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高校数学解説
文献あり

方程式の解の n 乗和を解を使わずに求める(フォロワー3333人突破記念問題解説)

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はじめに

(タイトル画像 使用ツール Copilot Powered by DALL-E3) (タイトル画像 使用ツール Copilot Powered by DALL-E3)
 この記事は第 $30$ 回日曜数学会での発表内容に加筆したものです。

【参考リンク】
第30回日曜数学会 @YouTubeより
発表スライドへのリンク

 主な内容は、私がTwitter(現X)で発表した次の問題の解答と解説になります。
 作問の過程で、とても美しい関係式が出てきましたので、ぜひご覧いただき、その美しさを共有できればと思います。

フォロワー3333人突破記念問題

 $x$ の方程式 $x^5-x^4-x^3-x^2-x-1=0$$5$ つの解を$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4,\alpha_5$ とします。

 このとき、$\alpha_1^{12}+\alpha_2^{12}+\alpha_3^{12}+\alpha_4^{12}+\alpha_5^{12}$ を求めてください。

 

 Given the equation $( x^5 - x^4 - x^3 - x^2 - x - 1 = 0 )$ with its five solutions $( \alpha_1, \alpha_2, \alpha_3, \alpha_4, \alpha_5 )$, find the value of $( \alpha_1^{12} + \alpha_2^{12} + \alpha_3^{12} + \alpha_4^{12} + \alpha_5^{12} )$.

 この問題、一見すると五次方程式の解が出てきて、難しそうに見えますが、実は具体的な解を求めずに $n$ 乗和を求める方法があります。
  五次以上の方程式は一般に解が求められるとは限りませんが、「解の $n$ 乗和」であれば方程式の係数だけを使って簡単な計算で求めることができるのです!

二次方程式の場合

 いきなり五次方程式を考えるのは難しいので二次方程式で考えると次のようになります。

二次方程式バージョンの問題

 $x$ の方程式 $x^2-x-1=0$$2$ つの解を$\alpha_1,\alpha_2$ とします。

 このとき、$\alpha_1^{12}+\alpha_2^{12}$ を求めてください。

 この問題は次のようにして解くことができます。

 $\alpha_1+\alpha_2=1$ (解と係数の関係より)
 $\alpha_1\alpha_2=-1$ (解と係数の関係より)

 $\therefore \alpha_1^{2}+\alpha_2^{2}=(\alpha_1+\alpha_2)^2-2\alpha_1\alpha_2=3$

また、$\alpha_1^2-\alpha_1-1=0,\alpha_2^2-\alpha_2-1=0$ より

 $(\alpha_1^{k+2}+\alpha_2^{k+2})=(\alpha_1^{k+1}+\alpha_2^{k+1})+ (\alpha_1^{k}+\alpha_2^{k})$

という漸化式が得られるので

 $\alpha_1^{3}+\alpha_2^{3}=(\alpha_1^{2}+\alpha_2^{2})+(\alpha_1+\alpha_2)=3+1=4$
 $\alpha_1^{4}+\alpha_2^{4}=(\alpha_1^{3}+\alpha_2^{3})+(\alpha_1^{2}+\alpha_2^{2})=4+3=7$
 $\alpha_1^{5}+\alpha_2^{5}=(\alpha_1^{4}+\alpha_2^{4})+(\alpha_1^{3}+\alpha_2^{3})=7+4=11$
 $\qquad\vdots$
 $\alpha_1^{12}+\alpha_2^{12}=199+123=322$

 このように、解と係数の関係で $\alpha_1+\alpha_1,\alpha_1^2+\alpha_2^2$ を求め、更に漸化式を作ることで、もとの方程式の解を使わずに、係数だけで $\alpha_1^n+\alpha_2^n$ を求めることができます。

 実は、五次方程式でも同じ方針で解く方法があります!しかも、とても簡単な計算だけで!!

五次の場合

 早速ですが結論から述べますと、五次方程式の解の $k$ 乗和を求めるには、次のようにすればよいです。

 $x$ の五次方程式

  $x^{5}+e_1 x^{4} +e_2 x^{3}+e_3 x^{2}+e_4 x^{1} +e_{5} =0$

$5$ つの解 $\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4,\alpha_5$ の $k$ 乗和を $p_k$ で表します。

  $p_k=\alpha_1^k+\alpha_2^k+\alpha_3^k+\alpha_4^k+\alpha_5^k$

 このとき、次の関係があります。

 $e_1=-p_1$
 $2e_2=-(p_2+e_1p_1)$
 $3e_3=-(p_3+e_1p_2+e_2p_1)$
 $4e_4=-(p_4+e_1p_3+e_2p_2+e_3p_1)$
 $5e_5=-(p_5+e_1p_4+e_2p_3+e_3p_2+e_4p_1)$

 $0=-(p_{k}+e_1p_{k-1}+e_2p_{k-2}+e_3p_{k-3}+e_4p_{k-4}+e_5p_{k-5})\qquad(k\ge6)$

 $k$$5$ 以下のときは上 $5$ つの式で $p_k$ を求めることができます。
 $k$$6$ 以上のときは、漸化式を使って順に値を求めることができます。

 このように、五次方程式の場合も、二次方程式の場合と同様の方針により、具体的な解の値が分からなくても、解と係数の関係を使って解の $n$ 乗和を求めることができます!

 「なぜそんなことが言えるのか?」についてはのちほど説明します。

元の問題の解答

 では元の問題に先ほどの解法をあてはめてみましょう。

 $x$ の五次方程式

  $x^{5}- x^{4}- x^{3}- x^{2}- x^{1} -1 =0$

$5$ つの解 $\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4,\alpha_5$ の $k$ 乗和を $p_k$ で表します。

  $p_k=\alpha_1^k+\alpha_2^k+\alpha_3^k+\alpha_4^k+\alpha_5^k$

 このとき、次の関係があります。

 $-1=-p_1$
 $-2=-(p_2-p_1)$
 $-3=-(p_3-p_2-p_1)$
 $-4=-(p_4-p_3-p_2-p_1)$
 $-5=-(p_5-p_4-p_3-p_2-p_1)$

 $0=-(p_{k}-p_{k-1}-p_{k-2}-p_{k-3}-p_{k-4}-p_{k-5})\qquad(k\ge6)$

 $p_k=1,3,7,15,31,57,113,223,439,863,1695,3333,\ldots(k=1,2,3,\ldots)$

 $\therefore p_{12}=3333$

 元の問題にあてはめると上のようになり、$p_{12}=3333$ が答えとわかります!
 フォロワー数 $\textcolor{red}{3333}$ に合わせた問題だったというわけでした。

一般化

 先ほどは五次方程式の場合について説明しましたが、実は、解の $k$ 乗和と係数の関係は任意の $n$ 次方程式に一般化することができます。

 $x$ についての $n$ 次方程式

  $x^{n}+e_1 x^{n-1} +e_2 x^{n-2} + \cdots + e_{n-1} x +e_{n} =0$

 の解が

  $\alpha_1,\alpha_2,\ldots,\alpha_n$

 であるとすると、方程式の左辺を次のように因数分解することができます。

  $x^{n}+e_1 x^{n-1} +e_2 x^{n-2} + \cdots + e_{n-1} x +e_{n} = (x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_{n})$

 $e_0=1$ と定義すれば、この式は次のように書き換えることができます。

  ${\displaystyle \sum_{i=0}^{n}e_ix^{n-i}=\prod_{j=1}^{n}(x-\alpha_j) }$

 また、$\alpha_j$

$k$ 乗和を $p_k$ で表します。つまり

 $p_k=\alpha_1^k+\alpha_2^k+\cdots+\alpha_n^k$

とします。このとき、次の関係式が成り立ちます。(なぜ成り立つか?についてはのちほど説明します。)

  ${\displaystyle ke_k=-\sum_{i=0}^{k-1}e_{i}p_{k-i} \qquad (1\le k \le n) }$

 この関係式は、「$i>n$ のときは $e_i=0$」と解釈することで、$k>n$ の場合に拡張することができて、結局、次の補題が成り立ちます。

方程式の解のべき乗和についての補題

  ${\displaystyle ke_k=-\sum_{i=0}^{k-1}e_{i}p_{k-i} \qquad (1\le k) }$

 この補題は元になった「ニュートンの恒等式」と比べると、奇数次のときの $e_i$ の符号が逆になっていますので、「ニュートンの恒等式」についての文献を参照する場合はご注意ください。

 いやあ、実に美しい式だと思いませんか?
 解の $k$ 乗和と、方程式の係数の間に、これほどシンプルな関係が成り立つとは驚きました。

 また、式の形から、全ての係数が整数で、最高次の係数が1の場合には、解の n 乗和が全て整数になることなんかもわかります。

具体例$(n=5)$

 例えば、$n=5$ の場合に $k=1,2,3,\ldots$ を順に当てはめることで次のような関係式が次々に得られます。

 $e_1=-p_1$
 $2e_2=-(p_2+e_1p_1)$
 $3e_3=-(p_3+e_1p_2+e_2p_1)$
 $4e_4=-(p_4+e_1p_3+e_2p_2+e_3p_1)$
 $5e_5=-(p_5+e_1p_4+e_2p_3+e_3p_2+e_4p_1)$

 $0=-(p_{k}+e_1p_{k-1}+e_2p_{k-2}+e_3p_{k-3}+e_4p_{k-4}+e_5p_{k-5})\qquad(k\ge6)$

 これらの式にはとても面白い意味があります。
 例えば上の $n=5$ の場合。良く知られているように、$5$ 次以上の方程式には解の公式がありませんので、$\alpha_i$ の厳密解はわからない場合があります。
 そのような場合であっても、$p_k$ すなわち解の $k$ 乗和については、方程式の係数のみを使って簡単な計算で求められるということなのです!

導出

 それではここから、この関係式の導出方法を解説します。

  ${\displaystyle \sum_{i=0}^{n}e_ix^{n-i}=\prod_{j=1}^{n}(x-\alpha_j) }$

 を $x=t^{-1}$ で置き換え、さらに両辺に $t^n$ を乗じます。

  ${\displaystyle \sum_{i=0}^{n}e_it^{i}=\prod_{j=1}^{n}(1-t\alpha_j) }$

 両辺を $t$ で微分してから $t$ を乗じます。

  ${\displaystyle \begin{aligned} \sum_{i=0}^{n}ie_it^{i}&=t\sum_{l=1}^{n}\left((-\alpha_{l})\prod_{\substack{j=1\\j\ne l}}^{n}(1-t\alpha_j)\right)\\ &=-\sum_{l=1}^{n}\left(\frac{t\alpha_{l}}{1-t\alpha_l}\prod_{j=1}^{n}(1-t\alpha_j)\right)\\ &=-\left(\sum_{l=1}^{n}\frac{t\alpha_{l}}{1-t\alpha_l}\right)\left(\prod_{j=1}^{n}(1-t\alpha_j)\right)\\ &=-\left(\sum_{l=1}^{n}\frac{t\alpha_{l}}{1-t\alpha_l}\right)\left(\sum_{i=0}^{n}e_i t^{i}\right)\\ \end{aligned} }$

ここで$\frac{t\alpha_{l}}{1-t\alpha_l}$ の部分を

  ${\displaystyle \frac{t\alpha_{l}}{1-t\alpha_l}=t\alpha_l+(t\alpha_l)^2+(t\alpha_l)^3+\cdots }$

のように冪級数に展開します。

  ${\displaystyle \begin{aligned} \sum_{i=0}^{n}ie_it^{i} &=-\left(\sum_{l=1}^{n}\sum_{m=1}^{\infty}\left(t\alpha_l\right)^m\right)\left(\sum_{i=0}^{n}e_i t^{i}\right)\\ &=-\left(\sum_{m=1}^{\infty}p_{m}t^m\right)\left(\sum_{i=0}^{n}e_i t^{i}\right) \end{aligned} }$

 両辺の $t^k$ の係数を比較することで所望の式が得られます。

  ${\displaystyle ke_k=-\sum_{i=0}^{k-1}e_{i}p_{k-i} \qquad (1\le k) }$

おわりに

 これでこの記事はおしまいです。
 元の問題で出てきた数列

 $1,3,7,15,31,57,113,223,439,863,1695,3333,\ldots$

は、リュカ数を一般化した数列の五次のバージョンで、「ペンタ-リュカ数」とでも呼べるものでこの数列も面白いとおもいます。

 また、解答に使った関係式は、ニュートンの恒等式と深い関係があり、基本対称式やガロア理論といった話題にもつながりそうです。(私はガロア理論についてよく知らないのですが……)

皆さんもいろいろ遊んでみてください!

参考文献

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