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群の作用

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導入

唐突ですが、xy平面上に、3点P1(1,0),P2(cos(2π/3),sin(2π/3)),P3(cos(4π/3),sin(4π/3))をとり、
r=(1001),t=(cos(2π/3)sin(2π/3)sin(2π/3)cos(2π/3))
とすると、次のような乗法表を作ることができます。

P1P2P3eP1P2P3tP2P3P1t2P3P1P2rP1P3P2rtP3P2P1rt2P2P1P3

一番左の列に並んでいる6個の行列は群をなしていることに注意してください。この群をD3と書きます。また、T={P1,P2,P3}としておきましょう。この表(以下、表1)を考察していきます。

群の作用

まず、概念の定義から。

群の作用

Gを群、Xを集合とする。GXへの左作用とは、写像ϕ:G×XXであり、次の性質を満たすものである。
(1)ϕ(1G,x)=x
(2)ϕ(g,ϕ(h,x))=ϕ(gh,x)

この定義1を使って、「表1はD3{P1,P2,P3}への作用を表している」と表現することができます。

行に注目

表1を行ごとにみると、いつもP1,P2,P3が一回ずつ現れていることがわかります。このことについて考えてみましょう。

定義1は、群の元を写像とみなしていると考えられます。ただし、写像の合成と群の積を対応させよう、というわけです。だから、ϕ(g,x)のことをgxとも書きます。この対応により、各gG(に対応する写像)は全単射になります。なぜなら、任意のgGには逆元g1Gがあり、これらは逆写像の関係にあるからです。すると、Xが有限集合のとき、gが作用することを、Xの元をシャッフルすること、すなわち置換とみなすことができます。実際、表1において、同じ行にはP1,P2,P3が一回ずつ現れています。そして、例えばt2の行を参照することにより、t2
(123312)S3
と同一視することができるわけです。

列に注目

表1を列ごとにみると、いつもP1,P2,P3が二回ずつ現れていることがわかります。このことについて考えてみましょう。
まず、各Piの列のことを、PiD3による軌道、といいます。厳密には次のように定義されます。

軌道

Gが集合Xに作用するとき、xXに対してGx:={gx|gG}と定義し、これをxGによる軌道という。

さて、表1ではどのPiの軌道もTに一致しますが、特に、各元が二回ずつ現れていることは注目に値します。これは偶然でしょうか。P1の列で考えてみましょう。

例えば、erは共にP1P1に移します。
eP1=rP1(=P1)
同様に、trt2は共にP1P2に移します。
tP1=rt2P1(=P2)
これは、rt2=trであることを使うと、
tP1=trP1
と書き直せ、rP1=P1を考えれば当たり前の式です。さらに、
t2P1=rtP1(=P3)
ですが、これもrt=t2r,rP1=P1を考えれば当たり前だと思えるはずです。このことを明示的にするために、表1を書き直したものが下表です。

P1P2P3eP1P2P3teP2P3P1t2eP3P1P2rP1P3P2trP2P1P3t2rP3P2P1
こうみると、もはやP1の列にP1,P2,P3が二回ずつ現れていたのは偶然ではないことがはっきりわかります。つまり、D3ke,kr(k=e,t,t2)のペア3組でできており、その各ペアのP1の移す先が等しいために、このようなことが起きていたのです。そして、このペアによる分類は、剰余類D3/{e,r}に他なりません。{e,r}とはP1P1自身に移す元の集合です。一般に、このような集合は群をなし、安定化群といいます。
この議論はどの列にも当てはまることなので、一般に次の定理が成り立ちます。

有限群Gが集合Xに作用するとする。このときxXの軌道Gxとその安定化群Gxによる剰余類G/Gxの間に一対一の対応がある。したがって特に、|Gx|=(G:Gx)である。

なぜ「剰余」類というのか

この文脈において、私は「剰余」類という名前をより実感したような気がしました。というのも、rGxG/Gxとするとき、任意のgrGxに対して、gx=rxとなるわけですが、これは「gGxで割ったあまりがr」といいたくなるような構造をしていると思うのです。
grmodGx
とでも書きたいくらいです。

群の作用の例

表1の話からは離れますが、少し群作用の例をみておきましょう。

自分自身への作用(1)

Gが有限群のとき、GGへの作用を考えれば、各gGは、Gの元の置換、すなわちS|G|の元であるわけです。そして、写像の合成と群の積を対応させたものが群の作用でしたから、置換の積と群の積は当然対応しており、このようにしてGからS|G|への準同型が生まれます。すなわち、次の定理を得ます。

Cayley

Gが有限群ならば、GS|G|の部分群と同型である。

自分自身への作用(2) 共役による作用

Ad:G×GGを、Ad(g,x)=gxg1で定義します。面倒なのでAd(g,x)=gxと書くことにします。するとこれも作用になっています。実際、
1Gx=1Gx1G1=xg(hx)=g(hxh1)g1=(gh)x(gh)1=(gh)x
となります。y=gxg1となるとき、x,yは共役であるといいます。

線型な作用

作用とは、群の元を写像とみなしたものでしたから、写像の中でも線型な写像を考えてみよう、というのは自然な発想です。直交群O(2)を考えてみます。行列とベクトルの積をそのまま用いれば、O(2)から列ベクトル空間R2への作用が得られます。O(2)の元に対応する写像は線型なので、こういう作用を、線型な作用といいます。

今日の記事はこの辺で終わりにしたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。

投稿日:20201113
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  7. 自分自身への作用(2) 共役による作用
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