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本当は怖い,高校の数学(解答編1)

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

二次方程式$x^{2}-x-1=0$を解け.

解答例

各素体における根の有無を求め,存在すればそれを明示することで,この問に対する解答とする.

準備として,以下の式変形を行っておく.
$$x^{2}-x-1=0 \Longrightarrow (x-2^{-1})^{2}=1+2^{-2}=(2^{-1})^{2}\times(2^{2}+1) $$

この変形により,この問題は,標数が$p\neq 2$である体においては,「$(2^{2}+1)$は平方元か?」という問題に帰着された.

  • 標数$p=2$のとき($\mathbb{F}_{2}$

この場合は,上の変形が使えないので,全ての元について根であるかどうかを計算する.
$$0^{2}-0-1=1\neq0,\ \ \ \ \ 1^{2}-1-1=1\neq0$$
であるから,方程式は$\mathbb{F}_{2}$上で根を持たない.従って,最小分解体は$\mathbb{F}_{2}$$2$次拡大体
$$\mathbb{F}_{2}[t]/(t^{2}+t+1)=\mathbb{F}_{2^{2}}$$
であり,方程式の根は$t$$t+1$である.

  • 標数$p>2$のとき($\mathbb{F}_{p}$

$\mathbb{F}_{5}$における二乗の演算は
$$1^{2}=1,\ \ \ \ \ 2^{2}=4,\ \ \ \ \ 3^{2}=4,\ \ \ \ \ 4^{2}=1$$
であるから,平方剰余記号を用いて表すと,以下のようになる.
$$\left(\frac{\ 1\ }{5}\right)=\left(\frac{\ 4\ }{5}\right)=1,\ \ \ \ \ \left(\frac{\ 2\ }{5}\right)=\left(\frac{\ 3\ }{5}\right)=-1 $$
また,平方剰余の相互法則から,
$$\left(\frac{\ 5\ }{p}\right) =(-1)^{\frac{p-1}{2}{\frac{5-1}{2}}}\biggl(\frac{\ p\ }{5}\biggr)=\biggl(\frac{\ p\ }{5}\biggr)$$
であるから,「$5$$\mathbb{F}_{p}$で平方元」と「$p$$\mathbb{F}_{5}$で平方元」が同値である.従って,各素体における最小分解体は,次のようになる.

$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \mathbb{F}_{p} & (p\equiv 0,1,4\ \mathrm{mod}\ 5)\\ \mathbb{F}_{p}[t]/(t^{2}-t-1) & (p\equiv 2,3\ \mathrm{mod}\ 5) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

以下,正標数における「解の公式」について説明する.

後日,追記予定

  • 標数$0$のとき($\mathbb{Q}$

この体は,$1$を何度足しても$0$にならないという,かなり特殊な性質を持っているので,虱潰しに根を探すという解法が通用しない.

方程式の左辺は,整数係数一変数多項式の既約判定法
$$「ある素数pを法にして\mathbb{F}_{p}[x]で既約」 \Longrightarrow\mathbb{Z}[x]で既約」 \Longleftrightarrow「\mathbb{Q}[x]で既約ある」$$

より,有理数係数一変数多項式の世界では因数分解不可能であり,故に方程式は有理数の根を持たない.従って,$\mathbb{Q}$上の最小分解体は
$$\mathbb{Q}[t]/(t^{2}-t-1)$$
であり,方程式の根は,$5$の平方根(の一つ)を$\sqrt{5}$とおく事で,次の様に書き表される.
$$x=\frac{1\pm\sqrt{5}}{2}$$
以下,小数という概念を用いて$\mathbb{Q}$を完備化し,根の明示を試みる.

  • $p$-進体($\mathbb{Q}_{p}$

まず,ヘンゼルの補題から,$p\neq 2,5$に対して,
$$「5が\mathbb{Q}_{p}で平方元」 \Longleftrightarrow「5が\mathbb{F}_{p}で平方元」$$
であるから,$p\equiv 1,4\ \mathrm{mod}\ 5$となる素数$p$に関して,$5$の平方根は$\mathbb{Q}_{p}$の元であり,小数表示が可能である.例えば,$\mathbb{Q}_{11}$における$5$の平方根は,直接計算(やニュートン法等)により
$$\cdots 2516067.0, \ \ \ \ \ \cdots 8594a44.0\ \ \ (a=10)$$
である事が確かめられるので,
$\mathbb{Q}_{11}$における方程式の根は次の様に近似される.
$$\cdots 1363034.0,\ \ \ \ \ \cdots 9848a78.0\ \ \ (a=10)$$

  • 実数体($\mathbb{R}$

この体は,アルキメデス付値による完備なので,他の体とはかなり性質が異なる(例えば,小数展開は後ろに続き,その表示は一意ではなく、弱い三角不等式しか成立しない).
しかし,この体は距離に関して順序体であるので,次の不等式を満たす様に$a_{n}$を定める事でコーシー列$\{b_{n}\}$を作る事が出来る.

$$2< a_{1}<3, \ \ \ 2.2< a_{2}<2.3, \ \ \ 2.23< a_{3}<2.24, \ \ \ \cdots$$

この数列は$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_{n}=\sqrt{5}=2.2360679...$に収束し,実数体に含まれる.従って,方程式の根は次の様に近似された.
$$x= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \dfrac{1+\sqrt{5}}{2}=1.6180339\cdots \\ \dfrac{1-\sqrt{5}}{2}=-0.6180339\cdots \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

投稿日:2020116

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