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大学数学基礎解説
文献あり

有限集合上のσ加法族の元は2のべき乗個になる

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以下の命題について2通りの証明を紹介します.

有限集合$\Omega$上のσ加法族$\mathcal{A}$について,
$$ \# \mathcal{A}=2^k \quad (k \in \mathbb{N} \setminus \{0\}) $$
が成り立つ.

まず,原子を用いた証明を述べます.$\mathcal{A}$の原子$Atom(\mathcal{A})$を以下によって定めます.

$$ Atom(\mathcal{A})=\{A \in \mathcal{A}\ | \ A \neq \varnothing \ , \ \forall B \in \mathcal{A} (B \subsetneq A \Rightarrow B=\varnothing) \} $$

このとき,以下の補題が成り立ちます.

  1. $Atom(\mathcal{A}) \neq \varnothing$
  2. 任意の異なる$A , B \in Atom(\mathcal{A})$について,$A \cap B=\varnothing$
  3. $\Omega=\sum_{A \in Atom(\mathcal{A})} A$

1.の証明
任意の$x\in \Omega$をとるとき,$\Omega \in \mathcal{A}$であるから,$x \in A$なる$A \in \mathcal{A}$が必ず存在する.それらすべての共通部分$M_x=\bigcap_{A \in \mathcal{A}, x \in A}A$$\mathcal{A}$に属し,かつ$Atom(\mathcal{A})$に属する.実際,$M_x$$x$を元に持つから空でないし,$B \subsetneq M_x , B \neq \varnothing$なる$B$が存在するとき,$x \in B$ならば$M_x$の最小性に反するし,$x \notin B$ならば$C=M_x \setminus B \in \mathcal{A}$$C \subsetneq M_x$を満たし,これはまた$M_x$の最小性に反する.

2.の証明
任意の異なる$A , B \in Atom(\mathcal{A})$について,$A \cap B \subsetneq A$であり,$\mathcal{A}$は交叉について閉じているので,$A \cap B \in \mathcal{A}$.従って,$Atom(\mathcal{A})$の定義により$A \cap B=\varnothing$

3.の証明
1.の証明の$M_x$を用いれば,
$$ \Omega \subset \sum_{x \in \Omega}M_x $$
より明らか.

全単射$\Phi : \mathcal{P}\{Atom(\mathcal{A})\} \to \mathcal{A}$が存在する.

$$ \Phi(I) = \bigcup_{A \in I}A \quad (I \subseteq Atom(\mathcal{A})) $$
によって$\Phi$を定めれば,$\Phi$は単射である.実際,$\Phi(I)=\Phi(J)$ならば,$x \in \Phi(I) \Rightarrow x \in \Phi(J)$.任意の$A \in I$についてある$x \in A$をとれば,補題2の2.により$x \in B$なる$B \in J$が一意に定まり,$A=B$.即ち$I \subseteq J$.逆の包含関係も同様.
また,任意の$B \in \mathcal{A}$について,$I_B=\{A \in Atom(\mathcal{A}) \ | \ A \subseteq B\}$をとる.このとき,補題2の2. 3.により任意の$x \in B$についてある$A_x \in Atom(\mathcal{A})$がただ一つ存在して,$x \in A_x$.さらに,$A_x \nsubseteq B$と仮定すれば,$A_x \cap B \subsetneq A_x$かつ$A_x\cap B \in \mathcal{A}$となり,原子の定義により$A_x \cap B$は空でなければならないが,$x\in A_x$かつ$x \in B$であるから矛盾.よって$A_x \subseteq B$が成り立ち,$A_x \in I_B$となり,$x \in \bigcup_{I_B}A$.即ち$B \subseteq \bigcup_{A\in I_B}A$.よって
$$ B=\bigcup_{A\in I_B}A $$
が成り立ち,$\Phi$は全射でもある.

命題1の原子を用いた証明

$k=\# Atom(\mathcal{A})$と定めれば,補題2の1.により$k>0$.また,補題3により 
$$ \# \mathcal{A}=\# \mathcal{P}\{Atom(\mathcal{A})\}=2^k $$

次に,線型空間を用いた証明を述べます.

命題1の線形空間を用いた証明

$A \in \mathcal{A}$について,その指示関数$\chi_A : \Omega \to \mathbb{F}_2$を以下のように定める.ただし,$\mathbb{F}_2$を2元体とする.
$$ \begin{equation} \chi_A(x) = \begin{cases} 1 & (x \in A) \\ 0 & (x \notin A) \end{cases} \end{equation} $$
このとき,$V=\{\chi_A \ | \ A \in \mathcal{A}\}$$\mathbb{F}_2$上の有限次元線型空間となることを示す.
$\Omega$を定義域とし,$\mathbb{F}_2$を値域とする写像全体$\mathbb{F}_2^\Omega=\{f \ | \ f:\Omega\to\mathbb{F}_2\}$は,$\Omega$が有限集合であるから,$2$を法とする和および通常のスカラー倍において有限次元線形空間をなす.このとき,$V \subseteq \mathbb{F}_2^\Omega$であるから,$V$$\mathbb{F}_2^\Omega$の部分空間となることを示せば十分.
$\varnothing\in\mathcal{A}$より$0=\chi_\varnothing\in V$.また,$\chi_A , \chi_B \in V$について
$$ \chi_A+\chi_B=\chi_{A\Delta B} \in V \quad (A \Delta BはAとBの対称差) $$
さらに
$$ 0 \cdot \chi_A=\chi_\varnothing \in V \ , \ 1 \cdot \chi_A=\chi_A \in V $$
が成り立ち,$V$$\mathbb{F}_2^\Omega$の部分空間となる.このとき,写像$\Phi : \mathcal{A} \to V \ , \ A \mapsto \chi_A$は全単射であるから,$k=\dim V$とするとき,
$$ \#\mathcal{A}=\#V=2^k $$

参考文献

投稿日:612
更新日:615
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