しくない.\\
x=2の時:\\
\quad A/\langle 2\rangle=\{0,1\}より0,1と\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}が等しくないと示す.$
$$
0\equiv\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\mod2$$$$
\Leftrightarrow\exists a,b\in\mathbb{Z}\quad s.t.\quad2\cdot(a+b\cdot\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2})=\frac{1+\sqrt{-19}}{2}.
$$
$
\quad 実部を見ると2a+b=\displaystyle\frac{1}{2}となりこのようなa,bは存在しない.$$$
\quad1\equiv\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\mod2$$$$
\quad \Leftrightarrow 0\equiv\displaystyle\frac{-1+\sqrt{-19}}{2}\mod2.$$$
\quad 先程と同様にしてこれも不成立.\\
\quad よってx=2の時示された.\\
x=3の時:$$$
\quad 0\equiv\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\mod3$$$$
\quad \Leftrightarrow\displaystyle\exists a,b\in\mathbb{Z}\quad s.t.\quad 3\cdot(a+b\cdot\frac{1+\sqrt{-19}}{2})=\frac{1+\sqrt{-19}}{2}.$$$
\quad 虚部を見ると\displaystyle\frac{3b}{2}=\frac{1}{2}となり,このようなa,bは存在しない.\\
\quad同様に\pm1\not\equiv\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\mod3.
\quadよってx=3の時も示された.\\
\,\\
(3)Aの単元は\pm1のみだったことに矛盾.\\
これは(2)の結果がAはユークリッド整域であるという仮定と補題2から従う.\\
\quad
$
$
以上によりA=\mathbb{Z}\left[\displaystyle\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]はユークリッド整域では有り得ない.
$
これで一番初めに書いた命題が示されました!!!(果たしてここまで読んでくださった方はいるのか…練習なので需要ない話題を書こうと思ったら想定よりずっと長くなってしまいました。練習にはなったのでいいかな…)
疲れたけど書いていて結構楽しかったので、面白いと思った話題があればまた書こうと思います。では、ここまで読んでくださった方(がいれば)、本当にありがとうございました!