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東大数理院試過去問解答例(2023B07)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B07の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2023B07

$2$次複素正方行列のなす位相空間$M_2(\mathbb{C})$の部分空間
$$ X:=\{A\in M_2(\mathbb{C})|A^2=1,A\neq\pm1\} $$
を考える。ここで
$$ S^3:=\{(t,u)\in\mathbb{R}\times\mathbb{C}|t^2+|u|^2=1\} $$
とおく。ここで$A$は固有値$\pm1$を持つが、この$1$に関する固有ベクトル$\begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}$$|\alpha|^2+|\beta|^2=1$を満たすようにとり、$f(A):=(|\alpha|^2-|\beta|^2,2\overline{\alpha}\beta)$と定義する。
(1) $f$$\alpha,\beta$の取り方に依らずに、写像$f:X\to S^2$を定めていることを示せ。
(2) $f:X\to S^2$は連続写像であることを示せ。
(3) 任意の$p\in S^2$に対して、$f^{-1}(p)$$\mathbb{R}^2$と同相であることを示せ。

  1. まず$(\alpha,\beta)^t$$\{z||z|^2=1\}$の元倍の違いを除いて一意に定まる。ここで$(\alpha',\beta')=(z\alpha,z\beta)$とおくと、
    $$ \begin{split} f(\alpha',\beta')&=(|z\alpha|^2-|z\beta|^2,2\overline{z\alpha}z\beta)\\ &=(|\alpha|^2-|\beta|^2,2\overline{\alpha}\beta)\\ &=f(\alpha,\beta) \end{split} $$
    であるから、$f$は関数$X\to \mathbb{R}\times\mathbb{C}$$(\alpha,\beta)^t$に依らず定めている。また
    $$ (|\alpha|^2-|\beta|^2)^2+4|\overline{\alpha}|^2|\beta^2|=(|\alpha|^2+|\beta|^2)^2=1 $$
    であるから$f$の像は$S^2$に含まれている。以上から結果が従う。
  2. まず$X$の開部分集合
    $$ U=\left\{\begin{pmatrix} x&y\\ z&w \end{pmatrix}\in X\middle| (x,y)\neq(1,0)\right\} $$
    $$ V=\left\{\begin{pmatrix} x&y\\ z&w \end{pmatrix}\in X\middle| (z,w)\neq(0,1)\right\} $$
    をとる。このとき$A\in U$及び$A\in V$に対して
    $$ f(A)=\left(\frac{|y|^2-|1-x|^2}{|y|^2+|1-x|^2},\frac{2\overline{y}{(1-x)}}{|y|^2+|1-x|^2}\right) $$
    $$ f(A)=\left(\frac{|1-w|^2-|z|^2}{\sqrt{|1-w|^2+|z|^2}},\frac{2(\overline{1-w})z}{|1-w|^2+|z|^2}\right) $$
    と表せるから、$f$$A=U\cup V$上連続関数である。
  3. まず$p=(-t,\overline{u})$を固定する。初めに$(t,u)\neq (\pm1,0)$の場合を考える。ここで連続写像$F:\mathbb{R}^2\to M_2(\mathbb{C})$
    $$ F(r\cos\theta,r\sin\theta)=\left\{\begin{array}{cc} \begin{pmatrix} 1-\sqrt{\frac{1+t}{1-t}}re^{i(\theta-\arg u)}&re^{i\theta}\\ 2\sqrt{\frac{1+t}{1-t}}e^{i(-\arg{u})}-\frac{1+t}{1-t}re^{i(\theta-2\arg u)}&-1+\sqrt{\frac{1+t}{1-t}}re^{i(\theta-\arg u)} \end{pmatrix}&(r\neq0)\\ \begin{pmatrix} 1&0\\ 2\sqrt{\frac{1+t}{1-t}}e^{-i\arg u}&-1 \end{pmatrix}&(r=0) \end{array}\right. $$
    とおく。この写像の像に含まれる行列の固有多項式は$X^2-1$であり、この$1$に関する固有ベクトルは
    $$ \begin{pmatrix} \sqrt{\frac{1-t}{2}}\\ \sqrt{\frac{1+t}{2}}e^{-i\arg u} \end{pmatrix} $$
    で与えられ、これは成分の二乗和が$1$になっていて、しかも
    $$ \left|\sqrt{\frac{1-t}{2}}\right|^2-\left|\sqrt{\frac{1+t}{2}}e^{-i\arg u}\right|^2=-t $$
    $$ 2\overline{\sqrt{\frac{1-t}{2}}}\sqrt{\frac{1+t}{2}}e^{-i\arg u}=\overline{u} $$
    であるから、$F$は連続単射写像$F:\mathbb{R}^2\hookrightarrow f^{-1}(p)$を定義する。一方$f^{-1}(p)$の元
    $$ \begin{pmatrix} a&b\\ c&d \end{pmatrix} $$$b$から$a,c,d$が一意的に定まることを考慮すると、
    $$ \begin{split} G:f^{-1}(p)&\to\mathbb{R}^2\\ \begin{pmatrix} a&re^{i\theta}\\ c&d \end{pmatrix}&\mapsto (r\cos\theta,r\sin\theta) \end{split} $$
    によって連続逆写像が与えられている。以上から同相$f^{-1}(p)\simeq\mathbb{R}^2$が得られる。次に$(t,u)=(1,0)$(resp. $(-1,0)$)のときを考える。このとき$(\alpha,\beta)=(1,0)$(resp. (0,1))であり、これを固有値$1$の固有ベクトルに持つような$X$の行列は
    $$ \begin{pmatrix} 1&b\\ 0&-1 \end{pmatrix}\left(\textsf{resp.} \begin{pmatrix} -1&0\\ c&1 \end{pmatrix}\right) $$
    限られる。よって同相$f^{-1}(\pm1,0)\simeq\mathbb{R}^2$が従う。

 

投稿日:20231031
更新日:20231124

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投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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