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行列式の定義を理解する

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教科書の行列式の定義式が簡潔すぎてイメージできないので、ゴチャゴチャ考えて
噛み砕こうとした話。多少はイメージしやすくなった……か?


行列式の構成 by 行ベクトル

$\boldsymbol{v}_0=(1,2,\ldots,n) $として、次のような$\langle$行ベクトル、整数、行列$\rangle$の組を考える。
$$\langle\, \boldsymbol{v}_0,1,A \,\rangle$$

この「組」に対して、次の操作によって得られる「組」をすべて集めた集合を$F$とする。

1. ベクトルの$i$列目と$j$列目を入れ替える
  整数を$-1$倍する。
  行列の$i$列目と$j$列目を入れ替える
            ($i$,$j$は適当)
2. 1.を有限回おこなう

$F$の要素を$e=\langle \boldsymbol{v},s,X \rangle$として、次の$p_e$を考える。

$p_e$は「整数$s$」と「行列$X$の対角成分」をすべて掛け合わせたもの
つまり
$$p_e=s \cdot x_{11}\cdot x_{22}\cdots x_{nn}$$
$\boldsymbol{v} \in \mathfrak{S}$であり、$\boldsymbol{v}=(v_1,v_2,v_3,\ldots,v_n)$とおくと、次のようにも書ける。
$$p_e=s \cdot a_{1 v_1} \cdot a_{2 v_2} \cdots a_{n v_n}$$

また、この操作では$\boldsymbol{v}$に対する$s$が一意に定まることが知られており、
$s=\mathrm{sgn}(\boldsymbol{v})$と書くこともできる。

集合$F$全体にわたって$p_e$を足し合わせたものを、行列$A$行列式という。
$$\mathrm{det}A=|A|=\sum_{e\in F}p_e$$

教科書で馴染みの正式な定義はこちら。
$$|A|=\sum_{\sigma \in \mathfrak{S}}\mathrm{sgn}(\sigma) \cdot a_{1\sigma_1} \cdot a_{2\sigma_2} \cdot a_{3\sigma_3} \ldots a_{n\sigma_n}$$

$\mathfrak{S}$は対称群

「行」を「列」に読み替えて議論しても同じように行列式を構成できる。
$|A^{\mathrm{T}}|=|A|$

  • 列の交換
     交換後の行列を$A'$とする。$A'$$A$に戻す操作で$\langle \boldsymbol{v}_1,-1,A \rangle$ができることに注目。
     $F$の要素(の$s$)の符号が($A$の場合と比較して)すべて反転するので
     $|A'|=-|A|$
  • 列を$k$倍する。
     その行列を$A'$とする。列の交換操作について考えると、
     $k$倍された数が$X$の対角成分に必ず$1$つ入る。
     $p_e$がすべて$k$倍されるので$|A'|=k|A|$
  • 同じ内容の列がある
     任意の$F$の要素$e$について、該当の$2$列を入れ替えた要素$e'$が存在する。
     $e'$$e$の符号違いなので行列式の計算において打ち消し合う。よって
     $|A|=0$

多重線形性

行列$A$$i$行目に注目しつつ、行列式について考える。
行列式を$a_{i1},a_{i2},a_{i3},\ldots,a_{ik},\ldots, a_{in}$でくくると
括りだされたものを$t$として
$$|A|=a_{i1}t_{1}+a_{i2}t_{2}+a_{i3}t_{3}+\cdots+a_{ik}t_k+\cdots+a_{in}t_{n}\tag{☆}$$

行列式の計算において、$p_e$に注目すると、
掛け合わされている個々の要素で行番号が重なることはない。
よって$t_kはa_{i○}$を含まない。

数列$\{\alpha_n\}$,$\{\beta_n\}$を用いて
行列$A$$i$行目($a_{i1}$$a_{in}$)に$\alpha_k$,$\beta_k$を代入した行列をそれぞれ$A_{\alpha}$,$A_{\beta}$とすると☆式より
$$|A_{\alpha}|=\alpha_1 t_{1}+\alpha_2t_{2}+\alpha_3t_{3}+\cdots+\alpha_nt_{n}$$
$$|A_{\beta}|=\beta_1 t_{1}+\beta_2 t_{2}+\beta_3 t_{3}+\cdots+\beta_n t_{n}$$
よって
$\gamma_k=\alpha_k+\beta_k$とすると
$$|A_{\alpha}|+|A_{\beta}|=|A_{\gamma}|$$
※ここで$|A_{\gamma}|$は行列$A$$i$行目($a_{ik}$)に$\gamma_k$を代入したもの。
よって、行列式の行において多重線形性が成り立つ。
行と列を入れ替えても同じ議論ができるので
行列式の列においても多重線形性が成り立つ。

余因子展開

$j$列目の余因子展開を考える。つまり次の$t_k$について調べていく。
$$|A|=a_{1j}\cdot t_{1} + a_{2j}\cdot t_{2} + a_{3j}\cdot t_{3} + \cdots +a_{kj} \cdot t_{k}+ \cdots +a_{nj}\cdot t_{n}$$
$a_{kj}$$p_e$に登場するのは$a_{kj}$$X$の対角成分に含まれるとき。
よって行列式における$a_{kj}$の係数を考える際に考慮すべき$X$
$A$$j$列目が$k$列目に移動したもの。

まず、$A$$j$列目を$k$列目に移動させる。
ただし、他の列の並び順を変えたくないので、移動は隣接互換の繰り返しで行う。
$|j-k|$回必要なので、この時点で$s=(-1)^{j-k}$$(-1)^{2k}$をかけて$s=(-1)^{k+j}$として良い。
この「組」を起点とする。

$k$列目を固定、他の列を入れ替えたときの$X$,$p_e$を考えていく。
$k$行目,$k$列目を除外した小行列($M_k$とする)を観察しながら$a_{kj}$の係数を考えると、
$M_k$の行列式を構成する手順が含まれていることが分かる。よって
$$t_k=(-1)^{k+j}|M_k|$$


「行」を「列」に読み替えた議論のための参考として、次を考えておく(自明?)。

$\mathfrak{S}$ を対称群とする。次のように定義される集合$X,Y$は等しい。
$$X=\left\{\mathfrak{S} \in \boldsymbol{q}\ \middle|\ \{(1,q_1),(2,q_2),(3,q_3),\ldots,(n,q_n)\} \right\}$$
$$Y=\left\{\mathfrak{S} \in \boldsymbol{q}\ \middle|\ \{(q_1,1),(q_2,2),(q_3,3),\ldots,(q_n,n)\} \right\}$$

表示
$X$のある要素$x$について
$$x=\{(1,q_1),(2,q_2),(3,q_3),\ldots,(n,q_n)\} $$
とする。
$(q_1,q_2,q_3,\ldots,q_n)$$\mathfrak{S}$の元なのでそれぞれ$1$$n$のどれかである。よって、小さい順にならべて$1,2,3,\ldots,n$とできる。
同じ手順で$x$の要素を並べると、$Y$の要素と同じ形になる。
よって、$x \in Y$
任意の$X$の要素に対して同じ議論ができるので$X \subset Y$
同様に$Y$の要素を$X$の要素の形にできるので$X\supset Y$
よって$X=Y$
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更新日:510

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tanu
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