Krull-Schmidt圏とは、長さ有限加群の圏のような「直既約分解の一意性が成り立つ加法圏」であり、特に(非可換)多元環の表現論や可換環の表現論でよく現れます。
これらの分野では、Krull-Schmidt圏の基礎的な性質である「任意の射が右極小バージョンを持つ」ことが暗にいろいろ用いられています。あまりself-containedに書かれた文献がないので、ここに書くことにします。最後には応用として三角圏での便利な補題を証明します。
加法圏を知っていれば主張や雰囲気は分かると思います。さらに局所環・環のJacobson根基の定義を知っていれば証明も追えると思います。
加法圏$\CC$がKrull-Schmidtであるとは、任意のゼロでない対象$X$が
$$
X = X_1 \oplus X_2 \oplus \cdots \oplus X_n
$$
という直和分解で、各$X_i$の自己準同型環が局所環であるようなものを持つときいう。
一般の加法圏において、自己準同型が局所環ならば直既約である。Krull-Schmidt圏においては、この逆も成り立つことが容易に確認できる。
では、この記事の主役である、右極小射を導入しましょう。
加法圏における射$f \colon X \to Y$が右極小 (right minimal) であるとは、自己準同型$\varphi \colon X \to X$が$f \varphi = f$を満たすならば$\varphi$が同型射となるときをいう。
わかりにくいかもしれませんが、気持ちは「$Y$を固定したとき、$f \colon X \to Y$はある意味極小である」ということです(実際にあるposetの極小元としても定義できます)。後で見るように、加群論で現れる射影被覆は右極小射の典型例です。
では本記事の主定理を述べましょう。
$\CC$をKrull-Schmidt圏、$f \colon X \to Y$を任意の射とする。このとき$f$は、右極小な射$f' \colon X' \to Y$と、ゼロ射$X'' \to 0$との直和に同型である。
その証明のため、圏のJacobson根基について復習しましょう。
$\CC$を加法圏、$X$と$Y$をその対象としたとき、$\CC(X,Y)$の部分集合$\rad_\CC(X,Y)$を以下で定める:
$$
\rad_\CC(X,Y) = \{ f \colon X \to Y \, | \, \text{ 任意の射$g \colon Y \to X$について$1_X - gf$が可逆}\}
$$
$\rad_\CC(X,Y)$は、以下で定めたものと一致することが計算で分かります(これについて
記事
を書いたので気になる人は参照):
$$
\rad_\CC(X,Y) = \{ f \colon X \to Y \, | \, \text{ 任意の射$g \colon Y \to X$について$1_Y - fg$が可逆}\}
$$
これを使えば、$\rad_\CC$が$\CC$の両側イデアルであることが確認できます。
定義から、$\rad_\CC(X,X)$は自己準同型環$\End_\CC(X)$の通常の根基$\rad \End_\CC(X)$に一致します。
Krull-Schmidt圏においては、根基は非常に簡単な記述を持ちます。
$\CC$をKrull-Schmidt圏とし、$X$と$Y$を$\CC$の直既約対象とする。このとき、$f \colon X \to Y$について次は同値である。
$\Rightarrow$ (2): もし$f$が同型なら、その逆射を考えれば$1_X - f^{-1} f = 0$となり、$0$射が可逆となるが、これは$X$が直既約に矛盾する。
$\Rightarrow$ (1): 任意に$g \colon Y \to X$をとったとき、$1_X - gf$が$X$の自己同型ならよい。もしそうでないなら、$\End_\CC(X)$が局所環なことに注意すると、$gf$が同型となり、$f$がsectionとなる。しかし$Y$は直既約なことから、section $f \colon X \to Y$は同型でなければならず、(2)に反する。
これと、根基が両側イデアルなことを用いると、Krull-Schmidt圏の射$f \colon X \to Y$が根基に入るのは、$X$と$Y$を直既約分解して$f$を行列表示したとき、行列の各成分が全て非同型なときであることが分かります。
さて、主定理を証明する準備ができました。
$X = X_1 \oplus X_2 \oplus \cdots \oplus X_n$を直既約分解を取る。このとき$f$は成分表示
$$
f = [f_1, f_2, \dots, f_n] \colon X_1 \oplus \cdots \oplus X_n \to Y
$$
される。ここで$f_i \colon X_i \to Y$である。アイデアは、$f$を$X$の同型射でひねって、できるだけゼロが成分に多く出るようにし、それが$X''$、残りを$X'$とすれば求めるものになっている。
正確に述べよう。$\{ f \psi \, | \, \text{$\psi$は$X$の自己同型}\}$という集合を考える(集合になっている)。この集合の各元に対し、上のような成分表示ができるが、ここで「成分表示したとこに現れる$0$の個数が最大となるような$f \psi$」が取れる。$\psi$は同型射なので、$f$を$f\psi$に取り替えることで、$f$は次のような性質を満たすと仮定してよい:
(仮定)「$f$を成分表示すると、
$$
f = [f_1,\dots,f_m, 0, \dots,0] \colon X_1 \oplus \cdots \oplus X_m \oplus X_{m+1} \oplus \cdots \oplus X_n \to Y
$$
となっており、どのような$X$の自己同型を前から合成しても、それを成分表示して$0$を更に増やすことはできない」
さてこのとき、$f':= [f_1,\dots,f_m] \colon X_1 \oplus \cdots \oplus X_m \to Y$が右極小であることを示せば、定理が示される。そのため$\varphi \in \End_\CC(X_1\oplus \cdots \oplus X_m)$をとり$f' \varphi = f'$と仮定する。導きたいのは$\varphi$が同型なことである。
$\varphi$は$m\times m$行列で表現される:
$$
\varphi =
\begin{bmatrix}
\varphi_{1,1} & \varphi_{1,2} & \cdots & \varphi_{1,m} \\
\varphi_{2,1} & \varphi_{2,2} & \cdots & \varphi_{2,m} \\
\vdots & & \ddots & \vdots \\
\varphi_{m,1} & \varphi_{m,2} & \cdots & \varphi_{m,m}
\end{bmatrix}
\colon X_1 \oplus \cdots \oplus X_m \to X_1 \oplus \cdots \oplus X_m
$$
ここで、主張: 「$\varphi_{i,j}$は、$i=j$のとき同型射、$i \neq j$のとき根基に属する」ことをまず示す。
まず$f' \varphi = f'$を行列で表せば次の等式が得られる:
$$
\begin{bmatrix} f_1 & f_2 & \dots & f_m\end{bmatrix} =
\begin{bmatrix} f_1 & f_2 & \dots & f_m\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\varphi_{1,1} & \varphi_{1,2} & \cdots & \varphi_{1,m} \\
\varphi_{2,1} & \varphi_{2,2} & \cdots & \varphi_{2,m} \\
\vdots & & \ddots & \vdots \\
\varphi_{m,1} & \varphi_{m,2} & \cdots & \varphi_{m,m}
\end{bmatrix}
$$
ここで第1成分を計算して移行すると次が得られる:
$$
f_1 (1_{X_1} - \varphi_{1,1}) = 0
$$
今$\varphi_{1,1} \in \End_\CC(X_1)$であり、$\End_\CC(X_1)$は局所環だった(Krull-Schmidt圏より)ことを思い出そう。局所環の性質から、もし$\varphi_{1,1}$は同型でないとすると、$1_{X_1} - \varphi_{1,1}$は同型になる。すると、上の等式の右から$1_{X_1} - \varphi_{1,1}$の逆元をかけることができ、
$$
f_1 = f_2 \varphi_{2,1}' + \dots + f_m \varphi_{m,1}'
$$
というような表示を持つ、つまり$f_1$が他の$f_2,\dots, f_m$の和でかける。すると、次の等式がなりたつ:
$$
[f_1,f_2, \dots, f_m]
\begin{bmatrix}
1 & 0 & \cdots & 0 \\
-\varphi'_{2,1} & 1 & \cdots & 0 \\
\vdots & & \ddots & \\
-\varphi'_{m,1} & 0 & \cdots & 1
\end{bmatrix}
= [0,f_2, \dots, f_m]
$$
この真ん中の行列は対角成分が恒等射である下三角行列なので同型射であり、これは最初の(仮定)に矛盾する。よって$\varphi_{1,1}$は同型射である。同様にして$\varphi_{2,1}$は非同型であることが分かる(もし同型ならば上と同様$f_2$を他の$f_i$たちの線形結合でかけ、矛盾する)。よってKrull-Schmidt圏の根基の特徴づけにより、$\varphi_{2,1}$は根基に属する。
よって主張が示された。
主張により、$\varphi$が「modulo 根基で」可逆な対角行列になっている。正確には、$X':= X_1 \oplus \cdots \oplus X_m$とおき、$\varphi \in \End_\CC(X')$について、根基での剰余への射影$\End_\CC(X') \twoheadrightarrow \End_\CC(X')/\rad \End_\CC(X')$で$\varphi$を送ると、対角成分が同型な対角行列、つまり$\End_\CC(X')/\rad \End_\CC(X')$での可逆元となる(ここで厳密には根基が両側イデアルであること、つまり根基に属する元を成分に持つ行列が根基にはいること、また環の根基とのcompatibilityを用いた)。よって次の補題を用いることで$\varphi$は同型なことが従い、定理が示された。
環$\Lambda$の元$x$について、$x$の$\Lambda/\rad\Lambda$での像が可逆なら、$x$は$\Lambda$の可逆元である。
$\Lambda/\rad \Lambda$における$\overline{x}$の逆元$\overline{y}$をとると、$1-xy \in \rad\Lambda$, $1-yx \in \rad\Lambda$が成り立つ。よって根基の性質により$xy$と$yx$は可逆元となり、$x$は可逆元となる。
この主定理により存在が保証される射の取替には一応名前がついています。
Krull-Schmidt圏の射$f \colon X \to Y$において、先の定理のような表示$f = [f', 0] \colon X' \oplus X'' \to Y$をしたときの$f'$を、$f$の**右極小バージョン (right minimal version) **という。
ここでは、右極小射の有用な性質をいくつかまとめます。
Krull-Schmidt圏の射$f \colon X \to Y$について、その右極小バージョンは同型を除いて一意的に定まる。
$f$の右極小バージョンを2つとり、簡単のため$f_1 \colon X_1 \to Y$と$f_2 \colon X_2 \to Y$とおく(上の証明で出てきた$X$の直既約分解とは関係ないことに注意)。すると直和因子への射影$r_i \colon X \twoheadrightarrow X_i$について、$f = f_1 r_1 = f_2 r_2$が成り立つ。直和因子への埋め込みを$s_i \colon X_i \hookrightarrow X$とすると、次が成り立つ:
$$
f_1 = f_1 r_1 s_1 = fs_1 = f_2 r_2 s_1,
$$
$$
f_2 = f_2 r_2 s_2 = f s_2 = f_1 r_1 s_2.
$$
見やすくするため$a:= r_2 s_1 \colon X_1 \to X_2$, $b:= r_1 s_2 \colon X_2 \to X_1$とすると、つまり$f_1 = f_2 a$, $f_2 = f_1 b$がなりたつ。よって、
$$
f_1 = f_2 a = f_1(ba),
$$
$$
f_2 = f_1 b = f_2(ab)
$$
が成り立つ。各$f_i$が右極小だったことから、$ba$と$ab$がともに同型なことが分かり、ここから$a$と$b$が同型なことが従う。
Krull-Schmidt圏$\CC$の射$X \to Y$について次は同値である。
$\Rightarrow$ (2):
直既約対象$A$とsection $\iota \colon A \hookrightarrow X$を任意にとり、$f\iota = 0$とすると、すなわち$f$は$[0,f'] \colon A \oplus B \to Y$という形の射に同型である。この射に、$B$への射影子$A \oplus B \twoheadrightarrow B \hookrightarrow A\oplus B$を合成しても変わらないので、$B$への射影子が同型、つまり$A=0$であり矛盾。
$\Rightarrow$ (1):
主定理の証明では、$f$を「できるだけゼロを多くくくりだす」ことで、それを取り除いて右極小バージョンが構成できた。しかし(2)の仮定よりゼロをそもそも取り出すことができない。よって$f$は始めから右極小である。
つまり右極小な射は「どの直和因子に制限しても決して$0$にならない射」と見ることができる。これを用いて次のような性質を簡単に示すことができる。
Krull-Schmidt圏において、2つの右極小射な射$f_1 \colon X_1 \to Y_1$と$f_2 \colon X_2 \to Y_2$が与えられると、その直和
$$
f_1 \oplus f_2 := \begin{bmatrix}f_1 & 0 \\ 0 & f_2 \end{bmatrix} \colon X_1 \oplus X_2 \to Y_1 \oplus Y_2
$$
も右極小である。
1つ前の特徴づけを用いる(簡単な証明をご存じの方はお知らせください)ので、任意に直既約対象$A$とsection $\iota \colon A \hookrightarrow X_1 \oplus X_2$をとってきて$(f_1 \oplus f_2) \iota = 0$とする。$\iota = [\iota_1,\iota_2]^t$と行列表示できるが、すると$f_1 \iota_1 = 0, f_2 \iota_2 = 0$が従う。ここで次の補題から$\iota_1$と$\iota_2$のいずれかはsectionである。よって$f_1$あるいは$f_2$が右極小なことから矛盾する。
Krull-Schmidt圏$\CC$の直既約対象$A$に対して、$\rad_\CC(A,-)$はちょうど「sectionでない$A$からの射」と一致する。とくに、$[\iota_1,\iota_2]^t \colon A \to X_1 \oplus X_2$がsectionならば、$\iota_1$と$\iota_2$のいずれかはsectionである。
$f \in \rad_\CC(A,X)$をとる。もし$f$がsectionであるならば$\rad_\CC(A,X)$に入らないことは、対応するretractionをとれば根基の定義からすぐに分かる。逆に、$f$が$\rad_\CC(A,X)$に入らないとしよう。すると$X$を直既約分解して$f$を成分表示したとき、根基に属さない成分が必ずある。これはKrull-Schmidt圏の根基の特徴づけにより同型射であり、この逆射を用いて用意に$f$のretractionを構成できる。よって$f$はsectionである。
後半の主張は、もし$\iota_1,\iota_2$がともにnon-sectionなら、2つの射は根基に属し、根基がイデアルなことより$[\iota_1,\iota_2]^t$も根基に属し、これは$[\iota_1,\iota_2]^t$がnon-sectionを意味し矛盾する。
右極小射は、例えばアーベル圏の射影被覆と相性がよい。アーベル圏の射影被覆は実は射影対象からの右極小な全射にほかならない。この補題や射影被覆については、詳しくは著者による Grothendieckアーベル圏の基礎 の命題2.8あたりを見よ。
$\AA$をアーベル圏とする。このとき、射影対象$P$からの全射$\pi \colon P \to X$について、$\pi$が射影被覆なことと、$\pi$が右極小なことは同値である。
この補題と、Krull-Schmidt圏での右極小バージョンの存在から、直ちに次のことが従う。(Mathlogには系を導入してほしいです、、、)
$\AA$を射影的に豊富なアーベル圏だとする。もし$\AA$がKrull-Schmidtなら、$\AA$は射影被覆を持つ。
このことと、右極小バージョンの一意性から、例えば「射影被覆は存在すれば同型を除いて一意的」が分かる(もちろんこれは射影被覆の定義から直接も分かるが)。
一般に、よく知られたFittingの補題により、任意の(非可換)環上の長さ有限な右加群のなす圏はKrull-Schmidtである。このことから、右アルティン環上の有限生成右加群のなす圏は上の系の仮定をみたし、よって右アルティン環上の有限生成加群のなす圏では射影被覆が存在することが分かる。
右極小射(やその双対の左極小射)が最も用いられる文脈は、**圏の部分圏による近似 (approximation) **においてです。
加法圏$\CC$の部分圏$\DD$に対して、対象$X \in \CC$の右$\DD$近似 (right $\DD$-approximation) とは、射$\varphi \colon D_X \to X$で$D_X \in \DD$であるようなものであり、かつ任意の$D \in \DD$からの射$D \to X$が必ず$\varphi$を経由するものをいう。
また任意の$\CC$の対象が右$\DD$近似を持つとき、$\DD$を**反変的有限 (contravariantly finite) **な部分圏と呼ぶ。
気持ちは、「$X$に対して一番近い$\DD$の対象(からの射)」が$X$の右$\DD$近似である。
アーベル圏$\AA$と、その射影対象のなす圏$\PP$を考える。このとき、射影対象からの全射$P \twoheadrightarrow X$を考えると、これは$X$の右$\PP$近似になっている。よって$\AA$が射影的豊富なら、$\PP$は$\AA$の反変的有限部分圏である。
多元環の表現論では加群圏(や導来圏)の様々な部分圏を扱いますが、この反変的有限(やその双対)という条件を課すことが非常に多いです。これはある種の部分圏についての「有限生成性」を意味しているという直感です(正確に圏論的にいうなら、$\DD$が反変的有限なことは、$\CC$の表現可能関手を$\DD$に制限した$\DD$上の前層が$\DD$加群とみて有限生成なことを意味しています)。逆にこの仮定がない部分圏は一般に非常に扱いづらいです。
さて、Krull-Schmidt圏では、主定理のおかげで、右近似のうちもっとも自然なものが同型を除いて一つ定まります。
$\CC$をKrull-Schmidt圏とし、その直和と直和因子で閉じた部分圏$\DD$を取る。もし$X$が右$\DD$近似を持つならば、$X$は右極小な右$\DD$近似を持つ(これを極小右$\DD$近似という)。また極小右$\DD$近似は存在すれば同型を除いて一意的である。
右近似$D_X \to X$の右極小バージョンを取ればよいことが容易に確認できる。一意性も近似の定義と右極小性よりすぐに分かる。
この極小右近似や反変的有限部分圏は、現在の多元環の表現論では呼吸するように用いられます。
締めくくりとして、三角圏における有用な補題
[Iyama-Yoshino], Proposition 2.1
の証明を与えて記事を終わりにします。この証明には、右極小バージョンや右近似の概念がフルに用いられています。
$\CC$をKrull-Schmidtな三角圏、$\XX$と$\YY$をそれぞれ直和・直和因子で閉じた$\CC$の部分圏とする。このときもし$\CC(\XX,\YY) = 0$ならば、$\XX * \YY$も直和因子で閉じる。ここで$\XX* \YY$とは、triangle $X \to C \to Y \to $で$X \in \XX$, $Y \in \YY$であるようなものが存在するような$C$のなす$\CC$の部分圏を指す。
$T_1 \oplus T_2 \in \XX * \YY$とする。すなわち、triangle $X \to T_1 \oplus T_2 \to Y \to$であり$X \in \XX$と$Y\in\YY$を満たすものがある。示したいのは$T_1$と$T_2$がともに$\XX*\YY$に属することである。
このとき$\CC(\XX,Y) = 0$なことから、$X \to T_1 \oplus T_2$は右$\XX$近似であることが$\CC(\XX,-)$で長完全列を伸ばして容易にわかる。このことから、この射に$T_1$や$T_2$への射影を合成したものが$T_1$と$T_2$の右$\XX$近似であることも直ちに従う、すなわち$T_1$と$T_2$は右$\XX$近似を持つ。
一方、上の定理により、$\CC$がKrull-Schmidtなことから、$T_1$と$T_2$は極小右$\XX$近似$f_1 \colon X_1 \to T_1$と$f_2 \colon X_2 \to T_2$を持つ。また右極小射が直和で保たれることと、右近似が直和で保たれることから、$f_1 \oplus f_2$は$T_1 \oplus T_2$の極小右$\XX$近似である。
しかし、初めにとったtriangleに戻ると、その左の射$X \to T_1 \oplus T_2$は右$\XX$近似だったので、これの右極小バージョンも極小右$\XX$近似を与える。よって右極小$\XX$近似の一意性により、$X \to T_1 \oplus T_2$は射として次の形の射と同型である:
$$
f' := \begin{bmatrix}
f_1 & 0 & 0 \\
0 & f_2 & 0
\end{bmatrix}
\colon X_1 \oplus X_2 \oplus X_3 \to T_1 \oplus T_2
$$
ここでさらに$f_1$と$f_2$をtriangleに伸ばし、$X_1 \to T_1 \to Y_1 \to$, $X_2 \to T_2 \to Y_2 \to $とすると(まだ$Y_i \in \YY$は保証されてない)、この直和と自明なtriangle $X_3 \to 0 \to X_3[1] \to X_3[1]$ の直和として、$f'$をtriangleに伸ばすと次の形をしているはずである:
$$
X_1 \oplus X_2 \oplus X_3 \to T_1 \oplus T_2 \to Y_1 \oplus Y_2 \oplus X_3[1] \to.
$$
よって$Y$は$Y_1 \oplus Y_2 \oplus X_3[1]$に同型である。ここで$\YY$が直和因子で閉じることから、$Y_1,Y_2 \in \YY$が従う。このこととtriangle $X_i \to T_i \to Y_i \to $により、$T_i \in \XX*\YY$が従う。
三角圏の部分圏が直和因子で閉じているかは微妙な問題でありますが(thick subcategoryなど)、この定理のおかげで、Hom直交する2つの直和因子で閉じた部分圏から簡単に直和因子で閉じた部分圏を作ることができ、便利です。
Krull-Schmidt圏だと射の右極小バージョンの存在が言えて非常に便利ですので、みなさんもお手持ちのKrull-Schmidt圏があればぜひ使ってみてください。