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とある半群の構造決定

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$$\newcommand{defarrow}[0]{~\overset{def}{\Leftrightarrow}~} \newcommand{red}[1]{\textcolor{red}{#1}} $$

この記事は, ${\rm @buta\_kimchi\_}$氏がツイッターに投稿した問題( 元ツイート )の解答となります. 記事を読む前に一度自分で考えてみると良いかもしれません。

半群とは

半群

半群とは, 集合$X$と写像$\ast : X\times X\rightarrow X$の組$(X,\ast)$であって,
$$ \forall a,b,c\in X;~(a\ast b)\ast c=a\ast(b\ast c) $$
をみたすもの.
半群$(X,\ast)$のことを単に$X$と書いて表す.

以下, $a\ast b$のことを単に$ab$と書いて表す.

$n(\geq 1)$個の$a$を演算した$a\ast\dots\ast a$のことを, $a^n$と書く.

準同型

$X,Y$を半群とする.
写像$f:X\rightarrow Y$は,
$$ \forall a,b\in X;~f(ab)=f(a)f(b) $$
を満たすとき準同型という.

半群の圏

対象を半群とし, 射を準同型とすることで, 半群の圏$\red{\rm SemiGrp}$が得られる.

準同型が全単射であることと, 圏${\rm SemiGrp}$の同型射であることは同値である. すなわち, 忘却関手${\rm SemiGrp}\rightarrow {\rm Set}$は同型を反映する. ここで${\rm Set}$は集合の圏である.

半群の積

$X,Y$を半群とする. 積集合$X\times Y$は,
$$ (x,y)\ast(x',y'):=(xx',yy') $$
と演算を定めることで半群になる.

上の状況で, 射影$X\times Y\rightarrow X,~X\times Y\rightarrow Y$は準同型であり, $X\times Y$${\rm SemiGrp}$における$X$$Y$の圏論的積となる.

半群$X$に対して, 次は同値.
(1) $\forall a,b\in X~[ab=ba~\Rightarrow~a=b]$
(2) $\forall a,b\in X;~aba=a$

1$\Rightarrow$2

任意の$a\in X$に対して, $a^2a=aa^2$であることから$a^2=a$が成り立つ. すると任意の$a,b\in X$に対して, $a(aba)=aba=(aba)a$より$aba=a$を得る.

2$\Rightarrow$1

$ab=ba$となる任意の$a,b\in X$に対して, $a=aba=ab(aba)=b(aaa)b=bab=b$となる.

純非可換半群

半群$X$は, 定理2の同値な条件を満たすとき純非可換であるという.

$X$を純非可換半群とする. 任意の$a\in X$と任意の$n\geq 1$に対し, $a^n=a$となる.

$a^na=aa^n$より, $a^n=a$となる.

$X,Y$が純非可換半群なら, 半群$X\times Y$も純非可換となる.

以降, 純非可換半群を同型を除き分類することを目指す.

純非可換半群の構造決定

自明な純非可換半群

集合$S$に対して,
$$ \forall a,b\in S;~a\ast b:=a $$
と演算を定めると, $S$は純非可換半群となる. この純非可換半群を$\red{L(S)}$と書く. 同様に
$$ \forall a,b\in S;~a\ast b:=b $$
とすることでも純非可換半群が得られる. これを$\red{R(S)}$と書く.

純非可換半群$X$は, $\forall a,b\in X;~ab=a$(resp.$ab=b$)を満たすとき, 自明な左構造をもつ(resp.自明な右構造を持つ)という.

以下, $X$を純非可換半群とする.

$X$上の2項関係$\red{\sim_L},\red{\sim_R}$を次で定義する.
$$ a\sim_Lb\defarrow ab=a $$
$$ a\sim_Rb\defarrow ab=b $$

$\sim_L,\sim_R$$X$上の同値関係となる.

$\sim_L$についてのみ示す. 反射律は命題2より従う. $ab=a$なら$ba=b(ab)=b$より, 対称律が従う. $ab=a,bc=b$なら$ac=(ab)c=ab=a$より, 推移律が従う.

$a\in X$に対し, $\sim_L$による同値類を$\red{[a]_L}$, $\sim_R$による同値類を$\red{[a]_R}$と書くことにする.

任意の$a,b\in X$に対し$a\sim_R ab\sim_L b$が成り立つ.

商集合$X/\sim_L$は,
$$ [a]_L\ast[b]_L:=[ab]_L $$
と演算を定義することで純非可換半群になる. 同様の主張が$X/\sim_R$についても成り立つ.

まず, $\ast$がwell-definedであることを示す. $a\sim_La',~b\sim_Lb'$とする. $a'b'\sim_Lb'\sim_Lb$より$a'b'\sim_Lb$となるので, $a(b(a'b'))=ab$. すなわち$ab\sim_La'b'$を得る. よって, $\ast$はwell-definedである.

すると, $([a]_L\ast[b]_L)\ast[c]_L=[ab]_L\ast[c]_L=[abc]_L=[a]_L\ast[bc]_L=[a]_L\ast([b]_L\ast[c]_L)$が成り立つので$X/\sim_L$は半群であり, 更に$[a]_L[b]_L[a]_L=[aba]_L=[a]_L$より純非可換となる.

$X/\sim_L$(resp.$X/\sim_R$)は自明な右(resp.左)構造を持つ.

$ab\sim_Lb$ゆえ, $[a]_L[b]_L=[ab]_L=[b]_L$である.

半群としての同型$X\cong (X/\sim_L)\times (X/\sim_R)$がある. すなわち, 圏${\rm SemiGrp}$における同型射が存在する.

$a\mapsto ([a]_L,[a]_R)$により写像$\varphi:X\rightarrow (X/\sim_L)\times (X/\sim_R)$を定める. $\varphi$は明らかに準同型である. $\varphi(a)=\varphi(b)$なら, $[a]_L=[b]_L$かつ$[a]_R=[b]_R$, すなわち$a\sim_Lb$かつ$a\sim_Rb$であり, $a=ab=b$となる. よって, $\varphi$は単射である. 更に, $([a]_L,[b]_R)=([ba]_L,[ba]_R)=\varphi(ba)$より$\varphi$は全射でもある.

これで, $X$の構造は完全に決定された.

純非可換半群の準同型

純非可換半群$X,Y$が自明な左構造を持つとする. このとき, 任意の写像$X\rightarrow Y$は準同型になる. $X,Y$が自明な右構造を持つ場合も, 同様の主張が成り立つ.

純非可換半群の圏

純非可換半群の成す${\rm SemiGrp}$の充満部分圏を, $\red{\mathscr{C}}$と書く.

  1. ${\rm Set}$から空集合を除いた圏を$\red{\rm Set^*}$と書く.
  2. $\mathscr{C}$から空な半群を除いた圏を$\red{\mathscr{C}^*}$と書く.

関手$\red{F}:{\rm Set^*}\times{\rm Set^*}\rightarrow \mathscr{C^*}$を次で定義する.
$$ F(X,Y):=L(X)\times R(Y) $$
$$ F(f,g):=f\times g $$
ここで, $X,Y$は集合, $f,g$は写像である.

  1. $X,Y,Z$を集合とする. $Y\neq \varnothing$なら, 自然な全単射
    $$ {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X)\times R(Y),L(Z))\cong {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X),L(Z)) $$
    がある.
  2. $X,Y,Z$を集合とする. $X\neq \varnothing$なら, 自然な全単射
    $$ {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X)\times R(Y),R(Z))\cong {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(R(X),R(Z)) $$
    がある.

1のみ示す. 射$L(X)\rightarrow L(Z)$が与えられると, 射影との合成によって射$L(X)\times R(Y)\rightarrow L(Z)$が得られる. 逆に射$f:L(X)\times R(Y)\rightarrow L(Z)$を与えると,
$y_0\in Y$をとり, $g:L(X)\ni x\mapsto f(x,y_0)\in L(Z)$と定めることで, 射$L(X)\rightarrow L(Z)$を得る.
任意の$x\in X,y_0,y_1\in Y$に対し
$$ f(x,y_0)=f(x,y_0)f(x,y_1)=f(xx,y_0y_1)=f(x,y_1) $$
となることから, これらは互いに逆対応になっている.

圏同値${\rm Set^*}\times{\rm Set^*}\simeq \mathscr{C^*}$がある.

関手$F$が圏同値を与えることを示す. 命題9と定理10より, $F$は本質的全射である. 任意の$X_0,Y_0,X_1,Y_1\in{\rm Set^*}$に対し
$$ {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(F(X_0,Y_0),F(X_1,Y_1))={\rm Hom}_{\mathscr{C}}(F(X_0,Y_0),L(X_1)\times R(Y_1)) $$
$$ \cong {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(F(X_0,Y_0),L(X_1))\times {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(F(X_0,Y_0),R(Y_1)) $$
$$ ={\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X_0)\times R(Y_0),L(X_1))\times {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X_0)\times R(Y_0),R(Y_1)) $$
$$ \cong {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(L(X_0),L(X_1))\times {\rm Hom}_{\mathscr{C}}(R(Y_0),R(Y_1)) $$
$$ \cong {\rm Hom}_{\rm Set}(X_0,X_1)\times {\rm Hom}_{\rm Set}(R(Y_0),R(Y_1)) $$
となる. 最後の同型は補題11を用いた. したがって, $F$は忠実充満である.

これで, 純非可換半群の間の準同型が完全に決定された.
系として次を得る.

純非可換半群の分類定理

任意の純非可換半群は, 次のいずれかと同型である.
(1) 空半群
(2) 基数$\alpha,\beta\neq 0$に対する$L(\alpha)\times R(\beta)$
更に, (2)の場合の$\alpha,\beta$は一意的である. すなわち,
$$ L(\alpha)\times R(\beta)\cong L(\alpha')\times R(\beta') $$
ならば$\alpha=\alpha',\beta=\beta'$となる.

後半の主張は, 圏同値$F$が同型を反映することから従う.

投稿日:20201111

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